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炎の神



「ジョン……? さっきの話は本当なのか? 君の眼は本当に……?」


 ナサルが震える声でジョンに問う


「さぁ、どう思う?」

「早く止血と消毒をしないと!! 大変な事になってしまいますよ!!」

「もう今現在既に大変な事になっている、先ずこれは最初に解決しなくちゃな」


 ジャックはジョンの左目が失われたと確信した後、その先の事を考えていた。


(左目の損失……私には有利な状況だがどうにも腑に落ちない、何故この男は目を失ったんだ? それが分からない、絶対に理由がある筈……)


 ジョンも頭を悩ませていた。


(左目が無くなって左部分が死角になってしまっている上にバランス感覚もおかしくなっている……戦闘をするのは危険か……)


 しかし今は戦闘をしなければならない状況、とてもそれを避けられるとは思えない、とジョンは考えている

 だがジャックも自分の立場が絶対的に有利だとは思っていなかった。


(……この男が左目を失ったとしても油断は禁物、私一人で挑めば間違いなく殺される……三人掛かりでも分からない、”秘策”が有るとはいえ油断だけは絶対にできない……!)


「まぁ、君の眼の事なんてどうでも良いや、そんな事よりさ、私の話を聞いておくれよ」

「こんなに暑い所でお前の長話に付き合わなくちゃならないのか? 御免だね」


 不意に出たジョンのその言葉でジョン自身とジャックはこの場の高い温度の事を初めて意識した。

 それ程二人は考察に集中していたのだ暑さを忘れる程に……


「そういえば此処は溶岩が私達を取り巻く地獄のステージだったね、それは暑いのも当たり前だね、まぁ我慢してこの風景を楽しみながら私の小鳥の様に美しく儚い言葉を聞いてよ」

「気色悪い事を気持ちが悪い顔で言ってんじゃねぇよ」

「おやおや、随分と強気な態度じゃないか、劣勢の癖にさ」

「劣勢ねぇ、どうだかね……クククッ」


 と余裕振っているジョンだがその心は青白く萎びている


(本当に劣勢だから笑えないが此処でこうして置かないと心理戦すらも奴に風上に立たれる……そうなったらお終いだな)


「ふぅん、何か秘策でも有るのかな?」


(恐らく奴にそんなモノは存在しない、だが何をやらかすかが分からない……普通の相手なら此処まで考えず勝ちを確信する所だが今は違う……ジョンが今回の私の相手という事、それが私の唯一の懸念材料)


 ジャックはジョンを必要以上に恐れている、ジョンは圧倒的に不利だがジャックが攻撃に踏み込めないのはそれが理由、そしてその事をジョンは知っている


(やはり俺を警戒して中々襲ってこないな……しかしこいつが片目を失った男に此処まで警戒するとは……少々驚いたな、だがそこが俺が奴につけ入れれる唯一の突破口……)


「説明なんざどうでも良い……俺が死ぬかお前ら全員死ぬか? それだけで良いだろ?」

「おいおい、私達を全員殺したらどうやって此処から帰るんだい? 徒歩じゃ無理だと思うけどねぇ……」

「そうかもな、だがお前が居ても俺はどの道帰れない」

「ま、確かにそうだけどね、でも優しい私は君に一つの道を指し示して上げようとしているんだよ、生存の道をね」


(当たり前だがこんな言葉は信用できない、こいつも俺がそんな誘いに乗る訳がないと分かった上で言ったのだろう……何のためか知らんが)


「遊びはその辺りで十分だろう、ジャック……」


 重々しい声が溶岩の底からした。


「あらら、此処の主はご機嫌斜めの様だ」

「主人……どうせ神だろ?」

「大正解! 炎を操る神 エーグリット様さ」


 ジャックの紹介の後エーグリットと紹介された神が溶岩の底から勢い良く飛び出す。飛び散る溶岩、だが運が良い事に誰にも当たらなかった。


「諸君……ようこそ我が庭へ、歓迎する」

「……どうせその歓迎は本来の意味の歓迎じゃないんだ。泣けるね全く……」




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