プロローグ
1/4 プロローグを纏めました。
拝啓、女神様、小雪のちらつく日もある昨今ですが、いかがお過ごしでしょうか?
さぶさが厳しくなってきているので風邪をひかないよう、御自愛下さい。
私は今、しんしんと雪が降り積もる雪原にいます。なぜかって?私にもわかりません。
辺りから獣の様な鳴き声が聞こえてきます。
冷たい風邪が私の体温を容赦なく奪い去っていきます。つまり、ピンチです。転生して気がついたらここにいました。ピンチはチャンスと言いますが、生まれたてのこの体では何も出来ません。ピンチはどう転んでもピンチです。
女神様、こんな世界滅んで当然と言うか、自然の摂理だとおもいます。
◆◇◆◇◆
「大変ですクレア!!」
一人の少女が、そう言いながら、リビングの扉を勢いよく開けて入ってきた。
少女は腰下まである艶やかな金髪を振り乱し、恐怖からか普段から色白な肌が余計に白くなっている。
「どうした?そんなに慌てて?」
少女に呼び掛けられたクレアことクレアシオンは、やっていた将棋盤から目をはなし、事情を聞こうとする。だが、の体は将棋盤に向いており、あまり興味を示していないことが伺える。
「ま、魔王が大量発生しました!!」
彼は何を言ってるんだ?と怪訝な顔をし、やがて理解したのか少女に笑顔を向け、
「はぁ~、だから言っただろ?台所周りはきちんと掃除しろって」
と、いい彼が将棋盤に目を戻すと王将が全ての駒に囲まれていた。そう全てだった。
味方にも囲まれる様子は、まるで本能寺的な変のを思わせる。信頼していた家臣に裏切られた王将。彼には「金将、お前もか!?」と、言う王将の叫びが聞こえる。
彼は、「ああ、将棋にも人望が必要なんだな~」「大事だよな、人望」と、何処か遠い目をしている。
彼は、将棋を通して世の中の不条理や人間関係の難しさを改めて学んでいた。
一方、少女はというと、はぁ~、と言いたげな彼の態度に少女のこめかみに青筋が浮かび、ピクピクと動いている。先ほどまでこの世の終わりのような顔をしていたのに、今では怒りを抑えるのに必死になっていた。
「ち、違うんです‼」
「ああ、わかっている、皆まで言うな、今Gジェットを持っていってやるから、そんなに慌てるなって」
「違うんです‼だから魔王が大量発生したんです!!」
と少女は必死に「落ち着け私、怒ってはだめ、話が進まない」「落ち着け、落ち着け~」と怒りを抑えているが、
「ああ、台所ノ魔王だろ?」
この男は何もわかっていない。少女の中で何かが切る音がした。
「だから、違うって言ってんでしょうがぁ~!!」
「グハッ!?」「カラン、カラン(Gジェット)」
ついに少女がキレた。鋭い拳がクレアシオンのみぞおちを穿つ。その一撃は、その少女の小柄な体型からは想像出来ない威力が出ていた。
おそらく今までのやり取りのストレスが溜まっていたのだろう。いや、そうに違いない。
急所に鋭い一撃をもらった彼の右手の中にあったGジェットが滑り落ち、カラン、カランと乾いた音をたてる。
「まあまあ、アリア様落ち着いて下さい」
と、怒りにぷるぷるとふるえるアリアの頭をなぜながら落ち着かせるのは、クレアシオンと将棋をして、彼の駒をたらしこんだ美女だ。今までのやり取りを笑いを押し殺しながら見いてた女性「くっ、ふふ」いや、殺しきれていなかった。
女性は口元を手で隠しているが隠しきれていない。
その女性は長い銀髪を簡単なハーフアップにしていて、前髪から覗く、その芯の強そうな蒼い瞳は少し潤んでいる。
「よしよし、落ち着いて下さい」
「イザベラ~、クレアがクレアがぁ~」
今度は泣き出してしまうアリア、イザベラがアリアを抱きしめるとアリアの顔がイザベラの大きな双丘にうもれてしまう。
アリアの涙の意味が変わったのは気のせいだろうか?
この間、この空間を支配したのはすすり泣くアリアの泣き声と、痛みに蹲るクレアシオンの呻き声、コロコロと転がるGジェットの音だけだったと言う。
カオスだ。
◆◇◆◇◆
「それで、何があったのですか?」
アリアが落ちついたのを見計らって話を聞き出そうとするイザベラ。いまだに腹を抑えて蹲るクレアシオンは空気のようになっていた。
「俺の心配はしないのかよ」
「さっきのは貴様が悪いからだろ。正座しろ」
不満を言うクレアシオンに冷たい視線を送り、正座させるイザベラ。先程までの優しさ等ない。
なぜなら、クレアシオンが悪いからだ。
「クレアのことは話が進まないので、放っておきましょう」
「わかりました。でもクレア、あなたの力が必要になるので、ちゃんと話しは聞いといて下さいね」
ね?ちゃんと聞いてくださいね?っと言ってくるアリア、放置しようとして、力が要るから話を聞けと言う。つまりは、拒否権はないと言うことだろう。無茶苦茶を言ってるようだが、クレアシオンが悪い。
「実は………
長いのでアリアの話しをまとめると、ここ数週間、報告のあがっていない世界があったと言う。
世界は数え切れないほど存在し、それぞれの世界には何かあっても、すぐに対処するために、数人の神が管理している。
過去に悪神と邪神が手を組み、魔王や悪魔を生み出し、人々と争わせ、悪魔から信仰を、人々からは絶望と信仰を集めるという事件があったからだ。
悪神と邪神の手に堕ちた世界は悪意と絶望が蔓延り、悪魔や魔王、邪神が生まれ安くなっていた。
このことから、世界を数人の神が管理をし、神の裏切りや、世界が邪神の手に渡るのを防ぐため、簡単な報告を毎日神界に提出することが、義務づけられていた。
報告の上がっていないことに気がついた神界の神々が調査したところ、その世界全体が、障壁に覆われていたらしい。
障壁のせいで、その世界からは連絡がとれない状態になっていた。そのせいで、その世界からは連絡がとれず、報告が出来ないでいたのだ。
こちらから連絡を取ることができてわかったことが、悪神が1人、邪神が少なくとも5人いて、すでに悪魔や魔王が大量に生まれているということ、気がついた神たちは神界に助けを求めることもできず、魔王たちと戦ったが、数の暴力に負けてしまい8人いた神は一人の女神を残し、全滅したという。
魔王や悪魔は人々の負の感情から生まれ、彼らの信仰から邪神は生まれる。
悪神とは、神界を裏切り堕ちた神であり、悪神と邪神は魔王と悪魔を生み出す。
現状、神は一人しかおらず、魔族は増え続けている。最悪の状況だった。
今、創造神の神殿では、多くの神や天使-神の眷族や神の手伝いをする者たち――が対応に追われている。
アリアから話しを聞いた二人は黙ってしまった。
イザベラはうつむき、唇を噛み締めている。握った拳には力が込められていて、肩が少し震えていた。
イザベラは過去の事件の被害者だ。悪神と邪神のせいで故郷を失っている。その時のことを思い出してしまったのだろう。
辺りを静寂が支配する――。
「それで、俺の力が必要ってどういうことだ?」
沈黙を破ったのはクレアシオンだ、先程までのふざけた態度は霧散していた。
「はい、クレアにはその世界に行き悪神と邪神を倒して欲しいのです」
と、目的をいうが
「障壁のせいで、力の大きな存在は行き来できないんじゃなかったか?」
そう手段がないのだ。敵の元まで届かなければ、どんなに力があろうとも何もできない。
「いえ、邪神たちも障壁を完全には張れなかったのでしょう……。魂や実体の無いものは行き来できるようです。……そこで、クレアには、その、一度死んでもらい、その世界で転生して欲しいのです」
言いずらそうに話すアリア。当たり前だ、親しい人に死ねなんて、そう簡単に言えるわけがない。しかも、転生して何ができるというのか、弱体化した状態では何もできない。
それこそ、敵の罠かもしれない。
「なあ、アリア」
クレアシオンが声を掛けるとビックっとするアリア。
「どうして、俺が見ず知らずのやつのために死ななくちゃいけない?」
「それは……」
アリアは何も言えない、しかし、彼女にも引けないなにかが有るようにクレアシオンには思えた。
「他に方法がないのか?」
「――ありません……」
「そうか……」
他に方法がないか、と聞いたとき、彼女が少し迷ったようにみえたのをクレアシオンは見逃さなかった――
辺りは再び、静寂に包まれる。 クレアシオンは逡巡し――
「……わかった、やろう」
「いいんですか!?」
アリアはあまりにも厳しい条件のため、断られてもおかしくない、と思っていたため驚きの声をあげるが、
「行くな‼行かないでくれ」
イザベラが行くな、と言う。その顔には悲痛が浮かんでいた。
「イザベラ、大丈夫だ、アリアが俺を無闇に特攻させるはずがないだろ?」
「しかし……クレアが壊れてしまうのではないか?もうあんな思いはいやだぞ。クレアが一番辛いときにそばにることもできず、壊れていく姿を、ただ見ていることしかできないのは……」
イザベラはもう泣きそうになりながらも、クレアシオンをどうにか留めようとする。
自分が殺されたあと、クレアシオンが運命を怨み、神を怨み、己の無力さを怨み、ただ、貪欲に力を欲し、心が壊れていく様子をイザベラとアリアは指をくわえて見ていることしかできなかった。
神界の神々も創造神さえも、邪神と悪神の妨害のせいで、干渉することが出来なかったのだ。
あまりにも似ている。あの時と状況が似すぎていた。あの悪夢の様な出来事が脳裏に蘇る。
「でもな、邪神たちが力を蓄えてしまったら、神界に攻めてくるだろ?」
「それなら、こちらも力を蓄え、ここで迎え撃ったら良いだろ!!」
どうしても行くなと言うイザベラに対してクレアシオンは首を横にふる。
確かに、イザベラの言うとおりだ。邪神たちから攻めてきてくれるのならば、クレアシオンひとりでも全て対処できるだろう。だが、
「それじゃ間に合わない。アリアもそれは思い付いただろうけど、それじゃあ最後に残った女神は助からない」
そこで言葉を切り、クレアシオンはアリアに微笑みかけた。少しでも不安を取り除けるようにと、
「多分、その女神はアリアにとって大切な人なんだろう。今にも大切な人が死にかけているから、そんなに必死なんだろ?」
そうクレアシオンに聞かれアリアは目に涙をうかべた。
それは、自分の姉のようであり、親友がたすかるという希望か、自分の望みのために、騙すような事をしてしまったことへの罪悪感か、自分の想い人が自分のことをそこまで理解し、それでもなお、力になると言ってくれたこと故か、
アリアの心の中では表現し難い感情が渦を巻いていた。
「クレア、ありが…とう……」
もう、泣きすぎて何を言っているか解らない。ずっと不安だった。断られるかもしれない、親友がこの瞬間にも殺されるかもしれない。
たが、彼にこんな事を頼んで良いのか解らない。もう、彼が、クレアが苦しむ様子を見たくない。親友を失いたくない。
クレアがもう二度と戻って来ないかもしれない。そんな不安が頭の中を支配している中、クレアシオンの笑顔で、優しい声色で救われるような気がして、そして、ホッとしてしまった自分が堪らなく嫌になってしまった。
イザベラは事情は理解出来ても、感情では行って欲しくないという想いだけはどうにも出来なかった。
しかし、彼女はアリアとは親友と言っても過言ではない。アリアのクレアシオンへの想いも知っている。二人でクレアシオンが壊れていく姿を見ていることしか出来なかった悔しさも悲しみも乗り越えてきた。アリアがどんな思いで彼を送り出すのか、全ては解らずとも、泣きじゃくるアリアの姿から想像は出来る。
イザベラにはもう、クレアシオンが無事に帰ってくる事を信じることしかもう出来なかった。
自分には力になるどころか、足手纏いにしかならないと理解しているから――
クレアシオンは優しく二人が落ち着くまで抱き締めていた。
◆◇◆◇◆
「――で、死んで転生ってだけじゃないんだろ?」
アリアが話せるようになってからどうするのかを聞いた。
「はい。このままでは世界はすぐに終わってしまいます。なので、クレアが成長するまでの時間を稼ぐために結界を張らなくてはいけません。その結界をクレアのレベル、スキル、肉体で作ります。結界を張ることによって邪神たちを隔離し、障壁を弱めることによって、神界からの干渉もある程度出来るようになります。力の強い邪神達は出て来れないので時間は稼げるはずです」
全て有効活用、まるでアンコウのように扱われるクレアシオンの身体。
身ぐるみ剥ぐどころか、レベル、スキル、肉体を置いていけという盗賊も真っ青な追い剥ぎにクレアシオンもイザベラも顔をひきつらせていたが、クレアシオンは聞き捨てならない事を聞いた。
「――なあ、アリア、レベルや肉体はともかく、スキルは困るだろ?特にユニークスキルは……」
死ぬのだからレベルや肉体がなくなるのは仕方がないが、しかし、神殺しには特殊なスキルや武器が必要だった。ユニークスキルが無くなると言うことは、神殺しが出来なくなるということだ。「すわっ、まさか、私の身体が目当てだったのね!?」と、クレアシオンがふざけたことを考えていると、
「ええ、ユニークスキルは魂に直接結びついているので、なくなるのはスキルとエクストラスキルだけです。それに、クレアはスキルレベルに関係なく鍛えていたので、スキルが無くなっても技術があるから、スキルを習得し直すのも早いでしょう」
と、いうことだ。これで心配ごとが一つ無くなった。
結界張るだけ張って何もできなかったら、笑えない。
クレアシオンが一番心配していたことが無くなって、安心していると、
「それと、クレアにはその世界の勇者を鍛えて欲しいのです」
「へぇー、神殺しの魔王に勇者を鍛えろと……」
魔王が勇者を鍛えると聞き、つい笑ってしまう。
「クレアの場合は、邪神や悪神を殺しまくっていたのと偶然が重なって付いてしまった称号ですから、それに、神殺しじゃなくて邪神殺しの魔王ですよ」
「それで、その勇者っていうのは?」
鍛えるのはいいが、どこにいてどんなやつか解らなくては話しにならない。
「勇者の一人はクレアの近くに生まれるそうです。後の3人はクレアが目立った活躍をすれば、向こうから接触してくるはずです」
一人の勇者とは確実に出会えるが、後の三人とは出会えるかも解らないということだ。それを聞いたクレアシオンは何を思ったか、おもむろに立ち上がり、右手を天井に突きだすと、地面に深紅の魔法陣が浮かび上がり紅い雷が迸る。魔法陣の紅い光がクレアシオンを包み込んだ。
余りの眩しさにアリアとイザベラは目を背ける。光が収まり二人が文句を言おうとクレアシオンを見るとそこには――
漆黒のコート――真紅の刺繍がしてあり、コートの黒地と合わさり、その刺繍は暗雲を駆ける雷光の様である――に身を包み、その背中には二メートルほどの抜き身の大剣――《神器》ヴェーグ――を背負っている。その大きな剣身の鈍い銀の輝きは、漆黒のコートによく映え、夜空に輝く月の様だ。
突然のクレアシオンの奇行に呆然としていると。
「つまり、邪神や各国の王を差し置いて、その世界を我が手中に納めれば良いんだろ!!」
フハハハハハッ、と絵に描いた魔王のような事を言い出すクレアシオン。世界を手に入れるなど、やろうとしていることが邪神や悪神と変わらない。
頭には大きな角が生え、黒かった髪は白く染まり、金色だった目は血のように赤く猛禽類のように鋭く光っている。お尻からは愉しそうにゆらゆらと槍のような尻尾が揺れていた。
しかし、脚が生まれたての小鹿の様に成っているのはご愛嬌。正座をさせられてからずっとそのままだったのだから……。話しが長く、脚を崩そうとするたび、イザベラの視線が怖かったのだ。
最近、正座を我慢できる時間がだんだん増えてますよ。……あは、アハハハ……。はぁ……。 クレアシオン談。
「やめろバカ者!!確かに目立つし、勇者も向かってくると思うが、絶対に敵対してるからなそれ!?」
「やめてください。クレアなら本当に出来かねません!!。それに、クレアがそんな事を言うと彼らが嬉々として参加してしまいます!!」
先程までの暗い雰囲気は無くなり、二人は必死に止めている。必死に止めている二人を見てクレアシオンは自然に笑みが溢れた。そんなクレアシオンの様子を見て二人はクレアシオンの意図が解ったのか恥ずかしそうに少し目をそむける。
――ああ、一番恐いはずなのに私達を不安にさせないように振る舞おうとする。そこが堪らなく愛しい。だからこそ、あなたが壊れてしまわないか心配になってしまう。
「アリア、それで結界を張るにはどうしたらいい?」
「今、創造神様が結界を張るための魔方陣を描いています。そろそろ出来上がっているころだと思うので創造神様の神殿に行きましょう」
アリアがそう言うのでクレアシオン達は創造神の元に向かうこととなった。
ありがとうございました。