第5話 ヨウガシって何?
「えっ、もちろんですよ。だって、蓮さん達は服装からして職業はもといたところの喫茶店かレストランのコックさんとウェイトレスさんだと思いましたから。お店を始めないともったいないですよ?」
ショコラが蓮達の作業着とメイド服装を見て、少しおどけたように言う。
「確かに喫茶店とかで働いていそうな服装ですが、まだ自分たちに……」
「ショコラさん、僕達はもといたところで洋菓子店を家族で営んでました。実は僕達、この格好のまま洋菓子に使う材料を買った帰りでして、気づいたらここに着いてしまいました」
萌が話している時に蓮が話をさりげなく遮った。
彼はほとんどが本当ではあるが、少し嘘をショコラに話した。
「なるほど。ここにきた事情は分かりました。ところで、ヨウガシってなんですか? 洋食と同じようなものですか? 洋食は蓮さん達みたいな人に教えていただいたおかげでここは洋食が主流です。そして、少しずつですが、ワショクというものが入ってきています」
どうやらショコラは洋食は知っているが、洋菓子は知らないらしい。
「洋食が分かるならば話は早いです! お兄ちゃん、洋菓子といえば?」
萌が蓮に問いかける。彼はいきなりどうしたと言い出しそうな顔をした。
「甘くて、美味しくて、ほっぺが落ちそうな食べ物ですよ」
「あと、食べたあとは幸せな気持ちにさせてくれる魔法の食べ物とも言えます」
彼らはショコラに洋菓子の素晴らしさらしきものをのほほんとした表情で説明する。
「甘くて美味しい魔法の食べ物かぁ……」
「ショコラさん、ヨウガシを1度食べてみたいですか?」
ショコラが少し羨ましそうな表情を浮かべ、蓮が問いかける。
「ハイ! でも、材料ってあるんですか?」
「材料ならこの車にたくさんありますよ」
後部座席に座っている萌が荷台に詰まれたたくさんの小麦粉と牛乳を指差した。
「これらでヨウガシは作れるんですか?」
「ハイ、作れますよ。ショコラさんも一緒に作りませんか?」
「ハイ! ヨウガシを作ってみたいですし、食べてみたいです!」
「まだ、僕達はお店とかの建物は持っていませんが、料理教室のような建物はありますか? 今日はもう暗くなってきて、宿も探さなきゃならないので、明日でもいいですか?」
ショコラがはしゃぐ中、蓮は外を見た。
空は暗くなりかけ、街灯がつき始めている。
「確か……私が経営しているホテルの近くに地域の人が自由に使える料理教室があったはずです。あっ、今頃ですが、私のホテルに泊まっていってください! 部屋は空いていますので!」
「やったぁ!」
「ショコラさん、ありがとうございます!」
「いえいえ。蓮さん達が私と一緒にヨウガシを作るんですから、私からもサービスさせてくださいな。これから案内しますね」
「ハイ」
「お願いします!」
彼らはショコラの案内で彼女の経営するホテルへ軽ワゴン車を走らせた。