月蘇と月彦と鏡妃
霊媒師やってる神社の息子・黒木月彦。彼に惚れて共に在る、前世で恋人に惨殺された為に男嫌いだった鏡妃という霊。そしてひょんなことから知り合った半人半霊の月蘇がグダクダしている話。
「しかし月彦はイケメンだよな」
唐突に月蘇が言った。鏡妃はその言葉に力強く頷いた。
「そうじゃの。いけめんじゃの」
顔を合わせれば大体喧嘩をする二人は月彦を見ながら言う。
しかし、当の本人は渋い顔をした。
「たまに仲良くしてると思ったら何を言ってるんですか君たちは」
はぁ、とため息をつく。
「いやー、口論してて気づいたら月彦の気に入ったところの話しになってさ」
と月蘇は悪びれなく笑った。
「人間の姿の月彦も、本来の姿の月彦もイケメン過ぎてヤバイな、と」
「そうじゃ。もう惚れ惚れするくらい格好良いのじゃ」
「君ら訳がわからないよ…」
月蘇と鏡妃の言葉に脱力感を覚える。ふ、と気づいたことを聞いてみる。
「本来の姿って何?」
すると月蘇と鏡妃は顔を見合わせた。
「月彦、そなたは知らなんだか?そなた程の力を持った者ならてっきり知っていると思っていたが」
「まぁ多分知らないと思ってたけど……。月彦、人間って言うのは特殊な生き物って言うのは知ってるだろう?」
「あぁ、まぁ」
「自然と共にありながら自然と袂を分かった存在だ。それでも自然の一つでしかないから災害とかある訳だけど」
月蘇は皮肉気に笑った。
「普通の人が言う"霊感"は遠い昔から人間には備わっていたものだよね。今は自然から離れすぎて無いことが普通になっちゃったけど」
「まぁね」
「その人間という生き物は不思議でね。その肉体の姿と魂の姿が違う奴が居るんだよ」
「魂の姿っていうのは死んだあとの形か?」
月彦は首を傾げる。
「いや、生きてても魂の姿は変わらないよ。よっぽどの事をしなきゃね」
「生きていても?」
「そう。結果から言うと、幽霊や妖怪から見た人間の魂と肉体の姿は必ずしも噛み合わないってこと」
月蘇の言葉に月彦は戸惑った。初めて聞いたということもあるが、除霊紛いのことをしていたときの幽霊や妖怪の反応になんとなく心当たりがあったのだ。退治した霊や妖怪の力が強いほど、自分の姿をみて驚き畏怖の目で見られたことがある。
「俺は元々魂だけの存在だろ。一応今の姿は人間風にしてるんだぞ」
月蘇は肩をすくめた。
「わらわも肉体があった頃の姿とは少し違うのじゃぞ」
ケラケラと鏡妃は笑う。
「じゃぁどんな風に見えてるわけ?」
月彦は眉を顰めて言う。鏡を見ても見られない自分の姿を知らないのはなんともいえない気分なのだ。
「んー、顔立ちは肉体の顔より少し彫りが深いけど綺麗な美人だよ。でもなよなよしさとかは感じないな。髪の毛は真っ黒だけど反射で深い緑になるね。ただ、なっがい」
「長い?」
「うん。腰どころか踵まである」
「なっが!!!」
月彦は思わず叫んでしまう。
「ね、長い。でも上質な黒真珠みたいで綺麗だよ。あぁ、それで耳や腕にいっぱい飾りをつけてるね。あと首にも。着てる服は神主の格好とあんまり変わらないね。白装束だけどさ。月読命みたいだよ」
「無い無い」
と月彦は速答した。
「あぁ、でもあれだね、頭に男鹿みたいな角があってカッコイイよね。もう山の神様レベルだよね。結婚しようよ」
月蘇がにこやかに言う。
「やめて!恥ずかしいからとかじゃなくてさらりと求婚するのやめて!お互い男同士だし!!」
「だから、俺が姿を変えるから!女になるからさ!」
「何を勝手なことを!月彦はわらわのものじゃ!!」
鏡妃は月彦の頭をぎゅっと胸に抱いて言う。
「鏡妃も違うよ!!」
もぅ!と声をあげて月彦は顔を両手で覆った。
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「あの子らは仲が良いな」
蒼月は月蘇の部屋を通りがかった時に中の会話が聞こえたらしく、月娜に言った。
「えぇ。あの子は月彦君が好きで仕方ないようです。お茶を持って行ったら月彦君に抱き着いていましたから」
月娜の言葉に蒼月は一瞬止まり、月娜の言葉を繰り返した。
「……抱き着いてたのか?」
「えぇ。せめて恋人にするなら女の子にしてねと言ったんですけども」
「そういう問題じゃないだろう」
苦笑した月娜の言葉に力を抜かれてそれしか言えなかった。
「でも、あんなふうに心から親しくしてくれる子が居ると言うことはあの子にとって幸せで仕方ないのかもしれません」
月彦と一緒に居るわが子の笑顔を思い出し、月娜はふっと嬉しそうに微笑んだ。
オカルト系小説の一端です。一時期ネットの海で公開していたお話の主人公月彦くんと鏡妃さんの小話でした。
月蘇は母である月娜さんが主人公でのお話から生まれたキャラですが、彼女の話はムーン又はノクターン行きでどろどろしいものですので載せていません。
月彦を取りあう鏡妃と月蘇はこの話以外だと大体月彦がらみでいがみ合っている設定。
月蘇の両親の名前月関係なのは、『月の巫女』という女性が強い力を持って当主に立つ古い御家だからです。しかし蒼月さんは偶然。