24.タロの架け橋4(エレーンとの再会)
せっちゃんを見送った僕は、局の駐車場に留めていた車で家に戻った。
玄関を閉めた僕は大きく深呼吸をする。
久しぶりに聴いた生演奏は僕の縮こまった心を少しずつ解きほぐしてくれたのだろう、
耳の奥では今でも拍手や楽器の鼓動が鳴り響いているようだった。
僕は部屋の窓辺に飾ってあったキャンドルに火を灯し、蛍光灯の灯りを消す。
窓の外では秋の虫がりんりんと鳴いている。
シャワーで軽く汗を流した僕は、冷蔵庫でキンと冷えたビールをコップに注いだ。
ステレオセットの電源を入れて、ムムーキのCDをセットする。
(ボリュームを極力控えめに設定する)
ステレオのリモコンを枕元に置き、僕はビールをゆっくりと飲み干す。
窓の外に浮かんだ月
僕は月を見つめながらゆっくりと布団に横たわる。
天井にキャンドルの灯りが揺らめく。
CDの再生ボタンをそっと押す。
・・・眠りがゆっくりと視界を包んで行く・・・
『久しぶりだわね』 暗闇の向うから唐突に聞こえたのは、聞き覚えのある声。
暗闇の奥でカーテンのような闇の色彩がゆっくりと揺らめく。
「エレーンだね?」 僕は念のため、聞いてみる。
僕の言葉に呼応するかのように、ゆるゆると闇のカーテンが揺れ
やがて現れたのは、懐かしい猫の姿。
『元気そうね』 エレーンはひらりと僕の肩に飛び乗り、僕の耳をガジガジと噛んでこう言った。
『にぼし、持ってない?』
持ってないよ、と僕が言うと彼女はあきらかにがっかりした様子でしっぽを力なくたらした。
そんなに食べたいなら家に来ればいいのに、と僕はエレーンのふわふわとした体毛を撫でながら言ってみた。
『それもそうね』 彼女がそう言った瞬間、僕は眠りから目覚めた。
そのようにして僕はキャンドルの灯りに揺らめく部屋へと戻ったのだ。エレーンと共に。
『ところでタロさん・・・この曲、流行ってるの?』 エレーンがステレオセットに耳を向けて顔を傾げる。
やれやれ、と僕はため息をついて肩を落とした。
どうやらこの曲がマコさんに会える”鍵”ではなかったようなのだ。
エレーンは言う、せっちゃんがマコさんの待つ”夢”の世界に行けたのは”会えるべき時期”だったのだと。
「僕はまだ、マコさんと会えないの?」
僕の問いかけにエレーンはきっぱりと首を振った。
『あせらないの。そのうち会えるでしょ』
エレーンはそう言うと、僕がキッチンから持ってきた”徳用にぼし”を大事そうに頬張った。
キャンドルに照らされて部屋の壁にエレーンの影が映り込んでいる。
ピアソラのタンゴに合わせて左右に揺れるしっぽの影絵を眺めながら、僕はビールを飲み干した。(煮干をおかずにして)
なんにせよ、と僕は思う。
エレーンが戻ってきたのは吉兆であると。




