第19話 なぜ、エプロンと三角巾が必要なの? ~衛生面のお話~
飲食関係や接客が初心者のミルクとココア。
そんな彼女らに分かりやすいようにパン屋のイメージを考えてもらうところから始まった今回の職場体験。
彼女らが意外と様々なイメージを挙げてくれたことに蓮達も驚いていた。
「まぁ、この店はパン屋さんじゃないから違いはあるよ。たくさんのイメージを挙げてくれてありがとう。長々と説明しても嫌になると思うから、開店準備を始めようか」
と蓮が言った途端、チンッ! と何かが焼き上がるアラーム音が響いた。
「うん。ところで、オーブンが鳴ったよ?」
「おっ、本当だ!」
蓮がオーブンから取り出したものは焼きたてのクッキー。
焼きあがった様々な形をしたそのクッキーは大きめな皿に移し、少しの間冷ます。
「美味しそう……。しかも、いい匂い……」
「いろんな形がある……」
『食べてもいいですか!?』
ミルクとココアが唾液を少し垂らしながら蓮に訊いてみる。
蓮は彼女らにいつもの口調ではあるが、少し冷徹な言い方で、
「ところで、2人はエプロンと三角巾は持ってきてるかな?」
と訊き返す。
「ハ、ハイ!」
「も、持っています!」
ミルクとココアは先ほどの蓮に驚き、少し笑顔が引きつっている。
「なーんてね。2人とも、ごめんね! ちょっと怖かったかな? 僕、学生時代は演劇部だったから!」
「今はそんなことはどうでもいいから! お兄ちゃん、いつもの口調で何かになりきって演じないでよ。怖いから……」
蓮がどうでもいい情報を彼女らに言うと、萌が即座に突っ込まれる。
ミルクとココアは「冗談でしたか」とにたっとした表情を浮かべながら、
「蓮さん、やめてくださいよ」
「私達が蓮さんの機嫌を損ねさせたかと思ったじゃないですか」
とそれぞれ付け加えた。
「あははは。僕は作って待ってるから、君達は着替えてきていいよ。萌は2人にロッカールームに案内してあげて」
「分かった! 2人とも行きましょう」
今のミルクとココアの服装は学校の制服姿で肩から通学用鞄の提げている。
彼女らは元気よく「ハイ」と返事をし、萌のあとについて行った。
*
「どうぞ。ロッカールームと言っても客間なんですが、こちらです」
萌は彼女らを2階にあるロッカールームもとい客間に案内する。
「わぁ……」
「シンプルですね……」
こじんまりとしたその部屋はテーブルと椅子が4つ、ロッカー代わりの本棚が置かれているだけの部屋だった。
「荷物はこの本棚に置いてくださいね。あと、お着替えも。昼食は時間をずらして食べることになります……」
萌がその部屋の説明をする。ココアが、
「蓮さんと萌さんのどちらかと一緒ですか?」
と彼女に質問してみる。
「そういうことになりますね。多分、交互になると思います。私もお兄ちゃんもミルクさんとココアさんのことを知りたいと思うので、たくさん話しましょう」
萌は2人に笑顔で答えると、彼女らは着替え始めた。
今度はミルクが、
「ところで、萌さん。今、思ったんですが、なんでエプロンと三角巾なんですか?」
と萌に問いかける。
「それはですね、この店は『洋菓子』という食品を扱っていますので、衛生面には厳しいのです。例えば、爪が長いと駄目だから切ろうとか、髪が肩についたら縛ろうとかですね」
「なんか、学校の延長みたい……」
ミルクが少し嫌になった表情を浮かべながら言う。萌が続けて、
「簡単に言えば、学校の調理実習と同じです。作ったものに髪の毛とか入っていたら嫌じゃないですか? 商品の見た目も重視なのです」
「確かに……作られた料理に髪の毛が紛れていたら嫌ですね……」
ココアが納得したように萌に相槌を打つ。
「そうです。あとは店内をきれいにすることですかね」
「確かに、昨日、お店に入った時にきれいなお店だなぁと思ったんですよね」
「環境整備もお店のイメージを左右されますので」
「なるほど! それと、どうでもいいことですが、蓮さんが演劇部だったって言ってましたが、萌さんは?」
「私も演劇部でしたよ。お兄ちゃんは時々、ダークな台詞を言ったりしますが、気にしないでください。では、いろいろと大変になると思いますが、楽しくやっていきましょう」
「ハイ!」
「みんなー、まだ、着替えてるのー?」
と1階から蓮が彼女らを呼ぶと、
「今、行くから待ってて!」
と萌が返事を返した。
「では、行きましょうか。ますは環境整備からです」
『ハイ!』
ミルクとココアは先ほどの制服姿から制服の上からエプロンと三角巾という学校の調理実習の服装で、厨房へ向かった。
彼女らの店頭に出る時間まであとわずか……。




