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side Hajime part1

お久しぶりです、白カカオです。今回から、毎週日曜日にこちらを投稿することにしました。時間がある時と延ばしていると、絶対に進まないことに気づいたので。それでは、間隔空きましたがどうぞ。

 ヒロは何年もの付き合いになる、俺の親友だ。特別俺が派手めに映るから、地味ではないがあまり目立つ方ではないヒロとの組み合わせは結構意外に思われるらしい。自分でも思うが、本当に正反対な二人だ。ただ、ヒロとは不思議とウマが合う。何をしているわけでもない、隣にいるだけの沈黙もヒロとなら苦痛にならない。そんな人間は貴重だ。特に、いつも騒々しくして馬鹿やっている俺みたいな人間には、数少ない癒しの存在だ。恥ずかしい言い方をすると、かけがえのない親友だと言っていい。

「ハジメ、俺さ、春花と付き合うことになった」

 高二の冬、ヒロが恥ずかしそうにそう告白してきたときは、自分以上に嬉しかった。はっきり言って、俺はモテる方だ。自分で言ってはなんだが、派手なナリにクラスでも目立つ方だからわからなくもない。身も蓋もない言い方をすれば、俺はその気になればいつでも相手を作ることは出来る。ただ、そういう女は大抵俺の外見にばかり比重を置きすぎて、俺が意にそぐわない言動をすればあっさり掌を返すようなやつが大半だ。

 ヒロだって顔は悪くない。寧ろ童顔でそういう顔がタイプの女も少なくはないだろう。ヒロが損をしているところは、その引っ込み思案なところだ。優しすぎて、自分の事よりも周りの事を優先させてしまう。当然誰かを蹴落としても自分が前に出るようなことはしないから、ただのいい人で終わるパターンがほとんどだ。そしてこれはヒロ本人も言っていたことだが、感受性が強すぎて何をするにもどうしても尻込みしてしまうところがある。

「まぁ、本当はただチキンなだけなんだけどね」

 ヒロはそう言って笑っていたが、俺にはない物を持っているヒロを、俺は羨ましく思っていた。俺は、道端でお年寄りや子供に優しく手を差し伸べるヒロを知っている。そして、本当に相手を慈しんでいるその瞳も。それは、俺には持ち得ないものだ。

 だから、同じグループの春花がヒロに告白したことは、色々な意味で嬉しかった。一つはその相手が春花であること。もう一つは、春花がきちんとヒロの内面に惚れてくれたこと。いつでも損な役回りが多いヒロのことを、ちゃんと理解してくれた相手が春花だったことが凄く嬉しかった。その日の晩、実家のスナックの酒を持ち出して一人酒盛りをした位だ。次の日お袋にバレて、登校する直前まで怒られる羽目になったが。その二人は現在進行形で仲睦まじく交際を続けている。最近のマイブームは、ヒロに未だにべたべたな春花をいじり倒してやることだ。ホストを始めて口がさらに達者になった俺に打ち負かされた春花が、ヒロに助けを求めている様が微笑ましくて最高に楽しい。


 そういえば、一度ヒロにうちのクラブの手伝いをして貰ったことがあった。去年の秋、うちの系列グループの二周年イベントが赤坂のホテルのフロアを貸しきってやることになったのだが、スタッフの人数が足りなくてその日限りのアルバイトを募集していたのだ。

「ヒロ、頼む。スタッフが足りなくて困ってるんだ。ここは俺を助けると思って、頼む」

 親友の俺に手を合わせて頼まれたら拒否できない事を知っていたので、悪い事をしたかなとは思っていた。しかし、困っていたのは本当だ。ちょうど売り上げのナンバーに入り始めた俺は、その沽券に懸けて失敗するわけにはいかなかった。それに俺とヒロのコンビネーションは抜群だ。二人なら絶対客を満足させられる自信があった。

「うーん…今回だけだよ?あと、お客さんを騙したりとか嫌だからね?それと…」

「春花には勿論内緒にする。騙しもさせない。ヒロは来てくれるだけでいい。最低限のテーブルマナーとかは俺が教えてやるから」

 心の中でガッツポーズをすると、簡単にテーブルマナーを指南してやった。その後努力家のヒロは家で練習していたのだが、運悪く春花にその現場を見られてしまって、二人で正座させられて説教されることになったが。ちなみにその時ヘイタは、春花の後ろで大声出して腹抱えて笑っていた。

 当日は、贔屓目無くヒロのおかげで俺の客の評価は上々だった。俺が買ってやったスーツ姿のヒロは、馬子にも衣装という言葉がふさわしい出来栄えだった。実はそのスーツはこっそり新宿の馴染みの店で、ヒロに合わせて仕立てて貰った物だ。本当の事を言ったら、絶対ヒロは遠慮して着ないか後でお金を渡してくるだろうから、店の貸しスーツという体にしていた。ヒロの影の努力も実り、後日支配人にヒロを店に入れてくれないかと頼まれた程堂に入っていた。

「あの後、春花本当に大変だったんだから。色んな意味で」

 イベントの次の週の飲み会で、ヒロにそう言われた時は失笑ものだった。結局一番楽しんだのは、渋々許可を出した春花だった。ヒロ、そう言えばあの時痩せてたな。まぁ春花のやきもちも当然だから仕方ないのかもしれない。




「ヒカルさん、三番テーブルのミナミちゃんが呼んでますよ」

「あぁ、今行く」

 今俺は、この店に勤めて二年と半年になる。きっかけは、ただのスカウトだった。お袋がスナックを経営していて水商売に抵抗が無く、その時フリーターでフラフラしていたこともありただ気分で着いて行っただけなのだが、俺は見事に嵌まってしまった。その煌びやかな世界に魅了され、俺はこの世界で生きていく事に決めた。少なくとも、若くて商品価値がある内は。そして今では立川市のトップブランドであるこの店で働いているという事は、誇りですらあった。

「なになに?俺がそんなに待ち遠しかった?」

 この空間でなければ白い目でみられそうな台詞を平気で言う。ここはそういう物言いが許される場で、許される相手なのだ。

「だってヒカル、全然構ってくれないんだもん」

「そう言うなって。俺も忙しいんだよ」

「他にお客さんでも来てるの?」

 ミナミが値踏みするようにこちらを見る。女の武器を平気でさらけ出すような女が嫌いな俺は、はっきり言って苦手なタイプの相手だった。水商売では自分の客が来ないことを「お茶」と言うが、俺にとってミナミは、お茶対策と締め日のシャンパン要員でしかなかった。

「いや?今日はお前だけだよ」

「じゃあ今日はアフターも付き合ってくれる?」

 アフターとは営業が終わってからもその客といること。つまり、時間外労働だ。必要があればするが、今日そんなことしなくてもこの客はまた来る。今日アフターをすることは、俺にとって時間の無駄でしかない。

「悪い。今日はこの後撮影なんだ」

「そ、そうなんですよ。ヒカルさん来月のメンズ・エアに載るんですよ」

 俺の意を汲んで、ヘルプについてついてくれているショウが話を合わせる。ヘルプの仕事は表向きは客を楽しませること。しかし実際は酒を消費すること、ひいては自分の心証が悪くなっても、その客が指名したホストの利益になる事を遂行すること。その点に関しては、ショウは信頼出来るヘルプだった。俺がメンズ・エアというホスト雑誌の全国紙のグラビアに載ることは間違いないのだが、その撮影は既に終わってある。

「マジで?絶対買うっ」

「おう。だから今日は無理」

「じゃあミナミさん、ヒカルさんの撮影の気合入れる為に、前祝いでシャンパン飲みませんか?」

「えー?ショウ君またそうやって煽るんだからー」

 ミナミの肩に回した手で、ミナミに見えないように出したサインに、ショウは気づいてくれたようだ。こいつは本当に使えるやつだ。今度飯でも奢ってやろう。

「なぁミナミ。俺もシャンパン入れてくれたら頑張れるんだけど。それに、お前がシャンパン入れてくれることで俺はまたナンバーに入れるんだぜ?」

 ここで調子いいことを言えば、この女は絶対に落ちる。その後は、適当にのらくらかわしていても支障はない。

「でも私、今日あまりお金持って来てないよ?」

「最悪、売り掛けでもいいよ。お前のこと信じてるからこう言ってるんだぜ」

 そう言って、ミナミの体をこちらに抱き寄せ密着させる。

「あっ…」

 ミナミの目がとろんとするのが分かった。好きな男に信じてると言われて、何も思わない女はいない。シャンパンを煽られている立場から、この人の信頼に応えたいという考えにシフトさせる。単純に議論のすり替えなのだが、アルコールが入っている上にこんな特殊な空間で、気づく女は意外と少ない。

「じゃあ…」

「アスティーでいいからさ」

 アスティーとは、うちの店でシャンパンコールをする一番安い値段のシャンパンだ。ミナミの収入で店に通わせつつ締め日にもう一度シャンパンを入れさせ、尚且つ売り掛け金を回収出来る額を考えると、妥当なラインだ。反対側のテーブルには俺と今の所ナンバー争いをしている、先輩のキョウイチさんがいる。シャンパンコールが入れば向こうの刺激にもなるし、それは店の活性化に繋がる。このバチバチ火花を散らす感じが、堪らなく好きだった。

「わかった。じゃあ今度アフター付き合ってね?」

 ミナミが上目遣いで俺を見上げる。この女は色恋を目当てにここに来ている。焦らしつつタイミングを見て抱いてやれば俺から離れることもないだろう。そろそろ、ミナミの仕事先も次のステップに進めるかもしれない。結果オーライな展開だ。ヒロがこの場にいれば顔をしかめるだろうなと思うと、失笑が漏れる。

「わかった、約束するよ。じゃあ支配人に言ってくるよ」

 ミナミの頭をポンと叩き、俺は事務所に入った。途端、外でサイレンが聞こえる。

「近いっすね。なんかあったんですかね?」

「さぁな。で、どうした?」

 支配人が、煙草を吸いながら売上表を眺めている。俺は今どこに位置しているんだろうか。

「あっ、俺のとこでアスティー入ります」

「わかった。じゃあマイクと音楽の準備しておく。まだわからないけど、これでキョウイチを一万円差でギリギリ抜くな」

 今日までの売り上げで負けていたのか。しかし今月もナンバーは維持しないといけない。少し、無理しないといけないかもしれない。

「了解っす」

 そう言って俺はまた席に戻った。それにしても、さっきのサイレンが気になる。あれは救急車の音だった。後で、ヒロにでも聞いてみよう。




 俺がその連絡を受けたのは、まだ夜が明ける前だった。結局もう一本アスティーを空けた俺は、結構酔っ払っていた。タクシーに乗ると吐いてしまう恐れがあったから、俺は少し時間がかかるが酔い覚ましもかねて歩いて帰ることにした。最悪、俺の家より若干近いヒロの家に泊まればいいやと考えていた。唐突に、携帯の着信音が鳴る。客なら無視しようかとか思って溜息をつきながら確認すると、相手は春花だった。

「おーどうした?こんな夜中に」

 ふらふらしながら、相手が気心が知れた春花だとわかると機嫌良く答える。

「ハジメ…ハジメ…」

「どうしたー?ヒロと喧嘩でもしたかー?ったくお前らはなー」

「…じゃった…」

「うん?なんだよはっきり言えって」

「死んじゃったよ…ヒロ…」

「死んだってヒロがかー。へー、あのヒロがねー。…今なんて言った?」

 酔いと同時に、血の気が一気に引くのがわかった。夏前のはずなのに、俺の周りの気温が一気に氷点下に下がったような寒気が襲った。


さて、本題に入りました。私的には、書いてて色んな感情が入ってしまってなんとなく苦しい話です。つうか、基本的に重いです、この作品。それでもよろしければ、ご愛読いただけると嬉しいです。ではまた、来週の日曜日(月曜日?)にお会いしましょう。


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