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魔王の誓い

70pt越えました!!2pt!!


ありがとうございます。

 クレアシオンは壁に身を預けながらも、なんとか、体を起こす事が出来た。しかし、誰がどう見ても、戦える様な状態ではない。


『ご主人様!!転移で逃げます!!』

「駄目だ!!」


 どう考えても、このまま、戦っては勝ち目がない、と判断したソフィアが転移することを告げるが、怒鳴る様に止められてしまった。


「ですが!!」

「俺の経験上……逃げても状況は変わらない。……いや、悪化した方が多かった……かな」


 そう言って、苦笑いを浮かべている。その姿は全てを諦めた様にも見える。


「死ぬ気ですか!?無茶です!!」


 だが、それは間違えだ。


「もがけばもがく程、絡み付く理不尽」


 ミノタウロスはもう、目の前まで迫る中、独白の様に、クレアシオンは言葉を紡いでいく。


「諦めてこのまま、……底に沈んで……いくか?」


 これは、クレアシオンが常日頃、自分に問い掛けている――――否、彼が彼で在り続ける為の『誓い』の様なものだ。意識が朦朧としているなか、無意識に口にしている。 


 下を向いて、呟く様に何かを言っているクレアシオンの姿を見て、ミノタウロスは嗤う。また、甘美な絶望が味わえる、と。


 邪に属する魔物――魔属――を含めて魔族は人の死に際に魅せる絶望を好む。あと、柔らかい肉、特に子供の肉が好物だ。


 なぶり殺して喰らう。そう考えながら、ミノタウロスは戦斧を降り下ろした。


「それとも……もがき続けるか?」


 しかし、降り下ろされた戦斧はクレアシオンに右手ひとつで逸らされ、彼の隣を抉るだけに終る。


 ミノタウロスは苛立たしげに、無駄な足掻きをするな、と睨むが、一瞬、思考停止してしまった。


 目の前には餌があるだけだ。そう、自分に言い聞かせても、体が動く事を拒否して、思考が逆らうべきじゃない、餌は自分だ、と、屈しそうになる。


 クレアシオンの瞳が紅い光を宿し、【支配者の威圧】と【捕食者の威圧】がほぼ無意識に発動していた。魔素が異常なほど集まり、濃淡で彼の背中に三対六枚の翼があるように錯覚する。


 飽和した魔素は紅い魔力に変わり、【暴食のアギト】はゆらゆらとその数を増やしていく。【暴食のアギト】の暴走の前兆だ。


 ミノタウロスは濃密な殺気に強大な何かを錯覚して感じたことのない恐怖を感じてしまい、動けなくなってしまっていた。


「強欲で暴食な魔王はそれ(理不尽)すらも喰らい、糧にしなければならない!!」


 紅い雷がミノタウロスを凪ぎ払う。ミノタウロスは本能のまま、全力で後ろに逃げた。だが、間に合わない。戦斧を盾に身を守るが、戦斧が少し欠け、逃げた勢いと合わさり、かなりの距離を吹き飛ぶ。


 ミノタウロスがいた場所には紅い雷を纏う大太刀を振り切ったクレアシオンの姿があった。彼の右手には東洋風の籠手が装備されている。


 いや、籠手は雷属性の強化魔術の一種だ。だが、今まで出し惜しみをしていた訳ではない。使えなかったのだ。


 反動からか、彼の右手から血が噴き出している。強化魔術を身体の限界以上に使うと身体が耐えきれなくなってしまうので、使えないでいた。


「二度と失わないように……。手放さないように……。いざという時。力が足りませんでした、は許されない。……いや、赦さない!!」


 【強欲の腕】が地面から無数に現れ、ふらつくクレアシオンの四肢を掴み上げ、空中に掲げる。その様子は生け贄を捧げる様であり、また、地獄に引き摺りさる様でもあった。


 掲げられた彼の前に数本の【強欲の腕】が集まり、大きな腕を形作る。


「……4days」


 彼が口にするや否や、大きな強欲の腕は彼の胸を貫き、何かを探るような動作をする。


『――っ!?』


 あまりの出来事に、ソフィアは声に成らない悲鳴を上げた。


 だが、驚きはそこでは終わらなかった。


 彼の胸を貫いた腕がずぶり、と抜ける。大きな黄金の時計(・・・・・・・・)を持って……。


 強欲の腕は彼をゆっくりと下ろす。ふらつきながら何とか立っている彼の後ろには強欲の腕に支えられた時計が刻一刻と時を刻んでいる。


 強欲の腕は歯車を剥き出しにした武骨ながら神聖な雰囲気を放つ時計の針を掴み無理やり針を進める。時計はキギギッと油の切れた様な音を立てながら抵抗するが、強欲の腕は強引に針を回した。


 【愚かな強欲】――――一週間先までのエネルギーを持ってくることができる。使用後は使った分だけ寝込んでしまう。そう、鑑定に書かれてはいるが、実際にはそんなに優しい物ではない。寝込むだけなら、『愚かな(・・・)』なんて言わないだろう。


 エネルギー、人によっては生命力とも言う。生命力とは眠る事や食べることで少しだけ回復するが、人が一日に作り出す事の出来るエネルギーは決まっており、魔力と違い、スキルでの回復や増量など出来ない。


 大袈裟に言うと、身体の時間経過と共にのみ回復する。つまり、【愚かな強欲】とは、無理やり身体の時間を進めて、その分のエネルギーを得ると言うことだ。


 無理やり身体の時間を進めるのだから、身体の負担は相当なものになる。それに、愚かな強欲を一回使えば、エネルギーが切れかかっても追加で使う事は出来ない。  


 持ってきた日数の間はエネルギーが一切、回復しない。


 何もしなくてもエネルギーは消費される。つまり、【愚かな強欲】を使い、エネルギーがギリギリまでしか残っていなかった場合。二度と目を覚まさない可能性もある。


 だが、一時的ではあるが、その効果は絶大だ。


――なぁ、クレアシオン。神でも全ては救えない。何かを捨てるって言う選択肢は必ず何処かで迫られる。


――なら、俺は――――。


「神器召喚【レゲナフランメ】!!」


 彼が叫ぶと、揺らめく炎の様な剣が現れた。彼が右手で取ると炎が彼を包み込む。それは、優しい暖かな炎。


 彼の血が流れていた右腕は血が止まり、折れ曲がり変色していた左腕は時間を巻き戻した様に元に戻り、不規則だった呼吸は規則正しく落ち着いた呼吸に戻った。


「聖天の羽衣」


 彼は回復したのを確認すると、今度は一定時間、回復し続ける魔術を重ねて使った。だが、傷を癒す為ではない。


「ブモオオオォォォオオ!!」


 時間がかかりすぎたのか、ミノタウロスは体勢を立て直し、真っ直ぐと怒り心頭、と言った感じで向かってきていた。今まで、感じたこのとない恐怖と傷の痛みにダンジョンの中で強者として振る舞っていたプライドを傷つけられ、怒りに震えているのだろう。


「【雷神武装】!!」


 紅い雷がクレアシオンを包み込み、現れたのは東洋風の鎧を身に付けた鬼神。彼の持っていたレゲナフランメは雷に包まれ、大太刀が重なる様に現れた。


 先程の紅い雷を纏った大太刀だが、レゲナフランメと同じ様に火炎を纏っている。


 【雷神武装】――――筋力と防御力しか上がらない【鬼神化】の為にクレアシオンが編み出した強化系の魔術。だが、この魔術はただの強化の枠に収まらない。動きが遅い鬼神の為に速さに補正があるだけじゃなく、桁違いに筋力と防御力、魔力防御、等が上がり、全ての攻撃に雷属性が付与される。全ての動作が必殺技にまで昇華されるのだ。


 だが、転生前は気にしていなかったが、身体に対する負担は大きい。先程の回復魔術と【レゲナフランメ】はこの為だ。限界を越えた力に体が悲鳴を上げ、壊れるが、壊れた端から回復されていく。


「ブモオオォォォオオ!!」

「ハァァアア!!」


 正面からの激突。地面が割れ、衝撃が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。クレアシオンの腕は衝撃に耐えきれず、折れるが直ぐに回復された。


 防いでばかりで勝てる相手ではない。このままでは、じり貧なのは目に見えている。


 なら、捨てるしか無いだろう。守りを。


 打ち合う度にクレアシオンの腕は壊れ、急所以外の攻撃は避けないため、傷が増えていく。


 速さはミノタウロスに分があり、力は互角、技術はクレアシオンに分があるが、体格が違いすぎる。


「ブモォ!!」


 ミノタウロスは体格を生かし、上から畳み掛ける様に戦斧を振りかざす。


 傷が増える速さが回復する速さを完全に上回っている。


「――――雷鳴よ、我が支配の下に轟け」


 だが、クレアシオンの闘志は消えない。


「天空を駆ける雷光よ、一条の光となりて我が威を示せ」


 クレアシオンの下に魔素が集まり、紅い雷が駆け巡る。それはまさに――――雷雲を統べる雷神。


 ミノタウロスの戦斧を下から上にかち上げ、大太刀を脳天に叩き込む。


「俺を食おうなんて、千年早い!ローストビーフにしてやるよ!!――――【紅月】!!」


 ミノタウロスは戦斧をで何とか防ぐことに成功するが、地面がすり鉢状に凹む。


 円い紅い魔法陣がミノタウロスとクレアシオンの下に現れ、広がっていく。


 その様子は、夜空に妖しく輝く月のようだ。輝きが増し、紅い極光が天へと伸びる。


 地面は砕かれ、収束していた雷は解き放たる。解き放たれた雷はミノタウロスを焼き殺し、天井を崩壊させた。


 瓦礫は粉々に消し飛び、丸く開いた天井からは太陽の光が差し込み、ボロボロになったクレアシオンを暖かく照らす。【雷神武装】はもう解かれていた。いや、維持出来なくなり、消えたのだろう。


 彼の右手には、彼の勝利を祝う様にレゲナフランメが暖かく彼を照らしている。


――【称号:無名な英雄を取得しました】――


 英雄とは、困難と試練の中より生まれる。


 無名なのは目撃者のいないなか偉業を達成したからだろう。


『ご主人様!!やりましたね!!』


 ソフィアがクレアシオンの勝利を祝った時、それは起こってしまった。いや、これは自然なことだろう。


 余波で八階層も分厚い天井を突き破ったのだ。ならば、諸に食らった床はどうなるだろうか?


『ご、ご主人様!?』


 崩れるのは当たり前の事だ。


 崩壊した床と見事な火加減で焼かれたミノタウロスと共にクレアシオンは落ちて行った。


 そう、ダンジョンボスの階層に――。

ありがとうございました。


天使が堕ちていく……物理的に。(´・ω・`)


やったねクレアシオン!!ダンジョンボスに奇襲が成功したよ!!





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