‡友待つの淡雪‡
辺り一面、真っ白な絨毯が敷き詰められている。深い森の中、深々と降る雪がすべての音を包み込んでしまっている。いつもなら聞こえる獣の声も、鳥の囀りも、草花の囁きも、その日はまるで聞こえなかった。そこにあったのはただの静寂だけである。
ぱちぱちと、暖炉が音を立てる。薪が爆ぜている音だ。その傍らにあるソファに座り、一人の女性が弦楽器を持っていた。細く美しい指で弦を弾くと、不思議と心地よい音が部屋の中に響き渡る。弦の音と暖炉の音が美しい音楽を創りだしていた。外はとても寒いのに、家の中はとても温かかった。
ここは天界と魔界の境に位置する森。結界が貼られた中央にある、大きな木。木と一体化した一軒の家。遙か昔、混沌に陥った世界を救った魔女がいたという。古の魔女と呼ばれるようになったその魔女がそこに住んでいるのだと、人々は噂していた。
彼女の名はユリア。古の魔女と呼ばれる、至高の魔女である。
ユリアが再び弦を弾いたときだった。不協和音が鳴った。予想していたことだったのか、ユリアはほとんど表情を変えなかった。ただ何も言わず、立ち上がった。
すると、ドオオンッ、と音を立てて扉が開かれた。否、破壊された。扉の周囲の壁も壊れてしまっている。外の冷たい風が、雪と共に勢いよく吹き込んできた。
「ごめんね~、邪魔するわ♪」
そう言って、土足で踏み込んできたのはとんがり帽子を深く被った女性だった。黒いローブを身に纏い、背丈ほどある杖を持っていた。その背後にはジャック・オ・ランターン、所謂かぼちゃお化けが影を潜めていた。人間男性より一回り大きいくらいだ。その姿を見れば誰でもわかる。
彼女は魔女だ。
「あんたが噂の古の魔女ね。何よ、どんな老いぼれババァかと思ってたのに……。」
ため息をつきながら彼女は言う。
「………勝手に人の家に入ってきて、言うことはそれだけ?」
ユリアが尋ねると、彼女はにたっと笑った。
「私はリーゼロット。あんたを倒して、私が最も優れた魔女だって証明してみせる!」
言うや否や、リーゼロットは杖を一振りした。床に魔法陣が広がる。その複雑な紋から、かなりの高位魔法であることが予測された。
目を鋭く光らせたユリアは傍に置いていた自分の杖を手に取った。
静寂の森の中、再び爆発音が鳴り響いた。木霊となり、森全体に響き渡る。
家は傾き、降り積もった雪が舞い上がった。煙と粉雪が視界を覆う。その中から、二つの影が飛び出した。
発せられる魔法陣、ぶつかり合う魔法、甲高い悲鳴のような音が聞こえてくる。
「どうしてわざわざこんな場所まで来たの?」
ユリアが再び問う。
「言ったはずよ、私が最強の魔女だって証明するためだってね!」
リーゼロットの魔法を防御壁で防ぎ、同型魔法で相殺し、息一つ荒げることなくユリアは対応していた。
「私を倒すことに意味があるの?」
「あたりまえよ。あんたはあの、古の魔女なんでしょ!」
もう数百年も昔の話である。歴史と史実は必ずしも同じとは限らない。リーゼロットの知る古の魔女とユリアの知る古の魔女が同じとは限らない。あの昔話の中で、どれだけのことが歴史の闇に葬り去られたことか。
「浄化の炎よ、忌まわしき傀儡を葬り去れ!!」
「!」
魔法陣が広がり、巨大な炎の渦がユリアを襲った。大地を覆う雪にユリアは身体を打ち付けられた。木の幹に背を打ち、漸く止まった。
「………………」
リーゼロットは動かないユリアを見下ろした。これが本当に噂の古の魔女だというのか。自分の魔法を防ぎ、相殺し、打ち返してきた。確かにそれなりの魔力と技量はあるけれど、それ以上のものは感じられなかった。
「あんたを倒せば、私は認められる。」
独り言のように、リーゼロットは呟いた。
「悪く思わないでね。」
リーゼロットの足下に魔法陣が広がった。
「今ここに古より蘇れ、太古の炎よ、純粋なる穢れなき炎、全てを滅ぼせ……」
詠唱により杖の先端が光を帯びる。吹雪が止み、その光に導かれるように渦が巻き上がる。
「ヴァスティン!!」
先ほどとは比べようもない熱量だった。辺り一面の雪を溶かし、木々を燃やし尽くす。この森そのものを飲み込む炎だった。
「――――――」
一歩も動かなかったユリアが、言霊を紡いだ。
ドオオオオンッ
「!?」
リーゼロットの炎が一瞬で掻き消されてしまった。煙に巻かれ、ユリアの姿も見えなくなってしまった。
「な、どうして!?」
その魔法はリーゼロットの持つ魔法の中でも最高位の魔法だった。防御結界も貼っていない、水系魔法を使った形跡もない。そもそも防げるものではないし、相殺できるものでもないのだ。
「ねぇ、知ってる?」
「!」
すぐ背後で聞こえた声。杖を振るも、ユリアは受け止めた。
「この世界に人間は存在しない。」
ここは人間界の下層に位置する精霊界。天界と魔界が存在する場所。
「なら、魔女になれなかったその人は誰?」
背筋が凍り付いた。
「魔女は生まれながらに魔女じゃない。そうでしょ。」
「――――――っ、」
リーゼロットはユリアの杖を押し返し、再び魔法を発動させた。
「集え! 我が契約に生まれし人形よ!!」
その言葉と共に広がった魔法陣から幾多の人形が飛び出してきた。なるほど、彼女の得意とするのは人形を操る魔法か。
人形たちはユリアに襲いかかる。
「……………」
しかし、脆く儚く、人形は崩れ落ちた。ユリアの魔法によって粉々に砕ける。
「魔女の集会―サド―における魔女の儀。」
「あ、あぁ………」
ユリアの瞳はとても冷たかった。
「わからないわけないでしょ。魔女である者と、そうでない者。」
その冷たい瞳から放たれる殺気は尋常なものではなかった。本当に、それだけで殺されてしまいそうだった。一瞬、身を引き裂かれるような錯覚をも引き起こす。
「所詮契約魔も存在しない、なり損ないの屑が、私の身体に傷一つつけられると思い上がるな。」
動けなかった。ユリアの魔法が、リーゼロットの目の前で発動される。二人の間に存在する空間に、光が集う。
「死ね………」
光が質量を増した。爆発する。目の前が、真っ白になった。
「来たれ 地獄を抜け出しし者 十字路を支配するものよ」
一ヶ月に一回、月が満ちる日に行われる魔女の集会―サド―。各地の魔女が集まる特別な日だ。そこでは様々な物や情報が交換されたりする。
「汝 夜を旅する者 昼の敵 闇の朋友にして同伴者よ」
もともと仲間意識の強い魔女たちはここからはじまり、ここで終わるのだと噂される。
「犬の遠吠え 流された血を喜ぶ者 影の中墓場をさまよう者よ」
そう、魔女の誕生もこの場所なのである。
「あまたの人間に恐怖を抱かしめる者よ」
魔女の集会―サド―において悪魔を召喚し契約することで魔女として認められる。ただ、知恵と術を持っているだけでは駄目なのだ。
「千の形を持つ月の庇護のもと 我と契約を結ばん」
その日も、一人の少女が契約の儀を行うことになっていた。幼少期よりその才能を開花させ、至高の魔女に最も近づけると謳われた歌少女だ。
「今ここに その御身を現したまえ」
完璧だった。
詠唱も、描かれる魔法陣も、その紋様も、マナの導き方も、何一つ間違っていなかった。
「――――――、どうして……」
誰もが至高の魔女の再来だと謳っていたのに、契約の儀に姿を現した悪魔はいなかった。ただ煙が上がっただけで、魔法陣の上には誰もいない。
誰もが目を疑った。まさかの失敗だった。契約の儀に失敗する魔女など今まで聞いたこともない。
「私………、どうして!?」
何より、本人が一番ショックを受けていた。崩れ落ち、地面を握りしめた。大きく開かれた瞳から、涙がぼろぼろと溢れ落ちた。
とんだ失態だ。恥さらしだ。契約魔のいない魔女など、魔女ではない。
少女は逃げるように飛び去った。誰の声も届かない。魔女でありながら魔女でないならばその存在価値とはなんなのか。ただの人間というならば、この世界にはいられまい。
一人きりになった少女。彼女が魔女の集会―サド―に姿を見せることは二度となかった。その代わり、噂は広まる。至高の魔女に最も近かった少女は、魔女の姿をしていると。誰もが認める知恵と術を持っているのだと。
幾年が過ぎ、魔女の集会―サド―において彼女についての論議がされた。魔女でない彼女を放置していてよいのか、魔女でない彼女を仲間として迎え入れるのか、彼女に再びチャンスを与えるのか、これから彼女をどうするのか。魔女たちは話し合った。
そしてその決議はすぐに彼女の元に届けられた。
『次の満月までに古の魔女を倒せば、リーゼロットを至高の魔女として迎え入れる』
茶番だ。何を目的としているのかわからない。存在するか否かもわからない古の魔女を倒せと言うのか。至高の魔女?一度堕ちた存在でありながら周りが認められるわけがない。
けれど……。
やってやる。やるしかない。リーゼロットは相棒の杖を持ち、大切な傀儡をつれて境界の森へ向かった。
「っ、」
体中が悲鳴を上げている。視界がぼやけている。雪を踏みつけ固まる独特の足音が、ゆっくりと近づいてくることがわかった。
「まだ息があるとは、流石は至高の魔女の再来と謳われただけあるわね。」
「でも」
「これで、終わりよ。」
何も出来なかった。リーゼロットはただ見上げるだけだった。最も美しく、最も気高い、すべての知恵と術を持っていると言われる、古の魔女を。
すると何かが軋む音がした。ゆらゆらとしながら、一つの影がリーゼロットを覆った。
「……………………」
冷たい瞳で、ユリアはそれを見る。
「……………なん、で?」
驚いた瞳で、リーゼロットはそれを見る。
『………、――――――、……』
そこに立っていたのは壊れたジャック・オ・ランターンだった。それはリーゼロットが幼い頃からつれている人形だった。
そう、それはただの人形だった。魂も心も存在しない人形なのである。
今のリーゼロットに、それを動かすだけのマナは残っていない。
「お前、」
ならば勝手に動いているというのか。ただの人形であるはずなのに。
「まさ、か―――…」
そんなはずがない。そんなこと、あるはずがない。
「………あまりにも大きなものを想定し過ぎたとき、実際に目の前に現れたそれに気づけない場合がある。」
灯台下暗し、そう呟いたユリアは杖を空高く掲げた。
そして、振り下ろす。
「――――――っ」
リーゼロットの目の前で、ジャック・オ・ランターンは砕け散った。バラバラとなり、崩れ落ちる。
『………っ、……』
それでも、彼女の前には両手を広げていた。
それはとても、とても小さな影だった。
「あぁ………、」
リーゼロットはその影を見て、声を漏らした。
そんなはずがない。そんなことあるはずがない。
けれど、まさか………、その人形に魂が宿っていたとしたら?
「あああああぁっ」
リーゼロットは両手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。溢れる涙は両手で掬いきれず、零れ落ちていく。
そんな彼女を見て、ユリアは杖を降ろした。そして膝をつき、小さな悪魔の頭を撫でた。
「お前は偉いね。主に気づいてもらえなかったのに、それでも主を大切に思って、守っていたんだね。」
あの日、あの時、契約の儀は滞りなく行われた。ただ、召喚された悪魔はあまりにも小さく、ほんの微々たるマナしか持っていなかった。注意しなければ気づけないほどだった。
もっと強大な悪魔が姿を現すと思っていたリーゼロットは、その儚い存在に気づけなかったのだ。
「どうしてあなたが魔女として認められなかったのか。その本当の意味、わかる?」
リーゼロットは頷いた。自分は大きな過ちを犯してしまっていたことに気づかされた。
どうして魔女として認められなかったのか。それは、悪魔を召喚出来なかったからではない。ちっぽけな悪魔を召喚してしまったからではない。契約を結ぶべきその存在に気づけなかったからだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめっ、な、さぃ……」
手を伸ばし、リーゼロットは小さな悪魔に触れた。
「お前はずっと、私の傍にいてくれたんだね。」
悪魔はビクッと身体を震わせ、恐る恐る振り返った。
「ありが、とう………」
そう言うと、力尽きたリーゼロットは瞳を閉じた。今の彼女にはもう立ち上がる力もなかった。
「まったく、魔女の集会―サド―にも困ったものよね。」
ユリアは大きくため息をついた。
「こんなどうしようもない子を私に押しつけるんだから。」
ぐちぐちと良いながらユリアはリーゼロットに近づいた。すると悪魔がリーゼロットの前で再び両手を広げる。小さなその身体で抵抗を示した。
「大丈夫よ。家に運んで休ませてあげるだけだから。」
悪魔を自分の肩に乗せると、リーゼロットを抱きかかえた。魔法も使い方次第でなんだって出来る。同じ年頃の女の子を抱きかかえることも、ユリアには苦でもなかった。
「ほんと、大事にしてあげなさいよ。」
眠る彼女に囁きながら、ユリアは優しく微笑むのだった。
満月の夜が過ぎた。
あの日、突然家に殴り込みに来た彼女は無事に魔女として認められたのだと、風の噂で聞いた。聞く耳を持たなかった彼女に小さな悪魔の存在を気づかせるにはどうすればいいのかがかつて議題として上がり、その対応策として彼女を極限状態まで追い込み悪魔に姿を現すようにすればいいとの案が出た。だが、それを出来るだけの人物がいなかった。彼女の実力は魔女になる前からみんな知っていたからだ。無論、魔女以外に頼むわけにはいかない。
誰もが頭を悩ませている中、誰かが言ったのだ。古の魔女なら、なんとかしてくれるのではないかと。
「まったく迷惑な話じゃよ。」
無関係な人に押しつけるのだから。そう言いながら、ユリアは紅茶に口をつけた。穏やかな空気が流れる。雪も溶け残りは木陰に積もっているだけだ。温かい木漏れ日が窓から差していた。もうすぐ暖炉も必要なくなるだろう。
「やっほ~、ユリア!」
「こうやって懐かれてしまうじゃないか。」
乱暴に開かれた扉にユリアはため息をついた。
「リゼ、いい加減ここに来るのは止めなさい。」
「どうしてよ。来ちゃいけない理由があるの?」
リーゼロットは両手を腰に当てる。
「古の魔女と交流があるなんて、それだけで迷惑な話なんじゃ。厄介事に巻き込まれたらどうする。」
「返り討ちにするから大丈夫だって。それより、またそんな格好してるの?」
呆れたようにリーゼロットは言う。彼女の目の前にいる古の魔女は以前とは違う姿をしていた。細くて美しい指は、皺が寄り歪に曲がっている。シミ一つない肌も、しわくちゃになっている。
まさに人々が思い描く魔女の姿をしていた。
「お主の来るタイミングが悪かったんじゃ。普段がこの姿じゃよ。」
ユリア曰く、弦を奏でるのに皺の寄った指や曲がった腰では不都合であるとのこと。そのため若い頃の姿に変えていたのだという。
「どちらが本当の姿にしても、せっかくなんだから綺麗な方にしとけば良いじゃない。」
好きで老婆の姿になる必要などないとリーゼロットは言った。
「いろいろあるんじゃよ。それより早く入りなさい、身体が冷えてしまう。」
「なんだかんだ言ってユリアは優しいのよね。」
嬉しそうにリーゼロットは言う。中に入ってくる彼女の後ろには、小さなジャック・オ・ランターンがいた。
「ジャックも久しぶりじゃの。」
ユリアが声を掛けると、ジャック・オ・ランターンはにっこりと笑った。この姿は壊れてしまった人形の代わりにリーゼロットが用意した物だ。人より一回り大きいあの姿より、こっちの方が似合うとのこと。本人も気に入っているようである。
ユリアは自分が飲んでいたのと同じ紅茶をもう一つずつ用意した。二人の座るテーブルに置き、自分も腰を掛ける。
「リゼ、よくお聞き。わしはね、この家を囲む結界を強くするつもりじゃ。」
「!」
その真剣な声色に、リーゼロットは顔を上げた。
「これ以上お主を自由に出入りさせるつもりはない。」
いくらリーゼロットが強大なマナを持つ魔女であっても、古の魔女を前にすれば赤子も同然である。それは、彼女自身が一番よくわかっていた。あの戦いで、結局傷一つつけられなかったのだ。ユリアの受けた一撃でさえ、ユリアの描くストーリーに必要だったのだ。
「どうしてよ、」
リーゼロットの声は低かった。
「どうして!? だってユリアは、こんなにも寂しいじゃない!!」
机を叩き、立ち上がった。
「こんな場所に一人でいて、本当は寂しいんでしょ。私にはわかる!」
一人という孤独。何年も、何十年も、何百年も、彼女は一人でここにいたのだ。それがどれだけ孤独か。
「例えそうでも、わし自身がそれを望んでいるんじゃ。」
ユリアは否定しなかった。
「すまないな。親しい者がいることが、わしには辛いんじゃよ。」
「……………」
長く、生きすぎた。それ故の理由なのだろう。親しい者がいても、取り残されてしまう。きっとユリアと他の者では、時の流れ方が違うのだ。それはとても辛いことである。
「なら、せめて………」
拳を握り、リーゼロットは震えた声で言った。
「せめて、この季節だけ。雪解けの、春の心地を感じるこの季節にだけ、顔を出すことを許して。」
冷たくて静寂に包まれている、一番寂しい季節が終わろうとする今日この頃。
「会いに来るから! 絶対、嫌って言っても結界を壊して来るから!」
リーゼロットにとって、ユリアはただの古の魔女ではない。ユリアという一人の魔女だ。自分にとってかけがえのないものを教えてくれた、特別な存在なのだ。
「……………友待つの淡雪。」
「え?」
ユリアはそう呟くと、優しく微笑んだ。
「その時だけ、おいで。待っているから。」
「!」
あぁ、どこまでも優しい人だ。とても優しくて、温かい人。悲しませたくないから、本当は離れるべきなのに、甘えたくなってしまう。
だからこそ、リーゼロットは心に誓った。次に会うときは、彼女の支えになれるような人物になることを。友人として、ユリアを笑わせてあげられるように。彼女が会うのを楽しみにしてくれるように。
「ありがとう、ユリア。」
季節は巡り、再びこの場所にも冬が訪れる。そうすれば、白く冷たい雪が降り積もるだろう。獣の声も、鳥の囀りも、草花の囁きも、すべての音を飲み込んでしまうそれは、この森に静寂をもたらす。
けれど、時間は止まらない。いつかは日が昇り、温かくなり、雪も溶ける。次に降る雪を待ちながらすぐに消えてしまう儚い春の雪。そんな雪が森に残るこの季節に会いましょう。
「ユリア、久しぶり!」
春の訪れを知らせる花のような笑顔で。