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だって、眠かったんだもん。

 

「クレア――――クレアと呼んでくれ。また来る」

「――こんな所に一人、女性を置いていくのですか?」


 クレアシオンの言葉を直ぐ様、ソフィアが遮った。クレアシオンの後ろからは有無を言わせない威圧感が放たれている。


「でも、移動出来ないし……」


 邪気が満ちて、ダンジョンボスであるリーフ以外は堕ちていたダンジョンだ。リーフが気を失っている間に結界を張ったとは言え、邪気は防げても、魔族が攻めてくる。


 クレアシオンも出来れば、この場所を離れさせたいとは思っている。だが、それが出来ないから結界を張ったのだ。


「【眷属創造】……。あのスキルは魔物を創造し、眷属にするスキルです。ならば、今、存在する魔物を眷属に出来ないはずがありません」


 【眷属創造】確かに、このスキルはソフィアが言っているような効果だ。リーフの同意が有れば、眷属にする事が可能だ。


 だが、【眷属創造】は【魔素支配】による空気中の魔素を使うことが出来ず、保有魔力とエネルギーをかなりの量を必要とする。


「……いや、俺……結構限界なんだけど……色々と」


 クレアシオンは等の昔に限界を越えていた。いや、限界を越えるなんて生ぬるい。どれだけの限界を越えたかわからない程だ。


 今、彼が立っているのは【傲慢】の効果に他ならない。一瞬でも気を抜くと意識が飛びそうになる。【愚かな強欲】の反動でまぶたが鉛のように重く、たらふく食べることにより回復したエネルギーもほとんど【破邪滅却】と結界に使ってしまっていた。


 傲慢は痩せ我慢 by クレアシオン=ゼーレ=シュヴァーレン


「眷属にするだけなら、それほど魔力も生命力も必要としません」


 一から創造するより少ないとは言え、今でさえギリギリなのに、これ以上、エネルギーを使うのは命に関わる。


「いや――」

「――――見捨てるのですか?」


 見捨てるのか、そう言われ、覚悟が決まった。


「ああ、わかったよ。リーフ、眷属になりたいか?」

「いいの?」


 『死ぬ覚悟』ではない。『守る覚悟』だ。


「お前がなりたいか、なりたくないか、どっちだ?」

「……なりたい」

「わかった」

 

 クレアシオンが手のひらの上に黒い靄のような物が現れ、そこから【強欲の腕】が伸びてくる。その手には禍々しい気配を放つ球状の何かが掴まれていた。


「うわー。お前、よく無事だったな」

「――ダンジョンコア!?」


 クレアシオンは若干引きながら、黒い球状の物体――――ダンジョンコアをクレアシオンは手で弄びながら訪ねた。


 ダンジョンコアはダンジョンの要。ダンジョンコアはダンジョンボスを倒した時に、地面から現れるものであり、そんなものを取り出したクレアシオンには驚きはしたが、リーフが声をあげた訳は他にある。


 ダンジョンコアが邪気を放っていたのだ。つまり、ダンジョンはすでに堕ちていたことになる。その事を知り、リーフの顔が青ざめたものとなっていた。


 魔属が襲ってくる事もあったが、数が少ないため対処は出来ていたが、ダンジョンがその気になってさえいれば、いつでもリーフを魔属にする事も殺す事も出来た、ということになる。


 いや、堕ちたダンジョンコアは邪気を集めるため、リーフの身体を邪気で少しずつ侵食し、昼夜問わず魔属に襲わせ、いつくるかわからない敵への恐怖、自分が自分じゃ無くなっていく恐怖、絶望を与え続けていたのだ。


「これ……要らないよな?」


 ダンジョンコアはダンジョンの要だ。無くなるとダンジョンとしての機能が無くなってしまう。なので、ダンジョンボスのリーフに一応聞いたのだ。


 だが、『要らない』っと言った瞬間、ダンジョンコアから淀んだ黒い霧クレアシオンを囲むように吹き出し、そこから大量の魔属がクレアシオンに向けて襲いかかった。転移魔術が発動されたのだ。


 蜘蛛型の魔物は糸を吐き、蔓植物型の魔物は触手でクレアシオンの動きを封じようとし、蠍のような魔物は毒針を、植物型の魔物は種の弾幕を張った。


「ご主人様!?」


 ソフィアは突然の出来事に少し反応が遅れてしまった。ソフィアとリーフは魔術でクレアシオンを守ろうとするが――


「お前には聞いてねぇよ……」


 冷たい声が響いた。それと同時にクレアシオンの影が膨らみ、弾け、無数の腕が飛び出す。


 腕が魔物を撫でるように触ると魔物は糸の切れたように地に伏した。


「……何が……っ!?」


 リーフは死んだ魔物たちを見て戦慄する。魔物の急所だけが抉られていたのだ。どの魔物もそれほど強くはないが、簡単に倒せるような魔物ではない。それを的確に何十匹もの魔物の急所だけを抉り仕留めたのだ。リーフはその技術に畏怖さえ感じた。


 そして、ソフィアがクレアシオンを見て顔色が悪くなっていることにも気がついた。


 クレアシオンがやったことは言って仕舞えば簡単だ。敵の急所となる神経の集中した部分を【強欲の腕】で撫でた。


 だが、撫でただけでは殺すことは出来ない。


 ではどうしたか、答えは 【愚か者の手(ヘル・オブ・シュガー)】だ。触れたものを全て砂糖に変える。抵抗力の低い魔物ぐらいなら、触れた部分は一瞬で砂糖になってしまう。


 ダンジョンコアから再び、黒い靄が漏れ出すが、


「無駄だ……。何をしようともな」

 

 クレアシオンは口が裂けたような笑みを浮かべる。目が紅い光を放ち、その姿はかつての魔王と呼ばれた姿を彷彿とさせる。


 心なしか、ダンジョンコアが小刻みに震えているようにも見える。


「怖がることはない」


 クレアシオンは優しく語りかけるように、友人に向けるような笑顔を向け囁いた。ただし、【支配者の威圧】と【捕食者の威圧】が放たれており、瞳が紅い輝きを放ち、彼の背後から口だけの漆黒の龍が現れ、唸りを上げている。【魔素支配】により集まり、飽和した魔力が紅い雷となり溢れだし、彼の元に渦を巻くように集まっている魔素と合わさり、雷雲の様にも見える。


「我が糧となるのだから」


 クレアシオンの高笑いが響く。その姿は正にお手本の様な魔王様だった。このダンジョンボスの部屋はリーフのものではなく、クレアシオンのものだったかのように錯覚する。


 なぁ、見てみろよ。綺麗な笑顔だろ?これで、天職魔王を否定してるんだぜ?……天職じゃねぇか。

 

 次の瞬間、ダンジョンコアは放り投げられ、【暴食のアギト】は我慢出来なかったとばかりに食らいつく。


 ゴリゴリ、バキバキと鳴る咀嚼音と共に僅かに悲鳴のようなものが混ざっていた。これはダンジョンコアの叫びか、ただ、音がその様に聞こえただけか……。きっと気のせいだろう。


 ちなみに、魔物とダンジョンの自然発生が似ているからか、ダンジョンコアが意思を持っている場合もあり、逆に魔物の体内がダンジョンの様になっていることがある。


 前者はこのダンジョンのコアみたいなもので、【リビングコア】と呼ばれ、後者は【魔物型ダンジョン】と呼ばれ、巨大な者が多く、小さい物でも小山程の大きさで大きいものでは大国程の大きさになる。


 鬼狐にも【天空の艦艇】のバルムと【不動の要塞】のカステルの2体もの【魔物型ダンジョン】がいる。


「よし、とりあえず、【眷属創造】分のエネルギーは回復した……」


 ダンジョンコアを食べたことにより、コアの持っていた邪気、魔力、クレアシオンに向けての憎悪の感情をエネルギーに変えたことにより、眷属創造分のエネルギーを何とか確保した。


――あー……頭の回転が鈍い……甘いもの食べたい。……寝たいな。倒れそうだ。……だが、あと一仕事。


 だが、エネルギーは回復したとはいえ、眷属創造する分だけだ。色々、ぎりぎりだ。【傲慢】が無ければ、もうとっくに意識を手放しているだろう。いや、【暴食】によるエネルギーの補給手段が無ければ、身体の崩壊が始まっている。


「じぁ、いいんだな?」


 クレアシオンは念押しをするように問う。【眷属創造】により生まれた眷属は主が死なない限り死ぬことは無いが、主が死ぬと例え無傷だろうと眷属は死んでしまう。


 そこまでの覚悟――――俺に命預ける覚悟はあるか?と

 

「ええ、お願いするわ」


 覚悟は決まっていたのだろう。リーフは決心した顔で頷いた。


「わかった。ソフィア、俺が倒れたら、家に俺と薬草を転移させてくれ」

「畏まりました」


 それを見て、クレアシオンは【眷属創造】を使った後の事をソフィアに頼んだ。


「【眷属創造】……!!」

『あなたが望むものは?』


 リーフを暖かい光が包み込んでいく。一気にクレアシオンの保有魔力とエネルギーが吸いとられるのを感じる。


 そして、クレアシオンの頭はまともに働いていなかった。子供の身体に引っ張られ、睡魔に勝てなくなっていた。


――俺が望むもの……?甘いもの食べたい。でも、材料がないから、満足に作れない……お菓子の材料を揃えたい。


 リーフの身体が完全に光の繭に包まれる。そして、繭の中から、人の姿になったリーフが現れるのを見届けてから、クレアシオンは意識を手放した。







睡魔には勝てなかったよ……

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