五人目:『黒魔女』 アヤメさんに聞く最近の魔具事情!
大変です。
ランダムにヴィジョったら(『ヴィ・ジョン・バ・ナーレ』したの略語)、チンピラに絡まれました。
私の前で腕を組み、鬼の眼光を光らせるポニーテールの黒髪の女性。
「いい加減吐いたら? 何が目的?」
「あのですね、本当に私は新聞記者で、取材がしたかっただけで」
「新聞記者が他人の精神乗っ取る物騒な魔法使う?」
「ぐう」
「ぐうの音出す余裕はある、と。よし、口開けな」
「口に銃口突っ込むのはやめて下さい!」
銃型の魔具を私の口に何度も突っ込もうとしてくるこの黒衣を纏う彼女は、どうやらズィスィに住まう方のようで。スポットパーソンの気配を嗅ぎ付けて近場に乗り付けたんですよ。それで、スポットパーソンらしき彼女に「取材させて下さい!」って、割と直球で交渉しにいったら、急に胸倉掴まれて家に引き摺り込まれたんですよ。この人あまりにも怖すぎます。
そして、周囲の話を聞いていると、どうやらこの人はズィスィ問わず世界的にも知っている人は知っている有名人のようで……通称『黒魔女』ことアヤメさんという御方です。
すっげぇ、目付き悪いんですよこの人。まるでゴミ虫でも見るような目で見てくるんです。ちょっと興奮し……あ、嘘ですごめんなさい。そっちの趣味がある人には堪らんでしょうね。私は至ってノーマルですけど。
とにかく、私は土下座して、靴舐めながら命乞いした訳です。
「勘弁して下さい! 姉御!」
「姉御言うな」
「お姉様!」
「あんたの姉じゃないっつってんの」
「へ、へへ、く、黒魔女さまぁ……お願いッスよぉ……今日のところは見逃して……」
「あんた、放っといたらロクでもない事するタイプでしょ。ロクでもない事できる魔法持ってるしね」
駄目だ。私のあまりにも悪趣味過ぎる魔法がまさか此処に来て足を引っ張るとは。
もうね、死ぬかと思いましたよこの時は。
でもね、日頃の行いがいい私には、神さまも救いの手を差し伸べてくれるんッスよね。
とことことこ、と愛らしい足音と共にその女の子が現れた瞬間が私の転機でした。
「お姉ちゃん? お客さま?」
「あ、ミュゲ! 出てくるなって……!」
「私、新聞記者のメアリー・スーッス! 怪しい者じゃないんで助けて妹さん!」
もう藁にも縋る思いで、出てきた小さい女の子に命乞いしたんですよ。
お人形さんみたいな可愛い女の子でねぇ。もう、この極道みたいなお姉ちゃんとは違う天使に見えましたよ私の目には。
妹さん、ミュゲちゃんはどうやら私の命乞いを聞き入れてくれたようで……
「しんぶんきしゃ?」
「そうなんス! 私はただ、ミュゲちゃんのお姉ちゃんに取材したいだけなのに! 怪しい奴だと勘違いされてるんッスよ!」
「しゅざい? お姉ちゃん、新聞に載るの?」
否。どうやら『新聞』ってとこに興味を持ったみたいです。
「お姉ちゃんすごい! 格好良い!」
「え? ……えええ?」
アヤメさんを見上げて目をキラッキラと輝かせているミュゲちゃん。アヤメさん、困惑気味です。
「いつ載るの!?」
「え? いや、まぁ、取材できれば、そう遠くないッスけど。出来たらお届けするッス」
「わーい!」
大喜びです。こう、胸にぐっときますね。ウチの新聞を心待ちにしてくれる読者さんと出会えると。
はい。メアリー・スー、今回普通に感動しております。とても弱小新聞社とは言えないくらいに。
「楽しみだなぁ!」
まだ取材できる事確定してないのに、ミュゲちゃんワックワクです。これはもしかして、もしかすると……?
「あー……そ、そうだね。楽しみだ。う、うん。分かった。取り敢えず邪魔になるからミュゲは部屋の奥にいな?」
「うん!」
アヤメさんは滅茶苦茶困惑した様子で、ミュゲちゃんの背中を押して、部屋の奥に隠しました。
そして、つかつかと戻ってくると、ダァン! と椅子に腰掛け、頬杖を突いて目をぎょろりとひん剥きました。滅茶苦茶怖え。
「座りな」
「え?」
「向かいの椅子に座れって言ってんの! 取材受けてやるって言ってんだよ!」
「は、はいいい!」
どうやら妹さんの期待を裏切れないお姉さんのようです。これはラッキー!
でも、だとしたら、できれば妹さんには此処に居て欲しい!
下手したら秘密裏に殺されて海に沈められる! ま、これ、私の身体じゃないから別にいいけど!
……そんな恐ろしい気迫を持つ黒魔女さんに、今回はインタビューです!
――どうも! コズモス新聞社のメアリー・スーであります!
「そんな新聞社聞いた事もないけど……まぁ、信じてあげる」
――詐欺じゃないッス! 弱小なだけッス! 言わせないで下さい! まずはお名前を!
「アヤメ」
――お、お仕事とか得意な魔導とかは?
「器術。……というか、ロクに調べもせずに来たの?」
――ス、スンマセン! 凄い人物が居るって事は私の魔法で分かるんで、その人を手当たり次第に当たってるんスよ!
怖ええ! この人怖ええ!
怪訝な顔で痛いところ突いてきます! 今回適当に選んだとか言える筈もねぇ! 真面目にやらんと殺される!
と、取り敢えず『器術』について! 超マイナーな魔導だから補足!
『器術』とは、『器を作る魔導』。
魔導の源、『アルマ』を溜め込む器を作り、蓄える魔導です。
主な使い道はアルマのタンクとして、いざという時の備えとすること。他には一度発動した魔法をアルマに変換、備蓄してから使いたい時に再度アルマを魔法に変換、消耗無しで蓄えた魔法を発動する、とか。
『溜めて、使う』という一連の流れを実現する魔導ですね。
馴染みが薄い魔導ですが、皆さんの身近にも意外と多く使われていて、魔具なんかはこの技術が結構取り込まれていて、魔法のサポートをしているんです。アルマ量の補助であったり、詠唱短縮とかのサポートですね。何か凄い私真面目にやってると思いません? これでも最優良記者、結構博識なんスよ!
――というと、やっぱり魔具の職人さんなんですか?
「へえ。器術くらいは知ってるんだ。マイナーだから知らないと思ったけど」
――し、知ってますよ! これでも記者なんスから!
「まぁ、魔具作りはそこそこ。依頼が来たらやるくらいね。その依頼がやたらと来るから困りものなんだけれど。メインはあくまで器術の研究」
――研究者さんですか。そう言えば最近器術周りの研究で凄い発表があったとか聞いたような……もしかして、超大物?
「……いや、言うほどじゃないけど」
――アヤメ……アヤメさん!? 普通に器術研究の大物じゃないですか!
「ちょ、やめ……大した事ないから」
――やっべぇ! 大当たりじゃないですか! マイナーどころか超有名なインタビューするなら最適のメジャーどころじゃないっすか!
「い、言い過ぎ……言い過ぎだから……」
――照れてるんですか? 意外と可愛いところもあるんですね!
「殺す。殺して埋める」
――目がマジだ! サーセン! さて、真面目に行きましょう! 最近の研究内容ってなんですか?
「ひとつふたつじゃないんだけど……まぁ分かりやすいのだと、今まで器術を適用できなかった魔導に対しても、器術を適用できる様にする研究ってとこかな」
――ってことは、誰でも付術や治癒術が使えるようになっちゃう……って事ですか?
「そうそう。そんな感じ。あ、あとは『自分の意志を持った魔具』の開発とかかな」
――自分の意志? ……っておわぁ!
何か机をトコトコと、変な人形が歩いてきました!
どうやらアヤメさんが取り出したもののようで、まるで小さな生き物であるかのように、土で出来た人形は私の手にすり寄ってきます。
私のリアクションを見て、くすりと笑うと、アヤメさんは机をこんこんと叩きました。すると、呼ばれた犬のように、土人形はアヤメさんの元にトコトコと戻っていきました。
――なんスか今の!?
「今のみたいなのを研究してるの。疑似の召喚術みたいな、使役できる人造の生き物とでも言えばいいかな。決まった動きを記録して、勝手に動くようにしてるの」
――すっげぇ! 今のもっかい見せて貰っていいッスか!
「だーめ。今のはもうおしまい」
――意地悪な笑顔! くぅ、まぁ研究内容をおいそれとは見せられないッスよね……じゃあ次の質問!
「お。意外と素直に引くんだ」
――そりゃあ常識くらいありますよ。敢えて一部守ってないだけで。ところで、先程の妹さんなんですけど、可愛いッスねぇ。
「……まぁ、血は繋がってないんだけどね。妹のように思ってるよ」
おや、何やら事情がある様子。あまり深掘りはしない方がいいッスかね。
――そうなんスか。色々あるんスねぇ。この家にはお二人で暮らしてるんスか?
「そうだよ。前は師匠も居たけど、もう年だったからね」
――そうなんですか。他にご家族は?
「……さぁね。父親も母親も忙しい人だったから。物心ついた頃には此処には居なかったよ。出てった先でポックリ逝ったって聞いてるけど……私の家族と言える人は師匠だけ」
どうやら相当な背景をお持ちなようで。
――師匠さんはどんな方だったんですか?
「厳しいけど優しい人だったよ。本当に、私は祖母みたいに思ってた。元は母の師匠だったらしいけど」
――じゃあ、お母様も器術士だったんですか?
「正確には師匠も母も魔具士。師匠はあまり表舞台に立たなかったけど、母は有名だった。『赤魔女』エレガティス。名前くらいは聞いた事あるんじゃない?」
――『赤魔女』エレガティス……あ! し、知ってます知ってます! 知らない筈がないですよ! 今の最新魔具の基礎を築いた魔具界の革命児じゃないですか!
「私もそっちの名前ばっかり聞いてた。母としてよりもね」
――彼女の魔具技術でどれだけの人が救われた事か……本当に英雄ッスよ英雄! この私が尊敬してるくらいなんスから!
「へえ、そう。……まぁ、母とは思ってないけど、確かに私も尊敬してるよ。凄い人だって」
――忙しく色んな所を巡って、多くの人を救ってきた人ッスからねぇ。しかし驚いたッス。まさか、あの赤魔女が既婚だったとは。……おっと、失礼。今はアヤメさんのインタビューッスね。
「そうそう。これ以上エレガティスの話をしたら、叩き出す所だったわ」
――おおっと危ない。で、アヤメさんには浮いた話とかあるんスか?
そりゃもう見事なリアクションでしたよ。
椅子から転げ落ちてダァン! と顔を机に打ち付けて。
それで裏返った声で言うんですわ。
「あ、ある訳ないでしょ! 馬鹿じゃないの!?」
――おや? おやおやおや?
「ば、馬鹿! 本当にそんな事……!」
――そッスか。じゃあ、最近の趣味について……
「掘り下げないのかよ!」
――え? いや、だって。煽ると殺しに掛かるじゃないッスかアヤメさん。
「え? いや、まぁ確かにそういうスタンスでやってたけど……」
――聞かれたいんスか? いや、私、実は進んでするようなノロケ話とかは好きくないんで。
「お、おまっ……お前っ!」
――はいはい。じゃあ、最近の趣味をどうぞ。
この人、実は恋愛話したくて仕方がない人じゃないんスかねぇ。
でも、私は他人の恥ずかしい話は好きだけど、幸せな様は反吐が出る程嫌いなので、聞かないッス。
あと、この人意外と弄りがいがありそう。強がってるだけのツンデレタイプなんじゃないッスか。
「くっ……! しゅ、趣味は……まぁ、器術研究?」
――うわっ……仕事が趣味?
「うわっ、とか言うな! 仕方ないでしょ! 周囲が森で娯楽も何もないんだから!」
――ズィスィの美味しいお菓子のお店とか教えてあげましょうか? たまには外に出た方がいいッスよ?
「人を引き籠もりみたいに言うな!」
――じゃあ、オススメのお店教えなくてもいいんスか?
「それはちょっと教えて欲しいけど!」
――おやおや。上のお口は素直ッスねぇ。
「……からかってるな? 私をからかってるな?」
――はい、さっきの困った顔は既に激写済みですんでこれにておさらば!
「あ! 待てコラ……!」
はい。という訳で、今回のスポットパーソンは!
器術のサラブレッドにしてエキスパート!
黒の似合うクールで少し怖い『黒魔女』こと、アヤメさんでした!
それでは次回のスポットパーソンに……『ヴィ・ジョン・バ・ナーレ』ッ!
……と言いたいところですが!
良い感じに紹介もキリのいい数にもなってますんで、少し次回は趣向を変えてみましょう!
というか、疲れるんスよ面倒臭い人ばっかで。あ、口が滑った。
え? お前が一番面倒臭いって? やだなぁ親分! あ、親分がこの間綺麗な女性と密会していた現場の写真が! え? お前ほど優秀で可愛い部下はいない? ですよねー!
とにかく! ここはちょっと清涼剤的な? お口直し的な?
可愛くて美人で爽やかな女子達のトークを挟んでみるのはどうでしょう?
それでは、いつもの掛け声は少しお休み!
次回をお楽しみに!