表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第二章 -冒険- (異なる次元)
57/59

57.マコ帰宅

 サナトリウムを退院したマコさんを乗せ、僕はゆっくりと車を走らせた。

(車窓から流れる風には微かに潮の香りがした)


 「海が近いのね」 マコさんは窓ガラスを全開にすると目を閉じて大きく深呼吸を繰り返した。

いい香り、と彼女がつぶやく。

その言葉に答えるかのように、カーラジオから音楽が流れた。


-ダニーボーイ(Danny Boy)- Deanna Durbin (Frederick Weatherly)


アイルランドの民謡「ロンドンデリーの歌」の旋律にフレデリック・ウェザリーが書いたその歌詞は意外な言葉で締めくくられていた。

”・・・だから私は安らかに眠り続けます、あなたが私の元に帰って来てくれるまで”


 最後の歌詞に気が付いたのか、マコさんの閉じた瞼からは一筋の涙が流れていた。

「おかえりなさい」 僕は車を防波堤の横に止めて、彼女を抱き寄せた。

「ただいま」 夢じゃないのね、と彼女は何度も僕の胸に顔をこすりつけては聞いた。

うんうん、と僕は彼女を抱きしめて背中をとんとんと撫でた。


 車のすぐそばを二羽のカモメが交互に入れ替わりながら飛び交う。

僕はカモメを指差してマコさんに言う。

「ほら、彼らも祝福してるじゃないか」


 カモメたちが空の向こうに飛び去るのを僕達は頬をよせて見送った。


---


 マコさんを乗せ、僕の運転する車はやがて彼女の見知った路地へとたどり着いた。


手近なコインパーキングに駐車し、僕たちは歩いた。


路地を右手に曲がった先に見えたのは・・・たくさんの人たちだった。



 「マコー!」


人だかりの中から一人の女性が飛び出した。

ふわふわとしたショートヘアが揺れる。(それは何だか猫じゃらしのようだ)

 「せっちゃん!」

飛びついて抱きしめるせっちゃんをマコさんは受け止めた。


 「おかえりなさい、タロさん」

 「皆さんどうしたんです?」

せっちゃんの後ろから現れたタジマ局長に僕は言った。


サプライズですよ、そう答えるタジマに答えるかのように集まった人々が交互に頷いた。

(マコさんの吉報にナリタグループの人々が駆けつけたのだ)


「さあ入りましょう」

タジマの言葉に人々が道を譲る。


僕はマコさんを促す。(せっちゃんが先導した)


玄関をくぐり居間に入ると、マコさんは涙を堪えられなかった。


 「お、おかえり」


マコさんが声を上げて泣きながら飛びついたのは、父の胸だった。

彼はおいおいと泣いた。

武さんは涙を拭おうともせずに僕を見る。

「ありがとう、本当にありがとう」と僕に微笑む。涙と鼻水にまみれて。


「奇跡だ」と泣きながらつぶやいたのはナリタ会長だ。(彼はマコさんの退院時間からここで酔っ払っていたらしい)



 そのようにして、マコさんの退院祝いは始まったのだ。(マコさんの自宅で)

やがて登る月に見守られながら。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ