6.長い話2-追憶-(マコさんとの別れ1)
僕がマコさんと別れたのは、ちょうど一年前の冬の事だった。
- 2003年・12月-
その頃の僕達はとても幸せに過ごしていた。
地元のケーブルテレビに取り上げられるほど、僕らはぴったりと寄り添って生きていたのだ。
花が咲けば僕達は腕を組んで眺めに行ったし、
渡り鳥が海を越えて飛来すると、僕達はお弁当を抱えて海岸まで眺めに行ったものだ。
マコさんは飲み会で遅くなると、必ず僕に電話を掛けてきたものだった。
「タロひゃん。マコよぉ。酔っ払ってないよぉ」 いつも彼女はそう言って電話をしてくれた。
その度に僕は彼女を迎えに行ったのだ。
その度に彼女は僕に言ったのだ。
-愛してる。わたしのタロちゃん-
そう言って僕にキスするマコさんが、僕は大好きだった。
では何故、僕達は別れなければならなかったのか。
それにはエレーンの事から説明せねばならないだろう。
その当時、僕の家にはエレーンがいた。
”猫森村”からやってきたその猫は、人語を解し”(猫の世界の)次元”の扉を開く事ができた。
「奇跡の猫」 それがエレーンだった。
それは秋も深まったある日の事。
「タロちゃん。ちょっとここに座りなさい」
エレーンは台所のテーブルにちょこんと座り、僕に振り返って話し始めた。
「わたし達ネコ一族の中で、選ばれた者だけに能力が与えられているのは知ってるわよね」※
知ってるよ、と僕は答えた。
(※詳しくは前作【タロと今夜も眠らない番組】取材旅行28(異なる次元)あたりを参照ください)
「わたしの能力は”次元”を繋げる事だけではないのよ。”予知”も受け継いでいるの」
エレーンはまっすぐに僕の目を見つめると、悲しそうに言葉を続けた。
「タロちゃん。あなたとマコちゃんはとても愛し合っているわよね」 しっぽをまっすぐに伸ばして彼女は言う。
「それでもね、運命は曲げられないのよ」 エレーンは目を伏せてしばらく言葉を詰まらせる。
「つまり、どういう事なの?」僕は聞いてみた。
「あなたは・・・マコちゃんから別れを告げられるわ。それは避けようのない事なの」
エレーンは申し訳なさそうにそう言うと、僕の肩に飛び乗った。
「これはあなたとマコちゃんの運命なの。わたしは手を出せないのよ。あなたを守護する”鷹”(たか)にも釘を刺されちゃったの」
-”鷹”-
彼はかつて猫守村の”天狗”として村を守り、猫族を猫森村へと守り導いた立役者である。
宇宙の真理まで理解できたかつての”天狗”は、”鷹”として今も導いているのだと言う。
そして僕の守護者であるらしい。
(彼の魂は僕の亡き父とも結びついているとも聞いた)
「わたしが伝えられるのはそれだけなの。それからね、わたしは猫森村に帰るわ。また会いましょう」
エレーンはそう言うと、とてもあっさりと猫森村に帰って行ったのだ。
(丸く切り取られた”次元”の穴だけが数分間ちらちらと瞬き、やがて全てが閉じられた)
エレーンが去った翌日から季節は冬を向え、初雪が辺りを埋め尽くした。
続編なので、いろいろと絡んでおります。
(分かり辛いかも知れない。ごめんなさい)