第1話 幼き日の記憶
地域に愛されていることで有名な洋菓子店・フェアリー。
その洋菓子店は白を基調とした建物であり、一歩中に入るとショーケースにきれいに並ぶシュークリームや季節の果物のフルーツタルト……。
誕生日のケーキやクリスマスケーキは数量限定ではあるが、好評を得ており、ごく稀にウェディングケーキを作ることもある。
その洋菓子を作っているのはパティシエの夫婦である歩と憂。
彼らの息子と娘である蓮と萌は元気よく、
「こんにちは!」
「いらっしゃいませ!」
と来店したお客様をとびっきりの笑顔で出迎えている。
憂はカウンターでレジを打ったり、歩と一緒に製造に携わったりしている。
そんな幼い彼らのおやつは店内の洋菓子を1つまたは新商品の試作品。
そんなある年のクリスマスのことである。
「なぁ、蓮に萌、大きくなったら何になりたい?」
と歩が2人に問いかけた。
「僕、お父さんとお母さんみたいにケーキを作る人になりたい!」
「萌も!」
2人はすぐさま接客スマイルで歩の問いに答える。
「2人とも、パティシエになりたいんだな」
「『ぱてぃしえ』?」
「そうだぞ。さっき、蓮が言ったケーキを作る人のことだ」
萌が首を傾げていたので、歩が簡単に説明する。
「ふーん……」
曖昧な返事をする萌であった。
「お父さんとお母さんのお仕事は『ぱてぃしえ』って言うんだ」
「そうよ。パパとママはケーキやシュークリームを作ってお客様に買って食べてもらって幸せにするお仕事よ」
憂は蓮にその仕事のことを説明する。
「なるほど! ねぇ、お父さん」
「なんだい、蓮?」
「僕もパティシエになれるかな?」
「2人なら、なれるとも」
「僕、頑張るよ!」
「萌も頑張る!」
こうして、蓮と萌は幼いながらにしてパティシエになるという夢を追いかけることを決意したのであった。