41.長老と杖
『まぁ立ち話もなんじゃし、家でゆっくりしんさい』
長老の言葉に甘えて、僕達は彼の家にお邪魔していた。
大きな栗の木に守られた長老の家は、どことなくナリタ会長の小さな屋敷に似ている。
四方をすっぽりと山に覆われたこの未開の地に、猫族の村は存在していた。
「空気が美味しい」 とセアンは何度も深呼吸をする。
僕も目を閉じて辺りの空気を胸に吸い込む。
生い茂る木々の香り。
新鮮な空気が肺に満ちる。
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「woom・・・お茶がおいしい」
セアンがうっとりとつぶやくのを見て、長老がふぉっふぉっと嬉しそうに笑う。
『ところでのう、タロさん。そろそろ何があったんか教えてくれんかいね』
長老はそう言うと崩した足をゆっくりと座りなおし、床に置いていた杖を振りかざした。
杖の動きに合わせて部屋の空間がゆったりと揺らぐ。
窓際に置かれた蚊取り線香の煙が引き寄せられ渦を巻き始めた。
ふおん。
ふおん、ふおん。
ぶおん
杖の先に呼応して、空間が切り取られてゆく。
・・・やがて、一瞬の煌きを放った空間に
マコさんが眠っていた。
(どこからか音楽が流れていた)
-ザ・クリスマス・ソング-(Nat King Cole)
切り取られた空間から静かに流れるその歌声だけが、辺りをそっと包んでいた。




