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キャンディ・ポリス〜折れた剣〜

キャンディ・ポリス完結です。

「で、その翌日の夜に手土産を持ってやって来てからが、俺とクレアの腐れ縁の始まりだな。年に一回、決まって同じ日にチェリーパイを食べに来るようになったっけな」


そう言いながら、ジンは思い出すように遠い目をした。そんなジンを見て、同僚は運転中によそ見するなよ!?パトカーが事故とか笑えねぇよ!!と内心突っ込んだ。


 だが、同僚の心配をよそに、二人を乗せたパトカーはジンの華麗なハンドル捌きで進んでいく。


「それ以外にも決まって、俺が死にかけるとどこからともなく現れて助けてくれた」


――――それだけ死にかけるのは、そいつのせいじゃないのか?

 

 あいつは死神に愛されている、そう警察内部で実しやかに語られるほど、ジンは凶悪な事件に巻き込まれ、死にかけてきた。


 それはそうと、


「本気で言っているのか?」


 それがジンの話を聞いた同僚の反応だった。無理もないだろう。ジンの話はおとぎ話や作り話のような部類だった。信じろという方が無理がある。それはジンも分かっていたのだろう。フウっと息を吐いてから、


「だから、言うのが嫌だったんだ」


 そう、吐き捨てるように言った。それを聞き、同僚は馬鹿にしたように笑う。


「ハハッ、Mr,キャンディ。どうやら、お前には警察の才能だけでなく、SF作家の才能もあったみたいだな!!」


 腹が痛いとばかりに、大笑いする同僚を見て、ハンドルを握るジンの手に力が入り、ぴくぴく、と青筋が浮かぶ。そして、


「……お前も会ったことがあるけどな」


 っと爆弾を投下した。そもの言葉に同僚は固まった。聞こえなかったわけではない。理解できなかったのだ。否、脳が理解することを拒絶したのだろう。本能が理解するなと叫んでいる。


 理解してしまえば、もう、後戻りできない。そんな確信にも似た予感がしていたのだ。


「よく会っているだろ?ほら――」

「――や、やめろ!!言うんじゃねえ!!」


 身の危険を感じ、必死に思い出さないようにしていた同僚を見て、何を思ったのかジンはヒントを出そうとした。死の呪いとも言える行為に、同僚は耳を塞ぎ、聞きたくないと駄々を捏ねる子供のように嫌がった。それを見て、ジンは口元を歪める。そして、囁くように告げた。


「俺の捜査協力者――――」


 その言葉にああ、ああ……っと口にし、目が虚ろになった。心当たりが有ったのだろう。


 例えば、ジンが爆弾処理を行った際、時間が足らず、建物ごと大爆発。誰もがジンの生存を絶望視したその瞬間、大きな瓦礫を腕一本で払い除け、気絶したジンを肩に背負い、現れた。


 例えば、船のハイジャック。たまたま乗り合わせたジンと同僚は問題解決に乗り出そうとした時、突然現れ、バズーカをぶちかまし、犯人を一瞬のうちに無力化。


 例えば、秘密組織の陰謀にジンが巻き込まれ、誘拐されてしまった時、警察と特殊部隊が合同で編成された合同部隊が苦難の末に、ジンの囚われていると言う倉庫で見たものは見張りを無力化し、ジンとトランプをしている姿だった。


 例えば、凶悪な裏組織を壊滅させるために、警察や特殊部隊が大量に投入され、決戦の地となった地下街の最奥、突入の時が刻一刻と迫り、数秒が永遠にも感じられ、突入した者たちが見たものは、遺伝子組み換えで創られたキメラ生物の死体の山とそれに混じる瀕死の幹部とボス。そして、屍累々の山の上に背を丸め、両肘を膝の上に置き、右手には煙を上げる葉巻を持ち、ゆっくりと気だるげに煙を吐き出す姿だった。


 例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例え――――


 挙げればキリがない。しかも、その全てが隠蔽されたかのように、誰もその人物の正体を知らないのだ。ただ一つ、『キャンディ・ポリスの協力者』と、言うこと以外は……。  


 もちろん、警察や特殊部隊はこの人物について調べた。だが、彼らの力をもってしても、行き着く先は【《存在しない者》】だった。どこのもデータがないのだ。


 国籍不明、神出鬼没と言われる暗殺者ですら、人間である以上、足取りを完全に断つことはできないはずなのだが、その者の足取りは辿れなかった。


 まるで、その場に突然現れるように、そして、突然消えるように、足取りが点在しているのだ。それは距離を、時には時間すらも超えて……。


 そして、【blue rose】――青いバラ――「不可能」「奇跡」「神の祝福」「不可能なもの」「無理なもの」「あり得ないもの」と言う異名が付けられ、警察の上層部に黙認される形で、ジンの捜査をたまに手伝う謎の人物、ということになっていた。【blue rose】には本来の花言葉以外にも犯人への仕打ちから「冷酷」「冷血」などという意味も含まれているとかいないとか。


 もし、もしも、仮定の話だが、ジンの言った話が本当ならば、今まで見てきたこの不思議な人物の説明がついてしまう。神出鬼没の訳も、出鱈目な訳も、そして――――老いない訳も……。


 そして、同僚は観念したかのように、ゆっくりと口を開いた。


「……Mr,紅葉(クレハ)?」


 いや、違うはずだ。だって、ジンが言ってたじゃないか、その天使の名前はクレアシオンだって。なら、人違いだ。そう自分に言い聞かせるように呟いていたが、現実は非情だった。


「そうだ。一緒に飲みに行ったりしてただろ?」


 確かに、ジンとクレハと飲みに行ったり、旅行に行った事はあった。だが、


「名前が違うだろ……?」


 その言葉を何とか絞り出した。否定したかったのだ。現実だとは認めなく無かった。


「偽名だ」

「……偽名?」


 その言葉が上手く頭に入らず、そのまま、聞いた音を繰り返した。そして、自分で口にすることで、その言葉の意味が少しずつ氷が溶けるように頭に入って来る。頭の中にその言葉が反響する。


「ああ、そうだ。クレハ シンドウは偽名で、本名はクレアシオン=ゼーレ=シュヴァーレンだ」

「……こんなこと、どうやって報告すれば―――――ハッ!?」


 ジンの言葉を聞き、思わず漏れた本音に慌てて、口を押さえた。横目にジンの姿を見るが、特に変わった様子は見られず、前を向いて運転していた。そのことに胸を撫で下ろすが、


「お前が、俺を探っていることは知っている。多方、クレアの弱みでも握って、利用しようとした上層部にでも言われたんだろ?」

「……」


 同僚は黙秘権を行使した。同僚はジンの周辺を探っていた。正確には『紅葉 神道』と言う男の情報を探っていた。


――――どこまでだ!?どこまでバレている!?

 

 そう、どこまでバレているかが重要だった。もし、認めてしまうと、何を調べているかを詳細に尋問される可能性がある。下手に何かを言って、言質を取られたり、相手の知らなかった情報をタダで、なんの取引もせずに、一方的に取られることになる。


 だから、どこまでバレていて、相手が何を欲しているのか、それを一瞬のうちに頭をフル回転させて逃げ場のないパトカーの中で、逃げ場を探していた。


「『向こうら手を出すんだから、いいよな?』って言いながら、色々と企んでいたぞ」


 その言葉を聞いた瞬間、同僚の背に冷たい物が流れた。紅葉は――――クレアシオンは把握して、備えていたのだ。おそらく、彼の性格から考えると、誰の指示で動いて、誰がどう関わっているのか把握しているのだろう。


 少なからず、クレアシオンと交流のある同僚は知っていた。彼は自分勝手な欲望に無関係な人間が――――否、キメラ事件の時は動物だったが、巻き込まれるのを極端に嫌うことを。そして――――手段を選ばないことを。


 もし、クレアシオンの大事な人を人質にでもしよう物なら、否、できても、できなくても、しようとした時点で、あの異常な力の矛先が自分たちに向くことが決まることになるだろう。


 そうなれば、果たして、自分は生き残ることができるのだろうか?今まで、クレアシオンが犯人を殺すようなことは無かった。それが犯人にとって幸か不幸か解らなかったが、同僚は死んだほうがましなのでは?と思わずにはいられなかった。


 というのも、クレアシオンに倒された犯人は人が変わったように――――それこそ、憑いた悪魔が取れたかのように懲役に勤しみ、刑務所から出たものは慈善事業を始めるようになったという。ここまでを聞いた者は、改心したのだろうと、感心するかもしれない。


 だが、異常なのだ。欲がない、とでも言うのかわからないが、罪を犯してまで、大金や快楽を求めた者たちが、自分が生きるのに最低限の金を残し、稼いだ金をすべてを手放しているのだ。


 そして、ふとした切っ掛けで動悸が激しくなり、脂汗をかきながら、壊れたように呟くのだ。『ごめんなさい。ごめんなさい』と。


 その様子を見た同僚は知ってしまった。殺さなかったんじゃない。殺していたのだと。『死より恐ろしい目に合わせる』などとよく聞くが、そんなものは生ぬるい。『死と等価』の何かをされたのだと。


 上の連中はのんきに、殺されることはないと高をくくっているが、同僚にはクレアシオンには一定の基準があって行動しているように思えてならなかった。おそらく、殺さないのではなく、殺せない何かが。だが、クレアシオンの大事な人に何かする行為はその一線を超えることになるだろう。


 口の中が乾くのを感じる。手足の先が凍えるように冷たい。だが、同僚はまだ、クレアシオンが天使だという話を信じた訳ではない。怪しげな兵器や能力を持つ組織や各国の非正規軍は挙げればキリがない。いくら強くても、軍の部隊が一つ二つ動けば、流石になんとかなるだろうとまだこの時、思っていたのだ。

 

◆◇◆◇◆


「だが、Mr.クレハの感情が無かったってのは信じられないな」

「ああ、会うたびに少しずつ、表情が柔らかくなって、笑う数が増えてきた……」


 言葉を途中で切ったジンに同僚が視線を向けると、ジンは言葉を選ぶように思案していた。


「……あれは、増えたって言うより、取り戻していたんだろうな……」


 何があったかはジンには分からない。だが、少しずつ増えてきたクレアシオンの笑顔に子供ながら、嬉しかったのは覚えていた。


「感動的な話は解るが、これは何処に向かっているんだ?」


 ハイウェイに乗り、途中で休憩を挟むこと、数時、家やビルが疎らになっていくと思っていたが、遂には家の一つも見つける事が出来ない深い森の中を走っている。


「もう直ぐで着く。……ああ、見えたぞ」


 ジンの見る方向へ視線を向けると、光を遮っていた深い緑から漏れる木漏れ日が徐々に強くなり、ぱっと目の前が白くなった。


 薄暗さに慣れていた目は突然の刺激に耐えられず、僅かに痛みを訴える。


「……ここは?」

「ここで、クレアと待ち合わせしてるんだよ」


 二人の目の前には、風に揺れる膝程までの草や野花が群生している場所だった。


「何処にも居なさそうだぞ。……しかも、なんでこんなへんぴな場所で待ち合わせなんてしてんだよ」


 同僚の意見も最もだった。ジンの話から、年に数回しか会えないのは、クレアシオンが離れた場所に住んでいる、と言うことはわかる。しかし、飛行機で来るにしても、車や電車で来るにしてもここは不便過ぎる。


「……騒ぎになるからな――――っと、来たみたいだ」


 騒ぎになる、てどう言う事だ?と聞こうとしたが、聞くことはできなかった。それどころじゃ無かった。


 今まで静寂が支配していた森が急にざわめき出す。気配を消していた獣達は気配を断つことを辞め、鳥達はむれて、それぞれが一斉にこの場から離れようとしている。


 異変はそれだけじゃ無い。空が色を失ったのだ。比喩でも何でも無い。文字通り、青い空も白い雲も全てが色を失い、燃え尽きたかの様な灰色に変わっていた。


「これを付けろ」

「あ、ああ」


 同僚はジンに渡されたマスクを言われるままに付けた。もう、理由を聞く余裕なんて物は無かった。事態が飲み込めない。渡された物に疑問を抱くほど、考える事は出来なかった。


 そして、それは降りだす。【灰色の雪】が。


「……毒って訳じゃ無いんだが、吸い込むとヤバいからな」


 そう言って、広げた両手に降り積もった雪を見ながら、ジンは呟いた。同僚も同じように、ゆっくりと降ってくる【灰色の雪】を手に取り、その正体に驚愕する。


「い、石!?」


 雪の様に降ってきた物は石だった。物理法則を無視した様にゆっくりと降ってくる物を見て、開いた口が塞がらない。これは夢ではないか、と希望ではなく、切実な願いとしてそうあって欲しいと思った。


 だが、更なる異常事態が同僚を襲う。灰色の空が割れ、後ろに白い空間の様な物が見えた。


 そして、白と黒の東洋龍が割れた空から這い出る様に出て来る。割れた空が石盤となって降ってくる。


「う、ウワァーー!?」


 同僚は逃げ出した。上から降ってくる│質量兵器《石盤》からも、黒と白の化け物からも逃げた完全に彼一人で――――否、人類でどうこう出来る相手では無かったからだ。


 だが、パトカーにたどり着く前に、一人の初老の男に道を塞がれた。


「これはこれは、その様に慌てて、どうしたのですか?」

「あ、アンタは!!」


 同僚はその男を知っていた。何度も会ったことがあるからだ。その男がクレアシオンの家令を名乗った時は、クレアシオンに『アンタ、何者だよ?』と、尋ねたが、もう一度尋ねたくなった。


 その問いはクレアシオンにではなく、目の前の男にたいしてだ。その男は【灰色の雪】と同じ、灰色の髪を後ろに流した髪型で、年齢を感じさせない姿勢の良さで燕尾服を着こなし、鋭い鷹のような目を持つが、荒々しさを感じさせない包容力の様な物を持つ男だ。


 だが、それだけでは無い。その男の足元の色が浸食されるように、徐々に色を無くしているのだ。恐らく、空の事もこの男のしわさだろう。


 カツ、カツ、と男が歩く度、足の着いた地面が波紋のように色を失って行く。


「お久しぶりです。ザック様」


 そう言って、男は同僚――――ザックに見惚れる程の礼をした。そして、ジンの前に二体の龍が降り立つ。ザックの退路は完全に断たれた事になる。


『ジンよ。何故、ここにお前以外がいる?』

『我らの事が知れ渡ると神域の者どもが煩い』


 白と黒の龍が交互に喋る。その声、一言一言に威圧が込められているのか、ザックは腰が抜け、後ずさる事すら出来なかった。


「その事なんだが、クレアが散々やらかしてやがるから、国のお偉いさんが目を付けて、こいつに探らせていたんだ」


 隠すこともせず、全てを打ち明けたジンにザックは目を見開いて驚く。


――そんなこと言ったら、殺されちまうだろ!?まさか、最初からそれが目的で!!?


 ザックがジンを睨んでいると、頭上が暗くなる。上を見ると二体の巨大が鎌首をもたげ、鋭く睨み付けていた。


『探って何をするつもりだ?』


『まさか、クレアシオン様を利用しようなどと、不遜な事を考えてはいまいな?』


 ザックの汗腺は閉じる動作を忘れてしまったのだろうか。体の全ての水分を垂れ流す勢いで嫌な汗が流れ出る。軍が相手ならクレアシオンも言うことを聞かざるを得ないと考えていたが違った。


 クレアシオンを脅したとなれば、リアルVs大怪獣が勃発してしまうことになるだろう。勝てたとしても国は国と呼べる状態だろうか?きっと呼べなくなっている事は確信できる。


「だから、中途半端に情報掴ませて、画策されるより、こいつに全部教えてこっちに引き入れようと思ってな」


「なるほど、それは宜しいかと」


「お、おい!」


 話しが勝手に進んでいき、自分の与り知らぬ場所で全てが決定されていく。それを止める為にジンを見るが、


「なあ、兄弟。俺は、お前に隠し事なんてしたくないんだ」


 と、肩に手を置かれ言われた。


『人間、失敗は許されないと知れ』


『それはこの世界の崩壊を意味するだろう』


 ステレオで聞こえて来る言葉に否定する余地を見出せない。震えて頷く事しか出来ない。泣き出して逃げ出したいが、そんなことをすれば、一息でゴミの様に殺されてしまうだろう。


 セバスは一応の敬意を示しているが、その瞳の奥に冷たい物を感じさせ、二匹の龍はザックに価値を見出していない。


 少しでも利用出来ると示さなければならない、そう混乱した頭の中でも冷静に考えていた。


「ヴァイス様、シュヴァルツ様、そのお言葉聞き捨てられませんね。この世界はご主人様のお気に入りの場所。壊すなど……」


『はっ!申し訳ありません!!』


『口が過ぎました!!』


 セバスの言葉に、二匹の龍は直立不動の姿勢を取る。二匹は脅えているのか、声が少し上擦っている。


 ちょとしたやり取り一つからも、三人の上下関係がわかってしまう。


「ご主人様を思っての言動なのは理解していますが、些か、過激すぎです。もう少し、先を見据えて動きなさい」


『はっ!!』


 二匹の龍が小さくなり、黒と白の鎧を着込んだ騎士へと姿を変え、敬礼をする。


「あっ!!Mr.シロノ!!Mr.クロノ!!」


 ザックはその姿に見覚えがあったのか、驚愕の表情を浮かべる。


『やっと気づいたのか?』


『鈍いな』


 わかる訳無いだろ、と声を大にして言いたかったが、何とか押さえる事に成功した。言われて見れば、聞いたことのある声と口調だった。鎧にも龍の面影が無いことも無い。


――コスプレだと思っていた!!


 ザックは二人のことを真夏の海辺でも鎧を脱がない気合いの入ったコスプレイヤーだと思っていたのだ。


 あの巨大な二匹の龍が海の家で人間相手に鎧姿形で焼きそばを焼いていたと思えば、シュールだが、笑うことは出来なかった。


――上官。化け物は日常に溶け込んでいました。


 超常は日常に潜んでいたのだ。


「そう言えば、クレアはどこだ?アイツが約束を破った事は無いのに……。遅れるのは珍しいな」


 ジンの言葉に、重い沈黙が降りる。シュヴァルツとヴァイシュの握り締めた拳の鎧がひしゃげ、メキメキと音を立てる。


「な、なぁ?どうしたんだ?」


 沈黙に耐えられず、ジンが切り出した。嫌な予感がしたのだろう。そんなはずが無い。何時ものように、気が付いたら隣に立っているのだろう。


 いつものように下らない冗談を言って、唐突な行動に驚かせて来るのだろう。


「なぁ、クレア?居るんだろ?出てこいよ。どれだけの付き合いだと思ってんだ?いつまで経っても慣れないが、また俺を驚かそうとしてるんだろ?」


 嫌な予感を振り切ろうと発した声に答える者は居ない。血液に冷却液を流し込まれたように、手足が凍え、言うことを聞かない。


「……ご主人様は、クレアシオン様は暫くお戻りになられません。……時差を考慮して、早くて二、三年長くて五、六年でお戻りになるでしょう」


 後頭部を殴打された様に眩暈が襲う。病気か?と頭を過ぎるが、直ぐに否定する。クレアシオンが病気に負け、大人しく寝ている様子がどれだけ努力しても想像できない。


 体力をつけるためだとか抜かし、大量の空の皿を積み上げ、いつの間にか病気が治っていた、と笑い飛ばしていそうだ。

  

 嫌、馬鹿だから病気にはならないだろう。


「お、おい……。クレアは無事なのか!?」


 ならば、考えられるのは病気ではなく、怪我か何かだろう。ジンの知っている限りでも生きているのが不思議な程の敵を相手に、居場所を求めるように数え切れないほどの戦場を渡り歩いている。


 死にそうな怪我を負ってしまったのだろうか?そんな事を考えてしまう。


 だが、セバスの口から告げられた言葉は予想を遙かに上回っていた。


「……貴方様は、勘が鋭くていけない。クレアシオン様は死にました」


 その後、セバスが何かを言っていたが、ジンには一言も入って来なかった。

ありがとうございました。


キャンディ・ポリスは終わりましたが、この章はあと一話か二話続きます。



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