27.タロの決意と旅の始まり
僕達はN.A.事務局の会議室Aでひっそりと話し合っていた。
(エア・コンディショナーのゆるいモーター音が頭上から微かに聞こえていた)
「彼らはマコさんの”眠り病”に興味を示しているらしいですな」
ナリタ会長の屋敷が秘密裏に盗聴対象とされていた事はマコさんにとって大きなリスクだと、会長は危惧していた。
だから、会長ははっきりと断言したのだ。
N.A.グループが長年封印してきた”裏の顔”を再び始動すべき時が来たのだと。
会長の下に朗報が届けられたのは数日後の事だった。
『全国の諜報活動を我々が補いたい』-
今まで敵対してきた全国の”裏稼業”を牛耳る大物達から全面的な協力の意が表明されたのである。
(それはもちろん危険な賭けだった。しかしいずれは決断すべき事だったと会長は語った)
そのようにしてスパイ活動を仕掛けた相手達の全てを調べ尽くしたと言う。
会長宅の諜報機器を足掛かりとして、特定の周波数で傍受される機材の場所や携帯している人物などが洗い出されたのだ。
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”TOP-SECRET (N.A.Reports)”
会議室のスクリーンに調査結果が続々と映し出される。
(裏組織の協力により集められたそのレポートは、わずか一週間足らずで解析を終えていた。あぁ恐ろしい)
会長宅を盗聴していた相手。それは某D国・軍事施設であるらしい。
”D国” - 有史以前から人類が存在したとされる土地。
国連の非常任理事国も担当するEUの一員。
平和維持活動にも協力するD国は総兵力の少なさにも関わらず兵士のスペックは非常に高いと言う。
またその反面、アンデルセン童話の産みの国という一面も兼ねている。
世界有数の先進国。
そしてどうやら、その一国の軍事部門は世界的な諜報活動を展開しているらしいのだ。(秘密裏に、しかし大胆に)
「ほんの一歩を間違えれば・・・国家間の紛争を引き起こすリスクを孕んでおるのです」
会長とタジマの真剣な面持ちに、僕は自分達の置かれた立場を改めて認識する事となった。
「おそらく数日の後に」 とタジマは言葉を引き継いだ。
「D国の諜報部員がタロさんに何らかの接触を試みるでしょう。なぜなら既に日本国内へ潜入した形跡を我々は把握したからです」
その時のために、とタジマは前置きをしてテーブルに置いていたテレビのリモコンを操作する。
リモコンに誘導され会議室の壁に降りてきたスクリーンに投影された映像を見て、タロは固まっていた。
「この映像は」 とタジマの説明は続いた。
「彼らの通信履歴から割り出した”盗聴や盗撮”の足跡を辿ったのが、これらの映像です」
スクリーンに映し出された幾つもの映像たちは、僕が日常を過ごすであろう場所ばかりだった。
その時、僕には聴こえた気がしたのだ。
マコさんの想いが。(声にならない願いのような)
僕は決心した。
「できるかどうかも分かりませんが」
僕の言葉に、会長とタジマが振り向く。
「逢いに行ってみます。マコさんの夢に。・・・うまく言えないのですけど」
その言葉に、会長とタジマは満足げに頷いた。
それが僕の旅の始まりとなった。