神界会議~七大天使~
遅くなってすみません。
テスト週間に入ったので、次の更新は二月になりそうです……。
「七大天使が一柱、ギフト=ファヴールが戦死しました!!」
ルイスの決死の救出とクーラの治療のおかげで息を吹き返した男は、創造神達へと跪き、余程の緊急事態だったのだろう。開口一番にそう告げた。
その声は少し掠れ、上擦っている。
「な、何!?それは本当か!?」
ガタリ、とフォティアが音を立てて立ち上がり、その動揺は波紋の様に他の神界十五柱にも伝わる。
「確証はありませんが、ギフト様は例の世界へと降り立った後、消息を絶っていた事がわかりました……生存は絶望的、かと……」
チラリとフォティアが男――――天使を見るとその両腕には銀の腕輪がはめられ、左胸には【腕輪】の紋章が貼り付けられていた。
それらの特徴は彼が【恩恵と誓約】の天使、ギフト=ファヴールに仕える六十の天使長の内の一人で有ることを示している。
「高が天使が死んだ程度で、名誉ある神界会議へ許可も取らず立ち入るなんて……死にた――――グベッ?」
「――死にたいって?ああ、わかった死ね」
ヤクトが余計な事を言う前に、その口を閉ざそうとフォティアが彼を見ると、ルイスの大剣が彼の顔面をフルスイングしていた。
『死ね』と良いながら神器を使わず、普通の大剣の腹を使っての顔面への強打で許しているのは彼の優しさではないだろうか。
だが、確かに、幾ら親しい天使が死んだからと神々、それも神界十五柱の会議を中断するのは無礼と斬り捨てられてもおかしくは無い。
しかし、今回は相手が悪かった。
【七大天使】――――それは、たった七人で無数に居る天使を統べる者達だ。彼らは特別に上級神の地位を与えられているが、その影響力は最上級神をも超えると言われている。
天使の存在と言うのは神の威光を人間に伝え、信仰を集めると同時に、神々の恩恵を人々に与える、この二つに集約される。
【七大天使】とは、神々の恩恵を与える天使が似た恩恵を司るもの同士集まり、命令系統が産まれた事に起因している。
もし、七大天使の一人にそっぽを向かれた場合、天使は離れていき、その神は信仰を集めることが難しくなってしまう。
信仰を集めることが出来なくなった神は死んだも同じだ。
「……すまなかった。聞かなかった事にしてやってくれ」
「い、いえ……。それより、だ、大丈夫ですか?」
フォティアが深い、深い溜息を吐き出して、天使長に詫びをいれるが、天使長はフォティアの後ろで連続コンボを喰らい続けるヤクトの心配をする。
「大丈夫だ。取り返しの付かなくなる前に何とかし無ければならん」
若者の教育、その難しさを彼は改めて実感していた。それはかつての友がそうであった様にヤクトには若さ故の野心や危なっかしさが介在していた。
同じ過ちを繰り返さぬ様に、手遅れになる前に軌道修正をかけなくてはならない。
はぁ、と話の真意を掴みかねているのか、天使長は気の抜けた相槌を打つ。
彼から見たらある一点に関しては既に手遅れだと思っているのだろう。
「……命令系統をそのままに、【信仰と秩序】の天使、オルディネの指揮下に入ってくれぬか?」
「はっ!!」
創造神が前に出て来て、そう告げる。【恩恵と誓約】【信仰と秩序】の二つはお互いに切っても切れない関係があった。
人は信仰を捧げる事により、神々の恩恵を享受するが、同時に誓約を受ける。それによって、秩序が保たれるのだ。
死んだと決まった訳では無いが、ギフトが居ない今、【恩恵と誓約】に属する天使達に指示を与える存在が必要となる。
天使長も他の七大天使に指揮を執られる事に不満はあるが、【信仰と秩序】のオルディネになら、と納得を示した。
「今は、後任の者を選んでいる場合では無いからの……」
「はい。今はその時では無いと分かっております」
では、私はこれで、と天使長は足早に会議室を出て行った。何せ、七大天使が死んだのだ。やらなくては行けないことは多々あり、その処理に追われているのだろう。
「……これであと五人か」
ぽつりと吐き出す様に零した言葉に、他の神々が少し殺気立つが、他の神々も思いは同じたったのだろう。その気配は直ぐに掻き消えた。
「五人……?そう言えば、【七大天使】って聞いてるけど、六人しか知らないんだ。あと一人はどうしたんだい?」
ボロ雑巾の様に転がされたヤクトがよろよろと椅子を掴み、立ち上がりながら尋ねた。
一応、八聖神に選ばれた彼は神界に関係していると思われる事は全て目を通している。その中の一つに【七大天使】があり、六柱の天使の個人の経歴、象徴、紋章、司る加護、称号は記されていたのだが、七人目の情報の一切が無かった。
ページを破られた跡があった為、元々記入されて居なかったとは考え辛く、記録が隠滅されたと思われた。
秘匿された情報が何であれ、態々藪を突く必要は無いと思っていたが、その際、聞いてしまおうと考えたのだ。
「死んだ。いや、今も殺し続けている」
神々はお互いに視線を合わせ、やがて、知る権利はあるか、とフォティアが口を開いた。
「殺し続けている?……死んだなら、何故後任が居ない?」
殺し続けている、と言う言葉に違和感を感じたがフォティアにはそれを答える様な様子は無い。
知る権利があると言ってもそれは結果だけであり、過程までは教える気はないのだろう。
ヤクトは少し考え、質問を変えることにした。フォティアの様子は何処まで話すべきか考えている様に見える。
ずっと隠され続けてきた答えが目の前にあるが、質問次第ではこの話を打ち切られてしまう可能性があったからだ。
「代わりが務まる者は居ない。それ程までに【代行者】は偉大だったのだ。その事に今更ながら、考えさせられる」
「……【代行者】」
偉大だった、フォティアをしてそこまで言わしめる存在に興味を持った。
同じ七大天使であるギフトはこの騒動が収まり次第、後任の者を決めると先程創造神が言ったにも関わらず、【代行者】と呼ばれた存在は少なくともヤクトが生まれる数百年以上前から代わりが見つかって居ない事になる。
【真実と正義】を司る天使が過去に入れ替わっていると言う記録が残っているにも拘わらずに、だ。
それ程の者が何故、その天使は何を司っていたのか、七大天使の下にいた天使長達は今、何をしているのか、疑問が次から次に湧いてくる。
一番の問題は、【代行者】の名前を今まで一度も聞かなかった事だ。神界十五柱は……いや、昔からいる神や天使までもが一様に口にしないのは狂気てきな何かを感じる。
名前どころか、【七大天使】の紋章すら残されていない徹底ぶりだ。
「その天使は――――」
「すまぬが、これ以上は言えぬ。【代行者】を失う事になったのは神界最大の汚点と言ってもいいからの」
ヤクトがこれ以上質問を重ねない内に、創造神が話を切ってしまった。
「そんな……!!ここまで話を聞いて……!!」
「これ以上は禁忌に触れる……」
ラビィガルドの有無を言わさぬ凄みにヤクトは折れることにした。この調子では、古参の天使に無理やり話させようとしても無駄だろう。
それどころか、八聖神の座を降ろされるか、命そものを狙われかねないと感じた。
「時期が来たら話そう。それは、そう遠くない筈だ……」
時期が来たら、そう言ったラビガルドの顔は何かを決心した様な顔をしていた。
「オッホン……。過去のことはこれ位にして、こらからのことを話そうではないかのぅ」
創造神が咳払いで話を脱線する前の、本来の会議の目的へと戻そうとする。
「しかし、どうするべきか……」
「どうくるも何も、戦線が拡大し過ぎている」
対策を考えるにもそもそも戦力が足りなかった。主戦力であり、神界が誇る武神や魔神と云えども、戦力を分散させすぎると各個撃破されてしまう。
「【鬼狐】はどうした?」
名案とばかりにヤクトが声を上げる。彼は認めていないが、【鬼狐】の戦力は神界に匹敵すると言われている。
彼らはクレアシオンを主と崇めているが、【鬼狐】は神界の命令系統へと組み込まれていたはずだ。
【鬼狐】を戦線に投入する事が出来れば、自身の派閥の者達への被害を減らすことが可能になる。上手く行けば、クレアシオンの戦力をかなり削る事が出来る。
クレアシオン自身は力を失い、戦力も失えば、今までの様に傍若無人な真似も出来なくなると考えた。
しかし、創造神が首を横に振った。
「彼らには命令出来ぬよ……」
「何故ですか?【鬼狐】への命令権を貴方は持って居るはずだ」
クレアシオンと創造神は仲が良い。鬼狐とも少なくない交流がある事は周知の事実だ。
まさか、私情に流された訳では無いだろうな、とヤクトの視線が強まる。
「それは、クレアの命令があってこそのものじゃ。クレアの居ない今、彼らは儂の命令を聞く義理はない……」
その言葉を聞き、ヤクトは眩暈を感じた。報告に鬼狐の事が一切上がらなかったのは、その為だったのか、と。
――やはり、所詮は獣共の集まり……。肝心なときに使えない!!
派閥の者達が次々に死んでいく中、戦いにすら出ていない鬼狐達に理不尽な怒りを感じていた。
元はと言えば、邪気に汚染された世界をそのままにしていた彼らの行いが被害を広げる一因となっているのだが、怒りを抑える事は出来なかった。
「それに、彼らは今本来の使命を果たすため準備を進めておる。……考えたくは無いが、万が一に備えなくてはの」
創造神が何かを言っているが、怒りで支配された頭ではその言葉は入ってくる事は無かった。
全て最もらしい言い訳を並べ、邪神との戦争から逃げている様に聞こえてくる。
――隷属させ、我々の為に戦わせるべきだ。
「戦力が必要です。無理やりにでも……」
「止めておけ!!奴らと戦争する気か!?」
ヤクトの言おうとしている事を察したフォティアが止めに入る。もし、今この状況で鬼狐や【シュヴァレア】にいる者達に手を出せば、それこそ、神界の終わりだ。
彼らは今、主を殺された事により、殺気立っている。【十二神鬼】とアリア達が何とか抑えているが、鬼狐――――否、【シュヴァレア】の中では神界に攻め込むべきだと言う意見が出ていると聞く。
もし、こちらから手を出せば、【十二神鬼】も抑える事を止め、邪神の前に、鬼狐に滅ぼされる可能性の方が高い。
神界と鬼狐の戦力は匹敵していると言われているが、【十二神鬼】の序列上位は格が違う上に、個々の力は鬼狐に分があると言わざるを得ない。
全面戦争になれば、上級神以下の者達が生き残る事は出来ないと考えられる。一方的にやられる事は無いだろうが、決着が付く頃には、邪神に対抗する力は完全に無くなっているだろう。
ここで止めなければ、ヤクトの派閥の神が【シュヴァレア】にちょっかいを出しかねないと判断した神々が必死に説得しようとすると。
「――――良いですよ。ヤクト神」
突然、ここに居ない筈の者の声が響いた。
コツコツと足音が徐々に近づいてくる。だが、当たりを見渡せども足音の主は見当たらない。
「何者だ!!姿を現せ!!」
姿が見えない侵入者に神々は各々の神器を構えるがそれは直ぐに見つかった。
辺りを警戒し、巡らせていた視線がある一点に集まる。
そこには影があった。対となる対象は何処にも無く、影がだけがそこに存在していた。
侵入者は何処にも隠れて居なかったのだ。影は足音を響かせ、入り口のある扉から堂々と歩みを進める。
「私は貴方の宣戦布告を受けましょう」
影は全てを受け入れる様に両手を広げた。影の顔となる場所には切り抜いた様に口が空いており、口が弦を描き嗤う。
「我慢の限界はとうに過ぎているのですから」
影が反転し、色を取り戻していく。その者の顔は言葉とは裏腹に穏やかな笑みをたたえているが、その目の奥には底知れぬ殺意を宿している。
「き、貴様何故ここに!?」
「ええ~。用が無いと来ちゃ行けないんですか?」
影から現れた者は仮面を軽くかぶり戯けたようにそう口にする。
「そうではない!!何故!!何故貴様が生きている!?シュヴァーレン!!」
そうじゃ無い!!転生の魔術は確かに起動した筈だ!!死んだはずだ!!ここに居るはずが無い!!と発狂しそうな怒りを押し殺し、指をさしてそう叫んだ。
混乱したヤクトを見て、クレアシオンはクスリと嗤い、人差し指で口元を押さえ、
「嫌だなぁ、神出鬼没と書いて【鬼神】と読むんですよ」
鬼神化して、そう答えた。
ありがとうございました。
ここで切って、三章に行くか、あと一話書いて三章に行くか……。ここで切ったら、続きを書く機会があるかどうか……。




