54.次元旅行~旅の終わり~
わたしはマコ。
今日もこの場所でわたしは眠っている。タロちゃんの夢を見ながら。
(なぜだか最近はラジオの聞こえる病室にも行けずにいたわ)
-タロちゃんに会いたい-
・・・そうささやいた時だった。
わたしの目の前で空間が震えたのは。
(遠くでチェロの音がかすかに響いていた)
明るく光り始めたそれは、やがてくっきりと輝くドアとなって現れた。
ドアの表面は揺らめき、ぼんやりと顔が浮かび上がる。
『マコさん』 わたしに向かってその”顔”が話し始める。
『長い間、あなたはこの場所に囚われていました。それはあなた自身が望まれた結果でした』
あぁ、そうなのね。わたしは素直に”顔”の指摘を認めた。
『タロさんから離れようと思いながらなお、タロさんに焦がれるあまり、あなたは無意識のうちにタロさんの後を追い求めた。彼が次元を超えた世界にいたことも知らずに』
次元を超えた世界? わたしはそれを聞いて始めて自分の置かれた状況が理解できた気がしたわ。
『あなたは間違って迷い込み、手当たりしだいに次元のドアを開けて廻ったのです』
そうしてこの場所に囚われたのだと”顔”は説明してくれた。(少し申し訳なさそうな表情で)
『そもそも次元のドアなんて簡単に開くわけがないのですが・・・もしかしたらあなたは特別な存在なのかもしれませんね』
そこまで話した”顔”はにっこりと微笑む。
『さあ、”宇宙の果て”の生活はここで終わります。お迎えが来たようですからね』
そのようにして、わたしは黄金に輝くドアをゆっくりと開けた。
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「迎えに来てくれたのね」
振り向いた先に現れたのは、マコさんだった。(穏やかな微笑を称えて)
僕は大きく深呼吸を繰り返し、マコさんを見つめた。
ごうんごうん、と世界のうねりが響く。
僕達は言葉もなく見つめ合う。
「とても遠いところまで」とマコさんは言う。
「タロちゃんは迎えに来てくれたのね」
彼女の言葉にかぶさるかのようにムカデ型列車が近くを駆け抜けて行く。
「帰ろう、マコさん」と僕は言う。
「もう心配はいらない」
僕がそう言うと、マコさんはうれしそうに目じりを細めた。そして鷹をまっすぐに見つめてこう言った。
「お父様」
鷹は瞳を大きく見開き、驚いた顔でマコさんを見返した。
「なんだ、気がついたのか。これは驚いたな。あぁそうだともマコさん、私は幸一の父親の魂を宿しておる。・・・幸一を、タロを、頼みましたよ」
鷹はそう言い黄金に輝く羽をくちばしで引き抜くと、マコさんに向けて吹き飛ばした。
鷹に吹き付けられた黄金の羽がマコさんに届いた瞬間、僕達の意識はゆっくりと移動を始めた。
それはとても優しく心地よい時間だった。
マコさんの手を握り締め、頬を重ねる、ただそれだけで僕達は全てを伝え合えた。
僕はマコさんの瞳がゆっくりと開くのを見つめた。
その瞳には・・・僕の瞳と同じ色彩が輝いていた。