幼馴染みと
「浮気じゃない?」
三連休の最後の日、幼馴染みの家にて。
「…は?」
幼馴染みの、雪のベッドの上にいつものように寝転がりながら雑誌を読んでいた手が止まった。
「だからー、それって浮気されてるんじゃない?」
雪は机に向かってシャーペンを動かしながらサラッと、とんでもないことを口走る。
私はなんとなく、最近ハルと上手くいってないことをこぼすと雪から予想外の返事が返ってきた。
「ハルに限って浮気なんてありえないッ!!!」
私はすぐさま否定する。
いくら幼馴染みだからって、ハルと私のことを疑うのは許せない。
「三連休だってのにデートのお誘いも一切なく、最終日に幼馴染みの家でダラダラ過ごしてるのが1番の証拠でしょ。」
「だって、ハルに断られたんだもん…」
私だって折角の三連休を幼馴染みの女の家でダラダラして無駄にするなんて嫌だけど、ハルには天体観測断られちゃったし、デートに誘われてないし…。
「…やっぱり、他に女の人がいるの…!?
い、いやハルに限って…
…でも、前はもっと積極的だったし…ーーー。」
「はぁ。自問自答うるさい。気になるんだったら彼氏に連絡してみなよ。私は勉強に集中したいのよ。」
私が悶々と悩んでいると雪が呆れ顔でそう言った。
「…わたしに帰ってほしい?」
「うん。」
即答。
酷すぎやしないか幼馴染み。
友達が恋愛のことで悩んでいるというのに。
「んもーう、元はと言えば雪が不安にさせるような事言ったじゃん。」
雪が悪いなんて思ってないけど、邪魔者扱いされて拗ねた私は口を尖らせる。
まあ、勉強の邪魔になってるのは薄々感じてたけど。
「もうあんた帰りな。そして1人になって頭冷やしなさい」
私がグダグダ独り言を呟いていると、
半ば無理やり部屋から追い出された。
「はぁぁぁあ。」
雪はどちらかと言うと、いやとてつもなくサバサバしていて、うじうじするのが嫌いなタイプ。
いつもグダグダ悩む私にビシッと一言をくれて、私もそれに助けられるんだけど、たまには優しく話を聞いてほしいなんて思ったりもする。
「あら、ゆうちゃんもう帰るの?」
仕方なく雪の家から出ようとドアに手をかけたところで雪のお母さんと顔を合わせた。
「あ、冬子さん!うん、雪の勉強の邪魔になっちゃうから…」
「あらそうなの?ごめんねぇ。またいつでもいらっしゃいねぇ。」
冬子さんは雪とそっくりの顔で、でも正反対におっとりとした笑顔で微笑んだ。
「うん!!ありがとう!じゃあ…」
ガチャ
私がドアを開く前に、ある人によってドアは開かれた。
「…おっ、ゆうちゃんじゃん!!」
「え、零太君!久しぶり!」
雪の兄の零太君だった。
遠くで一人暮らしをしていて、最近は全然顔を見てかったけれど、久しぶりに帰ってきたらしい。
「今帰るとこだった?折角だから色々話そうよ。」
「私も零太君と話したい!!」
零太君の相変わらずの爽やかなイケメンスマイルを向けられて、私は家の中に引き返した。
「母さんおかえり〜」
「もう突然来るんだから。一言連絡くらいよこしてよねぇ」
あー。相変わらずこのまったりした空間好きだなぁ癒される。
ここに、雪が加わるとふわふわとした空気が一気に引き締まって丁度いいバランスになるんだよな。
「ゆうちゃん、会わない間に大人っぽくなったね。」
「えっ、そ、そうですかぁ?」
なんて言いつつちょっと照れてしまう。
零太君は昔から優しくて私達よりも1歩先を行くって感じで憧れの存在だった。
久しぶりに会えた嬉しさがこみ上げる。
「零太君の方は、一人暮らしはどんな感じなの?」
「うーん、最近やっと慣れてきたってとこかなー。
家にいた頃を振り返って母さんに感謝する日々だよ。」
「ふふ。」
キッチンでお茶の用意をする冬子さんが嬉しそうに笑う。
「…。」
この時の私は思った。
なんてできた息子なんだ…。
「なにその顔。」
零太君が、私を見て笑う。
「い、いや〜なんか大人だなーと思って。」
「俺なんかまだまだだよ。
そういえば雪は?」
零太君はリビングを見渡した。
「部屋で勉強してるのよ。ほんと雪は頑張り屋さんなんだから〜。頑張りすぎなくらいよ。」
「そうか、えらいなぁ。」
雪は地頭が良いけど、それに加え人1倍の努力で常に学年トップの成績をキープしている。
なんだかは教えてくれないけれど将来の目標があるらしい。
そんな雪といつも一緒にいると、比べられてもないのに自分がとても不甲斐なく思えることがある。
まあ、本当に不甲斐ないんだけど。
「ゆうちゃん?」
「…え?あ、ごめん」
零太君が、心配そうに私を見つめる。
「なんでもないよ。」
そうやって笑ってごまかしたけど零太君は私をじっと見つめて何か考えているような表情をしている。
「ねぇ、母さん。この後ゆうちゃんと出かけてきていいかな?」
「え!」
「もちろん良いわよ〜。夕飯はどうするの?」
今から零太君とお出かけ?!
「夕飯前には帰ってくるよ。
ゆうちゃん、ちょっと俺に付き合ってくれる?」
零太君はこの状況では断りにくいことをわかった上でそう聞いてくる。
「も、もちろん。」
まあ、私はどうせ暇なんだけども。