母親
「お母さん……私どうしたら良いの……?」
そんな事を泣いている内に言っているマリア、ナサルとマリアが二人きりの時その上マリアの気が弱っている時はナサルの事をお母さんと無意識に呼ぶ事がある
マリアにとってナサルは育ての親の様な者、実の母は居てもマリアはナサルの方に気を許していた。
お母さんと呼ばれてナサルの身体がピクッと反応する
(だ、駄目……お母さんと呼ばないで下さい……ダメ! ダメ!! 一線を越えてしまう……!)
ナサルは子供の相手をする時必ずその子の親を尊重し絶対に親代わり等という風には思わない様にしていた。
そういう誓いを立てなければナサルの心の闇が広がりその子を本当の実子の様に思ってしまう、そしてそう思ったら最後その子からは離れられなくなってしまう、その子の親を……邪魔だから殺してしまうかもしれない
しかし今、ナサルの事をお母さんと呼ぶマリアを見てその心の闇がナサルの心を包もうとしているのを必死に食い止めていた。
普段はそう言ったら止めるのだがお母さんと呼ぶ事を止める事は出来ない、それをしてしまったらマリアの心が休まらない
(……そうだ。あんな親より……私の方が……この子を幸せにしてあげれる……)
心の中でチラリと見えた。ナサルの闇
ナサルもそれが見えた。なので自分の唇を噛み戒める
(そんな訳があるか!! そんな思い上がりがあるか!! 私なんかよりこの子には母親と父親が必要なんだ! それに私は……)
クローン
それにもう命も長くない
ナサルがマリアを抱く力が強まる
それから暫くしてマリアは泣き止み落ち着いた。
そんなマリアに微笑みかけ
「良ければお話しを聞かせて貰っても良いですか?」
「ごめんなさい……めいわくかけちゃったね」
「いいえ、全く、私はマリア様の傍に居る時が大好きですよ」
「えへへ……ありがとう」
マリアは意を決して話す。
「サシャの事なの……私ね、今日の夜、サーカスに行くことになったの」
「それは良かったではありませんか」
「良くないわ……だって親友が行方不明なのに自分だけ遊ぶだなんて……最低よ、断れるチャンスは有ったのに……私はそうしなかったのよ? 最低よ」
「……そうですか、お嬢様は私の事が信用出来ないと言うのですね?」
驚くマリア
「ち、違うわ!」
「私を本当に信用しているのならサシャ様の事を心配する事なんて有りませんよね? だって信用しているのなら「私が必ずサシャ様を救い出す」と考えるからです、お嬢様は私を信用して居たのでは無いのですか?」
「……」
「今夜、サーカスに行かないのならそれは私を信用しないという事……もし信用してくれないなら……悲しいな」
悲しそうなナサルの顔をゆっくりと手を伸ばして撫でるマリア、その顔にはさっきまでのか弱い子供の面影は消えていた。
「ごめんなさい、困らせてしまったわね」
「良いんですよ、いくらでも困らせて下さい、それが私の生き甲斐ですから」
「何よ、それ変なの」
ふふふと微笑するマリアとナサル
「……その話に乗るわ、私は今日サーカスに行くわ」
「ありがとうございます。信用してくれて嬉しいです」
「モノを良く言う天才よね……ナサルは」
「? 何の事ですか?」
「何でも無いわよ」
そう言ってもう一回ナサルの温かな胸に顔を埋める




