50.次元旅行~宇宙のベロと白き門番~
乗れるのか?僕たちは顔を見合わせてそう思った。
『この世界で”ゲスト”の送迎といえばベロなんです。あなた方をお迎えに上がるよう、”検閲者”から命じられております』
ウサギちゃんがそう言うと、”ベロ”が僕たちを優しく包み込んだ。
(ウサギの促すとおりに僕たちは不思議な感触に身を委ねた)
そうして僕たちはベロの先端にゆるゆると移動したのだ。
『みなさん全員乗りましたね?それでは到着までの間しばらくおくつろぎくださいませ』
ウサギちゃんはそのふわふわとした丸いしっぽを振って、かわいい声でそう言った。
やがて、なめらかに”べろ”が移動し始める。
-ベロの旅-(作詞・作曲 ウサ)
- さあ、どーこにでーもゆくよぉーー♪
- とてもなーがいーベロにのってぇ♪
- さあ、どーこにでーもゆくよぉーー♪
- あたらーしぃ、いちにーちーーーの・・・ためーにぃぃ♪
僕らはウサちゃんに連れられて、大きなおおきなベロの上で揺られている。
ウサちゃんはご機嫌な様子でその長い耳を左右に揺らせては歌っている。
まるで歌に合わせるかのように、辺りを満たしていた濃密な霧が少しずつその濃度を薄くして行った。
「ずいぶんかわいい歌ですね」 と僕はウサちゃんに話しかけてみた。
『えへへ』 ウサちゃんの耳がうれしそうに赤くなる。
『気に入ってもらえたかしら。わたしいつも歌っちゃうのよね』
歌を唄うと今日も一日がんばろーって気持ちになるからね、とウサちゃんは僕に振り返りながらそう答えた。
『あぁ、そうだわ。タロさん、あなたが素敵な音楽を聴かせてくださるって”検閲者”から聞いたのよ。だから、その・・・わたしも聴きたいな』
もじもじとウサちゃんは赤い瞳で僕を見つめる。
よろこんで、と僕はにっこりと笑って頷いた。
「どんな音楽が聴きたいの?」 と尋ねるとウサちゃんは耳をぴんとそばだてて笑顔を見せた。
『あのね』 ウサちゃんが僕の耳元でこっそりとささやいた。『愛の歌が聴きたいの』
そうして僕は記憶の中から再現した。ウサちゃんに捧げる音楽を。
-愛は偉大なもの- ジョージ・ベンソン
『これよ!わたしが聴きたかった音楽は!』
ウサちゃんの白くてふわふわしたしっぽが歌に合わせてゆったりと揺れていた。
ピアノの弾き語りから始まる素朴で温かな歌声は、ウサちゃんの心を捉えたようである。
霧の向こうから白く輝く巨大な壁が現れたのはその時だった。
『さあ、見えてきたわ。タロさん達をみんな待っているのよ』
巨大な壁に近づくにつれ、僕達はあんぐりと口を開けて言葉を失っていた。
それは壁ではなかった。
巨大な盾を左手に掲げ、長い槍を右手に持った大きな巨人の群れだったのだ。
見渡す限り一列に並ぶ壁のような巨人達が、僕らを見下ろしていた。
ここは”宇宙の口”の向こう側なのだ。