40.猫森村の長老
暖かい日差しの下で、僕は目を覚ました。
やわらかい風が辺りを吹き抜け、頬を草が撫でている。
チュンチュンとたくさんの鳥たちが近くの木々から騒がしく鳴いていた。
(不思議なことにこの土地には冬の気配が見当たらない)
『ようこそタロさん。ようこそセアンさん。おかえり、エレーン!!』
『待ってたよー!』
その声を聞いた僕は、ゆっくりと身体を起こして辺りを見回す。
そこには懐かしの猫達が顔を覗かせていた。
『久しぶりじゃねぇ、タロちゃん』
猫達の背後から老人が現れ、ふぉっふぉっふぉ、と笑った。
「ごぶさたしてます、長老」 僕は長老にお辞儀をした。
(挨拶を受けた長老は嬉しそうに笑った)
彼が”長老”だ。
”猫森村”の代表なのだ。
(※詳しくは前作【タロと今夜も眠らない番組】80話(取材旅行25)あたりを参照ください)
「ごほっ・・・ここはどこ?」 けほけほと咳き込んで目を覚ましたセアンに僕は説明する。
「セアン、君には僕の記憶を見せた。わかるね。ここが”猫森村”だよ」
あの意識のリンクで、僕はセアンと記憶を共有し、互いの情報を刻み付けていたのだ。
「えぇ!?あれって映画とか夢の一部じゃなかったの??」 と、戸惑うセアン。(僕とエレーンは肩を竦めた)
「こ、こんにちは、チョーローさん」
片言で挨拶したセアンをにこにこと見つめて長老は頷く。
久しぶりじゃのう、と言いながら長老がゆっくりとした動作でセアンに近づき、少し顔を傾けては何事かを思案した。
(エレーンがそれを見て肩を震わせる)
「・・・だ、誰じゃったかのう?」
僕は改めて紹介した。彼が僕らの仲間として旅に着いて来た事を。
(ボケてるのよ長老って。とエレーンは他の猫達にささやいていた)
「そ、そうじゃったそうじゃった!いやなに、わかっとるわい!」
あわてた長老の額に大粒の汗が光っていた。
長老の人柄に触れ、セアンも緊張を解いたようだ。(人柄といっても本来は猫なのだが)
『いらっチゃい!』
長老の背後からかわいい声が聞こえた。
「かちゅ?」僕はなつかしい子猫の名前を呼んだ。
『”かちゅ”はあたいのカアチンよ』 かちゅそっくりのその子猫は、どうやら二代目のようである。
『かあちん、この人たちチってゆ?』
『しってるわよ』 そう言って子猫の後ろから現れた猫は確かにかちゅだった。
かちゅは僕を見つけるとひょいっと身軽に飛びついた。
久しぶりだね、と僕が両手で受け止めると、かちゅはゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいた。
子猫がそれを見てすっかり安心したようだ。
『あたいも!あたいもだっこチて!』(僕はにっこりと笑って子猫もだっこした)
腕の中で寄り添う二匹は実に親子らしくて可愛い。
『次はわたしの番だからね』 エレーンがむっとした顔でそうつぶやく。
(かちゅ親子はビクっと震えた)
やきもちを焼いているのだ。
エレーンの後ろに村の猫たちがこっそりと並び始めたのは言うまでも無い。(だっこ待ちである)