おばちゃま勝手に相談室
ここは、おばちゃまが勝手に開設した
勝手に相談室……。
とある住宅地。まあまあのマンションの
一室。
おばちゃま(年齢非公開。 見た目ちょっと
若い) が、悩みを持つ人々の為にと、勝手に相談室を開いた。
私はおばちゃまの助手。大学二年生。
カウンセラー目指し、勉強中。
何故か分からないけれど、大学の掲示板に
貼ってあった『カウンセラー助手募集』の
貼り紙が目に止まった。
早速連絡をし、面接の結果晴れて助手を
務める事に。
ハタチを少し過ぎた私と、年齢不詳のおばちゃまカウンセラーとの日々が始まった。
「なずなさん? 今日の予定は?」
おばちゃま……。先生が私に尋ねた。
おばちゃまの部屋は相談室兼自宅なので、
そこそこ広い。
自宅の一室、相談室はおばちゃまの趣味が
炸裂しており、アンティーク物のテーブル
とソファ、夢の国の小物類などが目立つ。
その隣の部屋に助手部屋を設けてくれた。
閑散とした少し小さめの部屋には、重厚な創りの机とパソコン、電話が備えられている。
ミニキッチンもあり、簡単な調理ができる。
全くもって金持ちのおばちゃまが、趣味で
相談室作りました感満載の部屋である。
私は週3日、大学が終わると、相談室のある
マンションに行き、パソコンで予約確認、
おばちゃまのスケジュール管理、電話予約などの仕事を任される事になった。
カウンセリングを受けに来る方に、お茶を
出したり、おばちゃまのカウンセリング術も
勿論学ぶ。
「先生、今日は三時半に予約があります」
自宅部屋の広いソファに座り、タバコを
ふかしながら、質問の答えを聞いた。
「あら、 そう。 男の人が来るの?」
ふーっと煙を吐き再び尋ねた。
「あ、はい。 二十代の男性お一人です」
「分かったわ。それまで書斎にいるから、
お越しになったら、呼んでね」
そう言って、書斎へ行ってしまった。
長くて黒いフワフワの髪の毛、細身の
身体……。
品のある仕草、話し方。
何処がおばちゃまなのか。
私には不思議で仕方ない……。
私は相談者が来るまでの間、パソコンで
スケジュール確認などの仕事をした。
時間通り、チャイムが鳴った。
『はい。 ご予約の方ですね?』
インターフォン越しで確認。
オートロックを解除した。
再びチャイム。
今度は部屋のチャイムである。
「お待ち下さい」
私は再び確認し、部屋の鍵を開ける。
ドアが開かれ、一人の若い男性を招き入れた。
気弱そう……。
率直な印象をのみこみ、相談室へ。
「こちらでお待ち下さい。 先生は直ぐに
参ります」
男性を部屋に通し、書斎へ向かった。
「先生、 お越しになりました」
ドアノック二回。先生に声をかける。
「あら、 もうそんな時間? 」
ガチャっとドアが開き、先生が出てきた。
「で、 どんな感じ?」
私の男性に対する印象を聞き出す。
「少し気弱そうな……」
「ふーん。 まあ、 いいわ」
そう言い、相談室へ。
私はお茶の支度をしにキッチンへ向かった。
「本当、 広い。 このマンションの部屋」
まるで一軒家の様なマンションの一室。
色々覚えるのに、時間がかかった。
相談室や、書斎、キッチン……。
本当に広い。
「失礼します。 お茶をお持ちしました」
紅茶を淹れ、相談室へ運ぶ。
アンティークなテーブルに、高そうな
ティーカップに淹れた紅茶を置いた。
チラッと男性を見る。
おどおどしている……。
「で、 今日はどうしてこちらに?」
上品な声が部屋に響いた。
おばちゃま、先生は出されたティーカップを
持ち、紅茶を一口。
一方、相談に来た男性は黙ったまま。
「あなた……。 男の子でしょ? はっきり
お話なさい?」
少しの苛立ちを見せ、先生が口をひらく。
「あ……。 は、はい……。 すいません。
……あの、 僕、この性格を治したくて。
緊張してしまうと、あの……」
やっと話したかと思うと、しどろもどろ。
何を言いたいのか。
「……。 日本も終わりかしら? こんな
男の子ばかりじゃ……」
ため息混じりに先生がぐさり。
「あなた……、 彼女、いないわよね?
自分に自信ないの? 見た目はそんなに悪くは
ないのに。 勿体無いわ」
確かに、話し方は別として、そんなに悪い
容姿ではない……。
何を基準に考えているのか。
好みの問題ではあるが、身長もそこそこ、
服のセンスはまあまあ。
サラサラの黒髪は清潔。
メガネを取れば……。
「コンタクトになさい。 ダサいメガネは
いらないわ。 よろしくて? 自分の顔を
よく見てごらんなさい? 自分に自信を持つの。 暗示でも何でもいいから、自分は
カッコいい。 そう唱えなさい。そのうち
自信を持てるはずよ」
これがカウンセリングか。
気まぐれみたいな物だし、お金取らないし。
私は先生のアドバイスを聞き、そう思った。
独断と偏見とはよく言ったもの。
ここはその塊である。
「コンタクト……ですか……。 それで大丈夫なのでしょうか……」
おどおどと先生に質問した。
「大丈夫よ。 ね? コンタクト、お買いなさい」
にっこり笑い、ティーカップをテーブルに
置いた。
男性は、少し納得、でもちょっと……。
そんな様子を醸し出し、帰って行った。
「あの、 あれで良かったのでしょうか?」
さすがの私も少し疑問に思い、先生に
尋ねた。
「あら。 貴女も信じてないの? あの手の
男の子はね、 すこーし背中を押してあげれば
案外大丈夫なのよ」
ふふふ。
そう笑い書斎へと行ってしまった。
あれがカウンセリング。
まともなクリニックであれば、苦情殺到だな。
私は思った。
先生の独断カウンセリング。
勝手に相談室である。
まあ、いいのか。
そんなこんなでも、意外にお客?は来る。
「あら、 今日も男の子? 大人の方が良かったのに……」
とある日、先生が言う。
「先生……。 選ばないで下さい」
私は先生を諭し、相談室へ。
「今日は乗り気じゃないのよねぇ。 まあ仕方ないないけど……」
そう言う先生だが、男の人を前にすると、
途端態度が変わる。
先生の好みか……。
相談室とは相談する場所。
あまり好みだ何だで仕事をしないで頂きたい。
「今日はどうなさったの?」
少し短めのスカート、細く長い脚をくみ、
先生が尋ねた。
「あの、オレ、彼女がいるんですが、どうしたら……。 何て言うか……」
ボソボソと話し始めた。
「ぼうや……。 貴方はヤギさんかしら?
草ばかり食べてるんじゃない?
たまにはお肉食べなきゃ。 だから彼女に
何もできないのよ。 お肉、食べなさいな」
そう言われた男性。
キョトンとしてしまった。
先生のアドバイスは、理解し難い事しばしばである。
いきなり肉食えと言われたら、キョトンと
なる……。
「分かったかしら? ヤギさん。 草もいい
けど、 そんなんだから草系の男の子ばかり
になってしまうのよ。
オオカミさんは、お肉が好きよ?」
訳の分からないアドバイス。
おばちゃまの勝手に相談室……。
謎だらけのマンションの一室。
こうして今日も誰かが訪ねる。