針山の中の真実
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村外れの森の中を走るジョン、その背中にジェシカ、彼女が朧げながら道案内をする
「本当にこっちで大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思います」
「思います……ね、心強い一言だ事で……」
そこで前方に影が見える
「おっと」
立ち止まるジョン、そして隠れる
「隠れる必要は無いぞ、ジョン」
女性の声が聞こえる
「なんだ、やっぱりバレてたのか、ナサル」
そう、正体はナサルその隣にファング
「お嬢様の演技くらい分かる」
「ふーん、で? どうするつもりだ? 二人で俺を止めるか?」
「……そうさせて貰う」
ナサルが構える、隣のファングは腕を組み何やら考えている
「そちらは戦わないのか?」
「どうしたんだ? ファング」
ファングはジョンの方に歩き、ナサルに剣を向ける
「な!? どういうつもりだ!」
「悪いな、俺は……こっちにつく」
「何故だ!」
「俺も聞きたい所だ」
「親の生死も何も分からないまま生きるのがどれだけ辛いか……俺には分かる」
「だから……だから私に今日は大人しくついて来たんだな? 私を止める為に……」
「そうだ、俺はその為に此処に来たんだ」
二対一、だがナサルは引かない
「お願いだ。引いてくれ、俺だってアンタと戦いたくない」
「黙れ、貴様は裏切ったんだ、戦う覚悟ぐらいして置け、甘えるんじゃない」
「なら……仕方ねぇよな」
双方再び構える
「おっと、お前ら止めて置けよ」
それを止めるジョン
そして背中に乗っているジェシカを降ろし、首にナイフの刃を当てる
「きゃ!?」
「な、何をしている!?」
「どういうつもりだ!?」
「分からないのか? それ以上間抜けな事をしているとこいつを殺すと言っているんだ」
「な、何?」
「ナサルよく考えてみろ、お前らが此処で戦って消耗し合ってどうする? これからの盗賊との戦いをどうするつもりだ? お前らが万全の状態で戦いを挑めば俺達が勝つ可能性も高まり尚且つ犠牲者も出ないかもしれない、なのにお前らは戦おうとしてる、負ける可能性を上げている……だから俺が止めるんだ、こいつを使ってな」
「止めろ!」
「だったら剣を収めて、俺について来い、こいつが生き残るにはそれしか無いぞ、それとも殺したいのか?」
「お、おい冗談だろ?」
ジョンの眼は冗談とは言っていない
「冗談だと、本気で思うのか? なら剣を交えれば良い」
「さぁ、やれよ」
「さぁ!!」
剣を収める二人
「それで良い、それでな」
「……」
「……」
「あとジェシカお前にも言って置く事がある」
「……どうしたんですか?」
「前にも話した通りお前の父親が生きている可能性は低い、それでも行くか? 真実を見る勇気はあるか?」
ジェシカは目を瞑り考える、実際ジェシカは予感していた父の死をだがそれに恐れおののいて進まないのは視ないのは御免だ。それが彼女の決断
「行きます、行かせてください」
「そうか、なら行くぜ」
ジェシカをおぶり、ジョンは進む、仕方なく後を追う二人
「で? ここを真っ直ぐで良いのか?」
「はい、大丈夫です」
そんな二人を見ながら黙ってついて来ていた二人、黙って一時間程経つ
「……聞いていたが、本当にとんでもねぇ奴だな、アンタ」
とジョンにファングが言う
「少女を使って脅すのはそんなとんでもないか?」
「とんでもねぇよ」
「あっそ、まぁいい、それよりアンタの話を聞かせてくれよ、ファングだっけ? お前の親も行方不明になったのか?」
「……俺が五歳の頃、俺の両親が戦争に出掛けたまま帰って来なくなったのさ」
「それっきり?」
「あぁ、そのまま二度と俺の前に姿は現さなかった」
「ふーん、そう、だからこいつの気持ちが分かると?」
「状況が違うが……だが家の前でいつか帰って来るかもしれない両親をずっと待つよりも真実を知った方が良い、余計な希望を抱かずに済むからな」
ジェシカが不安で手に力が入り、震える
「不安だろうな、真実を知れば絶望するかもしれない、だがどれだけ絶望したって知る価値がある事だ。今からお嬢ちゃんの知る事はそれだけ大事な事なんだ。それだけは知って置いてくれ」
「だとよ、俺には分からねぇがな」
「ジョン、お前はどうしてその子を連れて行こうと思ったんだ?」
「俺? なんでだと思う?」
「俺だけ言わせてお前はだんまりかよ! ズルいぞ!!」
「知るかよ、お前も言いたく無きゃ言わなければ良かったんだ」
「ケッなんだよ」
不機嫌そうに腕を組むファング
ジョンも動機はほぼファングと一緒であった。彼は親の顔も知らず生きて来た人間、何人でどんな人間だったのか? 何処で消息を絶ったのかも知らず
気が付いた頃には砲弾と銃声と地雷原の真ん中に居た。それが彼の人生の始まり、戦場は故郷でもあり親である
森の中を歩き始めて真っ暗だったあたりは日が当たり明るくなり、太陽は昇り沈む、そして再び闇、休み無しで歩き続ける三人、会話は無い、兎に角進む
そして四人は見つける、人間の頭蓋骨が刺さった真っ直ぐ立つ棒を
「これは……」
「警告だろうな、此処に近付くなって事だ」
「こんな警告の仕方は無法者しかしまい」
「つまり……」
「盗賊……ようやく見つけたぞ」
「パパ……」
「罠には気を付けろよ」
「分かっている」
足を進める三人
ここからは隠れながら移動する――
「お前ら、何してるんだ?」
「ひ、ひぃ……こ、これは」
「まさか逃げようとしてたんじゃないよな? ここから、このパラダイスから」
ジークは檻に入れられた二人の男にそう言う、檻の周りには多数の盗賊達、ジーク達にとってのパラダイス、彼等にとってのインフェルノ
「お願いだ、荷物は全部やっただろ!? 俺達はどうでもいいはずだろ!?」
「どうでもよかったらこんな檻を態々作ると思うか?」
「俺達をどうするつもりだ?」
「どうするつもりか? お前等には決闘士になって貰う」
「な!? どういう事だ!?」
檻の中に二本の剣を投げ入れる
「お前等二人で殺し合え、勝った方を逃がしてやる」
「……」
檻の中の二人の男は二本の剣を挟み黙って目を合わせる
「今から十秒以内に殺し合わなきゃ俺達がお前等の全身の皮を剥いで殺す。勿論手を抜いて戦っても同じだ」
檻を囲んでいる盗賊から罵倒が飛び交う
「さっさとやれ!!」
「殺されたいのか!!」
「お前達はお互いの名前もよく知らない仲だ。遠慮は要らない、存分に殺れ」
罵倒の中二人の男は剣を取り……恐る恐る近付き、剣を振る、が双方の剣は空振り剣の重さに振り回され双方転ぶ
「何やってんだ!!」
「ふざけんな!!」
激怒する盗賊、檻の中に石を投げる
そんな中、彼等は死闘を繰り返す。涙しながら
しかし次の瞬間、盗賊達の膝まで伸びている草が凍り、靴と地面が氷でくっつき、盗賊達の足を捕える、裸足だった盗賊は足が紫色に変色し絶叫、倒れる
「あ、足が!?」
「な、なんだ!?」
「こいつは……魔法だ!! 全員戦闘準備!!」
ジークが剣を抜き仲間にそう喚起する
だが遅かった。次の瞬間、盗賊の内四人が悲鳴も上げず血を流し倒れる、流した者は黒髪の騎士と赤髪の騎士
「なんだテメェら!」
「今から死にゆく者に教える必要があるのか?」
「……おいおい、マジかよ!」
ジークのみが此処で歓喜の声を上げる
「久しぶりじゃねぇか、ファングそれにナサル」
「……隊長」
「本当にフレデリック……何だな、嘘だと思いたかった」
「何だよ久しぶりの再会だってのに冴えない顔して、おい! みんな、紹介するぜ、この赤髪はファング俺の元部下だ。でこのキツい目の女がナサル、俺の元同僚だ」
「アンタはアレーメアとの戦争で死んだハズだ……!」
「酷いぜ、正確には行方不明だろ? 俺は爆発に巻き込まれて行方不明になった。まぁ死んだと思われても仕方無いがな」
「何故、生きているのに戻って来なかった!」
「戻る? 何処へ? もしかしてエスカルドにか? 馬鹿言うなよ、また病人扱いされるのは御免だぜ?」
「病人……?」
「おいおい、知らない事ないだろ、あの壁の中でのうのうと暮らしている奴等が言ってるのさ、何処の国も同じだが帰還兵を最初は優しく迎え入れるフリをして俺達のご機嫌を取るが俺達が用無しだと分かった瞬間のアイツ等のあの目を知らないとは言わせねぇぜ? 哀れみと蔑みの目で俺達を見た後言うんだ「アイツ等は狂ってる」ってな、それでそんな事を言ったソイツらが戦争で死んだ奴の名前が書かれたただの石に手を合わせて善人面しやがるんだ。そいつ等がどんな惨めな死に様だったかも知らずにな」
「何言ってやがる……!」
ジークは続ける
「アイツらは影で俺達を病人だと言って悪人になり、そして表で”ただの石”に手を合わせ善人になる、そんな奴等を見てると俺はウンザリするんだ。「またか」てな
アイツ等は狂ってる」
「狂ってるのはアンタだろ!!」
「俺が? 狂ってるって? マジで言ってんのか? え? おい! ファング! お前になら分かると思ったんだがな」
「分かるかよ、アンタ感謝されたくて戦争に行ったのか?」
「……そうだったな、お前は復讐の為に戦ってたんだったな、アレーメアはお前の両親の仇だったんだからな……!」
「……」
「おい、何だ? 黙ってるなよ、もっと話そうぜそうだ、酒でもどうだ? いい酒があるんだ」
「何故アンタは盗賊なんかになったんだ!」
「はぁ? 言っただろ、ウンザリしたんだよ、平和にな、だから俺達は破壊を選んだ」
「もういいだろうファング奴はもう昔の奴じゃない」
「はっお前等も物好きだね、未だに国に仕えてるのか? 何の為に? 民の笑顔の為? アイツ等の? 目を覚ましたらどうだ?」
「覚ますのはお前だよ、フレデリック」
剣を持ち対等する二人
「はっ少しはマシな構えになったなファング」
「……」
「ダンマリか、おい、戦闘に備えてお前等足元を慣らしておけ」
彼の名乗っていたジークは偽名、本名をアルクス・フレデリックと言う
「おい、ファング、提案がある」
「何だ……?」
「俺とお前サシで勝負しないか?」
「何だって? どういうつもりだ!」
「俺もこいつ等も素人の戦いを見るのはもう飽き飽きしててな、そろそろプロとプロの本気のぶつかり合いを見せてやりたいじゃねぇか、なぁ? オメェ等も見てぇだろ?」
アルクスの後ろから歓声が上がる
「ふざけた事を――」
「勿論! タダでとは言わない、お前が俺に勝ったらこいつ等は自分で自分の首を斬る、いいよな? お前等?」
「いいぜ、アンタが居なくなったらまたつまらねぇ頃に戻らなくちゃならないんだからな、それなら死んだ方がマシだ」
「俺もだ!」
そう言って全員がそれに賛成する
「なんて奴等だ……」
「どうだ? 俺に勝てばこいつ等と戦わなくてもこちらは勝手に自滅する、いい話だと思うが……それにファングお前も俺と決着をつけたいだろ?」
「そんな事の前に聞きたい事がある」
「あ? 何だ?」
「三日前に此処に旅商いの親子が捕まったハズだ」
「……あぁ~成程お前等あのガキに言われて此処にやって来たんだな? あのガキの親父の事だろ? ソイツならほら、此処に居るぞ」
とアルクスは腹を摩る
「……ど、どういう事だ!? まさか……喰ったのか!?」
「ガキには宜しく伝えて置いてくれ、此処から出られればの話だがな」
アルクスが不気味な微笑みを浮かべ構える
「そこまでに……そこまでに成っちまったのかよ! アンタは!?」
ファングがアルクスに怒りをぶつける様に斬りかかる、それを簡単に躱し、アルクスは反撃する、剣の実力はアルクスの方が上、力強い剣捌きに翻弄されるファング
盛り上がる会場、ファングの不利を視て唇を噛み締め血を流すナサル
「おい! そんなもんか!? えぇ!?」
とアルクスが言った瞬間、アルクスの横腹に激痛が走る、その激痛でアルクスは怯み、その隙をファングは見逃さず、反撃に出るが躱され蹴飛ばされてしまう
お互いに剣の届かぬ位置まで間が広まり、考察の時間が生まれる
腹部を摩るアルクス
(な、何だ? 今のは? 激痛……気のせいじゃない血が出ている、何かが俺の横腹を貫通しやがったんだ! だが何だ? 何が俺の横腹を貫通した?)
そこでふと思い出す。ここの草が凍っている事に
(凍った草の破片だ……そうか、此処を凍らしたのは足止めや俺の部下を攻撃するだけが目的じゃなくて柔らかい草を硬く鋭くする為だったのか、そうしてファングの操作魔法を使い俺を攻撃したという訳か)
ファングの魔法の属性は操作、周りにある物を自由に浮かせたり飛ばしたり出来る属性
(驚いた。こいつ此処まで成長しているとはな、まさか剣を交えている最中に魔法を発動出来るようにまで成っていたとは予想外だった。だがコントロールはイマイチだな。当たったのが俺の頭や胸等の急所では無く横腹だったのがその証拠、しかしそれが分かっても近接戦闘がこちらに不利なのは変わり無い、だが……)
アルクスに痛手を負わせたファングだが彼も焦っていた。
(今の一撃で決めて置きたかった。もう奴に同じ手は通用しない、あの仕組みについては奴も大方検討が付いたはず……次はあれが来る……!)
「剣は相変わらずだな、ファング」
「傷を負わされて置いてよく言うぜ」
「は! こんなの偶々だ。 次、行くぜ……!!」
アルクスがファングに斬りかかる、それを剣で防ぐファングだが、その剣がアルクスの剣に触れた瞬間その部分が溶けまるで剣が剣を通り抜けた様になり、アルクスの剣がファングの身体に一直線に向かう、それをファングの操作の魔法で止め、アルクスの腹部に膝蹴りをし、怯んだ隙に半分に成った剣で斬りかかるがそれを片手で止められ次は剣を完全に溶かされる、急いで剣から手を放すファング
アルクスの魔法の属性は溶解、その名の通り物を溶かす魔法
ファングは剣を失い、アルクスは右横腹と左手を負傷を負っているが剣を持っている
剣を失った者が勝つか身体を失った者が勝つかまだ誰にも分からない