橋の上のコロシアム
「この調子でやって行くぞ」
「仲間というより奴隷といった感じなんですけど……」
宿屋での一件が有りエルはジョンの事を怖く感じていた。
「必ず家族か物を人質に取れよ、兵士にチクられたら終わりだからな」
「こんな事、戦争以外ではしたく無かった……」
「此処は戦場みたいなものだ。俺達対アイツ等のな」
ナサルはジョンを睨む
「とてもそうは思えない」
「そうか? まぁいい、兎に角どんな手段を使っても二人を見つけ出す。それに此処は精神世界、遠慮は要らないはずだろ?」
「そう割り切れる訳ないだろう!? 彼等にも家族も居る痛みも感じているんだ。君みたいな考え方は出来ない」
「それはそれは、素晴らしい騎士精神だ事でだがそう言っている間に二人の身に危機が迫っているかもしれないんだぜ?
」
「……」
ナサルは俯き黙ってしまった。
「分かったなら、ファングの元に行くぞ、次からは名前だけじゃなく容姿や服装の特徴も含め聞く、名前だけじゃどこぞの騎士団長と研究者しか出て来なさそうだ」
ジョン達は教えられた通りの道を通り酒屋の前に着く、しかし建物に光は無く音も無い
「鍵は残念ながら閉まってるな」
「何処から入ります?」
「建物は三階建てか……建物の周りを回るぞ」
家はクッキーで出来ている、表には玄関があり、裏には小さな家庭用の畑があり、裏口があるが鍵は勿論掛かっている
「侵入してどうする?」
「寝込みを襲って縛りさっきと同じ流れだ」
「扉壊しちゃいます?」
「音でファングにバレるそれに下手すると兵士もやって来る可能性がある」
「それじゃ鍵を開ければいいんですね?」
「出来るならな」
「ボク達に任せてください」
とエルは言い右手で杖を取り出す。そして鍵穴に杖先を合わせ、水を放つ、そして
「形は分かりました。やりますよ先輩」
「余り気が乗らないが……」
と言い左手の平に水を出し鍵の形にするそしてその水の上に手を翳すナサルは水は液体から固体にし氷にした。
「おいおい、まさか」
「そうです、鍵作っちゃいました」
「三人で盗賊団でも結成するか?」
「馬鹿を言っているな、入るぞ」
ファング宅に入り、宿屋と同じやり取りを繰り返す。
ファングを椅子に縛り付けジョンはその前でいやらしくニヤニヤしながらファングに質問をしている
「それで、怪しい奴が二人城に連行された訳か? マジ?」
「そうだ、お前らが大暴れした後の事だがな」
そして有力な情報を手にした。
ジョン達がナサルを救出した後の話、国の兵士達は森の捜索と街の警戒強化をした際森と街で二人の不審人物を捕えた。
一人は森で木を食べている所を捕まり、一人は城の一部を壊している所を捕まった。名前は不明
「処刑は何時だ?」
「分からねぇ、でも今頃拷問でも受けてるんじゃねぇか?」
「誰にも気が付かれず城へ入れる方法とか知ってたりする?」
「知らん」
「行くぞ、諸君」
ジョンはエルとナサルに言う
「お、おい待てよ、その前にこの手の縄を――」
「心配するな、もう解いている」
「え?」
ファングはジョンの言った通り縄は解け、両手が自由に動く事に驚愕する
「何時やったんだ!?」
「そんな事はどうでもいい、だが覚えて置いてくれよお前が余計な事をしたら、そこの犬の首は飛び家は崩壊するいいな?」
「わ、分かってる」
「ならいい、行くぞ」
家から出る、城は近く、だが城の警戒は昼の事件もあり多い、その上城の周りには溝があり、ドーナツ型のオレンジジュースの湖が出来ている
まともな出入り口は大きなお菓子の橋のみ
「さてどうしたものか……あそこ意外に城へ繋がってる道は無いぞ、他に人間が入れるような穴も無い」
「正面突破は出来そうも無いですよね」
「人数が人数だからな」
「だが侵入するにしても隙が無い」
「さてなら妥協案だ。正面突破と潜入を混ぜる」
「混ぜる? どういう事だ?」
城の正面にある大きなお菓子の橋、名をハーベンデルクというその橋の上に重兵十人、魔術師が五人、軽兵三十人が陣を組んでいる
本来なら誰も来るはずの無い橋である、どんな泥棒だって橋を迂回し別の侵入経路を探し侵入しようと思うだろう、この橋の前に立つとは命を捨てるのと同等の行いだからだ、だからこの橋には誰も来るはずが無いのである、だが現る黒の来客
「よぉ! 兵士諸君、勤務ご苦労」
「!?」
兵士達は男を昼の犯人だと瞬時に分かり警戒を強める
「そう硬くなるなよもっとリラックスして……楽しもうぜ? なぁ!」
ジョンは強固な飴の兵士達に向かって一直線に走り出す。
重兵が盾でジョンの進路を塞ぐ、そして盾の横からは槍が突き出ている、その後ろでは魔術師が魔法発射の準備をする
ジョンは突き出ている槍を足場にして重兵の上を飛び、後ろに居た軽兵の一人を飛び殴る
勿論、混乱が起こり、軽兵達はジョンに剣を向け攻撃しようとするがその前に殴られる、魔術師はジョンと味方が入り乱れているので易々と攻撃が出来ないでいる
重兵も同じ
「こんなものか!? 拍子抜けだな!」
後ろから数人掛で腕を捕えようとしても無駄、その前に気付かれ殴られ気絶させられてしまう、軽兵が五人程気絶した後、怖気づく兵も出て来る
ジョンの血塗れの拳と顔を見れば誰だって恐怖を抱くだろう、軽兵の何人かが逃げ出す。
「逃げるな!! 戦え!」
重兵の一人が大声でそう言うが人の恐怖心には敵わない
そして騒ぎを聞きつけた兵達が橋に集い集う
空から見たら中心の会場を取り囲む観客に中心で命懸けで戦う決闘士のように映るだろう
会場は徐々に血に染まっていく、軽兵と重兵そして魔術師の悲鳴に飴の兜の割れる音が響き渡る、それでまた集まって来る兵士
橋の周りは既に兵士で埋め尽くされる
しかしジョンは殺されず、捕えられない
「ば、化け物か!? あの男!!」
「だ、誰か騎士を呼べ!!」
「武器を使わず素手で戦っているのか!? あの男!」
兵士達の気絶体が橋を埋め尽くした頃、ジョンは橋から飛び降り、オレンジの湖の中に消える
「追え!! 追え!!!」
「誰か! 兵士達の手当を!!」
「畜生! 殺してやる!!」
数々の命令や罵倒、恐怖の声が交差する中、金の髪と鎧を持った女性が現れる
「兵士諸君、静粛に!!」
彼女の声は橋の兵士全員の耳に響く
「き、騎士様」
「……これはどういう事かな? 説明を」
「はい、私が説明します。ローラ様」
兵士が説明している間、橋を大忙しで行き来する兵士、気絶した兵士達を安全に医療が施せる場所まで移している、そして湖を捜索している部隊も居る
「ふーん、成程ね、それで君達は彼を捕える事は出来ず逃がしてしまったと……そういう事だね?」
「面目ありません……」
「でも身体を呈して彼の侵入は防げたんだ。良しとしよう」
「申し訳ありません」
「それにしても、彼は何でそんな無謀な事をしようと思ったのかな?」
「さぁ、私には思いつきません」
橋の周りで入り乱れる兵士達を見るローラ、そしてハッとする
「兵士君、もし、誰かがこの騒ぎに乗じて兵士に扮装し忍び込んだとしたらどうだろう?」
「ハッ!? まさか」
「私は王女の護衛に戻る、君達もお偉いさん方の護衛を強化して」
「ハッ! 了解しました!」