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ギクシャクコンビと姉妹と上司と部下


 カランダーンから強制的に「ジャック」の捜索を頼まれそれを渋々承諾その上、監視役兼相棒としてメイヴィスを押し付けられる……

そしてカランダーンに山を追い出され今屋敷の部屋で途方に暮れている

カランダーンは確かに彼女が管轄している地帯にジャックが潜伏していると言ってはいたがその彼女の管轄する地帯というのが広大で大した手掛かりになっていないのだ。


「メイヴィス……取り敢えずカランダーンが管轄している地帯で一番人の多い場所は何処だ?」

「それは勿論エスカルドの都市だろうな」

「先ずは都市にでも行ってみるかな……何か手掛かりがあればいいが」

「……まぁその、気を落とすな我も一緒だ。一人で悩まず二人で悩もう」

「そいつはそいつは有難いな、だが俺は一人が好きでね今は部屋から出て行ってくれないか?」

「そう言うな一緒に楽しく――」

「お喋りなんて出来ないぞ」

「……酷い事を言わないでくれ」

「お喋りしたきゃ別の奴を探すんだな、俺はお前と楽しく話したくなんか無い」


メイヴィスはジョンのベッドの上で座りながら頬を膨らませる


「何だ何だ、そんな事を言わなくたっていいじゃないか! 酷いぞ! お前は」


「出て行く気は無さそうだな……」


「何故そんなに他者を拒絶する、我は此処でお前の事をずっと見ていたがずっとその調子じゃないかそんな事ではいずれ後悔する事になるぞ」


「友達百人出来なくて老後寂しく暮らすハメになり最後は寂しく孤独死を迎える事になるから後悔すると言いたいのか? だったら安心してくれよ、それは無い」


「マリアやナサル達はお前に歩み寄ってくれているのにお前はそれを無下にする、人と仲良くなる事に恐怖でも持っているのか?」


「お前は俺の母親か? 人と仲良くならない理由なんて人それぞれだ。構うなよ」


「お前を見ていると心配になるんだ。お前は悪い奴じゃない、人の痛みが分かる良い奴だ。だから不幸な道には行って欲しくない」


「ありがとよママ、お節介此処に極まれりと言った所だな、俺がどんな道を歩もうが俺の勝手だ。お前に指図される謂れはない、止めだ、この話は止め、楽しい話を――」


「逃げるでない! いいか!? 人というのはだな……」


そこからメイヴィスの説教が一時間つづく、最初はメイヴィスに反論をしていたジョンだった無駄だと悟り、今では黙って大人しくメイヴィスの説教を聞いている


(こいつと居たらその内、俺はストレスでハゲて死ぬ)


そう確信するジョン

メイヴィスはジョンを案じて説教をしているがジョンにとってはとんでもないお節介


「我だってこんな事は言いたくないさ、楽しくお喋りしたいと思っている……」


「無理だな、お前と俺が出来る会話はそんな会話じゃない、何回も何回も言わせるなよ、同じ事を何回もループさせるのは立派な老人の特徴の一つだぜ」


「我は軽く千歳を超えている、老人で結構」


「俺が何故独りぼっちなのか? なんて考えるよりもっと楽しい事を話そうぜ? 例えばそうだな……お前の出生についてとかな、これから俺達は組んで仕事をするんだ。俺がお前を理解する為にもアンタの事について知って置きたい」


「全く、勝手に話しを逸らしおって……まぁ良い、隠す必要も無い、さて何処から話そうか……我はここからずっと遠くにあるサリアネ島というとても小さな島国で生まれ育った。そして我が三歳の時、我はカーヌ神の巫女となったのだ」


「お前巫女だったのか? いや待てそれ以前に巫女に”なった”と言っていたよな? 巫女というのは生まれで決まる訳じゃ無いのか?」


「巫女に生まれは関係無い、その地帯を管轄している神がその地帯で一番気に入った人間を巫女や巫に選ぶ、そしてその巫女が死んでしまったり神がその巫女の事を解任したりした時また新たな巫女を神が選ぶ」


「巫女の数は基本一人なのか?」


「そうらしいな、法律で決まっているらしい」


「あぁ、そう、悪いね話しが脱線した。戻してくれ」


「カーヌ神の巫女になって五年が経った時の事だ。彼女は我を溺愛する余り我を彼女の力で不老不死にしてしまったのだ」


「それで今のお前が生まれたと?」


「不老不死の他にも力を授かったがな……」


「それは神様の法律的にはセーフなのか? どう聞いてもアウトな気がするが」


「勿論問題だ、カーヌ神は法によって裁かれ今でも地下深くの牢獄に閉じ込められているらしい」


「ふーん、まぁどうでもいいな、お前の出生やっぱどうでも良いわ、興味無し」


「な、なんだそれは! お前が話せと言ったのだろう!?」


「その結果、「どうでも良し」という結論に至った訳だ。お前が巫女だった事、神に力を与えられた事その二つを知って置けばお前の人生の全てを知った様なものだぜ、その他の情報の必要は無し」


「ま、待て! その他にも色々とあったんだぞ! その二つを知ったぐらいで我の人生を知ったような口を叩くな!」


「自分の人生が然も高潔で素晴らしいものと思いたいのは分かるぜ? 誰だってそうさだが人を惹き付けるような人生を脚色無しで送れる奴なんてそうは居ない、そう落ち込むなよ!」


「落ち込んでなんておらぬわ!!」




 ジョンとメイヴィスが語らっている頃、イロコルーナ広場ではナサルとエルが二人で前日遺体で発見された女性を殺した犯人についての調査を行っていた。


「先輩はあの三人の事疑っているんですか? ボクはあの三人が犯人とは思えないんですけど……」

「怪しいのは事実だ。彼女達の形振りで犯人かどうか判断しようとするな証拠を探せその為に此処に来たんだろう?」

「それはそうですけど……」

「エル、どうしたんだ? そんな暗い顔をして? 気分でも悪いのか?」

「べ、別に何もありませんよ?」


明らか何かあるリアクションでそう返すエル


「嘘をつけ、どうした? エル」

「何でもないって言ってるじゃないですか!」


ナサルは行き成りエルに抱きつく


「ここには誰も居ないぞ? 安心して打ち明けろ」


優しく母親のようにエルの耳元で呟くナサル

顔を真っ赤にし口をパクパクとさせるエル

エルの美しい桃色の髪を撫でる


「な、な! な!! 何をするんですか!!?」

「ん? 何だ。恥ずかしがっているのか? 前はよくこうしていたじゃないか」

「それは部屋の中でじゃないですか! 外では止めて下さい! 恥ずかしいです!」

「誰も周りには居ないと言っただろう?」

「……も、もう、いつも赤面するのは先輩の方なのにこんな時だけなんで強気なんですか?」

「困っている後輩を見捨てられる訳ないだろう?」


彼女もとんでもなくお節介な人間の一人なのである

エルとナサルは木陰に座り、エルが語り始める


「ボク剣を握ると震える様になったんです。剣を握ると先生と戦った時の記憶が蘇ってしまって……あの日から何だか調子が悪いんですよね、訓練にも集中出来ないですし……」


エルのプライドがポッキリと折られた時の話だ。エルは普段おちゃらけるが根は真面目な性格をしている、人から暴言を言われれば茶化して何とも思っていない様に振る舞うがちゃんと傷ついている、結構デリケートな性格で布団の中では悪い事ばかりを思い出してしまってなかなか眠れなくなる


「今までは気にしていないフリをしていた訳だな?」

「……そんなハッキリ言わないで下さいよ、恥ずかしいです」

「ふふふ、そう恥ずかしがるな、誰だってそういう部分はあるさ私だってある」


エルがナサルに寄りかかる


「先生もボクに酷い事ばっかり言うんですよ? ボクだってちゃんと傷付くんですよ? ボクを人形か何かだとでも思ってるんですか?」

「それはいけないな、私からも注意して置こう」

「……止めて下さい、それは何だか先生に負けた気がして嫌です」

「そうか、余計な事を言ってしまったな」

「いえ、いいんです。昨日先輩に怒られた時も結構ショックだったんですよ?」

「それは済まなかったな……私も言い過ぎた」

「ふふ、いいんですよ、お館様の前だったから私に強く言ったんですよね? それ以上私に矛が向かない様に……分かってますよ、だって先輩優しいですから」


ナサルはエルを妹の様にエルはナサルを姉の様に慕っている、そんな関係

甘い空気が二人を包んでいる……そんな事を他所に赤い花は呑気に揺れる、殺し合いの中でも甘い雰囲気の中でも彼等は関係無く揺れる


「さて、捜索を再開しようか、エル立てるか?」

「はい! もう大丈夫です! ありがとうございます。お姉ちゃん」


エルは孤児、家族の様に接してくれるナサルがどれ程ありがたいか誰にも分からないだろうが彼女はそれを抱きしめナサルの後を追う



ジョンとメイヴィスがギクシャクしエルとナサルがいい雰囲気になっている頃ファングとジークは二人で地下をパトロールしていた。


「まだやるんすか? もう何も見つかりませんって……」


ファングがそう言うのも無理は無いのだ。同じ所を十回も回っていてはウンザリしてくるのが当たり前


「分からないだろう? もしかしたら何かあるかもしれない」

「……俺眠いんすけど」

「眠気覚ましにでも私の歌でも聞くか? いいぞ、歌は」

「遠慮して置きます」


ファングの意見を無視し歌い始めるジーク

眠たそうな目でそんなジークを見るファング


「美少女の歌声ならまだしもおっさんの歌声を聞かされても、萎えるだけなんで止めて下さい」

「そんな~冷たい事を言わないでくれ~♪」

「やっぱ、このおっさんキツイわ……」

「キツくなんてないぞ~♪」

「まったく……」


呆れ果てるファング

歌はそれから十分程続いた。


「スッキリしたな」

「アンタだけな」

「ファング、そうカリカリしない事だ。カリカリしても良い事が無いぞ」

「アンタがそうさせてるんだろ?」

「フフフ、そうだな、ファング聞いても良いか?」

「何スカ?」

「フレデリックの事だ」


「フレデリック」あの盗賊の長の名前が出た途端、ファングの緩みきっていた顔が引き締まり、ジークの話を聞く態勢になる



「そういえばあの人とは同期なんですっけ?」


「同期とは言っても軍学校を出てからはあまり会う事も無かったがね、彼の最期はどうだった?」


「……軍学校ではどんな仲だったのかは知りませんが知らない方が良いですよ」


「聞きたいんだ。聞かせてくれ」


「剣を持たない一般市民を喰い、殺し、最期は笑って死んでいきましたよ、笑ってね」


「……そうか、ファングも知っているだろうが奴は愛国心の強い男だった。国の為民の為、戦場を君と一緒に駆け巡った。そうだろう?」


「あの頃の俺は国や民の事なんてどうでも良かった。国や民を一番に思っていたのはあの男さ……」


「私とフレデリックは軍学校では犬猿の仲でね、あの男は私のちゃらんぽらんな所を気に入らなかったらしい、私も勿論あんな暑苦しい男は嫌いだった。

よく学校の中庭で喧嘩をしたものだ」


「アンタが喧嘩する所なんて想像が付きませんね、で? どっちが勝ってたんですか?」


「いつも決着は付かなかったなぁ、まぁ、私が逃げ回って奴をおちょくっていたからだが……まともに正面からやり合ったら魔法を禁じられている校内では私に勝ち目は無いしね、君も私達と同じ軍学校を出ていただろう? 聞いた事は無かったかい? 中庭で行われた数々の激闘の鬼ごっこの話を」


「そう言えばそんな話聞いた事あったかもしれませんね……中庭の銅像を壊して教師全員から怒られたとか……」


「そんな事もあったねぇ、懐かしい良い記憶だ」


「なんで、あんな事になっちまったんでしょうかね? 国を愛していた筈なのにそれが最期には盗賊になり民を意味も無く殺す殺人鬼になっちまうなんて……」


「戦が奴を変えたんだろう、あの戦争で気をおかしくした兵士も少なくない、此処に居る何人かもその内の一人だろう、だからこんな辺境へと飛ばされた」


「アンタもそうなのか?」


「恥ずかしい話だがその通り、酒を飲まず眠れない日は無い」


「そうか……俺だけじゃ無いんだな」


「そうさ、仲間が居る」


ファングの肩を叩くジーク


「仲間ねぇ」

「私が仲間じゃ何か不満か?」

「いいや全く、心強いったらありゃしない」


照れくさそうにファングはジークにそう返す。











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