48.次元旅行~宇宙の口と検閲2~
『合格です』
巨大な顔が静かにそう言い終え、一陣の風が辺りに吹き抜けた。
(不思議なことにそれまで感じていた不快な感じは綺麗になくなっていた)
検閲者としての”宇宙の口”がその瞬間から穏やかな表情に変化を見せた。
『気分を害させてしまいまして誠に申し訳ありませんでした』
検閲者はとても爽やかな微笑みとともに謝罪をする。
検閲者の言葉は次のように続いた。
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- 『宇宙に満ちる全ての命。
- それらにはもともと”全ての答え”が凝縮されているのです。
- 細胞の一つ一つに刻まれているのです。
- (宇宙の)真の世界においては全てが筒抜けであります。
- 私には解っていたのです
- タロの大切にしていた”核”(コア)なる部分は何か?
- それが「愛」である事が、既に周知のものだったのです。
- 随分とお手間を取らせてしまいました。検閲は最初から許可されていたのですから。
- では何故にこのような回りくどい検閲を施したのか?
- それは”本人が自覚すること”こそ必要な手続きだったのでございます。
- 故に世界は開かれました。そのための検閲だったのでございます』
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なるほど、と僕は頷く。
おそらくは、と僕は思う。
意図的に嫌悪感を持たれるから誰も口を通れないのだろう。
そうして検閲を許可されると全ての嫌悪感から開放されるのだ。
今、僕には宇宙の全ての感覚が僕らに繋がるのを感じる。
繋がるからこそ、正しい魂が受け入れられるのだ。
『さて、タロさん』
検閲者が穏やかに言葉を紡いだ。
『あなたは素敵な音楽を記憶していますね』(そう記されているのです、と検閲者は言う)
『”宇宙の口”を通る前に、私のために”音楽”とやらを聴かせていただけませんでしょうか』
どうやって? と僕は疑問に思った。ここにはCDもプレーヤーもなにもないのに。
そんな僕に検閲者はそっと微笑んで答える。
『ここは真の世界の入り口。あなたが想うままに再現されるでしょう』
ただし例外はありますが、と彼は言う。(マコさんはこちら側(真の世界)へ迷い込んでいるために呼び出す事はできないのだと)
そうして僕は再現したのだ。記憶の中から、検閲者に捧げる音楽を。
-ピエ・イェス(Pie Jesu)-サラ・ブライトマン(Sarah Brightman)(1985)
フォーレ(Fauré)作「レクイエム」(Requiem)の中のその1曲は、父と母の相次ぐ死に遭遇したことから産みだされた名曲とも言われる。
夫ウェーバーの手がける同名のミュージカルの中でソプラノ歌手サラが唄う伸びやかなファルセットが心に響く。
(Pie Jesu (慈しみ深いイエス)~Qui tollis peccata mundi(彼らに安息を)と繰り返されるシンプルなフレーズでありながら聴く者を魅了するのだ)
『美しい・・・』
検閲者の瞳から一筋の涙がこぼれる。
『どうもありがとうタロさん。久しぶりに満たされた気持ちです。さあ、どうぞ”真の世界”へ』
そう言うと検閲者は大きな口で我々を招き寄せた。
僕らは導かれるまま吸い込まれる。”宇宙の口”へと。