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砂の中の羊


「ど、どうしましょう!? この砂硬くて全然動きませんよ!」


エルがそう言った通り出入り口を塞いでいる砂は斬っても押してもビクともしない


「先に進むしかなさそうだな」


この広場にはジョン達が入って来た入口以外にもう一個先へ続く出入り口が有った。


「……明らかに罠の予感がするけど」

「間違いなく俺達は誘い込まれているんだろうな、だが進むしかないみたいだな」

「火の中に飛び込む虫の気分だよ」

「火傷程度で済めばいいがな」


四人は恐る恐る先に進む、そして広場から先に進む通路を覗くと通路は砂で覆われている事が分かる


「俺が先行する」

「待て、此処は不死の我が先に行く」

「いいや、お前はジャックの傍についてこいつを護れ死なれたらマリアお嬢様共々道連れだからな」


ジャックには最強と謳われた拒絶という名の防御魔法を有しているのをジョンは知っている、だがメイヴィスに護れと命令する、今のチームで最も強いのは恐らく彼女だとジョンは判断したのだ。


「だが……」

「兎に角、俺が先行する」

「ジョンよく分かったね、私の弱点が」

「そりゃ分かる、なんせお前焦ってるからなお前ご自慢の最強の防御魔法とやらがこの状況でもお前を護ってくれるなら焦る必要なんてないハズ、つまりこの状況じゃ何かしらの理由があってお前の魔法は発動しない、違うか?」

「それについてはノーコメントって事にさせて」


ジャックの魔法、『拒絶』は相手の攻撃を完全に無効化する魔法、剣を持って斬りかかっても攻撃は届かず、魔法も無効化される、発動はジャックが無意識でも攻撃されれば相手の敵意を自動的に感知して勝手に発動するだから不意打ちされても死ぬ事は無い

しかしこの魔法欠点が幾つかある、一つは神には通用しない事、もう一つは敵意を持たないものには一切反応しないという事だ。つまり今の状況の様に行き成り上から土砂が降って来ても魔法は発動せずそのまま潰されてしまう、この魔法は相手の敵意を利用して発動する仕組み、無機物には一切無効


そしてメイヴィスを押し切りジョンが先行して通路に突入、一歩を踏み出すジョン、ジョンの足が砂にめり込む、しかしめり込みは浅く歩行は可能だという事が分かった。

ジョンの後を追いメイヴィス、ジャック、エルの順に通路に踏み出す。

道は平坦で上下が無い、しかし砂が足を取り非常に動き辛いしかしそんな状況でも一歩一歩確かに前に前進する四人

しかしそれは長くは続かなかった。通路に侵入して暫く後の話である、ジョンが一歩を踏み出そうとした時足が今までとは明らかに違う沈み方をして右足の腿まで一気に沈んでしまう


「うげっ!?」

「先生!!」

「ジョン! 我の手を取れ!」


メイヴィスがジョンに手を差し出す。それに捕まるジョンだが足はどんどん沈み腰まで沈み始める

そこにジャックもエルもジョンを救出しようと身体を引っ張るが無駄、沈む力の方が遥かに強い

このままでは全滅すると悟ったジョンは三人を突き飛ばす。


「何をする!?」

「俺に構うな! このまま俺に構っていたら間違いなく全滅する……!」


肩まで沈む

そんなジョンを見てメイヴィスとエルは放って置けずまた助けようと動き出す。がそこをジャックに止められる


「待ちなよ、ジョンの言う通りだ。今の私達じゃ残念ながら彼を救う事も出来なさそうだしね、諦めるべきだよ」

「そこを退け!」

「退かないよ、死んでもね、此処で戦力と肉壁を失う訳にはいかない」

「貴様……!!」

「ふふふっ……何とでも思いなよ」


(ケッこういう時は頼りになる)と内心思いながら砂に呑まれるジョン・ラム


「先生ェ!!」


エルの叫びが通路に木霊する


 砂に飲み込まれたジョン、しかし彼は圧死も窒息死もしていなかった。

砂の下はまた別の空間がありそこに落ちてしまっただけのようだ。そして幸運な事に落下によるダメージも殆どない


(助かったな……此処から上には戻れるのか?)


松明も失い真っ暗ながらも辺りを見渡すジョン

眼が慣れ辺りも徐々に見えて来る


(どうやら此処はさっきの湖があった広場と同じ様なドーム状の広場らしいな……)


壁は石で出来ている

その上ジョンはとんでもないモノを発見してしまう

鎧を着た骸骨である、そも一体では無い三体そこに転がっていた。


「これが俺の未来の姿って訳か? 冗談キツイな」


ジョンは骸骨に近付く


「急に動き出したりするなよ、頼むぜ……」


恐る恐る骸骨兵士を探り始めるジョン


「その甲冑を見るにお前は兵士だってようだな、恐らく十五年前に此処へ侵入したの村の兵だろうな、俺と同じような目に遭って此処に落ちて来たって訳だな、次は死因か……骨に外傷の痕跡は見られないな、これも俺と同じで落下による負傷も無かったみたいだ。どこも骨折していない」


ここでジョンは思う、落下のダメージを受けなかったのは幸運では無かったのではないのかと


「床は砂で柔らかい……あの罠は俺を傷つける為の罠じゃなかった訳だな、それもそうか、殺すだけならあのまま砂に潰させるだけでも出来るからな……」


ブツブツ独り言を言いながら状況を整理していくジョン


「しかし、こいつらは死んだ。何故か? 餓死だろうな、此処で水も食料も無く飢えて死んだ。此処は拷問部屋だな……でなきゃこんな回りくどい事をする意味が無い」


骸骨の周りをグルグルと周り、身体と頭を回転させるジョン


「なら俺一人では脱出不能? 外から誰かに助けて貰うしか方法は無いのか? いやそもそも外から俺を脱出させる事は出来るのか? アイツ等は俺の生存を知らない筈死んでいると思っているはずだ……ならアイツらが無事外に脱出出来ても死んでいると思われている俺は置いて行かれる可能性が大、要するに俺一人で此処を出なければ俺は死ぬ、つまり俺ヤバイ」


辺りを見渡すが当たり前だとでも言う様に出入り口の様な物は一切ない

あるのは骸骨三体のみ


「おい! 誰か見て無いのか! 此処が拷問部屋なら誰か接触してくるハズだろ!? 誰も居ないのか! おーい!!」


ジョンが大声を出しても返答は無し


「マジかよ、十五年前の拷問部屋はシステムだけは生きて使い手は十五年の時を経て死んだって訳か」


ジョンは仕方がなく一途の望みに懸けて自分を閉じ込めている牢屋の石壁を叩き始める


「ダメダメダメ、厚い壁でこんなのを破壊なんて無理だ。ならどうする? 考えろ考えろ……天井はどうだ? 駄目だ高すぎる登れない、なら床は?」


ジョンは足元を見る、足元は砂で出来ている、頑張れば掘る事も可能な硬さ


「掘れって? マジで言ってる?」


掘るしかないそう確信したジョンは小型のスコップを取り出し掘り始める

砂は柔らかいのでスコップは深くまで刺さる、これを不幸中の幸いと呼ぶか焼け石に水と呼ぶかは人次第


 その頃ジョンの声が届かない上層では底なし砂の前で行き詰りにあっているジャックにメイヴィスそれとエル


「先生!! 返事をして下さい!」


長い事エルはジョンが飲み込まれた地面に向かって叫び続けていた。

その後ろで冷めた目でエルを見るジャック


「無駄だよ、それで何度目だと思うの? 彼は死んだ。そう割り切って先に進むしかないよ」

「貴方は黙ってて!」

「へー随分と彼と仲が良いんだね、そこまで心配するなんてさ」


ジャックの戯言を無視し叫び続けるエル


「フフフ、彼は幸せ者だね、最後に自分の事を想ってくれる人と出会えたって訳だ。君は彼の親友? それとも恋人? 先生という呼び方から言って師弟の関係なのは分かるけど……先生、ククク」


先生という単語を言った途端何かを思い出したかのように微笑するジャック

勿論これにもエルは答えない


「もう止めないか、ジャック」


止めるメイヴィス

しかしジャックは続ける


「でも君は知ってるのかな? 彼の正体をさ知らないよね? そんな事あの男が喋るはずがない、君は滑稽だ。何も知らない男の為にさ」

「もう止めろと言った!!」

「君は私を殺せない、黙っててよ、メイヴィス」

「ボクもこの中に……!」


と砂の中に入ろうとするエル


「あ~あ、全く……何考えてるんだかね」

「エル!!?」


エルを急ぎ止めるメイヴィス


「止めろ! 犬死する気か!?」


そのメイヴィスの呼び掛けでようやく正気を取り戻すエル


「……すいません」

「良いんだ。気にする事は無い、今は今を生き残れる方法を考えよう」

「彼は”殺し屋”だよ、一流のね」


返答無し


「あれ? 驚かないね、まぁそこら辺は察していたかな? 彼、普通じゃないしね、じゃあ次」

「もう黙って居ろ!」


メイヴィスが意気消沈中のエルの為、怒鳴る


「私はジョンの弟子だった」

「!?」

「なに!?」


そのジャックの発言に今まで無反応だったエルも反応する


「やっと驚いてくれたね、嬉しいよ」

「お前がジョンの弟子だと? じゃあジョンは自分の弟子を殺そうとしているのか?」

「ちゃんと私の言葉を聞いてよ、私はジョンの弟子”だった”もう関係無いよ」

「先生と貴方の間に何があったんですか?」

「君達に教えてもね……理解出来ないだろうから教えないよいや”教えられない”かな?」

「それじゃあ皆驚いた所で生き残る方法を考えよう、先の通路にはどうやって進む?」

「ジョンが沈んだ所を飛び越える?」

「う~ん、どれくらい飛び越えれば良いのか分からないよ、もしかしたらこの通路全部底なし砂かもしれないよ?」

「じゃあ、分かりません」

「君の所為なのに?」

「うっ……」


それを聞いて涙目になるエル、ジョンの件と仲間を危険に合わせた事それは間違いなく自分の安請け合いの所為だと自覚をしていた。


「止めないか! 今はそんな事を言っている場合ではない!」

「全部君の所為さ君が余計な事を言わなければあのまま安全に帰れたのに君が余計な事を言うからこの有様さ」

「……すいません」

「いいよ、仕方がない、今のは君をへこましたくて言っただけだから気にしないで」


これはジョン以上だと確信するメイヴィス

 その後もジャック達は慎重に通路を調べる、沈んだら命は無いのかもしれないのだから……

責任を感じエルが先頭に立ち通路を調査している、つま先でちょんちょんと通路を叩く


「此処は大丈夫みたいです」

「良かったね、次」


慈悲の欠片もない言葉がエルを襲う


「はい……」


それに大人しく従うエル、エルは死ぬほど責任を感じている


「もういい、我が先に行く、エルもう下がって良い」

「駄目だよ、エルだけじゃ心配だからね、君には生き残って貰わないと困る、実際ジョンの言った通り君が現状で最も強い間違いないよ」

「エルは今自責の念を感じておかしくなっている今は無理をさせる時じゃない」

「彼女には責任を感じて貰わなきゃ困るよ、ね? エル?」

「意地悪は止せ」

「すいません……」

「エルも良いんだ、ジャックの相手をする事は無い」


さっきから口を開く度にすいませんすいませんすいません、エルは精神的に参っていた。

ジョンが死に参っていた。ジャックの悪態にも参っていた。メイヴィスの掛ける優しい言葉にも参っていた。

全ての事がエルを参らさせていた。


「ごめんなさい……ごめんなさい」


遂にはごめんなさいを連呼し始めて泣き出してしまう


「勘弁してよ……」


ジャックはそれにうんざりしメイヴィスは心配そうにエルを見る


「エルはまだ若い精神的にも幼い部分を持っている、それなのにお前が遠慮も無しに罵るからこうなる」

「それは御免なさいね、仕事仲間には容赦しない方でね」


エルは泣き始めてしまい、先には進まない、そんな彼女をジャックは押そうとするがメイヴィスが止める

メイヴィスはこの時完全にエルの母親気分


「仕方がないでしょ? こうでもしなきゃ先に進めない」

「エルを殺す気か? 止めろ」

「此処にずっと居たらあの二人も死ぬ事になるよ」


二人とはマリアとネルヒムの事を指す。時間が遅れては彼女たちの首に仕掛けた爆弾が爆発してしまうのだ。


「不味いよ、爆発まで時間が余りない」

「我が行く、文句は無いな?」

「仕方がない、分かったよエル下がって」

「いや! ボクが行きます……行けます」

「らしいよ?」

「行ける訳ない」

「大丈夫です。ボクだって騎士です。こんなの慣れてます」


エルは既に泣き止んでいた。

だが顔は赤い


「そうは見えないけど?」

「何と言われても大丈夫です」

「ならいいよ、調査を続けて」

「はい……」


エルは調査を再開する

さっきと同じように通路をつま先で慎重に調べる

そして分かったことがある、あの罠は一度発動二度目は発動しないという事である


「いや~良かった良かった私達はジョンの尊い犠牲のお陰で無事に通れる様になったようだね、まぁあまり良い師匠だったとは言えないけど最期に良いプレゼントを貰ったよ、ありがとう元師匠、さよなら……死んでいたらだけどね」


(死んでいる事を願いたいよ、ジョン)


 ジャックには予感があった。あの男はまだ死んでいないという予感が

確信に至る証拠はないだが心のどこかであの男は死んでいない、そう確信しているジャック、だから願う、死んでいてくれと

そしてその悪い予感は見事的中している


 上でジャックがそんな懇願をしている時 

下では砂を掘り進める礼服の男が居た。

彼は必死に必死にスコップを刺し砂を掘り出し新たな穴を作るそれを繰り返し繰り返しようやく外に脱出する事が叶った。脱出に掛かった時間はおよそ三十分

外といってもまだ遺跡の中なのは変わりない、変ったのは彼があの牢屋を脱出出来たという事

”外”の空気を思いっ切り吸って吐くそして本当に外に出れたのだと実感する


「はぁ……助かった……」


一時期は死ぬのかとも思ったジョンだが何とか生き残れた。


「ふぅ……で? 此処は何処? 誰か教えてくれない?」


応える者は居ない


(まだ遺跡の中みたいだな……アイツ等の姿も見えない)


そう心で思いながら何処へ繋がっているか分からない通路を進む

そして一つの部屋に行き着いた。部屋に扉は無いだからジョンは手を使う事無く部屋に入る

部屋は書庫のようで本棚に勿論本が置かれている、しかしボロボロ

ボロボロの本を手に取り読んでみようと試みるが無駄、内容は読み取れない

大人しく本棚に本を戻す。

そして書庫全体を見回っているとまたも白骨遺体を発見する、今回の骸骨は白衣を着ており二本の剣が刺さっている


「此処で殺人事件が起こった様だな……犯人は誰だ? まだ生きてこの遺跡に潜伏している? いや、可能性は低いか」


この骸骨を殺した何者かが自分に危害を加えて来ないかを心配する


「白衣か……研究者だったのか? 俺の世界じゃ白衣を着るのは研究者の特権なもんでな、こっちじゃどうだか知らんが」


ジョンは此処を古代の遺跡か何かだと思っていたのでこの白衣やこの部屋に立ち並ぶ本棚には違和感を感じていた。

あまりにも現代的過ぎるからだ。骨も白衣も本もこの遺跡を構築していたであろう石壁の状態等から比べれば新しい


「こいつは此処で何をしてたんだ? 何故殺された? なぁ、教えてくれどうやったら外に出れるんだ?」


死人に口なし


「だろうな」


ジョンがそんな一人芝居をしている時何者かがもう一人この書庫に入って来た。ジョンも足音でその存在に気が付く

急ぎその侵入者から見つからない為姿を消すジョン

そして静かに侵入者に近付きその姿を眼に入れる、ジョンの計画では此処で相手を観察し相手の弱点等を見破り、後ろから気が付かれない様に近付き

無効化する計画だった。

だがそうはさせなかった。何故ならその侵入者は……


「ナサル……?」


黒髪の騎士、ナサル・パララグだったからである

ナサルは静かにジョンの方を向く


「お前は海の都に居るハズじゃ……」

「……貴方、侵入者?」

「侵入者だと?」


ナサルの様子がおかしい、ナサルの眼を視てもそれが分かる


「お前……もしかしてナサルじゃないのか?」

「私はナサルという名では無いわ、私はライラというの」


ナサルとは口調も違う


「質問に答えて貰える? 君は侵入者?」

「そうだと言ったらどうする?」

「どうもしないよ、此処にはもう知られて困るものも無いし取られて困るものも無いよ、勝手に何でも持って行って良いよ私には関係ないから」

「こちらからも質問していいか?」

「いいよ、何?」

「お前は誰だ?」









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