三人目:『原典』 マゴさんに聞く魔法とは
まぁ、私の便利な魔法『ヴィ・ジョン・バ・ナーレ』があったとしても、事前に相手の事を知っていなければインタビューとかし辛い訳ですよ。最優良記者たる私はそりゃもう情報量はパネェ訳ですけども、一人目のアンジュアキカさんのような未発掘の大物を引き当ててしまうと内容薄くなっちまう訳です。
だから、多少は事前調査の上で、よさげな人を捜す。これが基本スタイルになります。
前二人は媚びに媚びた訳で。別に写真集出したいわけじゃないんですよ。これでも記者の端くれ、いや、最優良記者なのでむしろ記者のお手本ですからね。
そこは内容で勝負ですよ。
という訳で、ちょっと賢そうな所攻めてみます! そういった読者層も拾っていきますよ~!
それでは現場に参ります! 『ヴィ・ジョン・バ・ナーレ』!
~~~ 脇役さんの意識にアクセスしています! なうろーでんぐ! ~~~
はい。今回はアポなしの突撃取材ではありません。事前に連絡済みです。
お手紙にて取材を受けて下さる方に正式に依頼を出し、お身体を借りる方もご用意頂き(実は私の魔法、先に対象に『マーキング』しておけば狙いを定めて発動可能です!)、しっかりと時間を決めてのインタビュー! しかも、無償! ……別に脅しとかしてないですよ? ホントッスよ?
とにもかくにも、今回はかくかくしかじかしなくて済むので一安心!
「どーもー! コズモス新聞社でーす!」
乗っ取ったのは何やら女性のようです。インタビュアーが私という事で、わざわざ女性の器を用意して下さったとか!
目を開けてご挨拶。すると部屋には三人の男女がおりました。
一人は真正面に座る小柄な少女。前回前々回の美男美女と比べれば些か地味ですが、結構可愛らしい女の子です。素朴な感じ? 田舎くさいとも言えるかも。装いは如何にも魔導士といったコテコテレトロスタイル。いいですね。そそりますね……あ、不適切な言い回し? ごめんなさい親分!
あとはお爺さんが一人と、何か腕組んで座ってるすっごいおっかない顔したオッサンが一人。鎧がっつり着込んでめっちゃガタイがいいです。強そう。成る程、護衛の騎士さんといったところですかね?
お爺さんが私がやってきたのに気付いて、腰を上げました。
「良くいらっしゃった」
「どもッス! 本日はありがとうございまッス! コズモス新聞社のメアリー・スーッス!」
その後、事前に取り決めしていた合言葉を交わして(万が一、私以外の『乗っ取り系』が来たらマズイので! まぁ、そんな奴そうそういないんですけどね!)、私は早速インタビューに取りかかりました!
――本日、インタビューを受けて下さる『マゴさん』はどちら様で?
「あ、わ、私です」
手を上げたのは女の子。でしょうね。
ここは魔法国家アナトリのマギア村。本日はこの村で一番の魔導士と言われるマゴさんがインタビュー相手です。
アナトリは魔法国家と呼ばれている通り、古来から魔法の研究が盛んな国です。魔法の始まりとも言える国の中で、マギアは大昔から伝統魔法を語り継ぐ歴史深い村なのです。そこで一番の魔導士ともなれば、そりゃもう魔導研究者からしたら非常に、ひっじょーに興味深い対象なのではないでしょうか?
――それではよろしくお願いします
「よ、よろしくおねがいします!」
――まぁまぁ、そう緊張なさらずに。お名前は?
「あ、えー、マゴと申します! アナトリ、マギア村の生まれです!」
――マゴさん。今回、マギア村一番の魔導士とお聞きして、インタビューに伺いました。その割にはお若いですね。
「い、いえそんな、一番だなんて! 私なんてまだまだ……」
――え? 一番じゃない? 本当ですかソフォス村長?
元より内気で遠慮がちな子とは聞いていましたので、一緒に居て頂いたご老人、ソフォス村長にバトンパスします!
「確かにまだまだ未熟な所もありますが、まず間違いなくマギア村で一番の才能を持つ魔導士でございます」
「ソ、ソフォス様」
――少し控えめなんですね。
「ええ。もう少し自信を持てば伸びるのですが、どうにも狭い世界しか知らないからか遠慮がちで」
「そ、そんな事ないですよ。私は本当にまだまだです」
「天使と比べればそれはな。マゴはもっと自信を持つべきじゃないか」
「オルコス様まで……」
おやおや、騎士さんも混ざってきました。マゴさんへのお説教の場みたいになってきたんですけど。
まぁ、実際マゴさんは謙遜しすぎですよ。私の『ヴィ・ジョン・バ・ナーレ』で乗っ取れないくらいの人ですから。
困り切っておどおどしているマゴさんを放っておいたら内容が全部説教になってしまうので、そろそろ助け船を出しましょう。
――お得意の魔法は?
「あ、風系統の自然操作の魔法が得意です」
「他にも実践レベルではないが炎や水、氷等々、自然操作系の魔法は幅広く習得している。結界術も使える」
「オ、オルコス様! そんな、本当にまだ練習中の段階ですから!」
騎士オルコス様、あんたにゃ聞いてないけど、ナイスフォローです!
てっきりただの護衛かと思いきや、何か色々と話してくれて大助かり!
「とても繊細に魔法を扱う子でして。魔導書の通り、寸分の狂いもなく魔法を編み上げるのです。本来なら魔法を扱う時は使用者の癖やアレンジが加わりがちなのですが、この子は本当にレシピ通りに魔法を行使する。故に村では最も太古の魔法に近い魔法を操るもの、『原典』と呼ばれ皆から一目置かれておりまする」
「ソ、ソフォス様!? 持ち上げすぎです! それに、『原典』なんて呼ばれているなんて初耳なんですけど!」
村長ノリノリじゃないッスか! しかし、当人の謙虚さからは掛け離れた評価ッスね……何か勝手に異名とか付けられてるし……
魔導書通りに精密に魔法を行使できるってのはそんなに凄い事なんスかね?
私は魔法はもっぱら感覚で使ってるんで、さっぱりッス。ってか、『ヴィ・ジョン・バ・ナーレ』しか使えないですし。
――とにかく凄い魔導士さんなんッスねぇ。
「はい。もう少し経験を積み、応用を覚えていけば大成するでしょうな」
「ソ、ソフォス様! 本当にやめて下さい! これ、新聞に載るんですよね!? あまり持ち上げないで!」
「持ち上げてなどいない。正当な評価だ」
「オ、オルコス様も!」
なんすかこれ。
この二人、さては過保護なおじいちゃんとお父さんじゃないでしょうね?
孫煩悩ならぬマゴ煩悩(うまい事言った)のおじいちゃん、ソフォスさんと、子煩悩(うまい言い回し思い付かなかった)のお父さん、オルコスさんのマゴ自慢。
……アリだな!
今回は魔法の事を聞くつもりだったんスけど、この路線で弄りたくなってきたッス!
――ところで話は変わりますが、マゴさん、好きな人って居ますか?
「え」
「え」
「はい!」
「え!?」
「え!?」
ソフォスさんとオルコスさん仰天です。そして意外にも朗らかに肯定したマゴさん。
これは面白い事になってきましたよ!
お父さんとお爺ちゃん焦ってますよ!
「『銀魔女』アスミ・ウェネーフィカ様です!」
――え? 『銀魔女』? 女性? 誰ですか、それ?
「ご存じないのですか!? 銀魔女アスミ様と言えば魔導の太祖! 魔導の系統の概念を生みだし、魔法を初めて技術として確立させた、謂わば始まりの魔導士ですよ!? 彼女の著書は今でも魔導を志す者の最初のバイブルとされ、今も尚引き継がれているのですよ!?」
――怖い! 剣幕怖い! 落ち着いてマゴさん!
「え? あっ、す、すみません! つい! アスミ様は私の一番の憧れの魔導士ですので、アスミ様の事となるとつい熱く……!」
やっぱ魔導士って怖いッス。自分のジャンルとなるとこれですもん。
それに、好きな人ってそういう事じゃないんスけどねぇ。
――あと、好きな人って尊敬的な意味じゃなく、恋愛的な意味なんスけど……
「マゴにはまだ早いでしょうな!」
「でしょうな!」
お爺ちゃんとお父さんが必死です。マゴさんの「はい」の返事の時の絶望フェイスと、さっきのアスミさんとかいう人の名前出た時の安心した面はちゃんと画像に保存してるッス。
さて、続くマゴさんの反応は……?
「れ、恋愛……ですか?」
ぴんとこない様子。ですよね。何かそういうの全く知らなさそうですもん。ピュアそうですもん。
――こう、気になる男の人とかいません? エッチラオッチラしたい、とかじゃなくていいんで。
「居ませんぞ!」
「居ないだろうな!」
お爺ちゃんお父さん必死過ぎッス。
でも、事前情報ですとマゴさんももう18なんスよねぇ。少し位そういう話があってもよさそうなんッスけど。そして、その兆しが見えると凄く面白そう。
「えっちらおっちら?」とか首傾げてますが。
――恋とかしてない? なんかこう、今ぱっと思い付く男の人とかいません? 話してて楽しいとか、何でもいいんで。同い年くらいで気になる人とかいないんスか?
「スー殿! 魔法の話をしませぬか!?」
「そうです! 魔法の話をしましょう!」
お爺ちゃんお父さんどんだけ必死なんスか。マジでお爺ちゃんお父さんなんじゃないかって思うくらい必死なんスけど。違うッスよね?
はてさて、マゴさんの反応は……?
「……話してて楽しい……同い年……そもそも、村には私と年の近い男の子が居ないんですけど……あっ」
ん? 「あっ」? 考え込んでいたマゴさんが何かに気付いたように顔を上げました。
これはティンと来ましたよ。思い当たる節がありますね。
どうやらお爺ちゃんお父さんも気付いたようで、一気に顔が強ばりました。
これを待っていた!
色恋沙汰には鈍そうな、ピュア&ピュアのマゴさんですが、どうやら質問の意図と、思い当たる節が結びついたようで、次第にあわあわしだしてきました。
「い、いないですよっ!? そんな人っ!」
「居るのかマゴ!?」
「話しなさい! 何処の馬の骨だ!?」
――ヒャッハー! キタキタキタァ! あ、やべ声に出しちゃった。して、なんて名前ですか?
「い、いいいい居ませんって! あ、あと、ソフォス様もオルコス様も怖い! 居ないって言ってるじゃないですか!」
「嘘を吐け! お前は嘘が下手だ! 丸わかりだ!」
「マゴよ! 言いなさい!」
「居ないです! 誰も居ないです! 気のせいです!」
――あ、じゃあお約束の時間も近いので、そろそろお暇しますね。件の情報はあとでお送りするんで。ありがとうございやしたぁ~。
「あ、ちょっとスーさん!? 置いてかないで下さい!」
「気のせいってなんだ!? 言いなさいマゴ!」
「何処の馬の骨が!」
「助けてスーさん!」
はい、ぷつんと。あーあー聞こえません聞こえません。
器の脇役さんには申し訳ないですが、修羅場に巻き込まれるのは御免ッス!
~~~ 脇役さんの意識からログアウトしています!~~~
はい。堅苦しいお話をするはずが、面白いお父さんとお爺ちゃんの生態を見れました。
まぁ、お爺ちゃんお父さんには吉報でしょうが、ぶっちゃけマゴさん、好きな人とか居ないっしょ。
あれはあまりにも思い当たる節がなくて、偶々知ってる同い年くらいの子が思い付いたんですけど、まさかその名前をあの質問に対して出すわけにも行かない事に気付いてテンパっちゃっただけッスよ。
今更だけどこの記事読んだ時の為にフォローしとくッス。マゴさん、ごめんね!
では、今日のインタビューはこれまで!
しかし、好きではないにせよ、マゴさんが頭に思い浮かべてあそこまで焦る相手ってのは誰なんスかねぇ?
村には同い年の男の子が居ないとか言ってましたし、あまり村から出たことのなさそうな箱入りのお嬢さんみたいだったし、あれですかね。外から来た旅人とかッスかねぇ?
ソフォスさん、オルコスさん、心当たりあったら、メアリー・スーまでご一報を! その男に探りを入れてやりやすぜ!
今回はかわいい系の女の子がお相手だったので、今度は女性読者狙いのイケメンを攻めたいところですが……残念! 次回も女性がお相手です! ごめんね!
男性読者はお楽しみに! ノトスの『聖女さま』にお話を伺いますよ!
以上、今回のスポットパーソンは……
まだまだピュアな原石だけど、みんなが期待する大魔導士!
『原典』マゴさんでした!
それでは次回のスポットパーソンに……『ヴィ・ジョン・バ・ナーレ』!