第18話 職場体験が始まる前に…… ~手作りのパン屋さんでイメージをするところから始めよう~
本格的なスタートを切った次の日の朝……。
街頭はあちこちについているが、空はまだ暗い。
その暗さに目が慣れないベルディの街中に1つの店の電気がついている。
店の名は『異世界洋菓子店フェアリー in ベルディ』。
その店に向かって学校の制服を身に纏った2人の少女が別々の方向から眠そうな目を擦りながら歩いていた。
そんな中で今日から彼女らの職場体験が始まる……。
*
数分経った後、彼女らが同じタイミングでその店に到着した。
「おはよう。緊張するね……」
「おはよう。今日から頑張ろうね」
「うん」
「じゃあ、行こうか」
彼女らは店頭の入口から入ろうとしたが、そこは閉まっていたため、裏口から、
『おはようございまーす!』
と元気よく挨拶をし、厨房に入る。
「おはよう! ミルクさんにココアさん」
「おはようございます!」
とその店の店員である蓮と萌が彼女らに挨拶を返す。
「このお店は朝が早いんですね……」
「前回の職場体験で行ったところはゆっくり行った記憶があるのになぁ……」
ミルクとココアと呼ばれた少女達は蓮達にぼやく。
「まぁ、ここは工場とかじゃないからね……。君達はパン屋で職場体験はやったことがあるかな?」
蓮はミルク達に問いかけると、
「パン屋さん? 職場体験では行ったことがないですね……」
「私もです……。すみません」
彼女らはパン屋で職場体験の経験がないらしい。
「謝らなくていいよ。んー……ならば、最初から説明か……」
「そうだね……。例えば、手作りのパン屋さんってどんなイメージがありますか? なんでもいいので、挙げてみましょう」
萌が2人にパン屋のイメージを訊いてみる。
「えーっと……。お店に入ったら焼きたてのパンのいい匂いがします。あと、きれいに商品が並んでます」
「でも、朝早くから準備してるイメージがあります。パンの生地を練ったり、焼いたりしてるかもしれないですよね?」
「常にある程度は棚に商品が置いてあるイメージがあります」
「あとは体力勝負と商品を置くセンス」
などと2人のパン屋に関するそれぞれのイメージを挙げ、蓮と萌は頷きながら訊く。
「うん、その通りだね。常に商品がなくならないようにするためにはある程度のストックが必要となるんだ。そして、きれいに商品を並べてお客様に興味を持ち、買ってもらうことも重要になるんだ。ちなみに今のこの店の現状は昨日開店したばかりだから忙しくなる」
「私達みたいに兄妹や夫婦で店を切り盛りしてるところは特にです」
「確かに、昨日は忙しそうでした。少人数で切り盛りするのは大変ですよね」
「1回伺ったのですが、時間をずらそうとココアが言ったので……」
蓮と萌が2人に今の現状について伝えると、ミルク達は昨日の彼らの姿を思い出した。
「お気遣いありがとうございます。今はベルディに少しずつですが、『ヨウガシ』が広がりつつあると思います」
「確かにあちこちから『ヨウガシ』は美味しいっていう情報をよく耳にします!」
「私も! 『ヨウガシ』はいろんな種類があって、きれいで可愛いって話を聞きました!」
ココア達は萌達に『ヨウガシ』の情報を報告する。
「僕……その話を聞いて嬉しいよ……!」
蓮は少し涙目になりながら、ココア達を抱きしめる。
「お兄ちゃん、私も嬉しいよ。さて、ミルクさんにココアさん、最初は忙しく感じるとは思いますが、いずれはその忙しさに慣れるはずです。まずは少しずつ慣れていきましょう!」
『ハイ!』
「じゃあ、まずは開店準備から始めてもらおうかな?」
こうしてパン屋のイメージから始まった職場体験。
彼女らはどんな経験を積んでいくのだろうか……。