第10話 プレオープンの案を出そう
蓮達がベルディの地に足を踏み込んでから1週間が経った。
店舗及び生活の基盤が整い、あとは本格的に洋菓子店を始める準備を始めようとしていた。
ある日の朝食を取っている時のこと……。
「なぁ、萌」
蓮がまだ湯気が出ているコーヒーが入ったマグカップを持ちながら萌に話しかける。
「何、お兄ちゃん?」
萌は両手でバターロールを切り分けながら彼に問いかける。
「僕、今思ったんだけどさ……ベルディの人達って『洋菓子』って知らないじゃん」
「うん、そうだね」
「なんか、萌、素っ気ないな……。本格的にフェアリーを始める前にプレオープンをやって『洋菓子』を知ってもらうのはどうかなと思って……」
「ん? いい考えだね! 私も賛成!」
「ならば、商品の候補を考えながら少し作ってみようか」
「うん!」
彼らは朝食を手早く済ませ、調理場に駆け込んだ。
「さて、プレオープンは1口サイズのものを作って提供する。気に入ったものを買ってもらう形にしよう」
「試食会みたいなものだね」
「その通り! 気に入るかどうかは当日じゃないと分からないけど」
「そうだよね……気に入るかだよね……。あれ? お兄ちゃんは何作ってるの?」
萌は小麦粉とベーキングパウダーを一緒に混ぜ、ふるいでふるっている蓮に問いかける。
その時、オープンがセットされ、電子レンジで何かを温めていたらしく、チーンと鳴った。
「何って、ミニマフィンを作ってるのさ」
「マフィンって、カップケーキ?」
「そう。小さいからすぐに食べられるし、実際に単に僕が作ってみたかったっていうのもあるかな」
「確かに……。もといたところは作ってなかったからね。作ってみる価値がありそう。何か手伝うことはある?」
「じゃあ、卵と牛乳を混ぜてくれないかな。僕はバターを練ってからグラニュー糖を入れて混ぜ合わせるからさ」
「ハーイ」
萌は底が深い小皿を出し、卵を1個割り、牛乳を計量スプーンで計り、マドラーで混ぜる。
一方の蓮は電子レンジで温めたバターをボウルに入れ、クリーム状に練り、グラニュー糖を加えて混ぜ合わせていた。
「萌が混ぜてくれた卵を牛乳をこのボウルに入れて混ぜる」
「お兄ちゃん、さっきまでずっと混ぜてたから疲れたでしょう。私、変わるよ?」
「いや、大丈夫。萌は新しく作りたいものを考えてほしいな。例えばショートケーキとかみたいに1口サイズで食べられるものをね」
「ハーイ」
萌は調理場から出て2階の自室に戻り案を考える。
一方の蓮は卵と牛乳のあと、小麦粉を入れて粉がなくなるまで混ぜた。
すると、とろとろの生地ができ、彼はプリンの型に薄いアルミカップを入れ、そこに生地を6分目くらい入れる。
「このくらいかな……」
その容器をあらかじめセットしておいたオーブンに入れて焼く。
焼きあがるまでの時間は後片付けをして待つ。
自室にいる萌は少しではあるが、案をまとめ始めた。
「萌ー、もうそろそろマフィンができるぞ」
店舗の階段から蓮の呼ぶ声が彼女の耳に入ってきた。
「ハーイ、今行く!」
萌が調理場に着くと、テーブルには多少焦げてしまったマフィンが6個置いてあった。
「ごめーん……失敗した……。はじめて作るものは慎重に作らなきゃなぁ……」
蓮が少し落ち込んだ様子でテーブルに両肘をつけ、頭を抱えていた。
「で、でも。食べてみようよ! ねっ?」
「そうだね……。一応は食べてみようか……」
2人はプリンの型と薄いアルミカップからマフィンを外し、食べてみる。
「少し苦いな……」
「うん……でも、生地はふわふわだよ」
「フォローしてるのか?」
「そのつもりだけど」
苦笑いをする萌。蓮が、
「ところで、何か考えついたことはある?」
と訊いてみる。
「あっ、新メニューならいくつかあるよ。キャラメルと、カスタードプリンとマドレーヌ。もといたところで1番人気だったシュークリーム!」
「なんか難しいのが1つ出てきたような……気のせいか。僕はフルーツタルトとガトーショコラ、チーズケーキにこの間ショコラさんと一緒に作ったクッキー」
「出すとキリがないね」
「そうだね。たくさん練習してベルディの人々の心をつかまなきゃ!」
「私も!」
彼らの開店準備はまだまだ始まったばかりである。
『異世界洋菓子店・フェアリー in ベルディ』はプレオープンの日までに洋菓子を失敗せずにベルディの人々に提供することができるのだろうか……。