泥だらけの訪問者
修業を終え、昼食を済まし、今日はマリアの散歩に付き合う、ナサルも一緒、コースは村周辺の森をグルッと回るだけで短い
「今日はいい天気ね、そういえば貴方の事何も知らないわね? ジョン?」
「そうでしたっけ?」
「えぇ、そうよ、そもそも貴方のフルネームも知らないわ? ジョン・何と言うの?」
「ジョン・ラム、それが俺の名前です」
「ラム? 変な名ね」
「そりゃどうも」
「それじゃあ次に貴方今までどこに住んでいたの?」
「ナリギアですよ」
「へぇ、貴方ナリギア出身なの? あそこって賑やかな所なのよね? 毎日お祭り騒ぎだとか……私は一度も言った事が無いから分からないのだけれど、どういう所だったの? 噂通り、毎日お祭り騒ぎなの?」
「俺の恰好を見て推測して見て下さいよ」
マリアはジョンを上から下までじっくりと見て
「噂は本当だったのね」
「まぁ、そういう事ですね」
「なんでこっちに来たの?」
「ん? あぁ、こっちに用事のある人が居ましてね」
「その人はこの村に居るの?」
「居ませんよ、今何処に居るかも分かりません」
「どんな人なの? もしかしたら私知ってるかもしれないわ」
(まぁ、そりゃすぐそこに居るからな、結界が張られてて入れないが)
「知らないと思いますよ」
「いいから、教えてみなさいよ」
「二十代後半の赤髪に緑目、それに右手が義手の男、知ってます?」
「……知らないわね」
「でしょうね」
そんな雑談をしている時、森の物陰からカサカサといった物音がする
物音が聞こえた方を警戒するジョンとナサル
「な、何どうしたのよ、二人共、兎か何かでしょ?」
「兎にしては重そうな足音でしたからね、まぁ大人の足音じゃありませんが」
「そこに居るのは誰だ? 狩人か? それなら姿を現してくれないか?」
ナサルが物音の主にそう言う
そしてその物陰から幼いボロボロの少女が姿を現す。
「!?」
ナサルが思わずその子へ近寄る
「大丈夫か!? どうしたんだ!?」
「……パパが……」
そのまま崩れるように気を失う、少女それを倒れる前に抱きかかえるナサル
「屋敷に戻りましょう、お嬢様もいいですか?」
「え、えぇそうしましょう」
「これはまた一波乱ありそうだな」
屋敷に戻りマリアのベットで少女を寝かせる、体中血、泥だらけだったので洗い、服も丁度マリアと同じぐらいの身体のサイズだったのでマリアのお古を寝ている合間に着させる
「しかし、良かったのか? 此処に連れて来て、もしかしたらスパイかもしれんぜ? か弱き乙女だと思わせ俺達を油断させこの屋敷に侵入するのが目的かもしれない」
「着替えさせる時見たが特に武器になりそうな物は持っていなかった」
「もしかしたら魔法を使ったりな」
「杖が無かった」
「お前は杖無しで魔法が使えてたろ」
「あれは、それなりに魔法を使い慣れていないと無理だ」
「色々と経験の浅い子供は出来ないって事か?」
「そうだ」
「それよりも! この子どうしたのかしら? 迷子になったのかな?」
「いや、只の迷子にも見えませんね」
「どうして?」
「この左手の傷、こいつは切り傷、しかも只の切り傷じゃありませんね、こいつは刃物で斬り付けられて出来た傷でしょうね」
「え? つまり、襲われたって事!?」
「その可能性が高いでしょう」
「……父親に何かあったのかもしれない」
「そういえばそんな事言ってたな」
「だが手掛かりになりそうな物は何も持ってなかった、起きるのを待つしかない」
「可哀そうに暫く何も食べていなかったんだ……こんなにやせ細って……」
頭を撫でるマリア
そして撫でた影響なのか少女の眼が少しずつ開く
「あ! 起きたわよ!」
「こ、ここは?」
「何、別に危険な所じゃない」
少女は暫くボーとマリアの顔を見た後、ギョッとした顔をして
「そ、そうだ!! パ、パパが! パパが殺されちゃう!! 助けて!」
「お、落ち着け! どういう事か説明してくれ」
少女は酷く取り乱しながらも今までの経緯を説明し始める
彼女は旅商人の娘、とある国からエスカルドの都市まで移動する道中に悲劇は起きる、場所は森の中で盗賊に襲われてしまったのだ。
護衛も無く父と娘で旅をしていた二人は簡単に捕らえられ、盗賊のアジトまで連れて来られてしまう
「荷物は差し上げます、た、助けて下さい」
彼女の父 ハラル・エールが盗賊達に命乞いをする
だがそんなハラルの様子を見て盗賊達は笑いだす
「馬鹿かお前? 久々の得物を逃がす訳ねぇ~だろ? そいつは夜の”宴”の時に使う、牢にぶち込んどけ」
盗賊の一人が部下であろう二人にそう命令する、男達は何も言わず、ハラルとその娘、ジェシカを木材で出来ている牢に無理矢理入れる
そして震えながら夜を待つ
そして夜
盗賊達が集まり、奪った酒を飲み食料等を豪華に盛り付け食べ始める
「で? 今日”得物”が捕まったんだって?」
「そうみたいだぜ、楽しみだな」
宴の最中、突然一人の男が切り株の上に登り
「よぉ、お前ら知ってるだろうが今日の宴にはゲストが居る、連れて来い」
部下がハラルを連れて来る
「こんばんわ、ようこそ! 名は?」
「ハラルだ……」
「ハラルに拍手を!」
会場中から握手が上がる
「俺の名はジーク、こいつらを統括してる、よろしくハラル」
「じゃあ、始めよう、おい」
ジークが部下に何かを命令する、部下達はハラルを捕まえ、木にハラルを括り付ける、四肢を大の字の形にして
「よ~し、いいか? 頭や胸には当てるなよ、即死しちまうからな」
そしてジークがナイフを取り出す。
「何をするつもりだ!?」
とハラルが叫んだ瞬間、頬にナイフが掠る
イェーイと会場が湧く
「次だ、お前がやれ」
ナイフを投げる人間を交代する
次は足を掠る
そして会場が湧く
これは人間ダーツしかし得点を競う訳では無い、一番得物を面白くリアクションさせた人間の勝利、それがルール
肩や横腹を掠るナイフ、ここまで四人の男がナイフを投げた、そして次の男がハラルの前に立つ
「おいおい、間違えて顔に入れるなよ」
「あいつ、初めてだっけ? これ」
男がナイフを投げる
今度は掠らない腕に突き刺さる
ハラルは痛々しい断末魔を上げる、そして痛みのあまり、気絶してしまう
今まで雰囲気が盛り上がっていた会場にどよめきが走る
「お、おい」
「まさか……死んじまったのか?」
ジークがハラルに急ぎ近付く
そしてハラルの顔を覗く
「大丈夫だ、息はある、気絶してるだけだ」
会場全体が安堵する
「おい、おい! 起きろ!! チッ駄目だ」
「何だよ、じゃあ今日はお開きか?」
「まだこいつのガキが居たはずですよ?」
「あ? 今、お前なんつった?」
ジークが目で新人の盗賊を威圧する
「い、いやだからこいつのガキを……」
「お前新人だな、ここのルールは知ってるか?」
「い、いえ、詳しくは……」
「こいつの教育係はお前だったな、教えなかったのか?」
盗賊の一人を指差しそう言う
「すいません、忙しくて」
「そうか、なら言って置く、此処ではガキは使わねぇ」
「え? そうなんですか?」
「ガキをダーツの的にしたって会場の全員が覚めちまうだけだ」
「だったら食料にすれば……」
「誰がやるんだ? 誰がガキを捌く? うまい肉ならそこらの動物を取ればいい」
「だから何処かに捨てて来い、いいな?」
「は、はい!」
新人の盗賊は走り出す、ジェシカに向かって
「で? どうするんだ? そいつ、長くはねぇだろ」
「……取り敢えず止血して置け、楽しみは明日だ」
「しかし軟弱だな、まさか一発で気絶しちまうなんて」
ジェシカの居る、牢を開け、新人の盗賊はジェシカを担ぎ上げる
「な、何をするの!? パパは!? パパを返して」
肩で暴れまわる、ジェシカ
「てめぇ! 暴れるんじゃねぇ!!」
「おいおい、ガキに舐められてんじゃねぇよ」
それを端から見ていたジークがジェシカに近付く、そしてジェシカの頬を叩き
「おい! 黙ってろ!! でなきゃこうだ!!」
とジークは斧を取り出し、ジェシカの左手を取り、斧の刃を当てる、ジリジリと肌の中へ侵食する刃、しかしまだ肌からは血は出て来ない
「どんどん痛くなってくるぞ、血も出て来る、見てろよ? ほら」
その光景から目を逸らしていたジェシカを無理矢理、頭を掴み見せる
「い、痛い!」
「もっとだ」
血が出て来る
「もう止めて!!」
だが止めない、さらに血が出て来る
「痛い痛い痛い!! 止めて! 止めて!!」
「じゃあ、黙ってろ!!クソガキ!! あぁ!? 生意気な面しやがって!! ぶっ殺すぞ!!」
ジークの凄まじい剣幕に圧倒さて黙ってしまうジェシカ
「こうやってガキは躾けろ、捨てて来い」
「はい」
そしてジェシカは森奥に捨てられ、徘徊する事、三日目にあそこに辿り着いた。
その話を聞いてナサルとマリアは怒りを顕わにする
「な、なんて事!? 早くこの子の父を助けましょう!」
「……しかし、お嬢様、敵がどれくらいの規模かも分かりませんし場所も曖昧です」
ナサルは怒りは覚えていても冷静さはあった
「場所はジェシカに案内して貰えばいいわ」
「お嬢様、それは出来ません、この子を危険に晒す事になる、それにこの身体では歩く事も儘ならない」
「私はどうでもいいです! だからパパを!!」
「出来ません!!」
その押し問答が数回続く
「何で分かってくれないんですか!? 私は……パパを」
「貴方のお父様は娘を危険な目に合わせたいとは思わないハズですよ!」
「それはどうかな? 誰だって自分の命は大事だ。それにジェシカが行くからって絶対に死ぬ訳じゃ無い」
ジョンが口を挟む
「貴様にこの子の命の保証が出来るのか!?」
「出来る訳無いだろ、だがこいつは行きたがってるんだ。行かず、父を殺せば一生後悔するだろうよ、一生それを引きずって生きろと言うのか? 命云々じゃない尊厳の問題だ」
そこで黙るナサル
「その父親だって……もう……」
「もう……何よ……!?」
「……」
ナサルはジェシカから顔を背ける
「死んでいる、それからもう三日経ったんだろう? 生きていると考える方が不自然だ」
とナサルが唇を噛み締めながら言う
「ふざけないで! そんな……訳無い! パパは死なない!!」
「いや、それはお前も薄々感じてるハズだ、父親はもう死んでるんじゃないかってな、だから今のお前は動揺しているんだ」
ジョンが間に入る
「そんな事ない!!」
「まぁ、そう言うならいいさ、勝手に言ってればいい」
「……諦めるべきだ」
「いやだ! いや……私だけでも!」
とジェシカが立ち上がろうとするが立ち上がれない
「何で!? どうして動かないのよ!!」
と自分の足を辛うじて動く右手で叩く、それを止めるナサル
「止めろ!! そんな事をして何になる!?」
「放して!! パパの所に行くの!!」
そこでジェシカにナサルが抱き着く、驚いて思考が一時止まるジェシカ
「お願いだ……止めてくれ、頼む」
涙ながらのナサルの訴えにジェシカも安心感か不安からか涙を流し、父を呼ぶ
端からそれを見るジョンとマリア
マリアは俯きそのまま部屋を出て行ってしまう、それを見たジョンは後を追う
マリアは食堂に移動し、席に座り机に顔を伏せる
「おやおや、どうしたんですか? マリアお嬢様」
「……暫く一人にして」
「もしかして泣く気ですか? 今から」
「なんでもいいでしょ?」
「何故泣く?」
「……だって、悲しいじゃない、もうあの子の父親は……あの子はどうすればいいのよ……これから」
「さぁね、まぁ、それはさっきジェシカ自身が口にしていたでしょう?」
「え?」
「父親の元に行くとそう言ってたでしょう? まずはそうすればいい、その後の事はその時に考えればいい、もしかしたら生きているかもしれませんしね」
マリアは顔を上げる
「……そうね、貴方の言う通りだわ」
そして夜、真夜中の屋敷に怪しい小さな影が一つ、ジェシカの眠る寝室に向かう
ジェシカはナサルの監察の元、ナサルの部屋で眠っている
ナサルの部屋にノックをする影
そしてナサルが出る
「おや、お嬢様、どうかしましたか?」
「ナサル、貴方にお願いがあるのいいかしら?」
「何でしょうか? お嬢様」
「その……お腹を空かしてしまったから、貴方に何か作って貰いたいの」
「なら、バーグに頼めばよろしいのでは?」
「もう寝てしまってるわ、バーグの次に料理が上手いのは貴方じゃない、だから貴方に作って貰いたいの」
「……分かりました、少々お待ちください、私の部屋でお召し上がりになりますか?」
「えぇ、そうするわ、此処で待ってる」
ナサルは厨房に向かう、それを見届けた後急いでジェシカを起こすマリア
「ねぇ! 起きなさい!!」
「え? あ、マリア様……」
「今の内よ!」
とジェシカの手を引っ張るマリア
「な、なんですか?」
「お父様を助けたくないの? 早く私の背に乗りなさい!」
「!? いいの?」
「大丈夫よ」
部屋から出る二人、そして裏口から出てジョンと合流する
「上手く行ったようですね」
「バッチリよ」
「それじゃあ早速行きましょう、時間が無い」
「えぇ、そうね」
「あぁ、待って下さい」
マリアを止めるジョン
「え?」
「マリアお嬢様はお留守番ですよ」
「え!? 何でよ!?」
「何でよって……足手纏いになるからですよ」
「そ、そんな事……」
「あるでしょ? それにマリアお嬢様を連れて行ったら誘拐と言われて捕まりかねないですからね、分かって下さい」
「……分かったわよ、大丈夫なのね?」
「さぁ? 知りません」
と言いながらジェシカをマリアから受け取るジョン
「知りませんって……こういう時は気の利いた事を言うもんよ……」
「そいつは失敬、じゃあ行って来ますよ」
「……行ってらっしゃい」
不安げにジョンとジェシカに手を振るマリア




