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涙の訳


 ザラの葬式が執り行われた。勿論誰も笑う事は無い彼は”良き”夫、父親として死んだのだ。

アーロックも都市から帰って来ての行き成りのザラの死に戸惑いながらも大急ぎで葬儀の準備に取り掛かった。

ザラの妻は今も現在放心しており話し掛けても何も帰って来ない、人形の様に椅子に座っているだけ

ネネはさっきまで大声を出しながらナサルの胸で泣いていたが今は疲れてしまって寝ている

まさに今日は悲劇の日


「幾ら生きてもあの空気は好きになれんな……」


メイヴィスがジョンの部屋でジョンに呟く


「知るかよ、そう思っても俺に言うな」


椅子に座りながら不機嫌そうにジョンはそう返す。


「気晴らしに散歩にでも出かけないか? 外の空気が吸いたい」

「一人で行け」

「どうしたんだ? さっきから不機嫌そうだな」

「お前が居るからだ! 昨日からずっと俺に張り付きやがって、俺は人が嫌いなんだ。長時間人と一緒に居ると吐き気がすると同時に頭に血が上る」

「我は吸血鬼だぞ」

「そんな言い分が通るか、姿形が人間の時点で一緒だ」

「お前の悪態にも慣れて来たな、それで何処に行く?」


あまりにもメイヴィスが人の話を聞かないので呆れ始めるジョン


「数秒前の話だぞ、俺がお前に対して「一人で行け」と言ったのは、忘れちまったのか? 千年以上生きれば脳も退化し始めるのか?」

「我は森に行きたいな」

「何だおかしいのは俺なのか? 俺の声がお前の耳に届いていないのか?」

「お前の声はしっかりと聞こえているぞ」

「良かったぜ、危うく発狂して葬式会場に突撃して暴れ回るところだった」

「我とはそんなに一緒に居たくないのか」

「別にお前限定じゃない、全人類だ。もっと言えば動物が好きじゃない」

「まぁ、それは分かっていたが何故そんなに人が嫌いなんだ? 理由を教えてみろ」

「嫌に決まってるだろ、それよりカランダーンは言っていたよな? 「ジャック」の捜索に関しては協力すると、俺が都市に行く為の口添えをカランダーンに頼む事は出来るのか?」

「出来るよ!」


カランダーンが扉をバンッと力強く開けジョンの疑問に返答する

行き成りの登場に唖然とするジョンとメイヴィス

 

「人を探すならまずは街を探すって事だね! オーケー、私がアーロックに言えば一発だよ」

「アンタあそこから出ても大丈夫なのか?」

「そんな長い時間空けなければ問題ないよ」

「あっそう……あぁ、そうだ俺はアンタに一つ不満を言いたかったんだ」

「何かな?」

「ジャックは神から特殊能力を授かったんだよな? 俺にはその特殊能力は無しか?」

「君にこの世界の魔力を授けてしまうと君とこの世界が同化してしまって君の唯一の利点である「拒絶」の無効化が出来なくなる、だからそれは出来ない」

「同化だがなんだか知らんがつまりアンタが俺に力を授けちまうとジャックに攻撃出来なくなるって事でいいんだな? これからも俺は魔法の類を使えない訳?」

「その解釈で構わない、だから君にメイヴィスを貸したんだ。彼女は強い、人間になら負けないよ」

「俺はそれが嫌なんだ。一人で行動したい、必要な時に必要なだけ人を集め仕事を終えたら即刻解散というのが俺のやり方でね、いつでもどこでも一緒なんてのは俺のスタイルには合わない」

「そう言われてもねぇ……君に死なれては困るし、駄目、メイヴィスと一緒に居て」

「こんな小うるさい女と二十四時間一緒に居たらその内失神する、せめて人員を変えてくれ静かな奴は居ないのか?」

「メイヴィスみたいなのが何人も居る訳無いでしょ? 彼女みたいな被害者を出さない為に法を作ったりしてるんだから」

「……マジ? ジャックを探し出すまでこのまま?」

「そうなるね」

「やべぇ、涙出て来た」

「まぁまぁ、メイヴィスがうるさいと言っていたけど彼女は心に芯が有りながらも包容力も有り見た目も可愛らしいし何より物知りだよ、エル・ライオットよりは良い情報源だと思うけどなぁ」

「や、やめてください、カランダーン様」


べた褒めされ顔を赤くするメイヴィス


「エルは不必要に俺に介入して来ない、こいつはする、これは大きな違いだぜ、大きな、な」

「確かに少しお節介な所も有るけどそれもいいじゃない、いいじゃない」

「よくねぇと言ってるだろ!」


引く気を一切見せないカランダーン

最後はジョンが諦め、寝る時だけは別室という条件付きで渋々メイヴィスの件を了承、枕を涙で濡らす結果となった。


カランダーンは明日にでも都市に行けるよう手配するという約束をジョンと交わし消えて行った。

気分転換に散歩に向かうジョン、勿論その後をついてくるメイヴィス

メイヴィスは部屋を出る時は何かの魔法を使い姿を消す。そして人気が無くなったと同時にまた姿を現すのだ。


「そんな落ち込まなくても良かろうに……」

「落ち込むに決まってんだろ、さっきから涙が出て止まらねぇよ」

「涙なんて出ていないじゃないか」

「泣いているのは俺の心だ」

「お前にそういう言葉は似合わないな」

「うるせぇ」


黙って歩いていたいジョンだがそれを許さないメイヴィスの言葉攻め

この散歩はジョンにとって完全なる失敗、ストレスしか溜まらない

頭を抱え始めるジョン


「……頭が痛いのか?」

「心が痛い」

「お前の心はボロボロだな」

「お前の御蔭でな、ありがとよ、サンキュー」

「人と一緒に居る事がそんなに辛いのか?」

「辛くて死にそうだと言えばお前は俺から離れるのか? 無駄だろうが聞いて置くぞ」

「そんなに嫌なら我も姿を消し、お前を見守るという手もある」

「そうしてくれ見てみろ俺の手が震えて来た。遂に身体に対人恐怖症の症状が出てきやがった」

「我はお前ほどの人嫌いを初めて見たぞ……」

「じゃあ見れてよかったな」

「何故そんな人嫌いが人を助ける? 我はそれが気になる」


ジョンは立ち止まり観念したかのように溜息をつく、行き成り立ち止まったジョンに戸惑いつつメイヴィスも止まる


「何だ? どうした? 行き成り?」


「前々から思っていたんだがお前を含め此処に居る奴等は勘違いをしている、俺は同情をして行動したんじゃない、今までやって来た行動は俺の為にやった事

決して人の為ではない、言って置くがこれは謙遜や照れ隠しなんかじゃない、本心だ。これは俺の本心、偽りは無い」


「お前の為と? 普通自分の為に行動するなら自分が有利或いは裕福になる為に行動をするものだ。なのにお前はそうじゃない、今までの行動でお前の利になった事なんてないじゃないか」


「人の目を引く為に善行するのは御免だし金の為に心を殺しなんだってやるのだって御免さ、俺はな俺が気に入らない事が嫌いなのさだから俺の気に入るように捻じ曲げる、それがどんな無法な方法だろうがなんだろうが関係無い、知った事か、それが俺なんだ。勘違いしないでくれよ、出会って間もない子供に”感情移入”して盗賊を狩りに行ったり、どこの女かも知らない様な奴に”同情”して人を殺す。なんて事はありはしないんだ。そりゃ当たり前だよな? なんせそいつらの事を知らないんだからな、知り合い未満の奴らに同情なんて俺には無理だぜ」


「……同情では無かったら何だ? 気に入らなかったからと言っていたが……」


「そのままだ。あの盗賊共もあの男も俺が気に入らないと思ったから死んだ。そう言う事さ」


「気に入らないから殺した……か」


「お前も自分の出生について話したんだ。これはその返しだ。一応お前と俺は相棒なんだからな、俺の事も知って貰わなきゃ多少は困る、よろしく頼むぜ? 相棒さんよ」


とジョンは震える右手を差し出す。


「あぁ、宜しく頼む、ジョン」


メイヴィスもその手に答えしっかりとジョンの右手を掴む




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