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あるコンビニ店員の話

作者の白カカオです。「クリエーター」を愛読してくれている方も、はじめましての方も、お楽しみいただければ幸いです。こっちは青春群像を描いていくつもりなので、また違ったテイストでお楽しみいただけたら幸いです。実在の地名等出てきますが、団体名や企業名は基本的にフィクションで構成します。不定期連載になると思いますが、温かく見守ってください。

「いらっしゃいませこんばんわー」


 皆さんはじめまして。北村博文です。今僕はモノレールの駅沿いのコンビニで夜勤中です。年齢は二十三歳。大学を卒業してから就職もせずフリーターをしています。別に就職難に巻き込まれたわけではないですよ。大学時代に芽生えた夢を追いかけるため、こんな事をしているのです。その夢は…小説家です。なんかこう告白すると恥ずかしいですね。

 今日は木曜日。平日の深夜なのですが、近くに飲み屋があったり、漫画喫茶があったり、カラオケがあったり、ここが学生が多く住む地域であったり、商業都市であったり…つまりは、割と混んでいます。ここでアルバイトを始めて半年足らず。僕もやっとこの仕事に慣れてきました。今は相方が納品された品物を検品して、陳列しています。客足が引かず、少し遣りづらそうです。僕はレジ周りを任されているのですが、こっちも頻繁にお客さんがくるのでなかなかはかどりません。今日の休憩は短くなってしまうかもしれません。

 でも、今日はそれでもいいんです。明日は金曜日。夜には僕のアパートにみんなで集まって、週に一回の僕の楽しみが待っているから。



 みんなとは、堀江一と中島平太…そして僕の彼女、藤澤春花の三人。高校二年生の春からずっと一緒にいる、僕の大切な仲間達です。帰宅部だった僕にハジメが声をかけてきてくれたことがきっかけで、ヘイタと春花がいつの間にか輪に入り、放課後自然と集まるようになった四人です。気がつけばもう七年目。こんなにずっと続くとは思ってなかったので、僕も驚いています。僕の大切な仲間を皆さんに知ってもらいたいので、勝手ですが紹介させてください。


 先ずはハジメ。すらっと高い身長と顔もかっこいい部類。男の僕が言うのもなんですが、本当にかっこいいんです。それに、運動神経も抜群。成績は…僕とあまり変わらないけど。でもどこか要領が良くて飄々としてて…このクラスの中心人物です。悔しいけど、僕とは正反対な人です。

「なぁ北村。放課後って暇?ちょっと付き合わない?」

 これが僕とハジメがつるむようになったきっかけでした。

 その日、ハジメはレンタルショップに行きたかったんですが、一緒に行く連れが欲しかったようです。

「でも、なんで僕なの?堀江君なら他にもっと一緒に行く人いたでしょ?僕とは、そんなに話したことないのに」

 お店に行く途中、思い切って聞いてみました。ちょっと勇気出して。すると、ハジメは不思議そうに答えてくれました。

「だって、クラスメイトじゃん俺ら。一緒に遊ぶのって、普通じゃない?それに、前からお前とちゃんと話してみたかったんよ。ほら、お前いつも読んでる本。あの作者…あー、何て名前だっけ?」

「黒田正平?」

「そうそう。こないだ公開したさ、水平線の彼方。あの映画、俺的に凄ぇ面白くてさ。原作者のとこ、なんか見たことある名前だなぁって思ったら、いっつもお前読んでる本の作者じゃん。そりゃもう話しかけるしかないじゃん」

 ハジメはよくしゃべります。そしてこの時のコロコロと変わる表情が印象的でした。

「あー、あとさ。俺の事ハジメでいいよ。他の連中もそう呼んでるし、俺もお前のこと、あだ名で呼ぶから」

 こうして、僕達はよくつるむようになりました。


 次に、ヘイタ。ヘイタも、仲良くなるきっかけはハジメでした。ハジメが出たい出たいと言っていた、街の夏祭りのスリーオンスリー。ハジメはもう僕と出ることは決定していたようなのですが、もう一人メンバーが足りませんでした。そこで次の授業の予習をしていたヘイタに声をかけたのです。本音を言うと、僕は誰とも仲良くなろうとせず、それでいつも気難しそうな顔をしているヘイタが少し苦手だったんですけど。

「なぁヘイタ。お前今週の祭、行く?」

「あぁ」

「一人でだろ?」

「…お前、喧嘩売りにきたのか?」

 僕は少し離れた所で、二人のやりとりを見ていました。

「違う違う。バスケのあれ。出たいんだけど面子足りなくてさ。頼む、一緒に入ってくれ」

 ハジメが手を合わせてヘイタに頼み込みます。ヘイタは、ちょっと困った顔をしましたが、すぐに了承してくれました。

「まぁ、いいよ。それぐらいなら。もう一人は誰よ?」

「ヒロ。俺は何でも完璧に出来るけどさ、ヒロが運動駄目駄目だから。お前が入ってくれるなら心強い」

「ふぅん。北村ね」

 一瞥された時はちょっと緊張したけど、結局祭の日は三人で楽しく過ごしました。ヘイタは中学で野球部に入ってたので、運動はクラスでも出来る方です。スリーオンスリーも一回戦はほとんど二人で勝ってしまいました。人数合わせはどっちだったか。次の二回戦は、現役バスケ部チームに当たって負けちゃいましたが。その日は公民館裏で、こっそり買ってきたお酒で三人で打ち上げして、いつの間にかヒロ、ヘイタと呼び合うようになっていました。聞いたところ両親が凄く厳しい人で、大学受験第一にさせられていた為に休み時間も勉強に費やし、誰とも仲良くならなかっただけなんだそうです。やっとヘイタが笑ってくれて、なんだか嬉しくなったのを今でも覚えています。


 最後に…春花。こうして改まって言うのも恥ずかしいんですけど、僕の彼女です。

 春花は、春花から声をかけて来て僕らのグループに入ってきました。

「あんた達カラオケ行くの?うちも混ぜてよ」

 僕の春花の第一印象は、明るい子だなぁと、それと派手な子だなぁの二つ。たぶん薄化粧ではあるけど目元はぱっちりで、茶髪で制服を着崩していたから。これは後でわかったことですけど、化粧はファンデーション位で、大きな目と長い睫毛はいじってないそうです。

「うちは元がいいからねぇ。ねぇヒロ、嬉しい?こんな可愛い女の子が彼女で、嬉しい?」

 今でもたまにこんなやりとりをしますが、僕は寧ろ耳を真っ赤にして本当は恥ずかしがってるところが可愛いと思ってます。すみません、少し惚気ました。

 告白は、春花の方からでした。僕はとても、女の子に告白する勇気なんてありません。へたれです。その日、夕食前にみんなと別れた後、春花からメールが来ました。

「八時ころ、北口のモノレール下の公園に来れない?」

 僕は何の気なしに了承すると、ご飯を食べて公園に向かいました。

「はい、これ」

 途中のコンビニで買った、温かい紅茶を春花に渡すと、ベンチに座った春花はほっとした顔で僕を見上げました。十一月の夜間は、やっぱり寒かったです。

「ねぇヒロ…驚かないで聞いてね?」

 春花の重い口調に、僕も思わず真剣な面持ちになります。

「うん…」

「うちね、好きな人がいるんだ」

「そう…なんだ」

 そのとき思ったのが二つ。一つは春花がその人に振られて落ち込んでしまっているという状況。もう一つは、好きになった相手が、ハジメ君であるという状況。後者なら、応援してあげたいと思いました。飄々としたハジメに、いつも明るい春花。はっきり言って、お似合いだと思います。大好きな二人がくっつくなら、こんなに幸せなことはないと思いました。

「誰か…聞かないの?」

「じゃあ、教えてくれる?」

「…ロ」

「えっ?」

「ヒロ」

「そっか、ヒロか…えっ?ヒロって、僕?」

「うちが言う、ヒロに他に誰がいるのよ」

 人間、想定外の出来事ってすぐに認識出来るように出来てないんだと気づきました。春花が外国語をしゃべっているかのようで頭で理解出来ずに、でも別の僕は、この状況で、春花はこんな調子で、つまりはそういう事なんだと理解していて。心拍数が跳ね上がって気持ち悪くなったのを覚えてます。後に春花にそれを言ったら、超失礼って笑いながら叩かれましたが。

「なんで…何で僕を?ハジメじゃなくて?」

「あんたそれ、失礼。うちは、ヒロがいいの。素直で優しくて、犬っぽくて可愛くて、それでいてちゃんと男の子で。そんなヒロが好きになったの」

「待って、途中で失礼なこと言わなかった?」

「あははは。…ヒロ、好きです。うちでよかったら、付き合ってください…」

 途中で、春花の言葉が震えているのがわかりました。そんな、明るい春花が不安そうな表情で見ているのがわかったら、僕に拒む理由はありません。もともと可愛いとは思っていましたが。

「ずるいよ、春花」

「えっ?」

「春花にそんな顔されたら、守ってあげたくなっちゃうじゃん」

「…ヒロッ」

 春花の顔が華を咲かせ、抱きついてきました。女の子とそういうことになったことがない僕は、心臓の鼓動が聞こえるんじゃないかってくらい緊張していましたが。春花が気持ちを自覚したのは、ハジメとヘイタが遊びに行くプランについてかなりどうでもいいことでヒートアップしてしまい、それを僕まで切れて止めた時だそうです。僕はそんなことがあったことすら忘れていましたが、春花の中では普段おとなしい僕は、こういう状況で人を叱れる意外と強い男の子なんだと書き換えられた出来事として忘れられないそうです。人生何がきっかけになるかわからないですね。

 とにかく、それが僕と春花が付き合うきっかけです。今でも週末とは別に、春花は時間が空いたら僕の部屋に来て、一緒に過ごしています。



「ありがとうございましたー」

 さて、ようやくお客さんが途切れてきました。もう一踏ん張りで目処がつきそうです。

 ピンポーン。

 …本当に今日はお客さんが途切れない日です。

「ヒロ、お疲れさん」

「ハジメッ」

「…こういう時は、本名で呼ぶなって」

「あっ、ごめん」

 ハジメの隣には、綺麗に髪をセットした女の人が仲良さそうにハジメに腕を絡ませています。高いヒールを履いているからか、僕より目線が上なのがちょっと悔しいですけど。

「ヒカルぅ。この子、誰ぇ?」

 女の人は相当酔っ払っているようです。顔も真っ赤で息も酒臭い。

「俺のしんゆー。ほら、あまりふらふらしてると他の人に迷惑だからすぐ行くぞ」

 そう言うと、『ヒカル』は女の人に軽くキスをしました。女の人の方は、ご満悦と言った表情です。

「本当、人の前でよくやるよ。『ヒカル』は」

 僕は溜息をつくと、言いながらハジメが愛煙している煙草を棚から取りました。パーラメントのロング。煙草をコロコロ変えるやつは浮気者なんだと、高校の時からこれ一筋です。…そのくせ、今ホストなんてやってますけど。

「ヒロには負けるよ。俺らの前で毎回チュッチュしてるくせに」

「…うるさいよ。あれは春花からしてくるんだもん」

「はいはい。じゃあそろそろ行くわ。こいつ、寝そうだし。明日楽しみにしてるよ」

「うん。気をつけて」

「正直、ミーティングに出た方がまだ楽だったよ」

 『ヒカル』じゃなくて『ハジメ』が女の人を指差し僕に耳打ちすると、僕は苦笑して二人を送り出しました。


 さて、ハジメに会って気合入ったし、仕事に取り掛かりますか。明日は金曜日、皆に会うのが楽しみです。


「いらっしゃいませ、こんばんわー」

白カカオです。博文が私の現状と被っているという指摘があるかもしれませんが、私とは全く違う人種です。私は一切こんな爽やかな青春送ってません。なんか、泣きそう…。自分の作品にめげずに頑張ります。ご意見ご感想いただけたら幸いです。

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