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キャンディ・ポリス裏話~戦場の天使~

今回は、長いです……。

「……結界が厄介だな」


 今、クレアシオンは三つの世界の内、邪神が多く集まっている世界の【神域】へと踏み入れようとしていた。


 邪神アールが親切に、親切にも教えてくれた事によると、管理者(・・・)の手引きにより、世界が堕ちたと言うことだ。


 その堕ちた世界で邪神達は何かを作っていると言う。アールも詳しくは話されてはいなかったが、世界を三つ滅ぼしてもまだ絶望が足りないモノを作っていると言う。


 『ははっ!!貴様ら神を騙るデアフロビルト共が!!我ら、アポスビルトの【神】の復活は近い!!完成すれば、【フォルド】は滅ぶ!!』とか喚いていたから、【暴食のアギト】で丸呑みにした。


 邪神、悪神、悪魔、魔族は神界の神々がそう呼んでいるだけで、邪神は自らの事を人相手に【神】と名乗りはするが、それは信仰のためであって、神や天使相手に名乗ることは無い。


 自らをアポストビルト(大いなる使者)と名乗り、デアフロビルト(神を騙る者)と呼んでいる。


 【フォルド】とは邪神の言う【神界】の事だろう。


 まぁ、それは関係ない、何を作っているか知らないが、世界三つを素材として作ろうとしているのだ。

 

 ろくなモノではない事は確かだ。


「完成する前に、壊したいが……手遅れだよな?」


――ここ数十年……いや、数百年、邪神達の動きがおかしい。


 右眼を押さえて、クレアシオンは独り言ちる。


 その目の先には、今いる場所と遠くて離れた世界が写されていた。


 酷く淀んだ空気――邪気の満ちた世界で魔族同士が幾つかの集団に別れて殺し合っている。


 別に珍しくもない。邪神の世界、もしくは邪神の手に堕ちた世界は悪魔や魔属以外の種族がいなくなると更なる負の感情を集めるため、邪神達が魔族を駒に遊戯をするのだ。


 魔族は魔王に仕え、魔王は邪神に忠誠を誓う。そして、戦により、信仰と負の感情が集まり、邪神の力が高まるのだ。


 魔族達もただ、駒にされている訳では無い。魔族には魔族の利益がある。


 魔族にとってこの殺し合いは一種の儀式だ。己を更なる高みへ。種の限界を超える為に、進化するために必要な儀式だった。


 魔族は魔王へ進化するために、魔王は邪神として認められるために、戦争で殺し合い、レベルを上げ、負の感情で強化していく。


 『神は平和を好まない』昔、有る世界で聞いた言葉だ。


 平和な世界では、神は信仰を集められない。平和な世界では、邪神は邪気を集める事は出来ない。

 

 その言葉を聞いたクレアシオンは、ああ、と納得したものだ。


 信仰は兎も角、レベルを上げる為に、他の生物を殺す必要が有る。これは、邪気の生成を促す様な世界のシステムだ。

 

 世界は争いに満ちている。


 レベルが高い者ほど、多くの【死】の上に立っているのだ。


 そう言う意味では、悪魔や他の種族も変わらない。他者を殺す事で得る物があるのだから。


 そう考えて、有る意味納得した。


 悪魔は何処にでもいると。悪魔は全ての種族に潜んでいる。


 邪気によって、魔属になるのではなく、なるべくして魔属になっているのだと。


 目の前――――【β】を通して観ている光景には、人だったものや動物だったもの魔物だったものが悪魔に混じって争っている。


 それらは、魔属と呼ばれ、特に人だったものは魔人と称される。


 悪魔、魔属を纏めて魔族と言う。


 魔族しか居ない戦場を見据え、クレアシオンは手を振り下ろした。


「そんなに争いたければ、俺が相手をしてやる。――――ジャッジメント【聖戦の夜明け】」


 クレアシオンの紅い目がより紅く輝きを放ち、ユニークスキル【傲慢】の【傲慢なる裁き】が発動する。


 直後、争っていた魔族の集団を大規模な魔術が襲う。


 【魔の傀儡】三体を引き替えに発動した大規模な火属性と聖属性の混成魔術。


 赤い炎が数万の魔族を飲みこみ、舐めるように地面を這い広がる。


 後に残されたのは、えぐり溶かされ、ガラス化した大地のみ。魔族は灰すら残されていない。


 邪気が払われ、空気が少し軽くなったように見える。


 それを宣戦布告の狼煙とし、【β】の遠吠えで一斉に二千五百もの【魔の傀儡】が魔族に襲いかかる。


 突然の炎に呆気に取られていた魔族は為す術なく、殺され、体勢を立て直す暇無く、軍として組織出来ない程に崩壊していった。


 それを見届けたクレアシオンは、その世界の事を【β】に任せ、再び、邪神の結界解除に取り掛かる。


 クレアシオンの周りには二千の【魔の傀儡】と【γ】が控えており、【α】【β】がそれぞれ二千五百の【魔の傀儡】を率いて、別の世界へと赴いている。


「はぁ!?」


 後少し、そんな時、思いもよらない事が起き、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「【α】が消えた……?」


 もう少しで世界の境界線にたどり着く所で、【α】が何の前触れも無く、消えたのだ。


 有り得ない。そんな言葉が浮かぶが、直ぐに頭を振る。現にあり得たことなのだと。


 しかし、頭で理解しても、納得は出来なかった。


 消えたと言うことは、倒された事になる。それは良い。【α】を殺せる者はいくらでもいる。


 だが、クレアシオンが消えたと感じたのは、【α】との繋がりがふっと一瞬で消えたからだ。


 【鬼狐】と同じぐらいの力を持つ【α】が何も出来ずに殺された。つまり、最上級神より強い存在がいる、と言うことだ。


「……消えて行く」


 【魔の傀儡】を通して敵を確認しようとするが、傀儡達も何も出来ずに消えて行く。


 傀儡達の死角に入った一瞬を狙っての犯行だ。敵の姿を確認する事無く消えて行く傀儡達に傀儡達が自らの意思で自然消滅をしているように錯覚する。


 そして、遂に、


「……全滅」


 魔王化したクレアシオンの奥の手である【魔の傀儡】達は静かに消息を絶った。


「チッ……」


 数時間後前に邪神相手に同じ事をしたが、自分がやられたら、これ程苛立つ事はない。


 ましてや、時間が無いからこそ、滅多に使うことの無い奥の手を使い、生命力を削ってまで戦力を分散したのだ。


 それをこうも容易く消されれば、苛立ちもする。


 だが、苛立ってばかりもいられない。


 直ぐに対策を考える。【α】は消滅。【β】は想定より悪魔の数が多くて手間取っている。


 【鬼狐】の出撃は論外だ。少なくとも【鬼狐】以上の者がいると判ってる以上、態々死地へと赴かせる訳にはいかない。


 【γ】は【死への行進(デスパレード)】を使い弱体化したクレアシオンを警護する為に行かせる訳には行かない。


「……行くか」


――鬼狐に行かせなくて良かった。


 もし、クレアシオンが鬼狐に出撃させていたら、出向いた鬼狐は死んで居たかも知れない。


 邪神相手にこれ以上、奪われて堪るか、そう思い、クレアシオンは【魔の傀儡】を使ったのだ。


 クレアシオンが空間を殴り割る。ガラスの割れた音が響きながら、空間に穴が空く。


 割れた穴から、白い空間に黒い魔力が流れだし、崩壊するように塵へと成り行く【魔の傀儡】達が見えた。


 白い景色に黒い靄が点在する異様な空間。見る者に、【墓場】と言う言葉を思い浮かばせる様な空間にクレアシオンが一歩、踏み出そうとした瞬間、直感が全力で警鐘を鳴らす。


 回避行動へと――――


「来ると思ったぜ♠クレア❤」


 移せなかった。クレアシオンの躰を銃が貫き、黒い一条の光が白い空間を彩った。


◆◇◆◇◆


 割れた穴に脚を踏み込んだ瞬間、【傲慢】の【支配者の矜持】が発動した。


 効果は不意打ち無効。しかし、不意打ちを感知するだけの能力で、感知した後は自力でどうにかしなければならない。


 発動した瞬間に、不意打ちは不意打ちで無くなってしまうからだ。


 ゴテゴテとした機械仕掛けの巨大な銃口がクレアシオンの体に突きつけられる。既に引き金は引かれ、発射までコンマ1秒も無い。


 クレアシオンは咄嗟に銃口を体に押しつけ、一歩踏み出した。


 銃口はクレアシオンの体内に入り込んむや否や、レーザーが発射された。


 極光は銃口より遙かに大きくなり、クレアシオンの体を完全に貫いた。


 もし、横に逃げようものなら、極光を横に薙ぎ払われ、クレアシオンの体は完全に黒い光に覆われていただろう。


 銃口から射出されたばかりのレーザーは構造的に細い為、まだダメージを最小に抑える事が出来、あの一瞬でレーザーを固定させる為には、敢えて受けるしか無かった。


「―――――ガハッ!?」


 口から血が吐き出され、ガラスの割れる様な音が連続で響き、クレアシオンの指輪が壊れていく。


 【回復の指輪】――――クレアシオンの【心器】であり、唯一の回復能力のある【心器】だ。瀕死の者を全快まで回復させる能力を持つ。


 しかし、回復の指輪は発動しているのに、クレアシオンの傷は一向に良くならない。


 回復の指輪の効果と同じ【回復】の力に阻害され、傷口は異常な速さで躰が強制的に回復し、傷の周り腹の中を虫が這い回る様にボコボコと膨張し、石化し、腐敗していく。

 

 【死】を纏う銃が【支配者の矜持】の状態異常無効、即死無効を超えてクレアシオンの躰を蝕んでいく。


「ハァ!!」


 気合いの声を上げ、異常回復で膨張する体を【自己支配】で無理やり抑えつけ、石化や腐敗、即死の呪いに抵抗する。


 打ち勝った事を証明する様に指輪の破壊は収まり、レーザーの光は次第に収縮していき、掻き消える様に消えた。


 九個あった指輪の数は残り三つだ。身につけてさえいれば、死を一度だけ身代わりになる指輪が六個も壊された。


 今の一撃だけで六回死んだと言っても過言では無い。


 今も、腹に大きな穴が開き、七つ目の指輪が効果を発揮しようとするが、それを何とか抑えつける。これ以上、無駄に出来ない。


「いつまで、そんな(回復の指輪)に頼ってんだ♠?誰しもいつか死ぬんだから、今を楽しむのが一番よ❤これで、命の数は同じ……♣。さぁ、遊びましょうか♦!!」


 襲撃者――――ジョーカーはクレアシオンの体から銃を引き抜き、肩に担ぎながら、口元を歪める。


「あ、ああ……」


 キラキラと舞う指輪の欠片に手を伸ばした。欠片を拾い集めるが、手から零れ落ちて全ては拾うことが出来ない。


 回復の指輪は、一つを作るのに二千年以上かかっている。【心器】の性質上、狙った効果を持つものが出来る保証は何処にも無い。


 回復に向いていないクレアシオンが、神界より遙かに時間の流れが早い邪神の世界で何千と失敗し、本当は自分さえ良ければ良いと思ってしまっているのでは、と苦悩しながら、やっと一つ出来るものだ。


 一度使うと壊れてしまい、他の【心器】と違い、再び使える様になるまで百年以上かかる。


 最後に一つ、【回復の指輪】、それは唯一クレアシオンが他者に対して回復を行える手段だったのだ。


 普段から身に着けているのは、何時でも使える様に、進化すれば、より多くの者を救える様になるかも知れないと僅かな希望に縋り、魔力を与え続けていたからだ。


 断じて自分が助かる為に、死なない様につけている訳では無い。

 

 クレアシオンに取って、回復の指輪は希望だったのだ。『俺でも、傷を癒やす事が出来る』と。

 

 それが今は無残にも割れ、光となって消えて行く。


「――ジョォォォォォカァァァアアア!!!」


 今まで押さえ込んでいた感情、その全てが爆発した様に溢れ出す。


――【……が規定値に達しました。――――取得に失敗しました】――


 クレアシオンは勢いよく左胸に拳を叩きつける。


「覚悟は出来てんだろうな!?」


 叩きつけた左胸から金細工の施された柄が現れ、力任せに引き抜いた。


 引き抜かれた剣からは鮮血が滴り落ち、クレアシオンの口元から一筋の紅い線が重力に従い描かれる。


 その剣は朱と金が踊り狂う漆黒の舞台の様であり、同じ大剣でも【ヴェーグ】の洗練された美しさとは違い、荒々しく豪奢な美しさを持っている。


 また、ヴェーグとの違いは剣の形にも現れている。ヴェーグの先端は鋭く尖っているのに対し、この剣の先端は丸くなり、突き刺す機能は完全に失っている。


 先端に重心を集め、振り下ろす力を最大限にし、処刑によく使われる形をしている。


 名を【ザックガッセ】。袋小路、行き止まりを意味する何もかもが【ヴェーグ】とは対をなす【心器】だ。


「やっと仮面の下を見せましたか……♦後先考えず、楽しもうぜ♠!!」


 ジョーカーのテンションは最高潮に達したのか、その口元は弧を描く。


「『退屈な世界に狂乱を』♠」


『アイアイ、ボス。……フレェンズィモード起動。……ハヴアグッドタイム』


 機械仕掛けの銃から禍々しいオーラの様な物が現れ、ジョーカーの身を包む。


 だが、相手の戦闘準備を律儀に守る必要は無い。ましてや不意打ちをしてくるような相手だ。クレアシオンは驚異的な瞬発力を見せ、ジョーカーに【ザックガッセ】を振り下ろした。


「いいねぇ❤」


 そう言うとジョーカーは振り下ろされた大剣を手持ちの銃で防御した。金属同士がぶつかる不快な音を立てて両者は拮抗する。


「【双剣】♠」


「イエス、サー。モードチェンジ【双剣】」


 ガチャガチャと音を立てて、機械仕掛けの銃は形を変えていく。二つに分かれた機械の集合体は、歪な短剣の様な形を取った。


 2本の剣で【ザックガッセ】を受け流し、ジョーカーはクレアシオンの横腹を狙い、一閃。


「くっ……♣」


 しかし、大剣を振り下ろす勢いを利用したクレアシオンの回し蹴りにより、浅く切り裂くだけに終わり、致命傷にはなり得なかった。


 回し蹴りを回避すると、既にクレアシオンは大剣を横になぎ払っていた。


「【死への行進(デスパレード)】を使用して、弱体化しているのに、大剣なんて使って大丈夫なんです、か♦!!」


 横凪の剣を棒高跳びの様に回避したジョーカーは、振り切った状態クレアシオンに向け、左手の剣を振り上げた。


 首元を狙って振り上げられた剣をクレアシオンは右手で逸らし、鳩尾に蹴りを放った。


「ぐっ……!」


 蹴りを放った足に焼けるような痛みを感じた。切り口から腐敗が広がる。


 蹴り飛ばされたジョーカーは空中で回転しながら、勢いを殺し、空中に魔力で作った足場を蹴り、一直線に向かってくる。


 鳩尾を捕らえた様に見えた蹴りだが、ジョーカーの右の剣で防がれ、蹴り飛ばす寸前に左の剣で刺されたのだ。


「それを使っている間は、鬼神にも九尾にもなれませんからねぇ♦それに、変化する時は一番無防備になるものね❤」


 ジョーカーが速度を上げ、クレアシオンの有効範囲から付かず離れずの位置を保ちつつ、クレアシオンを切りつけていく。


 少しでも、クレアシオンから離れると【魔の傀儡】達による魔術の集中砲撃があると解っているからだ。


 だから、初めに接近し致命傷を与え、間合いが狭くても扱える双剣を使っているのだ。


 もし、致命傷を与えていなければ、クレアシオンは躊躇なく、被弾覚悟で【魔の傀儡】を使って来るだろう。クレアシオンが【回復の指輪】を使っていても同じだ。


 しかし、絶対にクレアシオンは自分で【回復の指輪】を使わないと解っていた。


 ジョーカーはクレアシオンの【魔王化】の特性、装備、闘い方、そして、何よりクレアシオンの性格を熟知して作戦を立てている様に見える。


 猛攻を受け、クレアシオンの傷が増えていく。何とか致命傷は免れてはいるが、即死属性を纏った剣は即死無効では消せない激痛を与え、ダメージを蓄積させていく。


「そうそう♠格上や同格相手に変化する暇は作れねぇよ♠」


 クレアシオンが大剣をやめ、動きやすい装備に変えないのは、スピード勝負に挑むと身体能力がもろに影響してしまうからだ。


 一番、得意な武器で対応した方が、機転が利きやすい。

 

 姿勢を低く、向かってくるジョーカーの首を狙い、大剣を下から斜め上に振り上げる。


 ジョーカーは、大剣に剣を沿わし、勢いを利用して上に飛びあがった。

 

 上下逆さまに魔力で作った足場に着地したジョーカーは2本の剣を構え、足のバネを利用して弾かれた弾丸の様にクレアシオンに向けて飛び出した。


 それをクレアシオンは、振り上げた大剣を高速で回転させる事で防ぎ、回転を利用して、【ザックガッセ】を地面に突き刺した。


「うおっ♠!?」


 クレアシオンが大剣を地面に突き刺した直後、ジョーカーは背後からの強襲により、弾き飛ばされる。


『時間ガ、ナイ。邪魔ダ』 


 そこには尻尾を鞭の様にしならせた【β】がいた。


 クレアシオンから距離が離れた事により、傀儡達が魔術にその身を変えていく。


「いいね、いいね、良いねぇ❤!!楽しもうぜ!!♦」


 双剣を銃身の長いリボルバーへと変化させ、襲い来る魔術の数々を二丁の銃で撃ち落としていく。


 いくら威力が有ろうとも、届く前に爆発させられれば、意味が無い。

 

「王自体に力は要らねぇ♣王の力は配下の力だ♦その事は【魔王化】がよく知ってんじゃねぇか?♠」


 魔王化したクレアシオン自体は弱いが、傀儡達を含めた強さならば、消して弱くはない。


 ジョーカーはクレアシオンをただ殺したい訳では無く、闘いたかったのだろう。


 傀儡達が闘いに入り込んできても、否、むしろ喜んで受け入れている様にすら見える。


 嬉々として、神域の魔物に匹敵する魔の傀儡達を殺し始めた。


「【ヴェーグ】……」


 クレアシオンはヴェーグを召喚し、2本の大剣を正面に構えた。


「おいおい❤ヴェーグなんて出したら、余計に――――うおっ♠!?」


 大剣の二刀流でもするのかとクレアシオンの方を見た時には眼前までヴェーグが迫っていた。


 ジョーカーはコメディチックに、そして必死に仰け反る事で回避をする。


 空を切り裂いて進む重量兵器(ヴェーグ)が顔面すれすれを通り、心音がいつもより早く鳴るのを感じていた。


 そして、仰け反った姿勢で見てしまった。自分の後ろにあった世界()の三分の一が綺麗に無くなっていることを。


「おいおい!!ヴェーグに特殊能力なんて無かっただろ!?唯一能力らしい能力なんて、重いだけ……じゃ……」


 緊急事態により、いつもの巫山戯たイントネーションは無くなり、声を荒げ、自分の言った事に引っ掛かりを覚えた。


 ジョーカーはメモ帳を取り出し、ブツブツと何かを言いながら、メモを取っていく。


 そのメモ帳には『No,589クレアの武器、武術に対する考察と弱点』と書かれていた。


「って、この世界救いに来たんじゃねぇのかよ!?」


 三分の一も破壊された世界はゆっくりと崩壊を早めている。


「その世界は滅ぼす予定だから、大丈夫だ」


「なら、いいか♠って何だよその姿!?」


 予定があったのなら、しょうが無い、そう思い、クレアシオンに向き直ると直ぐに武器を構えた。


 魔王化していたクレアシオンが更に魔王らしくなっていた。この天使は一体どれほどのスピードで魔王道を突き進めば気が済むのだろうか、そんな考えが頭によぎる。


 滅ぼすと言って一撃でほぼ修復不可能なダメージを躊躇なく与えるのだから、魔王より魔王をしている言っても良いだろう。


 いや、考え方もそうだが、姿形が変わっていた。


 黒い龍の骸骨がクレアシオンの顔を覆い、側頭部から上下に枝分かれしながら後ろに流れる二本の角は、紅い雷を纏い、四肢は龍の骨と革に覆われ、骨組みだけの龍の翼が生え、鞭の様にしなやかな黒い尻尾は骨の鎧を纏っていた。


 その姿は先程までクレアシオンを守るように浮かんでいた【γ】を彷彿させる。


それ(世界)を滅ぼすついでに相手してやる」


 ついで、その言葉にピクピクとジョーカーの目元が痙攣し、引き攣った笑みを浮かべるが、それどころでは無かった。


 クレアシオンの喉に紅い輝きが灯って居たからだ。それはまさに龍種が咆哮を上げる寸前に見せるモノと同じ。


「……ああ。良いこと教えてやるよ。一つ、王も武装して先陣を切る。二つ、俺は今、時間が無い。三つ、俺は今、機嫌が悪い」


「チッ!!」


 ジョーカーは直ぐに回避行動を取ろうとして――――右脚に違和感を感じた。


 右脚を掴む大量の黒い腕、それを見た瞬間、悟る。減らしすぎた、と。


 魔の傀儡も強欲の腕も堕天の使徒も全てクレアシオンが操っている。


 一度に操れる絶対量は決まっている。それに、魔の傀儡や強欲の腕、堕天の使徒を同時に操るよりも、どれか一つを多く操った方が効率が良いのか、二つ、三つになると絶対量が極端に減る。


 強欲の腕がここで出て来たと言うことは、ジョーカーが傀儡達を殺しすぎたため、クレアシオンに強欲の腕を使う余裕を与えた事になる。


 迷う時間は無い。クレアシオンの口には光が蓄えられ、幾重にも重なる魔法陣が展開されている。


「【大盾】ッ!!」


「イエス、マスター。モードチェンジ【大盾】」


 二丁のリボルバーが一つに合わさり、機械仕掛けの大きな盾が展開されている。


 逃げる事は不可能。クレアシオンの新しい姿の能力は未知数。ここで受けきるしか無い。


「――――ッ!!!!!」


 ジョーカーの盾が展開された瞬間、クレアシオンの口から極光が解き放たれた。奇しくも、黒い極光によって開戦された闘いは紅い極光によって幕を閉じようとしている。


 白い世界を彩った紅い一条の線は次第に収縮する。


「はは、アハハハッ!!これが【魔王化】の真の力かよ!!一度に、()を二個も()されちまった!!いや、【γ】だけだと考えるのは早計だろ!!そうだな、【α】や【β】にも似た能力があるんじゃねぇか!?」


 そこにはボロボロに崩壊した盾を構えるジョーカーが立っていた。いや、浮いている、と言う方が正しいだろうか?


 盾が壊れ、守れなかった手や下半身が消し飛んでいた。


 たが、消し飛んだ手足を気にすることなく、キラキラとした目で、愉しそうに考察を始めた。


「ならば、【α】は水中で最も能力を発揮しそうだ!!【九尾】や【鬼神】は水中では能力を発揮出来ないからな!!【β】はどうだ!?力も素早さもあるから、近接面での【九尾】と【鬼神】の両方の良さを持っているはずだ!!」


 飛躍する想像。【魔王化】の能力とその攻略方法を考えながら、玩具を与えられた子供の様にわくわくとしている。


「これだから、クレアとの闘い(遊び)は止められねぇ♠!!一瞬先は闇♦!!命賭けの勝負♣!!これ以上のギャンブル(スリル)はねぇ❤!!」


 パチンッとジョーカーが指を鳴らすと無数のトランプが舞、傷口から筋繊維の様なものが触手の様に蠢き、骨がバキバキと伸び、皮膚のない状態で体が回復していく。

 

 欠損部位を回復するのは神にしか不可能だと言われているが、それをいとも簡単に成し遂げていく。


 そして、トランプがジョーカーに纏わり付くと破れた燕尾服は元に戻り、完全復活を遂げていた。


「さぁ❤?核も回復したし、仕切り直しと行こうか♠?」


 道化の様にシルクハットを脱ぎ、一礼をしたジョーカーは孤を描く様に嗤った。


「我は綴る。其は時を刻む流れを塞き止め、我が敵を永久の時より隔絶する」


 ゾッとする程冷たい声が響いた。


 魔力の籠もった声の元を見ると、背後に巨大な魔法陣を背負ったクレアシオンがそこにいた。


「其は刻々と時を刻む時の鼓動、その時を刻みし針に霜が降り、氷結する。其は冷たく、凍てつく波動」


 その目は光を失い、見下す様にジョーカーを眺めている。


 淡々とだが籠められた魔力は吹雪の様に荒々しく、詠唱は続けられる。


「なぁ、なぁ、クレア?」


「触れるもの全ての時を停める波動。其は時の牢獄」


 相手の機嫌を損ねない様に、声をかけるジョーカー。だが、そんなものは今更通じるはずも無く、詠唱は続けられる。


 他の者なら、詠唱中に逃げ出そうと考えただろう。だが、ジョーカーがそれをし無いのは、クレアシオンの背後に控える魔法陣が既に完成しているのを知っていたからだ。


 逃げる素振りを見せた瞬間に、魔術の餌食になるだろう。


 クレアシオンの周囲にいた筈の傀儡達が居ないと言うことは、あの魔法陣は【魔の傀儡】の集合体であり、一瞬で構築されたと考える事が出来る。


 詠唱をしているのは、既に過剰な威力を更に上乗せしているだけだ。


「お、俺達、親友だろ?それ、流石に死ぬ。死んじゃうって!!俺、不死じゃないから!!」


 出会い頭に銃を突きつけて、引き金を引く親友なんているのだろうか?


 必死のジョーカーにクレアシオンは見惚れる様な笑顔で答える。ジョーカーの嘆願は聞き届け――――


「さぁ?欲望の対価を頂こうか?」


 られなかった。


「イヤー!!!!そんなに時間無かったの!?手伝う!!手伝うから!!」


「全ての物から隔絶せし牢獄――――ジャッジメント【コキュートス】」


 焦るジョーカーの声は聞き届けられず、詠唱が完成した。


 【傲慢なる裁き】により、更に威力が上乗せされたれた魔術により、絶対零度の世界へと誘う。


 世界は凍り付き、ジョーカーの体に霜が降りる。吐く息は白く凍り、徐々に動かなくなる右手を前に出し、クレアシオンを指さし、


「次は勝つ!!!!」


 その言葉を言い切った瞬間、ジョーカーは白く凍り付き、冷気の塊に押され、色を失った白き世界へと墜ちていった。


 徐々に小さくなっていくジョーカーを見届けたクレアシオンは、右手を凍り付いた世界に重ねる様に伸ばした。


 【強欲の腕】がクレアシオンの右腕に纏わり付き、溶けるように馴染むと、手の中に黒い球体が浮かぶ。


「【全てを我が手に】」


 世界()は崩れ、手の中の小さい球体へと吸い込まれて行く。


 そして、世界は物理的にクレアシオンの手に堕ちた。


 だが、クレアシオンは何かに気が付いた様に、手を見る。


「……【世界核】が無い?」


 確かめる様に手を開いたり、閉じたりしたクレアシオンは、ある可能性へと至り、盛大に溜息を吐き出した。


 【世界核】とは文字通り、世界の核であり、創造神が世界を創造する時には作る決して壊す事の出来ない核だ。


 【世界核】は膨大なエネルギーを溜め込んでいて、創造神が自らの力を削って作る分身の様なものだ。 


 世界はこの核を中心に構成され、核無しには邪神の世界も成り立つことは無い。


 クレアシオンも世界を壊した場合、核だけは持ち帰り、創造神に返すのだ。核が有れば、創造神の力を削らずに世界を作る事が可能だからだ。


 それが無い、つまりは既に邪神によって持ち出されている事になる。


 どうやってかは知らないが、邪神は【世界核】から力を引き出す方法を見つけたのだろう。


 無くなった【世界核】、邪神が何かを作ろうとしている。アーレの言葉を合わせると途轍もなく嫌な予感がする。


 直ぐに、邪神の集まっていた世界へと行こうとした、が、


『……直グニ、来イ……』


 順調だった筈の【β】からの救援要請が念話で届いた。


 何処までも足止めをされているような状態に苛立ちを覚えるが、クレアシオンは黒いラベルの試験管を煽り、【β】のいる世界へ空間を割り、転移した。


◆◇◆◇◆


 【β】の言う場所に転移すると、そこは時化た海の上だった。


 波は荒く、三十メートルを超える様なものも少なくない。黒く底が見えない大海原で、水竜巻が何本もそびえ立ち、膨大な水と一緒に大量の魚類型の魔属が飛び散り、水面に叩きつけられている。


 雨なのか、水竜巻によって舞上げられた海水なのか、土砂降りの中、荒々しく舞い踊る一匹の龍がいた。


 烏賊の様な触手に蛇の様な滑らかな躯体を併せ持った龍だ。


 その龍は巨大で、視界不良も合わさり、解らなかったが龍は舞っているのではなかった。


 戦っていたのだ。無数の魔族と戦っていたのだ。巨体で小さな敵を叩き潰そうと、殲滅しようとしていたのだ。


 水竜巻もこの嵐の雨も風も波も全て龍の力だとするとどれだけの数を相手に戦って居るのだろうか?


 邪気に犯され、徐々に体が魔属へと変質しているにも関わらず、その目は死なず、怒りを宿している。


 数え切れない魔族に襲われ、食い破られた皮膚が痛々しい。


 邪気に飲まれそうになりながら、邪気の支配に抗い続ける龍を見て、クレアシオンの口角は――――上がっていた。


「今日、何回目だよ」


 そんな言葉を発しながら、獰猛な笑みを浮かべたクレアシオンは【β】の率いていた傀儡に手を伸ばした。


 傀儡は形を変え、矢の様な形へと変質していく。何体もの傀儡が混ざり合い、矢になり、無数の矢が混ざり合い、一つの禍々しい黄金の矢が出来上がる。


「ふっ……!」


 クレアシオンの手がぶれ、いつの間にか銀細工の様なものが施された木製の棒が握られていた。


 その棒は半分から先が割れた空間に隠されて見えないが大弓の様な形をしている。


 クレアシオンが引き抜く事で現れた大弓は黒い金属で作られた弦が張られていた。


 【荒風】クレアシオンの使う【心器】の一つだ。


 弓に矢を番え、息を吐く。右側の角が小さくなり、それに比例して左側の角が大きく背中に流れるように長くなった。


 矢を番えた弓を掲げ、大きく引き下ろす。矢は口元まで下ろされ、ギシギシと力を蓄えた弓が音を立て、クレアシオンは矢に囁く様に言葉を紡ぐ。


「我、クレアシオン=ゼーレ=シュヴァーレンが裁きを下す。豪雨の如く、降り注ぎ、洗い清めよ裁きの雨――――ジャッジメント【篠突く雨】」


 本日何度目かわからない【傲慢なる裁き】を下す。


 クレアシオンの言葉に合わせ、周囲に矢が現れ、数を増やしていく。異変に気づいた魔族がクレアシオンに襲いかかるが、傀儡が全て屠っていく。


 数えるのが億劫になる程に増えた矢、限界まで蓄えられた力。矢は増殖を止めているが、クレアシオンは矢を放たない。


 すっと彼は目を閉じた。上空からキラッと小さな何が光を反射しながら落ちてくる。


 彼の指にはめられた指輪は二つ。一つ足りない。


 そして、静かに限界まで蓄えた力を解放された。


 無数の矢は雨を切り裂き、龍に群がる魔族の眉間に命中し、命を絶っていく。ポロポロと剥がれるように魔族が落ちていき、初めて龍の姿が確認された。


 ボロボロだが、透き通る様な白い鱗を持つ一般的な水龍の姿だが、触手を持つが為に、美しさとグロテスクを併せ持った姿をしている。


『な、何事だ……!!』


 急な襲撃に魔族と戦っていた龍は周囲を見渡し、クレアシオンの姿を確認した。


『貴様も我が守護地を荒ら――――ふがっ!?』


 守護地を持つと言うことは、古くから人に崇められる土地神の様な存在だろうか。強大な力を持ち、長き時を生きる魔物は信仰の対象になったりもする。


 多くの場合は、人が勝手に崇めているだけなのだが、この龍は信仰を受け入れ、神とは違い、信仰による利益が無いにも関わらず、護っていたのだろう。護る存在が居なくなった世界でも……。


 そんな龍の鼻先に黄金の矢が生えていた。


 矢の勢いは止まることを知らず、龍はその巨体を仰け反らす事になる。


『グフッ……!?』


 仰け反った龍の腹にクレアシオンが着地した瞬間、有り得ない重さに、龍は海へと墜ちていく。無数の触手を大事なものを抱える様に、クレアシオンから遠ざける様にしながら……


 龍が墜ち、巨大な水柱が上がる。


『貴様……!!!!っこ、これは!?』


 腹の上に立つクレアシオンを睨みつけるが、自らの異変に気がつた。


『傷が……邪気が、無くなっている?』


 魂を蝕んだ邪気が、躰を支配した痛みが無くなっていたのだ。鼻先の矢は無くなり、欠けた指輪が灰となり、サラサラと風になって消える。


「おい、触手を退けろ」


『……何を』


 触手がビクッと震えた。恐らく、触手の中に何があるかわかっているのだろう。


――任せて大丈夫……なのか……?


 そんな考えが頭を過ぎる。こんな無茶苦茶な存在に、怪しい存在に任せていいのか、と。


「助けたいんだろ?早くしろ」


 そう言われ、ゆっくりと触手が解かれた。中には二人の子供――――兄妹だろうか?眠る様に、二人抱き合っていた。


 クレアシオンは歩み寄り、口元に手をやる。


「すー……すー……」


 邪気に犯され衰弱しているが、息が有るのを確認したクレアシオンは二つの指輪を子供達の額に当てる。


 ガラスが割れる様な音が鳴り響き、子供達の顔色は良くなり、引き替えに指輪は灰になり消えた。


 クレアシオンの持つ【回復の指輪】は全て使い切ってしまった。


「名は?」


 呆けた様に、事の成り行きを見守っていた龍にクレアシオンは向き直り、尋ねた。


『か、神……』


 しかし、クレアシオンの求めた答えは返って来なかった。


 射貫かれた魔族が海へと降り注ぐ中、曇の隙間から差す光を浴びながら、海水に濡れた白髪を鬱陶しそうに後ろに流しながら、見下ろすクレアシオンに龍は神性を見いだしていた。


 紅い透き通った目に、二本の大きな角、龍の骨の翼、骨と革を纏ったその姿はとても荒々しく、禍々しいが、龍は初めて本当の【神】に会った様な気がしていた。


「名は?無いのか?」


 求めていた答えが来ずに、苛立ちを覚えたのか、足を踏み鳴らしながら、再度尋ねた。足を踏み鳴らし度に軽くないダメージを受ける。


『グハッ……!か、カトル……我はカトル=ティッハ。古の盟約により、この海域を護る者だ』


 そう名乗ったカトルに満足そうに頷いたクレアシオンは、獰猛に笑う。


「カトル=ティッハか。良い名前だ。俺はお前を気に入った!!お前が欲しい!!」


『何を言って……っ!?』


 『欲しい』そう言った瞬間、巨大な影が差した。


 それは巨大な黒い腕が二本。それがカトルを掴んだ。


『何を……!?』


「言った通りだ。俺はお前が気に入った、それだけだ」


 カトルは抵抗するが、カトルより巨大な腕に為す術も無く、捕まっている。


「ロゼ」


 クレアシオンがそう言うと、彼の後ろに全身を曇り一つ無い蒼銀の鎧に身を包んだ者が初めからそこに居たように現れた。


「シュヴァレアに連れて行く」


 クレアシオンが告げるとロゼと呼ばれた人物は浅く頷き、空間に線が走り、巨大な正方形が刻まれた。


 正方形の内部に無数の直線が走り、パラパラと空の破片が海へと堕ちていく。


 表現するならば、『窓』と言った方が良いだろう。


 『窓』の向こうには、邪気の無い澄んだ空気に、海がある。『窓』の奥はまさに別世界の様。


 否、別世界【シュヴァレア】だ。


『もう少し、説明しろ!!!!』


 カトルの声は聞き届けられる事無く、黒い腕により、『窓』の中へと姿を消し、空の破片がパズルの様にはめられ、『窓』は姿を消した。


◆◇◆◇◆


 薄暗い部屋の中、ローブで顔を隠した者達神々がすり鉢状になった席に座って一人の白衣着た邪神を見下ろしていた。


「我々は遂ぃーに、【世界核】の利用方法を確立しまーーした!!」


 両手を掲げ、高らかに宣言した。


「……核を利用したとして、何を作ると言うのだ?」


 気持ちよく自らの異偉業を語っていた邪神は水を差された事に眉をひそめる。


「我々に【エネルギー】を集めさせておいて、下らないものだったら、只で済むと思うなよ」


 大勢の邪神からプレッシャーを掛けられ、白衣を着た邪神は冷や汗をかきながらも、堂々と答えた。


「我々が追い求めた完全なるにぃくう体!!不滅のぉぉ器でぇーす!!」


 白衣を着た邪神が指を鳴らすと同じ白衣を着た邪神の集団が、白い布を被されたものを運んできた。


 白い布の中身は球体の様だ。


「不滅の器?」


「そうでぇすぅ!!不死の可能性!!これは核を三つ使ったアポストビルトの本体でぇーす!!」


 興奮したのか、聞き取り辛くなってきている。邪神達はその様子に眉をひそめ、眉間をグリグリとしている者もいる。


 白衣を着た邪神が布を取り払うと、黒い球体が現れた。立方体には、白い線で狼の様な狐の様なものが描かれており、鋭い牙で白い円に噛みつこうとしている。


「本体?」


 前の方の席に座るローブを深くかぶり、紫煙を撒き散らす者が白衣の邪神の言葉に食いついた事により、邪神は気をよくし、上機嫌に答える。


「ええ!!本体です。ここから作られるアポストビルトは死んでもここからまた復活します!!」


「不死とは、その本体の事か?」


 的確に言い質問をくれる、と白衣の邪神は思っていた。大規模なこの計画。失敗する事は出来ない。


「えぇ!この本体は【世界核】を三つも使っているため、破壊は不可能!!壊れたとしても瞬時に修復されます!!」


「それだけじゃ封印されて終わりだろ?」


「本当にぃ!!良い質問をくれぇまぁすねぇ!!」


 白衣の邪神は両手を拡げ、宣言するように大声を上げる。


「これは【神】からの天啓ィイイイ!!このアポストビルトは最上位をも軽く超える力を持ち!!シュヴァーレンを殺す事に特化さぁせぇたぁぁぁ!!まぁさぁに!!【神】の器に相応しい!!」


 唾を飛ばしながら、喚きたてる邪神に殺気立つ邪神達が多くいる。煩いからでは無い。


 最上位に位置する自分達を軽く超える等、聞き捨てならなかった。


 そんな中、コツコツと前の席で白衣の邪神の説明を聞いていた者が球体へと近づいていった。


「ほぉ……。これを作るのに世界三つを、か」


 ふぅ、と手に持った葉巻を咥えた。葉巻の白い部分が広がっていく。


「くだらねぇ」


 ジュッと黒い球体に描かれた狐の絵に葉巻を押しつけて火を消す。


「き、貴様!!【聖印】に何て事をする!!」


 狐の絵は邪神にとって大切なものだったのだろう。白衣を着た邪神だけでなく、この場に集まっていた邪神達が殺気立つ。


「やぁ?ご機嫌いかが?」


 そういって、葉巻を押しつけた人物はローブを脱いだ。


「き、貴様は!?」


 銀髪が靡き、白い角が目を引く。


「……俺?最悪だよ」


「シュヴァーレン……ッ!!!」


 そこには、鬼神化したクレアシオンが立っていた。

「ジョーカー様~~!!」


 氷付けにされたジョーカーに白髪の少女が泣きついた。


「ほら、ラン割れるでしょう」

「でも……。ネロ姉ぇ……」


 ランと呼ばれた少女は、話しかけてきた黒髪の少女の方を涙目でみる。


 二人の容姿は瓜二つで、髪の色や服が同じなら、見分ける事はほぼ出来ないかも知れない。


 この二人がクレアシオンからジョーカーを連れて脱出をしたのだ。


「ジョーカーが簡単に殺される訳無いじゃない。お湯でもかけとけば直るわよ」


 ネロはそう言うと、ヤカンに入ったお湯をジョーカーに浴びせかけた。


 パキパキと熱に溶かされた氷が嫌な音を立てる。


「ネロ姉ぇ!!嫌な音なってるよ!!大丈夫!?」


「大丈夫よ。三分経てば出来上がるわ」


 ネロの手にはお湯の注がれたカップ麺があった。


「ネロ姉ぇ!!ジョーカー様はカップ麺じゃないよ!!」


「何言ってるの?カップ麺な訳無いじゃない。ランの分もあるから、安心しなさい」


「そう言う問題じゃっ!」


 グーっとお腹の音が鳴った。ネロがランの顔を覗き込むとランは顔を赤らめ、必死に隠そうとする。


「要らないの?」


「……要る」


 食欲には勝てなかった。


 三分後……


「俺様、復っ活♠!!まさか、三つも核を壊されるとは♠!!」


 本当にカップ麺と同じ方法で復活を果たしたジョーカー。ここまで来ると最早、生きる世界(次元)が違うのではないか、と疑ってしまう。


「ジョーカー様~!!私、私、グスッ……。ジョーカー様、が、グスッ、死ん、だらどうしようって……グス」


「ジョーカー。ズル……。はふっはふ。凍ったジョーカー……ズル。運ぶの大変だったわ。ズルル。アチッ。ふぅーふぅー」


 泣きながら、ジョーカーにしがみつくランとカップ麺をすすりながら、一応の心配を見せるネロ。


 二人の余りの違いにジョーカーですら、苦笑いをしてしまう。


「何回負けても諦めないのね」


「クレアは俺が殺すからな♠!!」


「私のクレアは強いわよ」


「知ってるよ。だから、俺が殺さなきゃいけねぇ」


「……そう」

◆◇◆◇◆


ありがとうございました。裏話はこれでお終いです。


次回でキャンディ・ポリスは終わります。


長かった……。最初、閑話だったキャンディ・ポリスがここまで……。

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