キャンディ・ポリス裏話〜自問自答~
あと、2話でキャンディ・ポリスが終わります。
長かった……。今思えば、裏話要らなくねぇ?何て思ってないですよ。
ホントデスヨ(;¬_¬)
何も無い空間。【世界の狭間】にヒビが入る。
そのヒビは次第に大きくなり、ガラスが割れる様な音をたてながら崩壊し、そこから、一人の男が現れる。
黒いブーツに黒いズボン。黒いコートを着こみ、黒い革手袋をしている全身黒に染まった格好だからこそ、アクセントの様に付けられた装飾品が視線を引きつける。……誰も居ないが。
左の薬指以外にはめられた鈍い銀の光を放つ武骨な指輪。紅い宝石が煌めき、時折、紅い電の様な物が放出されている。
充填された魔力が行き場を失い、放出されているのかも知れない。
右手を掲げ、無言で手の甲を眺める。その表情は混ざり合った複雑なものだった。
指輪と手袋が光の粒子と共に消え去り、肌が露わになる。
彼の手は、深くひび割れていた。いや、彼の体は様々な神器によって付けられた傷が今なお、残されており、二百年前の神界との戦争で生命力を使い切って起こした崩壊によって体は割れている。
神の回復魔術や、鬼狐の魔物の力を使えば治す事は出来るが、それをし無いのは戒めの為だ。
支障が出ない程度の治療を行って居るが、その程度だった。
すべては、自分を失い、自分じゃ無い何かに振り回された時の事を忘れない為に……。
右手を下ろすと、右手は光に包まれ、再び、指輪と黒い手袋に覆われる。
手袋と指輪は――――彼が身に着けている物全て、彼の魂魄金属【シュヴァーレン・ゼーレ】で造られた【心器】だ。
【ゲファレナ・ゼーレ】とは違い、魂が変質する前、つまり、彼が堕天する前の魂魄金属だ。
その性質は壊れても持ち主が死なない限り、壊れても直り、持ち主に合わせ、進化していく事だ。
鬼狐の配下は持っておらず、鬼狐の魔物も、それぞれ、ひとつずつ持っているが、クレアシオンの装備は全て【心器】である。
別にクレアシオンが独占してあるわけでも、【鬼狐】の権威付けの為でもない。【心器】の性質に起因しているのだ。
極限まで進化した【心器】は神の半身とも言える【神器】にも匹敵し、【神器】とは違い壊れても元に戻るのだが、進化させるには、毎日大量の魔力を流す必要があり、初めは、銅の武器よりも脆く弱い。
しかも、下級神の【神器】に匹敵する様になるまでに、平均して百年以上はかかるのだ。
そのため、鬼狐の魔物には、【心器】を一つと【ゲファレナ・ゼーレ】の武器を、鬼狐の直属の配下には【ゲファレナ・ゼーレ】の武器がクレアシオンより与えられている。
鬼狐でも、【心器】を二つ以上所有する事は無い。二つ以上を同時に鍛えるのは、魔力が足りず、二つ以上【心器】を持つより、一つの【心器】を極めた方がより強力な武器になるからだ。
クレアシオンが【心器】を大量に所持しているのは、クレアシオンが膨大な魔力を保有しているのもあるが、魂魄金属の持ち主だからかも知れない。
クレアシオンは何かを考えるようにそっと目を閉じる。
「四千……いや、後三千行けるな」
最上位邪神アーレとその配下の魔王を三体、最上位悪魔三十二体、上位悪魔二百五十体……【暴食のアギト】で補給した魔力は十二分。
「我、クレアシオン=ゼーレ=シュヴァーレンが命じる」
クレアシオンの髪が白く、白く染まる。膨大な魔力が溢れ、彼を中心に紅い雷が雷鳴を轟かせる。
しかし、その雷は次第に落ち着いていく。まるで、支配された様に、静かにだが、内なるエネルギーは失わず、それどころか、内包する魔力は刻々と増していく。
白い空間に紅い蜘蛛の巣の様なものが現れた。それは、広大な【世界の狭間】でクレアシオンを中心に円形に広がり、端が見えなくなった。
蜘蛛の巣は血管の様に脈打つ。血管が酸素を送る様に、魔力で出来た管が触れた空気中に漂う魔素を吸収し、主へと送る。
【浸食する魔力】――――【魔力操作】の上位スキルである【魔力支配】を更に発展させたクレアシオンの技だ。
魔力が回復する時、体内にある魔力が空気中にある魔素に触れる事で、魔素が魔力に変換される、と言う理論がある。
魔力の自然回復速度の差が保有魔力量に比例する、と言う通説がこの理論が関係していると言われているのは、保有魔力が多いほど、魔力が空気に触れる面積が多いからだと言われているからだ。
【浸食する魔力】はその魔力の性質を利用し、膨大な魔力を得る事が出来ると同時に、空気中の魔素を無くすことで、相手の魔術を発動するのに必要な魔力量を増加させ、魔力回復を妨害する効果がある。
この技はスキルでは無い。【魔力支配】を持つ者なら、小規模で有れば、真似る事は出来る。
真似る事は出来るが、難易度の割に利点が無い。
空気中の魔素に触れる面積を増やす為に、魔力を糸のように張り巡らす必要があり、高度な技術力が要求され、魔素を吸収している間は、他の事に意識を割くことが出来なくなる。
魔力を上手く扱う事が出来なければ、魔力が流れ出てしまい、回復するどころか、無駄に消費する事になってしまう。
次に範囲を拡げれば拡げる程、魔素をより多く吸収出来るが、魔力は自分から離れるほど、繊細な操作は出来なくなる。
以上の事から、精神を集中させ、僅かに魔力回復速度を上昇させるやり方が一般的だ。
クレアシオンの様に、戦闘中、敵の妨害を兼ねて魔力を回復させる様な事は出来ない。
【魔力支配】が【強欲】【傲慢】によって強化された事による物が多いと思われる。
「深淵より、来たりし絶望――――」
辺りの魔素を吸収し切ったのか、脈は止まる。
しかし、静寂は一瞬。クレアシオンへと流れていた魔素の流れは魔力の流れに変わり逆流し始めた。
血管の様に張り巡りされた血管の先に丸い小さな木の実の様な物が現れる。
小さな球体は脈打ち、胎動する。
「神の禁忌へと触れる」
昔、九尾化したクレアシオンと鬼神化したクレアシオン、どちらが強いか、と言う議論がされていた。
膨大な魔力を持ち、絶大な魔術を用いた遠距離攻撃を誇る【九尾】、圧倒的な膂力で繰り出される【ヴェーグ】による絶対的な斬撃を誇る【鬼神】。
方向性が違いすぎて話しは纏まらなかった。
有る者は遠距離からの攻撃力に【鬼神】は為す術も無いと主張し、有る者は近距離では【九尾】の魔術など完成する前に【鬼神】の一撃の下に切り捨てられると主義する。
しかし、【九尾】は短剣やナイフを使った高速の近距離攻撃を得意とし、【鬼神】は絶大な膂力から繰り出す正確無比な投擲による遠距離攻撃を持っていた。
本人にどちらが強いか聞いた者も居るが、帰ってきたのは『奥の手無しなら、相撃ちで死にかけた』と実際に試した様な返事が返ってきた。
この返事を聞いた者はクレアシオン本人にも分からない事だと納得した。
実際に試すなど不可能であり、そもそもが机上の空論だったのだと。
何故なら、クレアシオンは一人しか居らず、試すなど不可能な事だったのだ。それこそ、もう一人クレアシオンが居ない限り……。
「我が手の中で道化は踊り狂う」
魔王化は最初から考慮に入れられていなかった。
スピード、保有魔力、魔力、対魔力では【九尾化】に劣り、膂力、体力、耐久力では【鬼神化】に劣る尖った物が無い、ただ、全体的に能力が上がるスキルだと思われていたからだ。
【魔王化】が唯一勝てるものは、魔物のスキルを習得可能だという物だ。だが、習得可能と言うだけで、習得しなければ使うことは出来ず、そもそも習得出来ないスキルの方が多い。
例えば、龍種のブレス系のスキルは習得可能だが、水龍種の再生系のスキルは習得不可能など、種族的特性を強く現すスキルは習得出来ず、龍種のブレスが使えても、神龍のブレスを素手で引き裂く【鬼神】や魔術で打ち落とす【九尾】相手には通用し無いのは確かだ。
しかし、二百年前の戦争を知る者は口を揃えて言う。『魔王化したクレアシオンなら、九尾化したクレアシオンと鬼神化したクレアシオンを二人纏めて倒す事ができる』と。
「死の讃美歌を唄え!!」
【魔王化】【九尾化】【鬼神化】にはそれぞれ奥の手がある。
その中で【魔王化】の奥の手は、『異質』『神への冒涜』『命への侮辱』とも言われている。
発動には多大な魔力と時間、生命力を必要とし、戦闘中に発動する事は不可能だが、発動してしまえば、【鬼神】【九尾】の奥の手など通用し無い。
クレアシオンの叫びに合わせ、球体が鼓動する。一つ一つに流し込まれた魔力は上級神の保有魔力を優に超え、鼓動に合わせて、淡く光り、胎児の様な影が見える。
「絶望を持ってして絶望を塗り替えろ!!我は望む!!――――【魔の傀儡】を!!」
『べちゃっ』そんな音を立てて醜い肉塊が産み堕とされる。
ぴくりとも動かない肉塊。だが、詠唱は続く。
「産声を上げよ!!我は神を冒涜す!!我が宣戦を受けよ!!――――【死への行進】」
赤黒い稲妻が轟き、幾千もの産声が上がる。
『おぎゃー、おぎゃー』
『おぎゃー』
その姿は異形の一言に尽きる。蝙蝠の皮膜を持ち、側頭部から角を生やす人型――悪魔の様な物から、艶のある漆黒の翼を持ち、頭には光の輪を浮かべる人型――純白の翼を持ち、漆黒の歪な輪を浮かべる人型――堕天使の様な者。
龍や獣、天使や悪魔、種族や大きさは様々だが、共通している事は醜く歪であることだ。
剥き出しの骨、爛れた皮膚を持ち、生気は無く、呪詛の様な言葉を延々と垂れ流している。
【魔王化】の奥の手、【死への行進】クレアシオン本人の全能力を一割低下させる変わりに、SSSランクの魔物約三万もしくは、神域の魔物約五千体を造り出す。
だが、生命の創造など生命を司る神々、創世神にのみ許された権能であり、魂の創造など創世神しか出来ない。
【死への行進】によって造られた魔物達は魔物で有って魔物では無い。
魂無き抜け殻、只の器だ。彼等……否、それらが呟く言葉に意思は無い。ただ、ただ自らを構成する魔術式を口にしているだけだ。
魔物は親から、もしくは魔素が集まった魔素溜まりから産まれる。
後者は魔素が形作っていると言うことだ。そして、魔素から作られた魔力も同じ性質がある。
人工的に魔力を凝縮し、擬似的な魔素溜まりを作り産まれた彼等には、魂は無い。自我無き操り人形だ。
自我が無いからこそ、命を失う事を恐れない、死の恐怖を感じない、だから、突き進む。
【死】へと【死】へと理不尽な【死】を振りまきながら列を成して行進していく。
死ぬために産み出された自我無き傀儡共、それが【死への行進】と名付けれ、『神への冒涜』と呼ばれる理由だった。
クレアシオンの手足であり、矛である【魔の傀儡】達は彼の指示一つでその身を投げ出し、敵を殺す。
魔力の塊である彼等は魔力を使えば使うほど弱体化し、消滅してしまうが、魔術を使う事が出来る。
だが、高々、神域の魔物が五千体居たところで、【鬼神】や【九尾】を倒す事は出来ない。ましてや、【死への行進】を使うと【鬼神】【九尾】に劣るステータスが更に一割落ちる。
有象無象を集めた所で、勝目は無い。
ならば、何故【鬼神】や【九尾】に勝てるのか、それは【魔の傀儡】自体が魔術の媒体となっているからだ。
神域の魔物に匹敵する器を作るのに必要な魔力量は、レベル十の複合魔術百発に匹敵する程だ。
それが常に待機状態……。ノータイムで複合魔術五十発分の魔術が一体の【魔の傀儡】引き替えに発動される。
数百発を対処出来ようとも、五千発も同時に撃ち込まれれば、魔力耐性の強い【九尾】だろうともひとたまり無い。
クレアシオンの目から赤い雫が零れ落ちる。
生命力が削られたからだろう。【死への行進】は強大な力と引き替えに膨大な生命力を必要とする。
【魔の傀儡】の数はクレアシオンを【死】へと進める歩数であり、まさに【死への行進】。
先頭を歩くのは間違えなく彼自身かも知れない。体への負担が大きすぎる。
魔力と生命力を使い切ったクレアシオンは黒いラベルの貼られた試験管を取り出した。
その中に入っているのは、鬼狐の魔物が作った『回復剤』だ。
それを一気に煽る。この薬を作った鬼狐の魔物は飲みやすくする工夫をするくらいなら、よりに苦く、より効果があり、より副作用の無いものを作ると言う考えを持った魔物だ。
味わおうものなら、一瞬で吐き出してしまう。
飲みきった瞬間、クレアシオンの体が、魔術的な光を帯びる。
薬学に魔術を組み合わせたこの技術は最上級神にも劣らないと言っても過言では無いだろう。
底を着いたクレアシオンの魔力が六割近く回復していた。
魔力が回復したことを確認したクレアシオンは、もう一つの試験管を取り出す。
今度の試験管には、ラベルが貼られていない。
一瞬の躊躇を見せた後、クレアシオンはそれを同じ様に煽った。
味は先程と同じ、最悪な味だ。
先程の様に光に包まれる。しかし、その光は弱々しく、頼り無い。
魔力は一割も回復し無かった。
クレアシオンの保有魔力量が異常で、最初の薬もまた、異常な物だと言ってしまえば、其処までだが、二つの薬に込められた魔術も材料も同じだ。
違うのは、製作者のみ。
「俺は――――無力だ」
クレアシオンは天を仰ぎ、込み上げる感情を押し殺したが、代わりにそんな言葉がこぼれ落ちてしまう。
それは、お前には誰も助ける事は出来ない、と突きつけられてしまったように思う。
いや、事実、救うことが出来なかった。
壊す力より、育む力、癒やす力それらの方が何よりも尊く、それが出来ない自分がとても小さく卑しい存在に思える。
『アァ、無力ダ。オマエハ、『死』ニ対シテ余リニ無力ダ。ダカラ、オマエハ『死』ヨッテ、『死』ヲ飼イ慣ラソウトスル』
クレアシオンの目の前に三つの球体が、まだ産まれていないモノが三体、そこに存在していた。
それは、貪欲にクレアシオンの魔力と生命力を貪る。
『失ウノガ……怖イカ……?』
『ソレハ……、信用シテイナイ……カラ?』
紅い球体から響く声……。だが、魂は無い。口にしているのはクレアシオンの深層心理。
自己との対話。だが、相手は感情が無く、誤魔化しようのない嘘偽りのない本音。
「違う……」
『違ワナイ……。事実ダ』
球体から三体の魔物が這い出してくる。
黒い骨と僅かな皮のみの魔物達だ。眼窩には【魔王化】したクレアシオンと同じ紅い色をした炎の様な物が浮かんでいる。
一体は鋭い牙を持ち、前脚が変化した強大なヒレ、鞭のようにしなやかな尻尾を持つ鯱型の魔物――【α】――。
一体は鋭い爪と牙を持ち、発達した四肢を持って大地を踏みしめる狼型の魔物――【β】――。
一体は【魔王化】したクレアシオンと同じ角を持つ蛇の様な躰に力強い四肢を持つ龍――【γ】――。
【魔の傀儡】を纏める【鬼狐】に匹敵する個体達だ。
『居場所ヲ戦場ニシカ見出セナイ』
「……黙れ」
『モット生キタカッタハズダ……』
「――――っ!?」
言葉が出なかった。
誰が、とは聞かない。彼自身が嫌と言うほど分かっている。
助けられなかった人達の事だ。
目の前で殺された姿が、縋るような目が、死を前に絶望した顔が――――
そして、死ぬ前に、クレアシオンに向けた涙交じりの笑顔が忘れられなかった。
『オ前ハ、生キテイテモイイノカ……?』
「……」
わからない。わかるはずが無い。
『ホカニ……。選択肢ハアッタハズダ……』
「黙れ……っ!!」
選択肢はあったかも、知れない。
考えられる限りの事はした。最善だったはずだ。
だが、今でも、あの時の行動を後悔している。もっと、早く気が付いていれば、あの時、冷静に動いていれば、もっと強ければ、もっと、もっと、もっと……。
だが、全て仮定だ。
全て終わったこと。考えても仕方が無い。変わることの無い過去だ。
だが、考えずにはいられない。
変わらないと解っていても、考えずにはいられない。
『苦シカッタダロウ』
『痛カッタダロウ』
「黙れ……!」
『怨ンデイルダロウナ』
「黙れ!!黙れ!!」
『殺シタノハ、他デモナイ』
「黙れぇ!!!!」
――――オ前ナノダカラ……。
偽りの仮面が、抑圧していた感情が溢れ出した。
感情のままに【ヴェーグ】を振るう。風圧を伴った斬撃は【γ】の骨を砕き、バラバラに吹き飛ばす。
【γ】の砕けた傷から、黒い煙が吹き出し、空に溶けて行く。
魔力が漏れているのだ。【魔の傀儡】にとって、魔力は直接生命力に繋がる。魔力が流れきった時が、死だ。
――【感情の高まりを感知、状態異常【怒り】を感知しました。【自己支配】により、抑制を成功】――
「はぁ、はぁ、はぁ……」
スゥっと昂ぶっていた感情が不自然に消える。感情と共に上がった呼吸も感情と共に静かな『正常』へと異状な早さで戻っていく。
『……力ニヨル支配シカ知ラヌ』
「……ああ、そうだ」
もう一度仮面を付け直す。溢れそうな感情を、零れそうな表情を覆い隠す為に……。
『……最後ニ待ツノハ、孤独ノミ』
「ああ、それでいい……守れるなら、それで」
クレアシオンが力を振るうほど、悪魔や邪神を倒す程、その力を恐れ、悪魔や邪神のみならず、神からも天使からも恐れられる様になるだろう。
最後に残るのは、無数の悪魔の残骸と己のみ。
バラバラに砕けた骨が集まり、龍の形を取る。魔力が溶けた分弱体化してはいるが、それでも神域の魔物程はある。
『例え、【魔王】と呼ばれようとも』
「例え、【化け物】と呼ばれようとも」
「『【魔王】は俺だけでいい』」
例え、何と呼ばれようとも、石を投げられようとも、どれだけの殺意を向けられようとも、唯一無二の【魔王】になる為に、悪魔を、魔王を、邪神を滅ぼす。
理不尽に殺される命が無くなるように、【死】によって【死】を支配するために。
その考えは、尊大で傲慢で己惚れた考えかも知れない。
『……不遜ダナ』
「だが、それがどうした?俺は【傲慢】で【強欲】だ」
そんなものは、クレアシオンに取って今更だった。神々へと反旗を翻した堕天使だ。
『愚問ダッタカ?』
「ああ、愚問だ」
「『俺は(オ前ハ)俺だ』」
感情は要らない。感情は感覚を鈍らせる。覚悟を鈍らせる。邪魔だ。
堕天と同時に感情は捨てた。それでも残っているモノは、それでも溢れてくるモノは全て覆い隠そう。
――【――――【自己支配】が発動しました】――
感情の波が静かに矯正されていく。
ありがとうございました。
【死への行進】を【死への行進曲】にするか悩んだんですけど、【死への行進曲】にしたら、意味が変わってくるかなって……。
【死への行進曲】になってしまうので。




