キャンディ・ポリス裏話〜援護射撃という名の援誤射撃~
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シエルが悲鳴を上げるが、秋天雨月は満足げに頷いている。
今、彼らの頭上には映像が流れていた。
そこは、ある建物の一室だった。
掃除が行き届いていないのか、少し埃っぽい場所だ。
『アーレ様。これが今回の贄でございます』
『ウム。ご苦労』
その部屋の中は蝋燭の明かりで照らされ、床に広がる青い幾何学模様が心許ない蝋燭の灯りを補っていた。
その灯りによって晒された室内には、人骨の様な物が乱雑に散らかり、人の皮の様な物が所々見受けられる。
異常な部屋の中、跪く黒い法衣に身を包んだ老人とその後ろに控える武器を携帯した男、裸に剝かれ、物言わぬ肉塊と化した人の山。
そして、人を貪り喰らう異形の者――――邪神だ。
その邪神は嘆きを上げるヒトの顔の様な物が浮かび上がった皮膚を持ち、手足や胴体は水死体の様に膨れ上がっている。
会話と一緒に聞こえてくるのは水の跳ねる様な音だけであり、ここが喧騒から程遠い山奥か何処かで有ることがわかる。
その映像を見たシエルや天使達は眉をひそめた。
『アーレ様。そろそろ、私に不死の力を……』
『わかっておる。しかし、絶望が足りぬ。甘味なる絶望が、な。絶望を我に捧げよ』
老人がこの醜い邪神に仕える理由は、不死を求めての事だった。
「たった、それだけの為に……!」
一人の我が儘の為だけに、多くの命が失われたのか!とシエルは拳を握り締めた。
人間の『不老不死』への想いを永久の時をほとんど変わらぬ姿で生きる神や天使は理解する事が出来ない。
しかし、『不老不死』への憧れを理解出来たとしても、たった一人の『不死』の為に数え切れない『死』を振りまくことは到底許される事ではない。
だが、彼女の怒りは通じない。何故なら、これは映像であり、過去の事だ。
やり場のない怒りに憤りを感じていると映像に動きがあった。
『それならば、ご心配無く。アベルト、例のものは?』
『はっ!後、一時間でミサイルが世界中に向け発射されます!!』
『待てぬ。早めろ』
後ろに控えていた男が応えると邪神は今すぐにでもはじめろ、と威圧を発した。
よく見ると、彼の服装は正規の軍服だった。彼の左目は大きく肥大化し、脈打っている。
寄生型の悪魔が軍に潜り込んで居るのだろう。銀行強盗達の武装が整いすぎていたのはこのためだ。
ミサイルが発射されてしまえば、世界中が戦争の渦に巻き込まれる。
それが邪神の目的だろう。
『ハッ!……此方アベルト。ミサイルを発射しろ!!』
アベルトがトランシーバーで実行犯へと連絡を回す。
『おい!?どうした!?応答せよ!?ミサイルを発射しろ!!』
しかし、様子が可笑しい。
繋がらない訳では無いのに、相手からの応答が無い。
アベルト――否、アベルトに寄生した悪魔は邪神からの威圧を感じたのか、焦った様子で捲し立てる。
『――――あ、あー、あー、マイクテス。テステス』
トランシーバーから男の声が響いた。
だが、アベルトの待ち望んだ声ではなかった。
『誰だ!?』
『……』
アベルトが誰何するが、返答は無い。
『おい!?おい!!』
『ブツッ』
話し掛けるが、無線が切られてしまった。
『どうした?』
『実働部隊との連絡が途絶えました。恐らく、何者かに制圧されたかと……』
邪神の問いかけに、アベルトはそう答えるしかなかった。
彼自身、何が起こったか理解する事が出来ないのだ。
『失礼!……此方アベルト。どうした?』
耐えられない空気から逃れる様に、突然入った無線に飛びついた。
『此方F-5!何者かの襲撃が――ギャー!?』
『F-5!?応答しろ!?おい!?おい!?』
銃声の中、敵襲を報告していた声が銃声が止むと同時に断末魔を上げ途絶えた。
『あ、あー。テステス。通じてるか?』
先程聞こえた男の声が響いた。
『貴様!?どうやってそこに!?』
『ブツッ』
アベルトは捲し立てる様に声を荒げるが、謎の声は応えることなく再び切られてしまった。
「……」
映像を見ているシエルと秋天雨月、天使達は下手なB級映画を見せられている気分になっていたが、当事者からしたら堪ったものではない。
『此方D-3……あ、あー。テステス。あー今どの辺だ?』
『こち……あー。テステス。聞こえるか?あと少しで行くから』
のんきな声が聞こえてくるが、アベルトはそれどころでは無かった。
時折聞こえてくるコードネームから、配置された場所は直ぐにわかる。
その配置場所から、謎の声の位置がわかるのだが、近づいて来ているのだ。着実に、あり得ない早さで、
事の異常性を理解したのか、邪神が悪魔達に指示を飛ばし始めた。
そのどれもが最上級悪魔であり、魔王も混じっている。
だが、悪魔達が減って行くのだ。
集団で動いている悪魔達だが、一瞬、ほんの一瞬誰の視界にも入らなかった瞬間、悪魔が消える事が相次ぎ、遂にはその集団が消える、と言う怪現象が全ての集団に起こった。
その怪現象に悪魔たちが半狂乱になって叫んでいるのを映像で見ていたシエル達は見てしまった。
死角から空間を割り、左手で悪魔の口を押さえ、右手の人差し指を立て『しー』と唇に押しつけて、消え行くクレアシオンの姿が……。
遂に、数え切れない程いた悪魔達は邪神のいる一室に数える程度しか居なくなってしまった。
『行くよ。今、行くよ』
その間にも無線の声は鳴り止まない。
『アベルト、無線を切れ!!』
謎の声が聞こえる無線を切る様に邪神が怒鳴り声を上げる。その声は僅かに上擦っていた。
『行くよ。今、行くよ』
唄うように繰り返される無機質な同じ言葉。
『切れと言っているだろ!!』
耐えきれなくなった悪魔達は、精神に異常をきたしたのか、突然笑いだすもの、泣き出すもの、神へ許しをこうもの、様々に分かれた。
そんな悪魔達に感じた苛立ちを隠しもせず、邪神はアベルトに命令した。
『……です』
『なんだ!?』
『……るんです!!』
『だから、何だと言っているんだ!?』
ハッキリと聞き取れない、アベルトの声に邪神は、アベルトを掴み上げた。
『行くよ。行くよ。今、行くよ』
トランシーバーから聞こえる声に苛立ちを覚える。だが、次のアベルトの言葉にその苛立ちは消える。
『だから、もうとっくに無線は切れているんです!!』
その言葉に寒気を感じた。
『行くよ。今、行くよ』
なら、この声は何処から?
苛立ちの感情は恐怖に変わった。
『行くよ。行くよ。今、行くよ。行くよ。』
『行くよ。行くよ。今、行くよ。行くよ。行くよう。今――――』
『『『『――――今、行くよ。絶望を届けに』』』』
ザーー――――
複数の同じ声が響き、映像はそこで切り替わった。
映像には、ひっくり返された様な景色が広まっている。
『…………』
誰も何も言わない。
映像の最後、暗くてハッキリと見えなかったが、映ったものに脅え、震えているのだ。
秋天雨月でさえ、どん引きした視線をクレアシオンへと向けている。
「ご、ゴホンっ。これでこの堕天使が有罪だと確定しましたね。いや、無罪であろうと、此奴は危険だ!!即刻殺すべきだ!!」
秋天雨月の出したクレアシオンを弁護する為の証拠は、クレアシオンの罪の証拠だった。
「待て!クレアは邪神を倒しただけだ!!」
そうだ。【愚者】が秋天雨月に渡したものはクレアシオンの活躍を記録しただけの物、と取ることもできる。
ほとんどの【鬼狐】は、この映像を見て、クレアシオンを褒め称えるだろう。
しかし、
「邪神を倒しただけ?我々の世界の住民や建物にどれだけの被害が有ったと思いですか!?それに、あの力がいつ我々に向くか、わかりません。殺すべきだ!!」
同時にクレアシオンの危険性を指し示す物でもあった。
天使達の意見が恐怖により、『殺すべきだ』と固まってしまっていた。
「なぁ、お前らに構ってる程暇じゃねぇんだよ。……もう、行っていいか?」
その中、欠伸をしながら、そんな声が聞こえてきた。
声の主は他ならぬ渦中の人物、クレアシオンだった。
良かったね、アーレ。欲しがっていた絶望が届けられたよ!!
クレアシオン氏は一連の事件は調理手順だと意味のわからないことを供述しており、強い感情、特に恐怖、絶望した邪神は格別だとの事です。
突然Q&A
Q貴方にとって悪魔とは?
A食欲を程よく刺激してくれる前菜
Q貴方にとって魔王とは?
A魔力迸る繊細なスープ
Q貴方にとって邪神とは?
Aスパイスの効いた繊細で刺激的なメインまたは滑らかで濃密な甘美なるスイーツ
ありがとうございました。
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黒水晶のモチベーションが上がり、執筆速度が上がるかも知れないです。
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