42.マコと次元
久しぶりに見るマコさんの姿は病室のベッドの上ではなかった。
辺り一面が絨毯のような柔らかそうな物に包まれて・・・まるで洞窟のような場所だった。
僕はもちろん彼女の名を呼んだ。
何度も、なんども。
しかし彼女には何も届かないようだ。
そうして、ようやく気がついたのだ。彼女の居る場所が”とても遠い場所”なのだと。
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「元気だしてクダさい」 セアンが(珍しく)僕を気遣ってくれる。
鼻の穴にピーナッツを詰め、ふんっと僕に向って飛ばしてくれる。
(僕はしたたかにセアンの頭を叩いた)
「Oh!it’s a jokeでぇす!」
芸人のようなしぐさで頭をなでるセアンを見て、僕は少し元気になれた。
(ありがと、セアン)
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長老が見せてくれたのは、マコさんの意識を伝って見つけた残像らしい。
僕達のおみやげ(にぼし)を、よれよれになった甚平の胸元から一匹ずつ取り出しては大事そうにぽりぽりと齧りながら、長老は語る。
『エレーンは予見しとったんよ』 そう言って長老がエレーンを振り返った。
エレーンが困ったような顔をしてじぃっと長老を見つめる。
囲炉裏に掛けられたヤカンがしゅーしゅーと吹いている。
そうして彼らは教えてくれたのだ、”世界の異変”を。
彼らの住む村。
ここは「猫族の次元」に守られていた。
人間の暮らす世界と壁一枚隔てた”次元”に猫の世界は存在している。
それは彼らだけに神様から与えられた保険のようなものだと言う。
彼ら猫族は、大昔から当たり前のようにその次元を活用していたのだ。
そこにある日、僕達が訪ねてきた。
それはとても珍しいケースだった。(※詳しくは前作【タロと今夜も眠らない番組】86話:取材旅行31(猫村の秘密))
かつての”天狗”に導かれ、僕は禁断の地に招かれたのだ。
僕達が取材旅行で訪ねたあの日、彼らは次元の穴をしっかりと管理できていたそうである。
しかし、僕達が見落としていた事があったのだ。
マコさんだ。
彼女は僕の意識と共に次元を超えていたのだ。
エレーンは言う。『彼女は意識しないままに次元を乗り越えていたみたいね』
マコさんが乗り越えた次元の穴。それは開けっ放しの状態だったと言う。
(マコさんは無意識のうちに次元移動の能力が開花してしまったようだ)
マコさんは深い眠りに就くと、知らず知らずのうちに次元のドアを開けては潜るようになっていたらしい。
その発端は・・・僕を想うがためだった。(僕の体験した世界をマコさんも共有していたのだ)
『だからね』 とエレーンは言う。
『彼女は知らないのよ。自分が夢でぶらぶらお出かけした世界が実際に次元を超えていたなんて。ドアを閉めてくれればよかったんだけどねえ』
今でも彼女は”長い夢”だとしか感じていないのだ。
長老は言う。
『マコさんは開けてしまったんじゃよ・・・”秘密の次元”を』
囲炉裏の中で炭がパリンと爆ぜた。