第4話 ベルディでお店を始めませんか?
蓮は運転席に萌は後部座席、ちびっ子案内人のショコラは助手席に座り、今、彼が運転している軽ワゴン車に乗っている。
西洋の雰囲気が漂う異世界ベルディには喫茶店やレストラン、宿泊施設、家電量販店、武器などを扱うアイテム屋などという店舗が並んでいる。
「先程、市役所とかはないのかと言っていましたが、そういうところは存在しません」
「えっ!? 住民票はどうするんですか?」
「市役所がないということは僕達はここに住めないということですか?」
蓮と萌は立て続けにショコラに質問をする。
彼女は首を横に振る。
「ここは私達案内人が見慣れない人だと思い声をかけた時には入門審査が済みますので、もう蓮さんたちはここに住むことができます。まず、ジュウミンヒョウってなんですか?」
「住民票はその土地に住むための許可証みたいなものです」
住民票という言葉が初めて聞いたらしく、ショコラは彼らに問いかけ、萌が答える。
「なるほど! 場所によって異なるんですね!」
「そういうことです。私達は前いたところとここしか知らないんですがね……」
「ところで蓮さん?」
「なんですか?」
「蓮さんが動かしている大きな鉄の塊はなんですか?」
「あっ……、コレも初めてなんですね。コレはワゴン車です。荷物や人をたくさん乗せて遠いところに行ける便利な乗り物です」
「へぇー……。だからたくさんものを積んで走れるんですね!」
住民票とワゴン車の謎が解けて嬉しそうなショコラと異世界でもといたところの解説をする難しさを改めて学んだ萌であった。すると、
「いいなぁ……。羨ましいなぁ……。ここは馬車と鉄道は発達していますが、今、私達が乗っているこのようなものは残念ながら発達していません。なので、ここの住人は珍しくてくすくす笑っていたんだと思います」
ショコラが蓮にどこか羨ましそうな表情を見せるが、蓮は次の質問をしようとする。
「ショコラさん、ベルディは何が盛んなんですか? 例えば野菜がたくさん取れて美味しいとか」
「ここはですね、農産物が盛んで食料自給率も高い方です。あと、電化製品もですね。それにしても蓮さん達はラッキーですね!」
「……?」
蓮と萌はショコラの方を向き、首を傾げる。
「他の地区は物価がとにかく高いですが、ここはなんでも安いですよ!」
「本当ですか!?」
「ハイ! 宿泊費でたとえると分かりやすいですかね……。他の地区だと、金貨10枚以上必要ですが、ここは安くても金貨5枚、高くても金貨10枚で止まることができますよ」
「へぇー、いいところですね。お兄ちゃん、なんか嬉しそう」
「そりゃ、そうだよ! 物価は重要さ!」
「もし、家を建てたい、農業をやりたい、お店とか始めたいと思ったら土地も建築費も安く済みますし、その時に使う電化製品や農業用具も申し出ていただければすぐに手に入れることができます!」
「凄い! ベルディって本当に凄い! 僕、ここにきて凄く幸せです! なぁ、萌?」
「凄いでしょう! ねぇ、萌さん?」
蓮とショコラがはしゃいだ口調で萌に問いかけるが、萌はぼんやりと外を眺めている。
それは西洋の都会の雰囲気の中に野菜の栽培をしている家がちらほらと窺える。
「うん。あっ、農業をやってるところがありますね。ここは農村地と都市部の区別はあるんですか?」
「いいえ。区別してしまうと買い物に行く時間がかかってしまうかもしれないので、そのような区別はないのです。農業をやっている人もいない人もみんなが楽しく過ごせるのが、ここベルディのいいところなのです」
「確かに農村地は大変ですもんね……」
萌の質問にショコラが最後はにっこりと微笑みながら答えた。
「蓮さん、萌さん、ここベルディでお店とかを始めてみませんか?」
「えっ!?」
「ここにきてまだ半日も経ってないのにいいんですか?」
ショコラから突然言われた一言に戸惑う彼らであった。