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鉄面皮と憂う美形

無表情主人公と、乙女ゲーみたいに関わってくるけど主人公とは恋愛関係にならないお金持ち学校に通う美男美女のドタバタ日常系コメディ――まで行き着かなかった。

彼女は何時も不思議に思う。何故自分の周りにはやたらめったら顔が良い人間が集まるのかと。

その遭遇率にまさか乙女ゲームへの転生か!と思わない事もなかったが、それならば幼児の頃から今現在高校生になるまでの友人の美形率はおかしかろう。幼児の乙女ゲームとか何処に需要があるというのかね。全くないとは断言できないが。それに、彼女はそもそもヒロインの様に明るくもなければ積極的でもないので乙女ゲーム転生は脇役にしたって無い無いと早々に現実を見た。

美友人達は女子の性格は良いにつき、男子は良い悪い半々である。とはいえ、彼女の十把一絡げな普通に可愛いくらいの容姿について気に留めず、むしろ彼女が鉄面皮と揶揄される程の無表情を心配してくるので、基本良いやつらだとしみじみ思ったものだ。

そんな美人たちに囲まれて過ごしていると、遠巻きの人間達からの視線が痛いものだが、10年も似たような状況が続けば只の日常だ。イジメもあったが、心配する美人たちに気づかれないようじわじわと報復して楽しんでいたらいつからかそれも無くなった。

イジメられればストレス解消と趣味を兼ねた遊びが出来るが、良くわからない同情には辟易する。悪意があるなら報復すればいい。悪意がない、勝手に彼女が劣等感に塗れていると思い込む謎の電波少年少女が1番タチが悪かった。何とかして自分の優越の為に引き入れようとする滑稽さに彼女は失笑したものだ。

美友人達と居て劣等感に苛まれないはずはないと言う前提がそもそもの間違いである。

何処も彼処もハイスペックな美友人達と自分を比べる必要あるの?と真顔(いつもの事だが)で聞き返すのが常だ。

それでも電波な人達は彼女を陰で引き立て役だからと悪口を言われている、都合が良いから使われていると言う。残念ながら、電波な人達にはわからない。

彼女は素晴らしい芸術品が動き話し尚且つ友人であるという事に誇りを持っている。引き立て役大いに結構、使えるものは親でも使え、闇があるから光が輝くのだ。私に災難が降りかからない限り私という反射板を使って存分に光輝き給え!ふはははははは!と無表情で勢い良く宣えば電波な人達は消えると最近気づいたものだ。

其処から自分の欲望を口に出すのも大事ですねと、言えば平凡家族の一員に思えない美形兄に「だからと言って俺に語らないでくれないかな!」と言われている。彼女には解せない。

しかし、美形ウォッチングがライフワークの彼女の方が兄には解せぬものだった。

「お兄様以外の美形はいい、心が癒される」

ほぅ、と学校での出来事を思い出して彼女はつぶやいた。

「美形だとは思わないけど その言い種はなんだ変態。お兄様は悲しいぞ」

突っ込む兄。いつものことなので声も淡々としている。

「それなら憂いを帯びた瞳でだんまりして窓辺に座り俯くか庭を眺めるように遠くを見れば良いんじゃないかな。小雨降ってたら最高じゃないですかじゅるり」

彼女は無表情にまくし立てる。

「兄にまで性癖を押し付けるとは流石変態」

うむ、と兄は頷いた。

「やだなぁ、押し付けて無いですよ。希望を述べただけです」

「お前なんか乙女ゲーやってればいいんだ。逆ハーでうはうはしていればいい」

「お兄様は解っていらっしゃらない。攻略したいんじゃなくて見守りたいだけなんですよ。ヒロインとヒーローがいちゃらぶするのをながめるのが良いんですよ。まったく、これだから兄上は」

はっ、と鼻で笑う。口元が皮肉に歪んでいた。

「お前の友人がみたら幻滅しそうな悪い顔だ」

寧ろ何故隠していられるんだ、と兄は嘆息する。

「美形悪役顔のお兄様に言われたくありませーん」

「うるさい、俺だって好きでこんな顔してるわけじゃないぞ!気にしてるんだぞこれでも」

うぅ、と顔を抑えて嘆く。

「えー、美形悪役顔いいじゃん。友達には居ないラインナップだから貴重だよ?」

無表情に首を傾げた。

「ラインナップとか言うな!貴重と言われても嬉しくなんかない。寧ろ悔しい」

「そして悪役に磨きをかけるんですよね、流石お兄様です」

うむ、と頷きながら言われ兄は突っ込むことに疲れたので話題を変えることにした。

「あー、ところでその様子からだと今日の入学式でまたお前に美形が集まって来たんだな?」

「まるで私が美形ホイホイのようだ。違いますー、まだ集まってませんー。いや、学年上がっただけで生徒会が美形まみれだったから眼福だったのですよ」

「これから集まるんですね、わかります。生徒会かー。今の会長は誰だ?」

「久閑誠っていう人」

「あー、久閑一族の三男坊か」

聞き覚えのある名前に兄の表情が曇った。

「知り合い?」

「いや、まあ。久閑の次男が大学にいるんだよ。俺を見て爽やかに笑っては魔王、踏んでくれと言うから絶賛逃亡中だ」

「お兄様ついにそっちの道に……」

「俺じゃない、久閑の次男坊だ。何あの変態。俺はただ売られた喧嘩を買っただけなのに」

兄は心底げんなりとして言う。しかし妹は真顔でありながら声だけは楽しそうに兄を慰める。

「涙拭けよ兄さん。しかしこれで久閑会長に目をつけられても対抗出来るなふひひ」

尤も、彼女にしてみれば関わる気も目をつけられる予定もないのだが。

「ふひひじゃありません。多分、そういう意味では近寄らないだろうし安心しな。三男坊は次男よかしっかりしてるだろう」

と、いう願望を口にする。

久閑の三兄弟が変態でも次男以外は害もないのだが、気分の問題である。

「それはなによりである。美形は鑑賞するものであって干渉はされたくないからね」

「そんな君の友人が全て美形な訳を四百文字以内で述べよ」

「妬み嫉みと鉄面皮で普通の友達が出来ない。なのに美形は普通に接する鉄面皮に喜んで友達になるイリュージョン。しかも無表情を心配されるというおまけ付き。エレクトリカルパレードも夢の国から飛び出して来たような」

「ハレルヤってか。夢の国の例えはやめなさい、いろんな意味で」

「この上ない褒め言葉じゃないですか。あ、そういえば(こう)が早速生徒会に誘われてた」

彼女は思い出したように幼馴染の名前を出した。

「紅が?流石だな。(すい)も生徒会出身だからいいんじゃないか」

翠は紅の兄であり、この兄妹の幼馴染だ。

「翠さんが会長になって兄さんを副会長に指名して阿鼻叫喚になったところで兄さんが逃て帰宅部になったのは知ってる。でも結局補欠扱いになって仕事しない奴らの監視をさせられてたことも知ってる」

「うむ、間違いではない。しかし本気で阿鼻叫喚になって俺は涙目になったぞ」

兄はその時の事を思い出して若干しょっぱい気持ちになる。

「兄上の良さを解ってくれる女性が現れることをお祈りします」

外見が冷徹魔王でも性格はとても優しく寛大な兄と知っているので、本気と冗談を半分ずつ混ぜて言う。

「その前に他人と円滑なコミュニケーションをとりたい。普通にして恐れられ、微笑めば叫んで逃げられ、声を掛ければ怯えられ……。落としもの見つけたら事務局に届けるしかないから事務局で顔覚えられちゃった」

悲しみながらてへぺろ☆をする姿は哀愁が漂い、正直彼女の心は泣いている。兄よ、美形なのに残念過ぎる。色々と残念だ。

「ドンマイ。でも何故かお年寄りには評判良いよね」

首を傾げると兄も頷く。

「それは俺も不思議。でも一度生徒会役員の所為で事務局でのあだ名が『拾い神君』から『魔王の兄ちゃん』になって俺はどうしたらいいキルヒアイスという気分になったぞ」

「諦めれば良いと思われますラインハルト様」

「即答とか酷い妹だ」

わざとらしくおよよ、と嘆くが妹は意に介さない。

「今更でぃすよぅ」

はぁ、とため息をつくが兄は苦笑しながらも伝えようとした本題に入った。

「まぁ、とにかくエスカレーターとはいえ高校入学おめでとう。冷蔵庫でブルーメのベイクドレアチーズタルトが君を待っている」

「ありがとうお兄様愛してる。本気でお兄様が普通に円滑なコミュニケーション取れる素敵な義姉様が現れることをお祈りしてます。寧ろその顔が皆に天使に見えるようにおまじないしておきます」

妹は一息で三つ指ついて頭を下げた。

「どんだけ嬉しいんだよ。因みに季節限定のベリーソース掛けのチータルだぞ」

呆れながらも兄は告げる。

「お兄様は神じゃなかろうか」

真顔で兄を誉め讃える。

「祝いの品とはいえチータルで単純な……」

「ブルーメのベイクドレアチーズタルトは至高のチーズタルトと思いますが」

「至高までいかないが俺も好きだよ。しかしブルーメの至高の菓子はティラミスなのは譲らない。ティラミスアイスとか最高」

「解るけどベイクドレアチーズには負けるな」

その後母親が声をかけるまで二人の菓子談議は続いた。

主人公はかなで、お兄様はつかねという名前です。2話を書く気力があれば2話で名前が出るはずでした。


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