47.次元旅行~宇宙の口と検閲1~
僕とセアンは震えていた。
頭上に浮かぶのは、まるで巨大な惑星だ。
しかし生き物のようにも見えるのだ。
(とても控えめな表現をするなら)とても不細工な顔を持った風船のようである。
『検閲をはじめるよぉぉぉ』
巨大な顔がいきなりしゃべった。
『従います』 鷹が頭を下げてそう言った。
そうして未知の”検閲”は始まった。
『いいかぇお前たちぃ! 口を通すのは食べると同じらぇぇ!!』 巨大な顔はおぞましい声色で僕らに叫んだ。
僕はその声を一生忘れられないと思った。
こいつに食べられると思うとぞっとするよ、と震える声でセアンがささやいた。
『決めるのはお前ぞぇ、幸一ぃぃ』 顔がぐにゃりといやらしく笑った。
顔はしゃべるたびに膿のような臭気が漂って来るし、口の中には異質な憎悪が陽炎のように揺らめいているのだ。
僕は本当に気持ちが悪かった。(あの巨大な顔を見た瞬間から僕は何もかも捨てて逃げ出したくなっていたのだ)
『おぉいぃぃ?幸一ぃぃ?よおく見ろぉぉ。お前の探すマコさんの姿をぉぉ!』
ぶしゅっと巨大な顔の口の奥から透明な風船に包まれたマコさんの姿が浮かんだのはその時だった。
(タロなんて嫌いよ) 風船に包まれたマコさんがそう言って顔を歪めた。
(顔も見たくない)(早く帰ってよ) 彼女が憎悪に満ちた表情で冷たく言い放つ。
『ほぉぉらぁぁ。幸一ぃぃ。お前の本音を聞かせてみろぉぉぉ』
”宇宙の口”はそう言うとぐへぇぐへぇと笑った。実に気持ち悪い。
『おまぁえは~マコさんの拒否を受けてなおぉぉ彼女を愛せるのかぁぁ』
(あぁ気持ち悪い)
僕は頭上に降り注ぐ憎悪の渦を受けたまま、ゆっくりと目をつむった。
そして自分自身に問いただした。
- 本当に彼女は憎んでいるのか?
- 本物なら・・・彼女を感じるはずだ
僕はゆっくりと心の瞳を開いた。
僕の瞳は熱を帯び、色彩が激しく回転し始めた。
僕は”宇宙の口”に向かって次のように答えた。
- 僕の中には一つだけ確かな真実がある
- それは”愛”
- 僕の与える愛はマコさんの心の奥底にまで届いていたよ
- たとえ嫌われ憎まれたとしても
- たとえそれが本心だとしても
- そこには僕達の愛がにじんでいるはずなんだ
- 愛とは・・・心に足跡を残すんだ。それは決して消えることはないんだ。
そして僕は確信をもって断言したのだ。『あれはマコさんなんかじゃない。彼女の心には足跡がないもの』と。
(その言葉を言い終わるのを待っていたかのように、マコさんの表情は穏やかな笑みに包まれた)
風船はゆらゆらと揺れていたが、やがて音もなく縮んで消えてしまった。(マコさんの幻とともに)
そうして僕は検閲者の言葉を待ったのだ。
『合格です』




