4.見舞い客 (2005年6月)
山から伸びた一本のでこぼこ道。
その道は草原を横切り、やがてマコさんの眠るサナトリウムへと辿りつく。
僕はいつものように車を留める。
窓を全開にして草原を渡る爽やかな風をゆっくりと吸い込む。
目を閉じて深呼吸を繰り返し、僕は自分を励ます。
- 大丈夫。マコさんはもうすぐ目を覚ます -
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サナトリウムの玄関をくぐり、受付で”来館者記帳簿”に名前を記入する。
僕はそこで、ナリタ会長の名前が記帳されている事に気がついた。
-”成田巌”-
全国展開を果たした家電量販店”ナリタ”創始者である彼は、目指すべき「ビジネスモデル」として業界の注目を浴びていた。
僕はナリタグループのプロパガンダ的ポジションとして、個人契約を締結している。
それに・・・彼と僕は友人だ。(親友と言ってもいい)
マコさんの病室前の長いすに座ってうつむいた会長は、少し疲れているように見えた。
「会長、来てくれたんですか」 ありがとうと僕が言う。
顔を上げた会長の頬に残る涙の跡。
会長は僕の肩を掴み、僕の目をまっすぐに覗き込む。
「・・・水臭いよぉ~、タロさんよぉ」
鼻水と涙をたらしながら、会長は拭おうともせずにそう言ったのだ。
ありがとう。僕は会長を抱きしめて少しだけ泣いた。
・・・こぽぽぽっ。ウォーターサーバの水音が長い廊下に響いた。
僕達の嗚咽と共に。