転生
1/4 プロローグを纏めました。
創造神の神殿は神界のほぼ中心に位置し、白亜の大理石で出来ているシンプルでとても美しい細かな意匠が施されている。普段は荘厳な場所なのだが、今は神や天使があちこち動き回っている。
クレアシオン達が神殿に着いた事に気がついた者たちが手を止めた。そして、……八人の男神たち――ルイードとその取り巻きたち――がクレアシオン達に向かってくる。
クレアシオンを見る目は完全に見下しており、アリアとイザベラをなめまわすようなに見ている。
アリアとイザベラが心底嫌そうにし、クレアシオンの後ろに身を隠すと、一瞬、理解出来ないという顔をし、キッとクレアシオンを睨んでくる。
「卑しい堕天使が、せいぜいその身体で結界を張って、我々、神の役に立つんだな、安心しろ、お前がいなくなってもそこの二人の事は可愛がってやるよ」
「「「ギャハハハッ」」」
取り巻きの男神たちが笑っているので気が付いていない、アリアとイザベラの目がゴミを見るような目になっていることを、周りの神や天使たちの反応はクレアシオンになんて事を言うんだ、死にたいのか?巻き込むなよ!?と思っていることを、アリアとイザベラとの関係をずっと見てきた者たちの目が黙って消えろと言っていることを。
そして、その言動こそが嫌われている原因だと言うことを――
だが、彼らは、クレアシオンが悪だと考えている。
たしかに、クレアシオンの神界での立場は最初は悪かった。神々は神ではないはずの彼が持つ強大なユニークスキルや彼の戦闘センスの高さに神界を脅かす存在になるのではと――。
事実、クレアシオンが堕天し、神界に牙を向け、宣戦布告をしたことがあり、クレアシオンたった一人に神界は壊滅。全ての神は彼の前になっす術もなく、創造神も後一歩のところまで追い詰められていた。
神々の中には再びクレアシオンが堕天した場合、神界が完全に滅びると危惧し、殺すことを提案する者もいたが、神界全武力で止める事のできなかったクレアシオンをどうやって殺すのだ、と言う言葉により、なりを潜めた。
そして、最上級神達は秘密裏に調査した。
だが、解ったのは、料理好きで甘党――休みの日は無断――他の世界に行くときは管理者と神界の役所の許可がいる――で色々な世界を食べ歩き、食べたものを再現するのが趣味で、特に地球の日本のお菓子がお気に入で良く一つのテーマのお菓子を研究食べ歩きして、アリアとイザベラに作ったり、創造神と和菓子を食べながらお茶を飲んだり――ということだ。
また、アリアとの関係だが、お互いが好き合っているのは目に見えて解るのになかなか発展しないクレアシオンがへたれだということだけだった、最初は警戒していた神々は二人の関係を生暖かく――娯楽が少なく恒久の時を生きる神の娯楽として――見守っていた。
途中からイザベラも増えたがやっと発展するかっと期待したり。やはり変わらないクレアシオンにやきもきしたり楽しんでいた。
しかし、それを納得しない者達がいる。比較的新しい神だ。アリアは神界のなかでもとても美しい女神だ。イザベラも女神ではないが、とても美しい。そんな彼女たちを手に入れたいと思っているのだ。
そんな彼らにとってクレアシオンは邪魔な存在だ。
――天使である分際が、身の程をわきまえろ
――下賤な堕天使が、なぜ神界にいる?
と、考えている。今回の結界のことも、彼らの案――創造神も神々も彼らの浅はかな考えを理解しつつも、今回の事件は失敗が許されず、他の者達では出来ないと判断し、彼らの案には無かった結界を張った後、クレアシオンの魂をその世界に転生させることになった――が通ったことで、
――創造神様に認められた。やはり私達は間違っていなかった。あの邪魔な魔王を処分することが出来る。
と、調子に乗っていた。
「二人は私が貰ってやろう」
「あぁ?お前達のようなクズに渡す訳がないだろ?」
舐めた態度にクレアシオンのこめかみに青筋が浮かぶが、冷静に相手をする。
「天使が女神に釣り合うとでも思っているのか?」
確かにその通りだ、クレアシオンが今までアリアとイザベラの好意に気がついても、告白しなかったのは神と天使では、アリアと自分とでは釣り合わないと考えていたからだ。だが――
「それは解っている。だからこそ、アリアとイザベラが幸せになれるよう。余計にお前達のようなクズに渡す訳がないだろ?」
「なんだと!?下賤な天使の分際でやってしまえ!!」
「「「オオッ!!」」」
ルイードの号令で一斉に各々の神器を引き抜き、飛び掛かってくる男神達、クレアシオンが動こうとしない事から反応出来ないのだと思い、口が歪む。あの噂はデマだったのだと。
しかし、先頭の三人の神器がクレアシオンに届こうとしたとき、二つの金色の魔法陣が浮かび上がりそこから白銀の剣と漆黒の剣が先頭の三人を神器ごと切り裂いた。男神達は何が起こったのか解らず、呆然としていると、
「おいおい、なんだその顔は?殺そうとしたんだ。殺されても文句はないだろ?」
魔法陣が大きく成っていき、そこから漆黒の騎士と白銀の騎士が現れた。そして、
『シュヴァルツ、主の前に』
『ヴァイス、主の前に』
「ああ、久しぶりだな?」
クレアシオンの前に跪き頭を垂れた。漆黒の騎士――シュヴァルツ、白銀の騎士――ヴァイス、どちらも、本当の姿は巨大な龍――どちらが強いか二匹で争っているところ、食料を探していたクレアシオンに敗れ配下に下った命乞いした――である。
二匹?二人?は頭を垂れながらどちらが多く倒した――真ん中の神は二振りの剣をその身に受け絶命している――か小声で争っている。
周りの者達は、ああ、やってしまった、という表情だ。この二人こそがアリアの言っていた『彼ら』――鬼狐――のトップだ。鬼狐は全て神殺しの能力――クレアシオンが弱らした邪神の止めを刺させて神殺しの称号を付けた――を持つ魔物達で構成されている。
元々は力の限り暴れ世界を破壊しかけ、それを止め食料確保ようとしたクレアシオンとの戦い一方的な狩りに負けてクレアシオンに忠誠命乞い――最初は命乞いだったが次第に本当の忠誠を誓う――を誓った化け物集団だ。
各々が神に届き得る存在――神域の魔物――と呼ばれていたもの達だ。出合ったら殺し合う存在がクレアシオンの下に集い、酒を飲み、飯を食べ、楽しそうに笑いあっている。
一体でも、世界が壊滅するかも知れない、神からしたら、完全なイレギュラーな存在が、神殺しの力を得て、一ヶ所に集っている。神にとっては悪夢だろう。
因みに、鬼狐は、クレアシオンが魔王神域の魔物の支配者と呼ばれている原因の一つのだったりする。
そんな、彼らだ。クレアシオンを殺そうと――例え、簡単に避けられる攻撃でも――すると、鬼狐が飛んでくるのは目に見えていた。神殺しの力を持つ世界最強の化け物たちだ。巻き込まれれば、ただでは済まないので、神たちは既に全力で逃げ、「創造神様をお呼びしろ!」っと、創造神に丸投げしようとしている。
呆然としていたルイード達は――
「な、な何をした!?」
「なんだ!?なんだ、お前達は?」
「か、神である私達に手を出してただで済むと思うなよ」
「ルイード様はじょ、上級神だぞ!!」
「こ、こ、後悔しても遅いぞ!!」
口では強がって居ても、足が震えている。だが、もう遅い。強欲で傲慢な魔王の大切な者を奪おうとした。主を害そうとした。これだけでクレアシオン達には十分な理由になる。
クレアシオンの眼の色が赤く染まる。
クレアシオンが《神器》ヴェーグを召喚し、握り締め……クレアシオンと騎士二人がルイード達に斬りかかる――
その時、
「まて、クレア」
威厳がある声が静かに響く。クレアシオンはヴェーグを送還し、騎士二人はクレアシオンの後ろで跪く。
先程までとは違う騒ぎに神殿の奥から出てきたのは、創造神だ。
「創造神様!!お助け下さい。いきなり魔王が暴れだし、止めようとした私の友が殺されてしまいました!!」
ルイードが嘘をつき、創造神に助けを求めると取り巻き達も口々に助けを求め、あげくの果ては、如何にクレアシオンが悪いか、自分が正しいかを騙るが――
「クレアシオンがその様な事を理由も無しにするはずがなかろう?」
と、一蹴してしまった。簡単な話しだ、茶飲み友達――昔の事件からクレアシオンと話す機会があり、そのまま、意気投合――の魔王と、悪い噂しか聞かない神どちらを信じるかということだ。
「そんな……、あいつは魔王ですよ……」
「今は時間が惜しい、話しはここにいた者たちに聞いておる。そなた達の相手をしている時間はない」
他の神に事情は聞き、全て知っていると創造神に言われ、膝をつくルイード達バカ。
「クレア、アリア、イザベラ、ついてきてくれんかの?」
もう、魔法陣はできたのだろう。クレアシオンは騎士二人に向き直り、
「お前達に命ずる。俺は今から下界に行く――」
『――では、我等も』
「いや、お前達には、俺が留守の間にアリアとイザベラを守ってほしい」
『護衛は他の者に任せ、我等は主とともに』
「いや、出来ない。これは命令だ。鬼狐の名に賭けて守り抜け、俺はしばらく戻ってこれない」
『――御意』
――ついていきたいが、事情があり、主はしばらく帰れない、その間、自分達に主の大切な人を守れという。これは信頼されているということだろう。これに応えるのは従者の勤め、鬼狐の全力を尽くそう。お二人に何あれば、我等は主に顔向け出来まい。例え、相手が最上級神でも、最後の一匹になっても守り抜かねばなるまい。破壊意外なにもなかった我等に居場所を与えて下さった主のために……
そう心に誓い、魔法陣に消えていく―― 4人が去っていくその背中を恨めしそうに睨むルイード。
その目は酷く濁っていた――
◆◇◆◇◆
廊下を歩いて行くクレアシオン達、アリアとイザベラの足取りは重い。創造神とクレアシオンからは少し離れていた。
「すまないな、クレア」
誰もが無言の中、口を開いた創造神。その言葉は謝罪だった。普段は好好爺然とした老人なのに今ではやつれてしまって、覇気がない。
クレアシオンとは飲み友達なので三人の関係も知っている。それに、クレアシオンを過去、自分達のせいで苦しめてしまっていた。
そんな中で今回の事件だ。どんな罵倒も甘受しようと考えていた。しかし、
「そんなに謝らないで下さい」
「じゃが――」
「創造神様達も対策をきちんとしてきました。今回は相手が上手だっただけですよ。それに……」
言葉を切り、アリアを見るクレアシオン。アリアの目は赤く腫れていた。その事に苦笑いしながらも、
「それに、ちょっと、アリアの友達助けるついでですよ」
ちょっと散歩ついでにコンビニ行ってくるみたいに言うクレアシオン。その声色はどこまでも優しかった。だが、その目は獲物を追う獣のように鋭く、赤く光っていた。
創造神はその目と僅かに漏れる殺気に背に嫌な汗が流れるのを感じた。
「そうかの、すまないのう」
「いや、これは俺がやりたいからやるだけですよ」
これは俺がやると決めた事だから、と言い張るいつもと変わらないクレアシオンに創造神は苦笑いを浮かべ、少し考えた。
そして、後ろの二人には聞こえないような小さな声で、
「クレア、この件が終わったらお主を神にしようと思う」
「それって……!?」
「ああ、その通りじゃ、過去の功績から元々クレアを神にしようという声も多かった。今回の件も無事解決できたら反対する者も少なかろう」
創造神の言葉に長年口にすることも出来なかった――と、クレアシオンが思っているだけで、クレアシオンがアリアとイザベラに告白したら最上級神と創造神が祝いの酒と神に昇格する儀式の道具を持って現れることは周知のことで、神々は一部を除き今か今かと待っていた――思いを告げる事が出来る、となにやら決意を決めていた。
――はあ、やっとかの、このまま放って置いたらあと何百年このままだったことかの。流石に二人が可哀想じゃ……しかし、今回の件は今までで最悪のじたいじゃ、神が七人も殺されておる。死ぬでないぞ、クレア。
◆◇◆◇◆
創造神の神殿の地下にそれはあった。幾つもの魔法陣が集まり、複雑に絡み合い、一つの巨大な魔法陣を形ずくっていた。
魔法陣の紅い光が怪しく地下の空間を照らしている。魔法陣のある場所は遺跡の神殿の様になっていた。
昔は、綺麗だったのだろう。ここで季節の行事や祭りをやっていた事を想像させるそれは歴史を感じさせると同時に少し寂しげだった。
時の流れは残酷だった。風化し、古びた大理石の柱が途中で折れている。かつては支えていたであろう屋根は瓦礫と化し、柱としての役割は最早果たされていない。それでも尚、威厳を失ってはいなかった。建物が朽ちても朽ちないものがあると、その神殿はものがたっていた。
今では、剥き出しの岩肌や風化した神殿は紅い光に照らされ、不気味な雰囲気を醸し出していた。最早、神秘的な様相は欠片もない。神殿が守り抜いていた威厳はなくなっていた。
悪魔召喚だと言われたら誰もが信じるだろう。
神秘的な雰囲気は不気味な雰囲気に変わっていた。神殿が長年守り抜いた威厳は何処にもなかった。
アリアとイザベラは様変わりした神殿に絶句していた。
「早速ですまないがの、事態は一刻を争う。そこの魔法陣の上に乗ってくれんかの」
そう言い、紅い光を放つ魔法陣を指差す。
「結界は一つのダンジョンをコアにして造り、クレアがそのダンジョンを制覇するとお主に力が戻るようにしておる。ただし、気を付けなければならないのは、お主に力が戻るということは結界が維持出来ないということじゃ、仲間が強くなってからダンジョンに挑むといいじゃろう」
ダンジョンとは神々が試練を与えるために造られるもの、邪神が魔族の拠点にと造られたもの、魔素が自然に人為的に集まり出来たもの、強い魔物の魔力によって出来たものがある。
ダンジョンは魔素を取り込み、自身を大きく成長させる一種の魔物の様なものだ。中では魔物や宝物が自然発生している。
邪神が造るダンジョンは魔素の代わりに負の感情――悪意、絶望、恐怖など――を集め、魔族を産み出している。
結界のコアになるダンジョンは恐らく、魔素を取り込み、魔素を魔力に変えて結界を維持するのだろう。
「はい、わかりました。アリア、友達にもう大丈夫だと伝えてくれ」
力が戻ってくると聞いて、少し気が楽になったクレアシオンはアリアにこれから行く世界の女神に伝言を頼んだ。
「絶対に帰ってきて下さいね」
「無理はするなよ?これが最後ではないだろうな?」
そんな二人にこれまで想いを伝えていなかった事を後悔し、二人を抱き締める。今ここで想いを伝えてしまったら、余計に行きずらくなってしまうと思ってしまったから……
時間的に余裕がないので二人を放し創造神に向き合う。二人は少し名残惜しそうにしていたが、仕方ないだろう。創造神はそこまで想っているなら伝えたら良いだろうと苦笑いをし、
「では、これを、」と、何かを手渡した。
創造神から渡された物をみて固まるクレアシオン。
「これを魔法陣の上で心臓にすぶりっと、これがダンジョンを開くカギとなる」
結界のコアであり、彼の力を封じたダンジョンだ。誰かに――特に邪神や魔族に――ダンジョンを制覇され、結界が解除され、クレアシオンの力が奪われてしまったら、それこそ世界のいや、神界の終わりだ。対策はする。
渡された物――造りはシンプルだが、無駄のない洗練された一種の芸術品の様な剣、これを機能美と言うのだろう――をみて「もしや!?」と、思っていたが、現実は非情かな、思ったとおりだった。もっと違うものを期待していた。
スーッと視線をアリアとイザベラに向けると、二人は泣いてはいるが覚悟を決めたような顔をしている。
引くに引けない。嫌な汗がクレアシオンの背中をつたう。
こんな思いをするなら、こんな思いを二人にさせるなら、もっと早くに伝えておくべきだった。今の関係を壊したくない、二人を大事に想い過ぎていて伝えられなかった。
だが、今回の件が終わったら二人に想いを伝えよう。断られてもいい――いや、断られたくはないけど、伝えられるだけ、思いの丈を伝えよう、と覚悟をきめた。そして――
「俺、今回の件が終わったら、告白するんだ!!」
と、盛大にフラグを建てながら剣を構える。結婚じゃなくて告白なのがなんとも彼らしい。へたれと言うなかれ、彼の精一杯の勇気だ。
「無事に帰ってきてくださいね!いつまでも待っていますから!!」
「死んだら承知しないぞ!!」
二人の声を聞きながら、今回の元凶をぶちのめして告白する、と決意し、クレアシオンは剣を――
「逝ってきます!!」
――心臓に突き立てた。
クレアシオンの体を貫いた、その美しい白銀の刃は赤い血に染まっていく。
傷口から血が吹き出し、口からは血の泡が溢れる。激痛が体を駆け巡り、走馬灯の様なものが見えてくる。
脳がフル回転し、過去の経験から生き抜く方法を導き出そうとしている。
しかし、心臓を突き刺したのだ。助かる術はない。それに、走馬灯はどれもアリアとイザベラと過ごした時間しか写さない。ありふれた日常、しかし、どれも彼らが掴みとったもの。
――役に立たない走馬灯だな。
そう内心愚痴を溢しながら、その最後の一時、大切な思い出に思いを馳せた。そして、この日常を再び取り戻すと誓った。
血が剣身を伝って徐々に流れ出る。それがアリアとイザベラにはひどくゆっくりに感じられた。クレアシオンの顔は歪められたが笑顔を作っており、それがかえって痛々しい。
その姿はかつて笑いかたを忘れた彼が無理やり作った歪な笑みを彷彿させた。
だが、意味は違う。彼の想いに二人は笑顔で応えた。その笑顔は涙で濡れてはいるが花が咲いたような綺麗な笑顔だった。
クレアシオンの血が剣を伝い魔法陣に注がれた。
魔法陣の輝きは増し、クレアシオンの体は光の粒子になって消えていく、泣き崩れる二人を包み込むように、暖かく照しながら――
魔法陣の上には何も残されていなかった。
――【称号:女神の婚約者を獲得しました】――
無機質な声が小さく誰にも聞かれることなく響いていた。
「うむ、……魔法陣書き変わっておるの?あやつは今度は何をやらかすつものなのか……?……想像するのも嫌じゃな……」
アリアとイザベラが帰ったあと、創造神はクレアシオンの獰猛な笑みを思いだし、冷や汗をかいていた。
ありがとうございました