王女マリア
「せ、先生! 何してるんですか!!」
「何って魔王ネルヒム様のお供さ」
「お供では無いぞ、下僕だ」
「それは失敬」
「ジョン! 後ろに下がっていろ! 上で戦闘が始まっている」
「音を聞けば分かる! それより、そいつ等を倒すぞ」
「私に任せて置け」
ネルヒムが階段を登り始める、そこでナサルが立ちふさがる
「行かせる訳にはいかない」
「退け」
「彼女の事なら心配要らないと思うぞ、なんせ外の兵やら村人やら全員、寝かしたんだからな」
「な!? なに!?」
ナサルが驚愕している隙にネルヒムはその脇を通る
「何だここは滑るぞ、下僕後で私が帰る時に滑らないようにしておけ」
「あ!? ちょっまって!」
ナサルが止めようとするがもう遅い
「退け!! 痴れ者共め!」
ネルヒムが手を翳すとその前の人間は倒れて気絶してしまう、強い力だが問題があるそれは偽ローラもローラも関係無いということだ。
「ぐぅっ!? ま、魔王!? そんな……姫様逃げて下さい!!」
偽ローラが城の大扉に向かってそう叫ぶ
「何……これ」
ローラも頭を抱えうずくまってしまう、周りの兵士達は既に気絶している
そんな事態を見てエルやナサル、ジョンがネルヒムを止めようとする、それを端で見るバーング
「放せ! この馬鹿共め!! 下僕! 貴様も易々と主人の身体に触るな!!」
「悪いな! 下僕になったつもりは無いし、あの手前で苦しんでいる女は俺の上司みたいなものだ。気絶させられちゃ困る!」
「五月蠅い!放せ放せ!」
暴れ出すネルヒム
「もぉ~! 言う事聞いてよ!」
「落ち着いて下さい! 巫女様!」
「ほぉ、どうやって人を気絶させているんだ?」
「放せ!!!」
と彼女が大声で叫んだ瞬間、彼女の周囲に凄まじい衝撃が走る、その衝撃に当てられたナサルとエルが気絶してしまう、ジョンは吹き飛ばされ階段を転げ落ちる
「うげぇ!? マジかよ!!!」
「ほぉ、すごいな」
そうしている間にローラ達も気絶する
「ふん、お前は邪魔しないのか?」
「する気は無い、好きにすると良い」
「偉そうな口ぶりだな、まぁいい」
と言い奥に進む
大扉の向こう側は赤い絨毯の敷かれ、一番奥に王座であろう椅子が置いてある、そこに蹲り震えている少女が居る、そして残っているのは彼女のみ
「お前も相変わらずだな、誰かに守られてなきゃ何も出来ない、臆病者だ」
「うるさい! こ、この罪人め!!」
王女・マリアが王座から降り片手にナイフを持ち、ネルヒムに走って近付くが途中で転んでしまう
「フン、無様だな」
「うるさい! うるさい!!」
立ち上がる王女、それを見下すような目で見る魔王
「速く来い、臆病者じゃないと証明してみろ」
「やってやるわよ……殺してやる!! 両親の仇!!」
挑発され涙と怒りと共に走り出すマリア、だが無駄、簡単に躱されてしまう
「つまらんな、もう少しやれると思ってたんだがな」
「そんなぁ……どうして……」
涙に溺れるマリア
「もういい目障りだ死ね」
とネルヒムがマリアの首を持っていたナイフで斬ろうとした時、ネルヒムが何者かに飛び掛かる、正体は黒い来客・ジョン
「げ、下僕!? 貴様! さっきといい私を邪魔する! 裏切り者め!!」
「そいつはショックを受けちまうな、お前に気に入られる為に今まで生きて来た様なものなのに」
ジョンはネルヒムの両手を抑える
「そうだ、バーング、アンタも手伝ってくんない?」
「嫌だ、私はどう転ぶか見学させて貰うぞ、頑張りたまえ、ジョン」
「激励サンキュー涙が出る」
「お前が何故私の魔法に掛からなかったのか分からないがもう一回吹き飛べ!!」
「いいや! 止めて置けよ!! さっきとは状況が違う!!」
「何? 何の話だ! 出鱈目を言うな!」
「俺はお前の首に手を回している、さっき吹き飛ばした威力くらいじゃ解けないぜ? つまりどういうことか分かるか? お前が俺を吹き飛ばした瞬間俺の両手がお前の首を引っ張り首の骨が折れるかもしくは飛ぶ、お前の場合は首が細いから猶更だ……自分の首の耐久力に自信があるならやるといい、やってみろ!」
「チッいやらしい手を使う」
「主人にお褒めの言葉を受け取るとは感謝カンゲキ雨嵐だなぁ?」
「貴様はもう私の下僕じゃない裏切り者!!」
「まぁそんな事はどうでもいい、本題に移ろうじゃないか、その方がお互いにとって有益だしストレスも掛からない」
「本題? 何の話だ?」
「簡単だ、俺はお前らの事を知らないだからまず何故お前らが殺し合ってるか、それを教えてくれよ」
「私がこの馬鹿女の両親を殺したからだ。だから私を恨んで私を殺そうとしてる」
「マリアお嬢様の動機は分かった。ならお前は? 何故こいつの両親を殺ししかもその後態々こいつを殺しに来たんだ? 何故両親は殺すのにこの街の住人は殺さないんだ?」
「私? 私はぁ……暇だったから? こいつ等は丁度良い暇潰しになるんだ。だから殺さないようにしてる、全員殺したら暇潰しの道具が無くなるだろ?」
「そ、そんなふざけた理由で私の王国を襲ったの!? ふざけないで!!」
「怒ったか? いいぞ、その顔素敵だ」
「変態かよ……」
マリアはナイフを持ち、ネルヒムに近付く、確かな殺意を持って
ネルヒムの顔は笑っている、ジョンは困惑、ネルヒムにナイフを突き立てようとするマリア、だがナイフを振り上げた所で手が震え下げれない
「なんだ……やらないのか」
ネルヒムは落胆したような顔をする、その上でジョンは言う
「おいおい、それで殺すつもりか?」
「止めないで頂戴!」
「まぁ、俺は止めはしないぜ? 勝手にやればいい……お前が人を殺して納得出来るとは思えないがな」
「え?」
「お前がこいつを殺した所でお前の復讐は終わらないと言ってるんだ」
「おい、裏切り者! 余計な事を言うな!!」
とネルヒムはジョンに向かって怒鳴る
「これはアドバイスだと思って聞けばいい、復讐相手を死ぬまで苦しめてそれで満足し人生を前向きに生きられる奴は極々僅かな人間にしか出来ない芸当だ。
殆どの人間はそれじゃあ満足なんて出来ない、それどころか自責の念を感じ苦しむ或いは恨みの対象を失いどうしようもない怒りに焼かれるか、後ろ向きに生きる人生にしか辿りつかない、実際そういう奴等を多く見てきた」
「じゃ、じゃあ、どうすればいいのよ……」
マリアの頬には涙の道が出来ている
「復讐心を消す方法は復讐を果たすだけじゃない、そこを勘違いする奴が多い、そしてその方法はお前が考えろ、もしかしたらこいつを苦しめ殺す事がお前の”方法”かもしれないぜ? しかし違う可能性も有る、必死に考えなお前にとって何が最善か、この時この瞬間は今しか訪れない今を逃せば一生お前の元に訪れる事は無い、絶対にな」
「……わかんない、貴方の言ってることがわからないよ! 何が良いかなんて!」
「俺も知らん、なんせお前と会ったのはさっきなんだそんな奴が親を殺されたと言われても知ったこっちゃ無い、だからお前が考えろ」
「しらない! わかんない!!」
「惑わすな!! 裏切り者!!!」
ネルヒムは再びジョンに怒鳴る
「黙るのはお前だ! お前の本当の目的は何だ? さっきのは嘘だろ? もっと別の狙いが有る」
「お前には関係無い!!」
「此処がマリア・ワルクルスの精神世界ならお前の存在も必ずマリアと結びつく何かがある筈だ。そうだろ? バーング?」
「だろうな、彼女は何者か……私も考えている、この街も城も女王マリアと言う名の本心を護る為に作られたものだとしたらその壁を壊し本心を殺そうとするソイツは何者だ? それが分からないから私は彼女に興味がある」
ジョンはネルヒムを見て言う
「お前は誰だ?」