36.覚醒
朝食を食べ終えた僕達は、ベランダから射し込む陽光の下で日向ぼっこをしていた。
セアンはさっきから驚いた顔で口をあんぐりと開け放したまま固まっている。
と言うのも、窓の向こうには電線に止まったスズメたちが3羽仲良く並んで留まっており、
エレーンが”うな”とか”んなごぉ~”とか鳴く度にスズメ達は少しずつこちらに近づいて来るのを見たからなのだ。
「し、師匠!? エ、エレーンは・・・魔法が使えるのかに?」
びっくりしすぎておかしな日本語になっているが、気にせず僕は頷いた。
「ねぇセアン。君の住んでいた国ではそんな不思議な話はなかったの?」
「Uuum...少なくとも猫がしゃべったり『鳥寄せ』をしたなんて聞いた事はないけど・・・」ぶんぶんと首を振ったせアンは「そういえば」と何事か想いを巡らした。
「僕の国ではアンデルセン童話が近いね、まあファンタジーだけど。・・・あとは”北欧神話”(Nordisk mytologi)かな」
『北欧神話?』スズメを間近まで引き寄せていたエレーンの目がギラリと光り、セアンの言葉に反応した。
エレーンはじぃぃっとセアンの顔を見つめると次の瞬間、音もなくセアンの右肩に飛び乗りしきりに耳の匂いをくんくんと嗅いでまわった。
そしてセアンの耳をがしがしと噛むと『タロちゃん、この子合格!』 彼女は振り向いて僕にそう告げたのだ。
僕はこういう時のエレーンを直感的に信じていた。
だからセアンにも心を開く事に決めたのだ。
そうして全てが始まった。
「セアン・ハラルドソン」 僕は彼の瞳を真っ直ぐに見つめて語りかけた。
僕の瞳が熱を帯び、部屋の温度が急に上がり始めたようだった。
セアンは熱に浮かされたようにぼんやりとした目で僕を見返してつぶやいた。
「師匠の瞳が・・・うぅ・・・これは何です?・・・たくさんの色が廻ってる・・・宇宙?・・・あぁ、何が起こってるんです?・・・師匠!」
-僕は力を解き放した-
僕には既に分かっていたのだ。僕の中に生きる”鷹”の力を。
ベランダのガラスサッシ越しに不思議な光景が浮かんでいた。まるで宇宙空間のように。(遠くでチェロの音が聞こえ始めた)
僕は意識の奥底から問いかけた。
《セアン・ハラルドソン。君の全てをここに示しなさい。そして僕を裏切らない事を示しなさい》
セアンの意識が答えたのは、しばらくの静寂を経た後だった。
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全ての問答が終了し、僕は意識のリンクを閉じた。(それは時間にして一瞬の出来事だったと思う)
部屋の中に満ちていた熱がゆっくりと引くと、セアンは意識を失った。
『タロちゃんが目覚めたわ!ステキ!!』 エレーンは喜びの歓声を上げて僕の胸に飛び込んだ。
「待たせてごめんね」 僕はエレーンを抱きしめた。
ベランダから外を見渡すと、澄み切った青空にスズメがゆっくりと飛び交っていた。