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あの笑顔が見たいから



 赤き竜の変異によって精神世界に張り巡らされた幻惑の魔法が解け精神世界に閉じ込められ正気を失った人物達も正気を取り戻した。

 その中の1人がデッチェ・イオルーク

 デッチェは深紅の絨毯の上で眠っていた所、目を覚ます。

 上半身を慌てて起こし背中の武器を反射的に抜こうとしたところで武器がないことに気が付く


「……」


 デッチェは鋭い眼光で辺りを見渡す。

 そこは石造りの宮殿のような場所で天井は吹き抜けになっており太陽の光がデッチェを包み込んでいる

 デッチェは警戒心を緩めぬまま宮殿の外に出ようとした時、十二花隊の面々と出会う


「他の連中は?」


 と十二花隊を信用していないデッチェはぶっきらぼうに距離を置いてそう質問を投げかけた。


「さぁな、私達も見かけていない」

「ちょっと探索した感じどうやら、ここにいるのは私達だけみたいよぉ、どうする?」

「どうするっつったって……もう少し辺りを探ってみるしかねぇだろ」

「これ以上どこを捜索するってのよ、アチコチ探しまわったけど人どころか出口らしきモノも見つけられなかったのよ?」

「おい獣人野郎っ! その立派な鼻で他の連中の臭いは追えねぇのか?」

「オメェらの臭いしかしねぇよ」

「チッつかえねぇな」

「止せ、じゃれ合ってる場合じゃないだろう」

 

 カリストファーはもたれていた壁から離れデッチェに近寄る

 警戒心を強めるデッチェ


「今すぐ私達のことを信用しろとは言わない、がここは互いに互いを利用し合おう、生き残るために」


 カリストファーは右手をデッチェに差し出さなかった。


「握手はなしでいい、ただ頷いてくれればそれでいいさ」

「……俺もガキじゃねぇ、ここで争い合う気はねぇよ、オメェ等にその気がなければの話だがな」


 ということでデッチェと十二花隊は互いを利用し合う関係となった。

 

「しかし分からねぇなここはキャロの精神世界……なのか?」

「……そのハズだ」

「ここは間違いなく伝説のアロウニウスだ。英霊の休息所……キャロがそんな古い伝承のことを知ってる訳がない」

「……さぁな」


 アロウニウス

 勇敢なる戦士がその生涯を終え最期に向かうとされる楽園の名をそう呼ぶ

 

「やっぱ俺達はもう既にくたばっててここは本当にあの世ってことはありません? アロウニウスはおとぎ話じゃなくて本当にあったんですよっ!」

「であれば先程まで我々が幻惑の魔法に掛かっていたことの説明がつかない、ここが本当に英霊の休息所ならば、そのような魔法を何者かが我々にかける理由がどこにある?」

「え……それはここはあの世ですから俺達じゃ理解出来ないような理由があるに違いありませんよっ!」

「ハッおめぇの部下は随分と信心深いらしい、ここをアロウニウスだと思いたくて仕方ねぇって感じだぜ?」

「無理もない、リックはココへ来る為に我々の部隊に入ったのだから」

「そういえば隊長、女王陛下も幻惑の魔法の使い手でしたよね? 我々に幻惑をかけたのは女王陛下という可能性は?」

「その可能性は低いだろう、陛下は確かに幻惑の魔法の属性の持ち主だが魔法の訓練などは一切していないので発動もできないのだ。そんな陛下が我々に対して一斉に幻惑をかけたとは考えにくい」

「……」


 そうだったのかと思うデッチェ 

 デッチェはキャロの魔法属性を知らなかったのだ。

 デッチェは魔法は戦いの為にあると考えている、なのでそもそもキャロが戦いに価値を見出すような子には視えなかったのでデッチェは彼女の属性を調べることをしなかった。

 いや、属性だけではなくキャロの性格など様々なことについて知ろうという努力をデッチェは怠っていた。

 デッチェはキャロを避けている部分があった。

 全く面識のない赤の他人の子供を同情心で拾ったあの日のことは後悔していない、だがどんどん彼女が成長すると血気盛んな自分とはまるで違う性格に育ちその赤の他人の子供が自分を父と呼ぶのだ無垢なその笑顔で


(柄じゃねぇよ、こういうのは……)


 そうキャロに父と呼ばれる度にデッチェの心は痛んだ。

 自分は戦士だった。

 嘗てはアロウニウスに向かうのが夢だった。

 短く太く後悔や未練などなく最期は派手に散ってやろう

 それがデッチェの理想のハズだった。

 平穏と平和の象徴のような子供と共に穏やかに老いて朽ち果てる人生など望んでいなかった。

 自分はアロウニウスに向かう為、多くを殺した。

 そんな自分にはそんな人生など選ぶ権利はないしキャロと共に生きる資格などない

 

 そしていつの間にかデッチェはキャロと自然と距離を置くようになった。

 ジャックが目の前に現れ勧誘をしてきた時も村を災害から護りたい気持ちもあったがキャロと距離を置きたかった気持ちもあったのだろう

 体の良い理由を見つけてはキャロを遠ざけてきた。


(……あの子に必要なのはナサル達であって俺じゃないんだ。俺にアイツの家族面する権利なんざねぇ)


 ナサル達はキャロの為に泣いていた。

 キャロの為に泣けなかった自分とは違う

 だからあの家族が笑っていられるようにデッチェは戦うことにした。

 あの笑顔を遠くで眺めていれればそれでいい

 それがいい

 

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― 新着の感想 ―
御伽話というか神話っぽいけど、カランダーンみたく、「あなたの近くに神様」な世界では神話とかどうなっているのか。 「昔に凄いことをやった生物がいて、それは今も生きている」みたいな感じかな。かなり認知され…
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