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続・タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第一章 -長い眠り-
9/59

9.マコの日記

 武さんが日記を届けてくれたのは、蝉しぐれが激しくなった8月始めの昼だった。


仕事が休みだった僕は、掃除をしていた。


- Try Jah Love -Third World (1982')


レゲエ&ソウルに背中を押され、僕の雑巾は家中の汚れを落としていた。



 「せ、精が出ますね」 開け放していた玄関から、武さんが顔を覗かせる。


 目の下にくっきりと現れた隈が、武さんの疲労を物語る。

 


僕は熱い番茶を沸かしてキッチンテーブルに武さんと共に座った。



 「一年ぶりですねえ」 僕は湯のみをすすりながらそう言った。


 「う、うん。そ、そ、そんなに経つんだよねえ」 武さんも熱い番茶を味わいながら頷いた。



これを持ってきたんだ、そう言って武さんがテーブルに置いたのは、日記帳だった。

「な、何かがわかるかと思ってね。マコには悪いけどね。も、もってきたんだ」


タロさんに読んでもらうべきなんだ、と言った武さんの真剣な表情に、僕は大きく頷いた。


 その日記帳のタイトルは、マコさんの可愛らしい丸文字でハートマークと共に記されていた。



*** Mako's Diary ***


僕達はヒントを求めて日記をめくる。


-2001' 1. 1-

 - ステキな一日。N.Aのプロパガンダにタロちんが決定!


あぁ、新年会で僕がナリタ会長からパートナーに迎えられた日だった。

この日はマコさんも感動して泣いてしまったっけ。

そうつぶやく僕の隣で、武さんはしくしくと泣き始める。


その後の日記は特に目立つものもなく、ただ懐かしい思い出が記されていた。

穏やかな幸せの日々。

それは永遠に続くものと思っていたのだ。



-2003' 5. 5-

 - 鷹の夢・・・


そのページを見た僕達は思わず顔を見合わせた。


夢から覚めてすぐに書き記したとも思えるそれは、それまでとは違って書きなぐったような筆跡である。


 「も、も、もしかしたら・・・」

武さんはその日の事を語り始めた。


 武さんがいつものように眠い目を擦りつつ台所に向うと、マコさんが座っていたらしい。

彼女は蒼白な顔をしていたそうだ。

父親の呼びかけにも反応せず、いつまでも俯いて座っていたと言う。


 「お父さん。運命って信じる?」 出勤するために玄関で靴を履いていた武さんに、彼女はそう呟いたそうだ。


それからどうなったんです? と僕は尋ねてみる。

「き、帰宅した時には、い、いつものマコに戻ってたんです」


---


 それが、日記から分かった全てだ。



いつの間にか、窓から差し込んだ夕陽に照らされて、この部屋はオレンジ一色に染まっていた。


僕は熱い番茶を継ぎ足して、武さんに言う。

「僕、決めました」 大きく深呼吸をして、武さんに言う。

「彼女の別れは、彼女の本心ではないと感じたんです」


オレンジ色に染まったテーブルを見つめて、武さんは頷く。

「わ、わたしも、そう思う」 そう言って、お茶を啜っては何度も頷いた。


「僕は決めました」 ぼんやりとしていた武さんの目が僕を見つめるのを確認して、言葉を繋げる。


「マコさんとは別れません。応援してくれますか?」

もちろんだよ!と武さんが僕の手を硬く握る。



 そのようにして僕は、眠り続けるマコさんの許可もなく、お義父さんの許可をもらったのだ。

(それを知ったらマコさんは怒るだろうか)


 2005年8月の大きな夕陽が、全てを染めていた。


挿絵(By みてみん)

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