38.猫森村へ
目覚めたセアン。
彼はひたすらに申し訳なかったと頭をさげた。
”眠り病”を軍事利用しようと考えた自分を詫びた。
彼も解ってくれたのだ、マコさんの症例、これは病気ではないと。
現代医療で利用できるような代物ではないと。
同時に彼は「これも運命だ」と感じていた。僕らを助けたいと願ったのだ。
(僕はそれを嬉しく思い、エレーンも賛成してくれた)
そうして僕とエレーンは、セアンと共にあの森へ向う事となった。
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猫森村への次元の穴。
エレーンの言葉(”んがっ”)に導かれて開かれた空中の大きな渦の中心に、その入り口は開かれた。
寂れたマンションの一室に突然現れたその光景は、セアンを驚かせるのに十分だった。
その瞬間からセアンは内股で地団駄を踏んでいた。(少し漏らしたのかもしれない)
僕は用意していた荷物とセアンを抱えて、次元の穴へと飛び込んだ。
『”にぼし”は持ったわね!』 エレーンが叫びながら着いて来たのが視界の端に見えたが、次の瞬間にはごうごうと鳴り響く音にかき消されて何も聞こえなくなる。
巨大な水流を抜けている・・・ように感じ
自分の鼓動がぼわぼわと水中に響き渡る
・・・大きな看板(古いレトルトカレーの)や、トラックの屋根や、高架橋の裏側が水の上からゆらゆらと浮かぶ。
やがて水路は暗渠へと吸い込まれて行く・・・
見たことのない風景が遠く・・・近く・・・霞んでは消え、・・・暗闇に包まれる。
僕は次第に眠りかけていた。
それは非常に心地よい空間に思えたのだ。
『眠るな』 その声が聞こえるまでは。




