雑用騎士
プレゼントかぁ、何が良いのかな? ジークの言った通り、お花とか? ならどんな花が良いのかしら……う~ん、父様は黒色の花とか似合いそう、お母様はピンク色、ネルヒムは白かしらね? ネルヒムの花とお母様の花はすぐに見つかりそうだけどお父様が難しいわね、黒色の花なんて珍しいものね、今の季節に咲いている黒い花……聞いた事無いわね……ナサルにでも聞こうかな?
ナサルに再び会いに焼却炉前まで向かう、しかしナサルは居なくなっていて変りにファングが立って居た。
「お! お嬢様、どうかしたのか?」
「ナサルに会いたいのだけれど何処に行ったか知ってる?」
「いや、俺も知らん」
「そう……ファング、貴方花には詳しいかしら?」
「花? いや全く分からん、花を鼻に突っ込んで遊んだぐらいの記憶しかないぜ」
なんて事に花を使ってるのよ……
「そんな事してたの?」
「あぁ、なかなか楽しいぜ? お嬢様も一回やってみな」
「嫌よ」
「でもマリアちゃんがそれをしたら面白そう」
と私の後ろでクスクスと笑うジェシカ
「やらないってば!」
まったくもう!
「そんなむくれるなよ、お嬢様」
「そうだよ、冗談だよ」
クスクスと笑いながら二人が言う
その頃ジョンとナサルの二人は雑草掃除を一通り終わらせたので次に屋敷の中の掃除を行っていた。普通、掃除は使用人等がやるもので騎士がやる仕事では無い雑草抜きも同様、だがナサルは処罰が下される前から掃除や雑草抜き等の雑用に慣れていた何故かというとこの屋敷は諸事情により使用人がジョン、ガルス、バーグしかおらず、この屋敷を警備している騎士も暇な時は屋敷の掃除や雑用を手伝っていたのだ。
「高そうな壺だな」
「割らない様に気を付けるんだぞ」
「そう言われると割りたくなるから言わない方がいいぞ」
「お前は子供か……」
「よく言われる」
ジョンは壺の置いてある机周辺の埃を箒で取り始める
すると、マリアの母親のリリがジョン達に話し掛けて来た。
「あら、ご苦労様」
「奥様、おはようございます」
「どうも、奥様」
「ジョンにナサル二人共おはよう、御免なさいね、貴方達だけに掃除なんてさせちゃって……」
「いいえ、これも私達が蒔いた種ですから」
「二、三日間居なかったぐらいで処罰なんて厳しすぎるわ、それに貴方達はサボっていたのでは無くジェシカちゃんの為にこの屋敷を抜けだしたのでしょう?」
「いえ、お館様には感謝しています。この処罰は甘すぎるぐらい甘い処罰です本来なら……こんなものでは済みません」
「そう言ってくれるのは有難いのだけど……人の為に尽くしてこんな結果では報われないじゃない」
「報われるなんて思ってやった訳じゃありませんよ」
とジョンが言う
「……ジェシカちゃんの為って事かしら?」
「いえ、違います」
「じゃあ、何の為に?」
「お答えするようなものではありませんよ、奥様、詰まらない人間の詰まらない理由ですよ」
「そう言われると益々気になるわね……」
「人生には分からない事の一つでもあった方が楽しいものですよ」
「そういうものかしらね」
とリリが不満そうにジョンにそう返す
「あぁ、後マリアお嬢様の事なんですけど」
と今度はジョンがリリに質問を始める
「マリアが何か迷惑を?」
「違います。マリアお嬢様と最近話してます?」
リリはバツが悪そうな顔をして言う
「いえ、最近話し掛け辛くなってしまって……」
「何故?」
「夫が近くにあるマリアの誕生日に私達三人一緒にプレゼントを都市の方で選ぶという約束をしていたのだけれど……夫の用事があって行けなくなってしまったのよ、それでマリアとちょっとした口喧嘩をしてしまってね、その後にマリアも気を失ってしまうし仲直りも出来ずそれから話し掛け辛くなってしまったのよ」
「成程、そんな事言ってましたね、で? その館様の用事とは何なんですか?」
「聞いていないわ、聞いても答えてくれないもの」
「そうですか、貴重な情報をどうもありがとうございます」
「貴重な情報だったらいいのだけど……ジョン君にはあまり関係無い話よ?」
「ですね」
とジョンは言い、掃除に戻る、首を傾げるナサルとリリ
昼の休憩時間、その時ジョンはローラに会っていた。
「アンタも知らないのか?」
「うん、知らないよ、館様の用事の事は、何でそんな事知りたいの?」
「気になるから、俺は一回気になると真相を確かめたくなって仕方なくなるんだ」
「知らなくていいよ、人生は疑問の一つでもあった方が楽しいものだよ」
「まぁそれもそうだな」
と不満げに頭を掻きながらローラの元を去って行くジョン
その後ろ姿を見て何か嫌な予感を感じるローラ
(何だろう? この胸騒ぎ……)
ローラの次はガルス
「いやぁ、私も知りませんな」
「先輩なら何か知ってるかもと思ったんですがね」
「お役に立てず申し訳ない」
と一礼するガルス
「止めて下さいよ、先輩にそんな事されても嬉しくありません」
(主人の用事を誰も知らない? そんな事あり得るのか? いや無い、という事はこいつ等は俺に嘘を付いているという事だ。まぁ、部外者にそう簡単に教える訳無いよな、俺自身が極秘に調べるしかないか、しかし厄介だな魔法がある御蔭で何にどう警戒すればいいか分からねぇ、前の世界とは勝手が違う、あぁ、そういえばこういう時に便利な奴が居たな)
エルに会いにエルの部屋まで行きノックをする、暫くして扉が開く
「あ、先生! どうかしたんですか?」
ジョンがエルに向かって人差し指をくるくると回すこれは周りに”聞き耳”を立てている奴が居ないかを確認しろという合図である
エルはそれに首を振って答える、これは聞き耳無しという事
「部屋に失礼させて貰うぞ」
「え!? ちょ、ちょっと待って下さい! 女の子の部屋に勝手に入ろうとしないで下さい!」
「あれ? お前そういう事気にするタイプ? そこら辺はオープンなのかと思ってたぜ」
「ボクを何だと思ってるんですか……」
「じゃあ何処でも良い何処か人目のつかない所に行こう」
「えぇ、ボクに何する気なんですか? 先生のエッチ~」
「ド助平で失敬」
「え? 本当にボクに何かする気なんですか?」
「んなわけあるか、ジョークに決まってんだろ、ジョン特製ジョーク」
エルは自分の身体を自分の両手で抱き、恰も性犯罪者かの様にジョンを見る
「イヤン」
「その仕草でイヤンと言うな! 嫌な記憶が蘇る!」
嫌な記憶とはミランダの全裸の事である
「じゃあもっと言います」
と言いエルはジョンに寄りながらイヤンイヤンと繰り返す。
最終的にはジョンがエルの首を絞め、エルを黙らせる事に成功する
そしてエルが大人しくなった所で二人は誰も居ないジョンの部屋に向かう
「で? 何ですか? 先生」
「もしこの屋敷の中で隠密に何か事を起こしたいとなったら何に一番気を付けるべきだ?」
「え? 隠密ですか? ど、どういう事でしょうか?」
「そこは気にするな」
「え、えぇ~と、よく分かりませんが……まぁ、この屋敷を警備してる私達でしょうね」
「その中で一番厄介なのは誰だ?」
「副隊長ですね、索敵魔法は一番得意なハズですよ、次にバーング先輩、今は研究に夢中で索敵どころじゃ無いでしょうけど」
「副隊長はジークの事だよな? ジークはどんな魔法が使えるんだ?」
「え~と前に言っていた遠くの音を拾える魔法とか……あとはう~ん」
言葉に詰まった後「テヘッ」と言い放ち
「ボクも実をいうとあまり知らないんですよね、副隊長の魔法」
「マジかよ、まぁいい、じゃあ、次だ――」
質問は続く
アーロックの執務室のドアには鍵が掛かっている……だがこの世界の鍵はジョンの元居た世界の鍵とは違い鍵がなくとも容易く開く
まずジョンは執務室の扉の鍵をピッキングで開け、侵入、今はアーロックも不在、ジークの魔力の気配も無し、何故分かるか? 隣にエルが居るからだ。
「やっぱ不味いですよ! こんな事止めましょう!」
「いいから黙ってろ、今捕まったらお前もただでは済まないぞ」
「ひぇー! 脅しですか!? ボクを脅すんですか!?」
「分かってるなら口を閉じろ」
アーロックの机まで来る、机の上は綺麗に片付いている、机の引き出しの一段目を開く、中には何個もの人形が入っている
「……関係無さそうだな、何でこんな物机に入れてるんだ?」
「さ、さぁ? それより何を探してるんですか?」
「何だと思う?」
引き出しの二段目を探り始めるジョン
「これじゃあまるで泥棒みたいじゃないですか……」
「まるで? 情報を盗んでるんだから、まるでも何も本物の泥棒だぜ、俺達」
「……」
「何、顔を青くしてるんだよ……」
そして三段目の引き出しにてようやくジョンはお目当ての物を発見する
それは住民からの依頼等、仕事の内容が書かれているメモ
終わった仕事には横線が引かれている
「分かりやすい物が有って助かるな、えぇ~とどれどれ」
「そ、そんなの見つけてどうするんですか?」
「ちょっとした好奇心さ」
「?」
そのメモの下あたりに新しく追加されたであろう仕事が書かれている
東のイロコルーナ広場にて謎の笑い声、調査必要、と書かれていた。
「エル、イロコルーナ広場ってのは何処にある?」
「そのメモの通りに東にあります。東の森を歩いて一時間ぐらいで広場に出る筈ですよ、イロコルーナが咲き乱れてますからすぐ分かりますよ」
「笑い声ねぇ」
「それボクと副隊長で調査に行ったんですけど結局何も見つからなかったんですよね」
「調査には行った訳だな、でも横線を引かれていないという事はまだ調査をするつもりって事だよな」
「でしょうね、村の子供達がナサル先輩とよくそこまで行って花を摘んで来る事もありますし」
「ナサルが居れば心配要らないんじゃないか?」
「幾ら先輩でも子供を庇って戦うのは厳しいですよ、それに笑い声というのがこの依頼のネックなんですよね、先生、グローって知ってます?」
「いや、知らない」
「グローと言う悪霊の名前なんですけどね」
「悪霊……?」
「えぇ、悪霊です、見た事無いんですか?」
「お前は見た事あるのか?」
「ありますよ、戦場後とかに大量に沸きますからね、悪霊は見つけたら除霊しなきゃ近くに住む人間を殺してしまったりしますから」
「悪霊を見つけたらどうすりゃいいんだ」
「除霊しなきゃいけません」
「どうやるんだ?」
「先ずは塩を用意して塩を投げ掛けるんです。そうすれば大抵の悪霊は除霊出来ます」
「投げ掛けるのか? 除霊ってのはもう少し神聖なやり方でやるのかと思っていたが……」
「でも今回の悪霊はもしかしたら塩程度ではどうしようも出来ない可能性があるんですよ」
「へぇ~どういう事だ?」
「悪霊というのは死んだ人の未練等が現世に具現化した者なんです。未練が強ければ強い程除霊は難しくなります」
「塩程度で除霊出来る悪霊は未練が弱いという事だな」
「そうなります。で、強い悪霊になるとその未練を晴らしてあげる必要があるんですよ、勿論未練というのは各々違いますからその対処法も変わってきますからどうすれば良いというアドバイスは出来ません」
「へぇ~でその広場に居る悪霊は未練が強いのか?」
「塩で除霊出来る悪霊をグラと呼びます基本形は丸い火の玉の様な感じです。そして次にさっき話したグロー、グローはその未練を残して死んだ動物の形ソックリに現れますそして最大の特徴はずっと笑っているという事です」
「そりゃ随分と気持ち悪いな、で、笑い声を警戒しているという訳か、イタズラとか気のせいって事は無いのか?」
「悪霊の性格は基本凶暴ですから、早めの対処をしなくては大変な事になってしまうのですよ! イタズラや気のせいだったとしても見逃せません」
「ふ~ん、相当厄介みたいだな」
「まぁ過去に悪霊に国を滅ぼされたケースもありますしね」
ジョンは次の項目に指を移す。
「アルフ家の盗難事件、だとさ」
「そうそう、アルフさん家の家宝が盗まれちゃったみたいな話は聞きましたね」
「急遽追加された仕事は取り敢えずこれだけみたいだな」
「何で分かるんです?」
「この二つの項目だけこの机の上にある筆ペンでは無く別の物で書いているしこの二つに項目だけちょっと雑に書かれている、書いている時忙しかったか苛ついたかしたんだろう、急遽仕事が入れば誰だって苛つくものさ」
「そんなもんですかね?」
(マリアお嬢様の誕生日に付き合えなくなったのはこの二つの仕事の為か? それとも別の誰にも言えない様な秘密の用事か? もう少し部屋を探ってみるか……)
「次行くぞ次」
「えぇ、まだやるんですか……?」
しかし結局それ以外の手掛かりも見つけられず退散する二人
エルは訳も分からずそのまま部屋に戻され不満顔




